夢を見つけて叶えるまでをこの日記帳に記す。

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7月1日。天気は曇り。

今日から僕が夢を見つけて叶えるまでの過程をこの日記帳に記そうと思う。と言っても目途はない。

黒板とチョークで打たれるモノトーンのリズム。校庭側の窓から廊下側の窓に向かって通り抜ける風。教室の右隅に座って授業を受ける僕には今日もいつもと同じ時間が流れた。

だけど2年と3カ月の高校生活が過ぎた今、周りの大人達は段々とあからさまに僕に将来を見るよう仕向けてきている。

別に厭世的なわけでも自暴自棄でもないけれど、残念なことに自分はこれになりたいのだという将来像はさっぱり浮かばなかった。かつて小学生だった頃は「将来の夢」になんて書いていただろう。やっぱり思い出せない。

僕は夢の形が見えないまま、結局はただ無難な方を選択していくのだろうか。10年後の僕は何をしている?

さっき観た映画のせいでそんなことを考えさせられた。

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7月1日。天気は雨。

今日は仕事が早く終わったから最近サボりがちだった日記帳に手を伸ばす。

振り返ると社会人になってもう6年が経つ。どうやら僕は自分で思っていたよりも器用みたいで、そこそこの大学に受かって、誰でも名前を知っているような大手に上手いこと内定をもらい、今じゃ営業部でもそれなりの成績を残している。

充実しているかと問われたらうんと答える。満足しているかと訊かれたらよくわからない。

日々はただ一定に過ぎていく。それなりに楽しいけどどこか刺激や期待に欠けている。確か10年前も同じようなことを感じていた。

僕はこのまま今の会社で働いていくのだろうか。10年後の僕は何をしている?

さっき観た映画のせいでそんなことを考えさせられた。

―――――

7月1日。天気は曇り。

今日は妻と子供を連れて久しぶりに実家に帰った。子供はもうすぐ8歳になる。

そう言えば自分がかつて「将来の夢」について書かされたのもそのぐらいの歳だった。ふと思い立って押し入れの奥に追いやられた段ボールを引っ張り出す。見つけた。用紙はすっかり黄色に変わっている。

中身を読んで思わず笑った。そこにはやたらと強い筆圧で映画監督になりたいと書かれていた。どうやらこの頃から映画が好きだったらしい。

僕は実家を後にする時、これを一緒に持って帰ろうと思った。

これから映画監督を目指そうとは思わない。今の生活は好きだし、もう大切なものがたくさんある。

だけどようやくやりたいことができた。ずっと弱火だったある気持ちが幼少期の夢を読んで勢いを取り戻した。

これからそれに向かって頑張りたいと思う。10年後の僕は何をしているだろうか。

今から1本、かつて好きだった映画を観よう。

―――――

7月1日。天気は晴れ。

今日、僕は25年以上も働いた会社をあっさりと退職した。

この10年の間に起こった出来事を10年前、20年前、30年前の自分にどうにかして伝えてやりたい。

僕たち家族は少しずつお金をためて、去年ようやく小さな映画館を建てた。それがやっと軌道に乗ってきたのだ。当初やりたいことを打ち明けたら2つ返事で協力すると言ってくれた妻には今でも頭が上がらない。

この映画館ではシアタールームが個室になっていて、お客さんはそれぞれ古今東西、好きな映画を提携する企業からダウンロードして鑑賞する。僕は支配人としておすすめを提案して、見終わったお客さんと感想を言い合って、笑い合って、たまにそのまま飲みに行く。その時間が楽しくてしょうがない。

別に映画監督じゃなくても良かったのだ。僕の夢の正体は「映画の楽しさを人に伝えること」だった。

結局、夢はいつでも生まれるし、いつでも変わるし、いつでも叶う。

初めて将来の夢を意識してから30年。僕の夢は発芽して、眠って、また芽吹いて、そしてようやく開花した。

今日でこの日記もひとまず最後だ。これまでありがとう。もしかすると、またいつか。

【終わり】


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