旅行で離島に行ったら同い年くらいの現地の子と出会った:2日目~最終日。

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展望エリアから20分ほどかけて車に戻ると、俺たちはまた島の名所を回っていった。一通りの観光を終え、段々と日没が迫ってきたところで佐藤が地図を広げながら満足げにつぶやく。

「あとはローソク島だけだな」

「ローソク島?」

そのちょっと変わった名称が気になって尋ねてみた。

「それも知らずにここ来たのか」

「下調べは佐藤に丸投げしてたから何もわからん」

「ちなみに俺もわからん」

俺に続いて高橋も運転しながら答えた。佐藤はあきれて大きなため息をつく。

「ローソク島ってのは海から出てる細長い岩の名前で、日没時にちょうど夕陽が岩の先端に来るとローソクっぽく見えるからそう言われてるんだよ。この島の一番の観光スポットだぞ」

「知らなかった」

「そういや船は何時で予約してるの? 私は取ってないから、その間は車で待ってるよ」

「いやいや、船は取ってないんで大丈夫です。島の端にある展望スポットから見るつもりなんで」

「えっ、あそこ船からじゃないと夕陽が岩の先端に来ないよ」

「えっ!?」

佐藤の顔がみるみる青ざめていく。

「陸からじゃどう頑張っても夕陽と岩が重なるところは見えないよ。全然はずれのところに落ちてくの」

「そんな……」

所詮しょせんお前の下調べもその程度だったってことだな」

さっき呆れられたことが悔しかったのか、高橋はとても愉快そうに笑った。

「くそぉぉ、あれ見るのずっと楽しみにしてたのに!」

肩を落とす佐藤の様子を見て、彼女がある提案をした。

「もしよかったらうちの船が使えないかお父さんにいてみよっか? 小型だから4人だとちょっと狭いと思うけど」

その言葉に佐藤はわかりやすく目を輝かせる。

「ほんとですかっ!? お願いできると助かります!!」

「うん、じゃあ訊いてみるね!」

それからスマホを取りだして電話すること数秒、すぐに通話を切ると笑顔で答える。

「いいって!」

俺たちは一斉いっせいにおおっ! と歓声を上げた。すごい幸運だ。それとも家に船があるなんてここでは普通なのだろうか。

「あれ、でもそういえば船って専用の免許要りますよね? お父さんも来てくれるんですか?」

高橋の質問に彼女は得意気な顔で答える。

「ふふっ、実は私、船舶免許持ってるんだよね」

またしても車内に男3人の歓声が響いた。

ところが、いざ船に乗ってローソク島を目指していると俺たちはある問題にぶつかった。

「ねぇ、日没まであと何分?」

「5分です」

「あはは、ちょっとやばいかも」

彼女の家まで戻って色々と出発の準備をしていたら予想以上に時間がかかってしまったのだ。俺も内心、もう間に合わないのではないかとハラハラしている。

「急ぐから落ちないように気を付けて」

船は水しぶきをあたりにき散らしながらイノシシのように突き進んでいく。たまに荒い波にぶつかって海水が中に飛び込んでくるから、俺たちはできるだけ船の中心で身を寄せ合ってじっと目的地へ着くのを待った。

見上げると夕陽から離れた空のはしはうす暗くなっていて、すでにかなり夜が近いことを示していた。

「この岩を抜ければ夕陽とローソク島が見えるはずっ!」

彼女の言葉に、俺はただ祈るようにじっと前を見つめた。岩の終わりがどんどん近づいてくる。あと数メートルで岩を抜ける。だけどもう時間はない。頼む。間に合えっ!!

岩を抜けた先に待っていたのは、完璧な絶景だった。逆光のため真っ黒に染まった岩の先端に白と黄色の入り混じった球体がともって、その名の通りローソクを模している。ローソクの周辺には深い青の海や赤い夕焼け空、赤と白と黒に染まる雲など、荘厳な色彩の風景が視界の限り広がっている。

「うおおぉ、すげぇぇえ!」

「よっしゃぁぁ! 間に合ったぁ! ほんとすげぇよ、これ!」

高橋と佐藤が大声を上げる。その興奮が伝染して俺もまた身を乗り出して喜んだ。

「すげぇ、ほんと! 他の言葉が出ない!」

「ふぅ、間に合ってよかったぁ。久しぶりに見たけどやっぱいいね、この景色はいつでも」

俺たちは彼女の方に向き直ってそれぞれ頭を下げる。

「本当にありがとうございます!」

「いやぁ、やめてよそんなの。みんなが喜んでくれて私も嬉しいよ」

佐藤はまだまだ言い足りないみたいで、これ以上ないくらい嬉しそうな顔をしながら続ける。

「ほんとに感謝してもし切れないです。ほんと、めちゃめちゃいい思い出になりました! ついでに遠野もありがとな。こうなったのはもとはお前が初日に腹を壊してくれたおかげだ!」

あまり嬉しくない感謝のされ方だ。ただ、彼女のおかげで今回の旅行が特別な出来事になったことは間違いない。俺も改めて彼女にお礼を述べる。

「ほんと、何から何までお世話になりました。今日のことは忘れません。あなたと、二宮さんと会えてよかった」

彼女は満面の笑みを見せてくれた。逆光でよくわからなかったけど、顔が赤くなっているみたいだったから、きっと照れてくれたんだと思う。

翌日、俺たちは早朝の船で島を出発することになっていた。3人で渡船場の中にあるベンチに座って乗船の時間を待っていると、すぐに彼女が現れた。わざわざ見送りに来てくれたのだ。

「おはよ!」

「おはようございます」

すると突然、何かを察したように俺の両隣が立ち上がった。

「俺と佐藤はもう少しお土産見てくるわ」

これは彼らなりの気遣きづかいなのだろうか。2人は俺たちを残してさっさと売店の方へ行ってしまった。

「あはは、あからさまだね」

「やるならもっと上手にやってくれると嬉しいんですけど」

それを聞いた彼女がまた楽しそうに笑った。

「そうそう。実は遠野くんに1つ報告があるんだ。私、これからこっちに戻ってお父さんがやってる観光の仕事を手伝うことにしたの」

「そっか、そうなんですね」

「ねぇ、よかったらまた来てくれるかな? そしたら一緒に回ろうよ。場所は同じだけど、季節によってかなり見え方が変わるんだ」

彼女は少し躊躇ためらいながらそう尋ねてきた。俺は大きくうなずいて答える。

「もちろんです。また絶対に行きます。それに、よかったら俺の住む街にも来てください。今度は俺が案内します。気になるなら大学も行きましょう。楽しんでもらえるよう精一杯、頑張るんで」

「それなら行かないとだね。約束だよ?」

「はい、楽しみにしてます」

それから15分ほどして出航の時間が来てしまった。大型船に乗り込んで2階のデッキから顔を出す。彼女は堤防の先でこちらを見つめていた。

それから俺も彼女も、船が進んでお互いの姿が見えなくなる最後の瞬間まで手を振り続けた。

【終わり】


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