旅行で離島に行ったら同い年くらいの現地の子と出会った:2日目。

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「じゃあ3人は大学で法学を勉強してるんだ。頭いいねー」

車内の助手席に座る彼女が後ろに向かって言う。その様子を横目に俺は運転席で粛々しゅくしゅくと車を進めていた。

「そんなことないですよ。僕なんかさっそく単位落としちゃって、あはは」

高橋がにこやかな笑顔を彼女に返す。俺に接する時の態度とは天地の差だ。何とか彼女に取り入ろうとする魂胆が見え透いていて小賢こざかしい。

昨日の夜、彼女と連絡を取っているとやっぱり目ざとい2人に見つかった。あれこれと横から口をはさまれ、そして幸か不幸か彼女もノリノリだったから、気付けばそのまま4人で観光することになったのだ。

「私からしたら大学通ってるだけで十分すごいよ。そう言えば、昨日はどこに行ってたの?」

地図を持っていた佐藤が待ち構えていたかのように即答する。

壇鏡だんきょうの滝を見て来ました。島を左回りに進んで」

「そっかぁ。遠野くんがホテルでダウンしてる間に2人はちゃんと楽しんだみたいだね!」

「あの滝は遠野にも見せてあげたかったぜ」

「まったくだ。あの美しさはとても言葉じゃ言い表せない」

2人の挑発が悔しかったから、こちらもなけなしの強がりで対抗する。

「そうか。俺は代わりに車で行けないようなところを色々と案内してもらえてとっても楽しかったよ」

「へぇ、そんなに楽しんでもらえたんだ! 嬉しいねぇー。案内人冥利みょうりに尽きるよ」

彼女が嬉しそうに笑うのを見て、後ろの2人がしんと静かになったから、ひとまず俺の気分は爽快そうかいだった。

車は海岸線に沿って舗装ほそうされた道路の上を走っていく。この島の海岸線はギザギザに入り組んでいるから、車窓の向こうではずっと遠くまでがけが続いていた。むき出しの岩肌やそこに打ち付ける高い波の荒々しさにはかなり迫力がある。

「ちょっとここで車を停めよう」

運転に疲れた俺は、休憩と運転手交代のきっかけを作るために近くの停車スペースで車を停めた。

「ここはちょっと歩けば見晴らしのいい展望エリアがあるよ」

彼女の言葉で興味を持った俺たちは、そのまま4人で展望エリアを目指すことにした。

始めはちゃんと舗装ほそうされた道を歩いていたけど、途中で浜辺に向かう細道へと入り込んでからは道がでこぼこで、しかも時には伸び切った木の枝を避けたり草をまたいだりしないといけなかったから、進むのは想像以上に難儀なんぎだった。

歩き始めて10分ほどしたところで、前を歩く彼女が不意にこちらを振り向く。

「今日はまだバテてないみたいだね」

「……そんないつもバテてばかりじゃありません」

車の運転はすぐにを上げてしまったが。

「あはは、そうだね。よかったよかった」

彼女は歩きながら、両手を上にして背伸びをする。

「昨日、今は帰省中って言ってましたけど、普段は島にはいないんですか?」

「うん。島の外に出て働いてたんだ」

「もう働いてるなんて偉いですね」

「いやぁ、単純に勉強が苦手だっただけだよ。遠野くんこそちゃんと勉強してて立派だ」

「ちゃんと勉強したのは受験の時だけですよ。今は大したこともしないでだらだら過ごしてるだけです」

「うーん、そういうもんかなぁ」

「あんまり何もしないからもやもやして、気分転換に遠くの島まで足を伸ばしてみようと思ってここに来たんですから」

「あはは、そうなんだ。それでどう? 気分転換できた?」

「はい、自然に囲まれてとても気持ちがいいです。それに楽しいですよ。あなたのおかげです」

彼女は嬉しそうにニヤリと笑う。

「こう見えて意外に君は人を喜ばせるのが得意なんだね。実は女の人に慣れてるのかな?」

「別に慣れてませんし、むしろどう見えているのか教えて欲しいくらいですけど」

「あはは。大丈夫、少なくとも私は好きだよ。遠野くんみたいな人」

つい照れてしまって反射的にありがとうございますと感謝したあと、よくよく考えたらなんでなぐさめられるような言い方をなのかと疑問に思った。

それからさらに5分ほど歩いて、ようやく丘の上にある展望エリアに到着した。転落防止用の柵の向こうでは漠然ばくぜんとした空と海が彼方かなたに水平線を形成している。海からは所々に巨大な岩が突き出ていて、その上面はここと同じように草木が生い茂っていた。まるで1つ1つが極小の無人島のようだ。

「怖いくらいの眺めだなぁ」

柵から頭を出して眼前のがけと水平線を交互に見ながら高橋がつぶやいた。

「こんな景色見てたら単位を落としたことなんかどうでもよくなってくるよ」

「ちょっとは気にした方がいいと思うぞ」

俺と佐藤が口をそろえて言ったから、高橋はくぅと悔しそうにうなった。すると、その会話を見ていた彼女が笑い声をあげる。

「いいなぁ、その大学生トーク。私もしてみたい」

「そんな大したことじゃないですよ。それに社会人の方がお金に余裕あるし、そう言う意味ではあなたがちょっとうらやましいです」

すると彼女はちょっと困った顔をしてこちらに手招きしてきた。何だろうと近づいてみると、いきなり耳元に顔を近づけてきたから内心ドキリとする。

「なんか悪いから君には本当のこと言うね。実は最近、仕事やめちゃったんだ。それで今はしばらくこっちに帰ってるの。またあっちで仕事探すかもだから向こうの家は引き払ってないけどね。だから今は無職。恥ずかしいから他の2人には内緒にしてて」

そう言って彼女は両手を顔の前に合わせる。

きっと彼女が俺たちと同じように学生だったらそんな風に頭を悩ませる必要はなかっただろう。思わず社会人は大変なんだなぁと感じさせられた。

【終わり】


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