へんだけどクリスマスってなんかイブより肩の力が抜けていいよねって思った話。

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今年もまたあいつらと過ごすのか。

12月25日の夜7時。鈴木は仕事を終えてバス停でバスが来るのを待ちながら、ふと心の中で思った。

ここには彼と同じように仕事帰りの大人たちが列をなして並んでいる。ちらほらとビジネスバッグに加えて白い正方形の箱を引っげている人がいた。きっと中にはケーキが入っているのだ。

彼はまだ自分が小さいころ、クリスマスの夜に父親が買って帰るケーキを家で楽しみに待っていたことを思い出した。楽しみにと言っても、たいていは父親が帰ってくるまでの間、その年のクリスマスでもらったゲームをひたすらやり込んでいるだけだったが。

バスが到着して、鈴木は一番後ろの5人席に座った。車内はいていてその席には彼一人しかいない。

やがてバスはショッピングセンターの前で停まる。女子高生の2人組が乗ってきて、楽しそうに話をしながら鈴木のとなりに座った。

「いやぁ、ついに自分で自分のクリスマスプレゼントを買うようになってしまったなぁ」

女子高生の1人が太ももの上に乗せた大きな紙袋を抱えて言う。

「ほんとよ。しかも今年で2年目だね。いつの間にかサンタさんも私たちにプレゼントくれなくなっちゃったもん」

「でも真木はプレゼントもらってたじゃん」

「あれは彼氏からでしょ。どこに私たちの彼氏がいるのよ」

「もうこの際、サンタさんでもいいから彼氏になってくれないかな」

「今年のクリスマスプレゼントはわしじゃ」

「ごめん、やっぱそれは無いわ」

そのやり取りがおかしくて、鈴木は危うく笑い出しそうになった。

それから20分ほどバスに揺られて、彼は自宅から最寄りのバス停で降車する。

彼の家は街中にあるから、あたりはそれなりに人の往来が激しい。花やケーキを片手に家路を急ぐサラリーマン。たった今、笑いながら彼の横を過ぎ去った男女数人の学生一行。手をつないで歩く恋人たち。立派なレストランでディナーを食べるのか、よそ行きの服に身を包んだ家族がちらほら。そして、サンタやトナカイに仮装した派手な若者たち。

クリスマスは年に一度しか来ない。だから、彼らはみな思い思いにそれを楽しもうとしている。彼もその1人だ。

鈴木は自宅へ帰るとビジネスバッグを投げ捨て、続いてスーツも脱ぎ捨てて、さっさと私服に着替えた。ダウンジャケットを羽織ってポケットにかぎと財布を突っ込むと、帰宅から10分足らずでまた外に出かける。

それから道の途中でコンビニに立ち寄って、お酒とつまみをいつもより多めに買った。何を買うべきか悩んだが、どうせ自分の金だからと結局ほとんど彼の好みだけで選ぶことにした。

コンビニを出るとさらに500メートルほど歩いて、鈴木はとあるマンションの1階に到着する。ここには彼の友人である中島が住んでいる。インターホンを鳴らすとすぐに騒がしい男の声が返ってきた。

「おお、やっと来たか! 木村はもう来てるぞ」

1階の自動ドアが開いてエレベーターに乗り、中島の部屋の前に立って玄関のドアを開ける。鍵はかかっていなかった。

「お邪魔します」

部屋の中では、2人の男がこたつに入ってフライドチキンをむさぼっていた。紙バケツに入ったチキンも、パッケージが雑に破り取られたビスケットやピザも、すでに半分近くがなくなっている。

「よっ! 久しぶり!」

木村がチキンにかぶりつきながら片手を上げる。

「久しぶりって、お前らもう始めてんのかよ」

「だって来るの遅かったから」

「とにかく俺も食うぞ」

鈴木は手に持つビニール袋をどさっとこたつの横に置いた。

「何それ?」

中島が興味深そうに尋ねる。

「酒とつまみ」

「おぉ、ナイス! ちょうど切れそうだったんだ」

「それより今年も3人でクリスマスを過ごすことになるなんてな。しかも中島の家でこじんまりと。外は人も街も華やかだったぞ」

鈴木の愚痴を聞いた木村は顔をしかめて反論する。

「ふん。やつらはこたつの中でぬくぬくしながら、山盛りのチキンとピザを食い散らかす喜びを知らないんだ」

「言っとくけど、俺ん家であんま食い散らかすなよ!」

「はぁ、このままじゃ新年もこうして3人で迎えそうだな」

「それもそれでいいじゃないか。まあとりあえずお前も酒を持って」

「そうだな」

「よしっ、じゃあ中島。ここの主として音頭を頼む」

「へいへい。それじゃあ、乾杯!」

「乾杯!」

コツン。部屋の中に3つの缶がぶつかる軽快な音が鳴った。

【終わり】


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