有名大学を卒業したけど、やっぱり勉強なんて意味なかったと思います!

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「勉強なんてしても意味なかったです!」

私は酒が回ったのもあって勢いのまま、いつも懇意にしてもらっている歳の近い職場の先輩に不満をぶつけた。

「またその話か」

「はい、この際なので何度でも言わせていただきます!」

手に持っていたレモンサワーをグイッと飲み干してハイボールを注文する。その間に先輩は「なんの際だよ」とつぶやきながら面倒くさそうに頬杖をついていた。

「私は小学校から塾に通って、中学高校といわゆる優等生として過ごしてきました」

「でもそれは、別に自分がなりたくてなっていたわけじゃないんだろ」

すでに事の顛末てんまつを知っている先輩は、早く話を終わらせたいのか私が言うより先に続きを奪った。

「その通りであります!」

「お前は兵隊か」

「私だって塾よりも友達と遊びたかった。勉強なんてそんなに好きじゃなかった」

「でもそのおかげで高校も大学もいいところ行けたんじゃないか。その学歴は羨ましいよ」

「学歴なんて会社に入ってしまえばもう意味ないじゃないですか! 大体、学生と社会人じゃ後者の時間が圧倒的に長いのに、学校も塾も社会に出て役に立たないことばかり教えてくる。もっと問題解決能力とかチームプレーとか、そうじゃなければマーケティングとか起業とかそもそもお金の稼ぎ方とか、そういうのを勉強した方がよっぽどよかったです!」

「学歴はともかく勉強はそうだな。実際、俺も学生時代に習ったことが今に活かされてるかってかれたら首を横に振るしかない」

「おかげで私は今めちゃめちゃ苦労してるんですよ! しかも変に学歴が良いせいであなたは勉強だけねみたいに思われて。そりゃあ習ってないんだからわからないに決まってるじゃないですか!」

「お、だんだん会社の愚痴になってきたな」

先輩は楽しそうに笑いながら枝豆を口に放り込む。

「勉強してもしなくてもどうせ社会に出て怒られるんだったら、学生のうちにもっと遊んどけばよかったですよ」

一通り自分の主張を言い終わると(とは言え、似たような内容をこの場ですでに2,3回話していたが)私はグイッとジョッキを傾けて、今度はまたレモンサワーを注文した。

「気持ちはわかるけど、学歴だけは桜井さんが思っているほど軽いものじゃないよ。思いの外、長く付きまとってくるものだ」

どうやら何度も同じ話を聞かされていると新たに思うところも出てくるようで、それは今になって初めて先輩が口にした意見だった。

「長く付きまとう?」

「そもそも大学によって就活の難易度が大きく変わるのはわかっただろう」

「そうですね。大学のブランドもそうですけど、いい大学にいると先輩が大手に務めてたりするからその会社の内情を知ることができるし、友達も同じようにいいところ狙ってるから情報交換できます。とにかく情報戦はすごく有利でした」

「そう、就活は人脈が命みたいなところあるから、どの大学にいるかはその大学が持つネームバリュー以上に結果に影響を与える」

「何だか就活講座みたいになってきましたね」

「もう俺たちには関係ないのにな。でもせっかくだから言わせてくれ」

「どうぞ」

「俺はそういう就活の話を高校生の時に知っていればと思ったよ。そしたらもうちょっと勉強に気合いを入れたかもしれない。まあ、言い訳なんだけど」

言い訳かい、と心の中でツッコんだ。

「でも言ってることはわかる気がします。そもそも、日本の教育は子供に情報を与えなさすぎる。だから誰も将来のことを考えようとしないんです。今の行動が将来に結びついていく。その意識をもっと持たせて、もっと自分の将来について考える機会を与えるべきなんです!」

「何だか愚痴のスケールがでかくなってきたな。中身には賛成だけど」

「賛同いただきありがとうございます。それで、学歴が付きまとうっていうのはどういうことですか?」

「ああ、そうだ。それは会社に入ってからも人はとりあえず学歴で人を判断するってことだよ」

「確かにその経験はありました。大学名を言っただけですごいすごいって同期や上司の態度が変わった時は複雑な気持ちになりましたけど」

「人は他人には中身や過程が大事だと言うくせに、自分は他人を肩書きや結果で判断するからね。まあ資本主義社会では成果が全てだから仕方ないことだ」

「それでも大学名を言っただけで人を見る目を変えるなんて、ちょっと浅い気がします」

「本人たちからすればそれだけいい大学を出ることはすごいことなんだよ。少なくとも勉強において一定の成果を出したわけだからね」

「……そう言ってくれるのは嬉しいです」

私は耳の先が赤くなるのを感じた。

「それで人を見る目が変わるってのは、その人の発言力に影響してくるんだ。みんな、いい大学を出ている人の意見だからとりあえず聞こうという気になる。例えばさっきの勉強なんて意味がないって話、もしも桜井さんがその辺の適当な大学を出てる人だったら、僕は聞く耳を持たなかっただろうね」

先輩があんまりばっさりとした物言いをするから、私はちょっと寒気を感じてしまった。

「怖いこと言わないでくださいよ。それじゃあ人は学歴で相手を判断するってことですか?」

「最初のうちはね。もちろんしばらくしたらその人の働きぶりでまた評価が変わってくる。ま、最初の評価が高いとその時が大変だね。期待がある分、人と同じことをしてもがっかりされる」

「また怖いことを言うぅ」

「それでもスタートが良いに越したことはない。もしも出世を目指すなら」

私はうんうんとうなずいた。先輩はその反応に気分を良くしたようで、ニコリと笑うとさらに話を続けた。

「そもそも今の時代、同じ会社で働き続けるなんてセオリーじゃない。1,2年で会社を辞める人もざらにいる。そしたらまた面接で学歴を見られる。もちろん前の職場と仕事内容も関係してくるけど、1,2年の経験じゃほとんど未経験者採用と同じだ」

「なるほど。……いや、私はまだ辞める気ないですからね」

先輩は声に出して笑った。

「あはは、わかってるよ。まあ要するに、桜井さんはもっと自分の学生時代に誇りを持っていいと思うって話だ。勉強は社会の役に立たないかもしれないけど無駄じゃない」

「なるほどです。何だか心が温かくなりました。ありがとうございます!」

「それなら良かった」

ちょうど手元のレモンサワーを飲み終わった。時間を確認する。どうやら終電まではまだ時間がありそうだ。

「ところで、そろそろ2軒目行きませんか? 次は私が全部払うんで!」

「えっ、まだ行くの? しかもここは俺が出す前提になってるし」

「だっていつも先輩が出すじゃないですか。私は割り勘でいいのに」

「一応先輩だからな。社会人は建前にしばられる生き物なんだよ」

「はいはい。ま、とにかく行きましょうよ! 私、行ってみたいお店あるんです。ねっ、ねっ!」

「まあいいけど。とりあえず会計してくるから待ってろ」

先輩は伝票を片手に席を立った。私はその姿を目で追う。

先輩は面倒くさそうにしながらも何だかんだ私の為に時間をいてくれるし、何より彼と過ごす時間はとても楽しい。私が仕事でつらいことがあってもへこたれずにいれるのはあの人のおかげだ。

そして、色々とさかのぼりに遡れば彼と出会えたのも学生時代に勉強を頑張っていたからなのだ。

私はふぅーとゆっくり長い息を吐いた。

もしかしたら勉強自体に大きな意味はないのかもしれない。だけど、勉強をしたという私の努力はひとまず学歴という形で今も残っている。別に現状に不満がある訳でもない。それなら、100点ではないけれど、学生時代の私に感謝もしなければなるまい。

【終わり】


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