これから、第六回対作者緊急戦略会議を開催する。

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「今日はわざわざ集まってくれて感謝する」

水城は円卓に座る全員の顔を眺めると軽く頭を下げた。

「こうしてみんなが集まるのはあいつが作品のタイトルを変えようとした時以来ね」

月瀬が長い黒髪を肩の後ろに払いながら言った。

あいつとは物語の作者を指す。本名は佐藤優。ここは佐藤が趣味で書いている小説の登場人物たちが不定期で行う円卓会議の場だ。

「結局なくなったからいいものの、タイトルが『月がきれいですね』から『月とスッポン』になりかけたときは終わりかと思ったね」

皮肉屋の火野が思いっきり椅子に寄りかかりながら嘲笑ちょうしょうした。月瀬もそれに続く。

「大体、作り込みが甘いのよ。題名からてっきり月が関係するのかと思ったら全く出てこないし、途中でギャグ路線に行きたくなったのか訳の分からないタイトルに変えようとするし。ねぇ、金子もそう思わない?」

突然、話を振られた金子はびくりと驚く。彼が物語の主人公なのだ。

「何ぼーっとしてるのよ」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事してた。まあでも、作り込みの甘さは今に始まったことじゃないだろう」

金子のとなりにいた木下もうんうんと首肯する。

「あの人は気分屋だからね。プロットだけ書いて執筆すらしなかったことが何度もあるもの。むしろ、ここまで書いてくれただけでも御の字だと思わないと」

火野が「さすがヒロインは違うね」と鼻で笑った。木下はムッと眉をひそめる。

「ごめんごめん。でも俺には、そもそもこの物語がプロットをもとに進んでいるなんて信じられないんだ。もう話の終盤だというのに巻き散らかした伏線の回収がまったくできていない」

続けて水城も口を開く。

「そもそも設定ミスが多すぎる。登場人物に月だの火だの曜日の一部を入れるところは百歩譲ってよしとしよう。問題は最終章に入ったこのタイミングになってもまだ土曜と日曜が現れていないことだ。何をしている。あいつは平日だけで終わらせるつもりなのか?」

金子がため息をつきながら仕方なさそうに答えた。

「実を言うと、もとは土田と日向ってキャラがいたんだ。でもボツにされた。この物語は月曜日から始まって、月曜に月瀬、火曜に火野、水曜に水城と順番に仲良くなっていくだろう。土曜と日曜も用意されてたんだけど、途中で物語に矛盾が生まれたことに気が付いて、悩んだ末に全部なかったことにしたんだ」

「本当にプロット書いたのかしら」

月瀬がまるで火野の言いそうなことを口にした。

「まあプロットに関しては私たちのせいでもあるよ。それより、水城が私たちを呼んだのって何か理由があるんだよね?」

木下が質問すると、水城は待ってましたとでもいうように大きくゆっくりと頷いた。

「実は昨日、そのプロットに修正が加えられたんだ」

一同はえっ、と驚きの表情を見せる。

「今さら何をどう変えるって言うんだ?」

火野の言葉に、金子が腕を組んだままうつむいて答えた。

「……ラストだな」

水城が仰々ぎょうぎょうしく首肯する。

「佐藤は土日が消えて物語の見せ場が少なくなった分をインパクトのある終わり方で補おうとしている」

「インパクトのある終わり方……」

4人はそれぞれ不安げな表情を浮かべた。あいつが思い浮かぶようなインパクトなんてどうせろくでもないことに決まっている。

「結論から言おう。やつはこれまで苦労して進めてきたこの物語を、すべて夢オチで終わらせるつもりだ」

「ゆめ……おちだと……!?」

金子が頭を抱える。

「さすがは万年一次落ちだな」

「私嫌よ、せっかくここまで来たのに誰かの夢でしたで終わらされるなんて」

「私も嫌だよ。創作のそのまた創作なんて」

「それじゃあ、みんなこの結論には反対ということでいいか?」

水城の問いかけに4人全員が首を縦に振った。

「そうか。それなら、俺はまたアレをやろうと思っている」

その言葉に金子の顔がサッと青ざめる。

「本気か!? タイトル変更の時はたまたま上手くいったけど、あれはリスクが高いんだぞ!」

「わかってる。でも、俺たちが佐藤に対してできることはこれしかない」

金子は4人の顔を見回した。彼以外のみんなはすでに覚悟を決めているようだった。

「……わかったよ。結末もタイトルと同じくらい、いや、それ以上に大事だ。やろう」

「ありがとう」

水城が言ったその言葉は、短いけれど重みがあって、金子の心にしっかりと染み渡った。

「今回も前回と同じようにプロットのデータを消すの?」

月瀬が尋ねる。

「ああ、パソコンの不具合に見せかけてやってみる。ただ、前も言ったようにどこまで影響が出るかわからない。もしかしたら小説本体のデータまで消えてしまうかもしれない。それに、俺たちができるのはデータを消すことだけだ。それから佐藤が考えを改めるかどうかの保証はない。何なら、もっと悪いラストに書き換えられる可能性だってある」

「うん、大丈夫。みんなわかってるよ」

木下の言葉に続いてみんながうなずいた。

「よかった。そしたら早速やってみる。みんな、ひとまず今までありがとう。願わくば、次はいい結末で会おう」

5人はそれぞれ握手をすると、席を立って堂々と部屋を出て行った。

【終わり】


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