登校したら教室に謎の死体が転がっててすごく困ってる。

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朝、教室のドアを開けるとクラスは騒然としていた。

「どうすればいいのかしら」

「とにかく今はみんなが集まるのを待つしかないだろう」

すでに教室にいたクラスメイトは何かを取り囲むように丸く集まりながら、そろいも揃ってぶつぶつと取り留めのないことをしゃべっている。

「どうしたんだよ」

俺が近づくとそばにいた男子生徒はため息を漏らした。

「なんだ、C太か」

「俺で悪かったな。いいから何が起こったのか見せてくれ」

物語の世界では人物の重要度に応じて各人の設定の深さが変わる。準レギュラー以上になれば容姿や性格の詳細まで決めてもらえることもあるが、俺のように完全なモブだとまともな名前すら与えられない。せめてA太になりたかったものだ。

群がる生徒をかき分けて進むと、円の中心で男子生徒が倒れているのが見えた。血を流してうつ伏せになっている。背中には血がついていなかったから、血は正面から出ているのだろう。

「これは……」

「ああ、C太か」

顔を上げると中川しゅんと視線が合った。姓名が用意されていることからうかがい知れるだろうが、彼は物語における重要人物の一人であり、主人公の友人という地位にいている。

「一体これはどうしたんだ?」

「俺にもわからないんだ。教室に来たらいきなりこれさ。今までの話からてっきり学園青春ものかと思っていたんだが、どうやら違ったみたいだ」

作者はこれから物語をどんな方向へ持っていこうと言うのか。この展開の意図を理解できた者は誰一人としていなかった。

「この男、死んでるのか?」

「ああ、死んでる」

人が死んでいる以上、確かに青春や恋愛の線は薄そうだ。ミステリーならまだしも、ホラーやサイコだったらどうしよう。モブが大虐殺を食らうような展開は勘弁願いたい。

「少し触るぞ」

俺は男の重たい体を抱きかかえて、えいとひっくり返した。一部の女子生徒が悲鳴を上げる。

「この傷は、銃か?」

「どうして銃創なんか」

中川も戸惑っているようだ。

「それよりこの顔」

A子が男の顔を指さして言った。俺はこくりと頷く。

「ああ、顔に十字線が引かれているだけだ。髪型にも服にも特徴はない。恐らく殺されるためだけに作られた人物だろう」

彼の不幸がどこか別の物語で埋め合わせられることを祈った。

「何かわかったか?」

中川は早く何かしらの答えが欲しいようで俺を急き立ててきた。重要人物たる彼はストーリーの変化をもろに食らうことになる。きっと現状をそのまま受け止める余裕がないのだ。

「まだなんとも言えない。とにかく他に不審なところがないか、一度みんなで教室の中を調べてみよう」

そうして発見されたのが、いつも使っているものとは様式の異なる机と椅子が数セット、聞いたことのない生徒の名前が書かれたノート数冊、そして、時間の狂った教室の時計だった。

「……普段と違うものがまぎれ込んでいる」

どうして今まで気づかなかったのだろうと不思議がるF男に、それよりいつから変わったのかと疑問をていするD美。

「何か考えがあるみたいだな」

中川が俺を見つめて静かに言った。その言葉を合図にみんなが一斉にこちらを向く。

「ほとんど予測の域を出ないけど、多分これかもってのは」

「教えてくれ」

突然の不審死体、本来の設定にない机や生徒の名前、そして噛み合わない時間。

「きっと別の作品の文章がここに紛れ込んでる。作者がコピペミスでもしたんだろう」

俺の結論に、その場にいた誰もがどう反応すべきかわからないようだった。

「それは、どうすればいいんだ?」

しばらくして中川がようやく口を開いた。

「どうしようもないよ。ただ作者がここに散乱している間違いに気付いて修正するのを待つしか。まあ、明日には全部きれいに消されてると思う」

「そうか」

クラスのみんながそれをどう受け取ったのかはわからないが、少なくとも今の説明に納得はしてくれたようだった。

俺は事態に一段落ついたことを確認すると、ゆっくりと教室の窓に近づいた。外の空気を吸いたかったのだ。

窓を開けたとき、俺は自分の愚かさに気が付いた。ここにはクラスメイトがいる。でも、全員じゃない。第一、どうしてこの物語の主人公がいつまで経っても現れないのか、俺はずっと気になっていた。

窓を開けた先には見慣れない風景が彼方まで広がっていた。俺は静かにつぶやいた。

「消されるのは、俺たちの方だったか」

【終わり】


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