高校時代の友人とばったり会ったから、ちょっと青春みたいなことをしてみたくなった。

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「もしかして矢野か?」

夜の8時ごろ。職場の同期と映画を見に行ったついでに、一人で買い物をしていると突然、背後から男の声がした。振り返るとそこには高校時代の友人である斎藤さいとうが立っている。

「斎藤か!? うわっ、久しぶりだな。こっちで働いてるなんて知らなかったよ」

「いや、たまたま仕事で戻ってるんだ。週末には東京に帰るよ。それにしてもまさかばったり会うなんて」

斎藤とは高校1年の時に同じクラスで、誰よりも仲が良かった。2年からは俺は文系、向こうは理系に進んだからそんなに接点はなくなってしまったけど、それでも会えば必ず話をしていたし、大学に上がってからも連絡を取り続けていた数少ない友人の1人だ。

「もし時間あるならこれから飲み行こうぜ」

斎藤が嬉しそうに誘ってくれる。もう買い物はほとんど終わっていて、あとは家でご飯を食べるだけだったから都合はつく。だけど、俺には1つ問題があった。

「それはいいんだけど……」

「あっ、そういやお前飲めないんだったな。まあいいや。普通に飯だけでも」

「すまんな、助かる」

こういう時に昔からの友人だとすぐに察してくれるし、こちらもそれに対して引け目を感じずに済むから本当にありがたい。

俺たちは適当なファミレスに入って、それぞれ注文した料理を片手に近況を報告し合った。話題はそれから徐々じょじょに当時のクラスメイトのことにまで波及していった。

「えぇ!? 田辺さん結婚したの?」

残念ながら俺の友人関係は希薄で、こういった類の情報があまり入ってこないのだ。

「今年の夏に結婚したんだって。しかも相手は古賀ちゃんだよ」

「うわっ、懐かしい名前。そして古賀ちゃんかぁ。あの2人、接点合ったんだな」

「俺も詳しくは知らないけど、お互い仕事がシフト制だから他の人と休日合わなくて、次第に2人で過ごす時間が増えていったらしい」

「へぇ、高校時代はそんなに仲良く見えなかったのに。将来どうなるのかわからないもんだな」

「そういや谷原って覚えてるか?」

「ああ、あんま話したことないけど同じクラスだったよな」

「そうそう。その谷原が今は教師になって俺たちの高校で授業教えてるんだってさ」

「生徒だったのが今度は先生になってんのか。なんか面白いな」

「なあ。俺たちも歳をとったよな」

「ほんとだよ。卒業してからもう8年か」

あの時、同じクラスで笑い合ったみんなが今は新しい場所と新しい人間関係の中でそれぞれ人生を歩んでいる。それはごく自然で、きっと良いことで、だけどちょっと寂しくもある。

「たまに戻りたくなるよ。高校時代に」

俺の言葉に斎藤が驚いた顔をした。

「まさかお前の口からそんな言葉が出るなんて。いつもやる気のなさそうにしてたのに」

「あれはあれで楽しんでたんだよ」

俺が少し恥ずかしそうにするのが面白かったらしく、彼は大きな声で笑った。悔しいことに、その豪快さにつられてこちらまで笑いが込み上げてしまった。

「なぁ、あの時、一緒に星を見に行こうって言ってたの覚えてるか?」

目にたまった涙をきながら、斎藤がやぶから棒にたずねてくる。

「自転車で泊りがけでって言ってたやつだろ? 結局、行くタイミングが合わなかったんだよな」

「そうそう。もし気分だけでも高校時代に戻りたいなら、これから一緒に星を見に行かないか。さすがに自転車は無理でも車なら行けるだろ」

普段ならきっと断っているんだろうけど、この時はすっかり感情が高ぶっていたから、まるで昔に戻ったような勢いがあって俺は即座に同意した。

「よし、準備はいいか」

車のヘッドライトをけながら斎藤が確認する。

「いつでもどうぞ」

車内で流す音楽をスマホで選びながら答える。よしっという斎藤の声とともに車が発進した。

夜の高速道路を当時の流行り曲をかけながらひたすら飛ばしていく。時間はもう12時になろうとしていて、さすがに他の車もほとんど通っていなかった。

何度も同じような電灯を過ぎ去って、真っ暗な闇の中をただただ進んで、2人で大声で歌を歌いながら過ごす時間には、邪魔なものを一切隔絶かくぜつして作られた俺たちだけの世界があって、クサい表現だとわかっているけど、少し青春の匂いがした。

「おい、斎藤! ついたぞ!」

後部座席に横になって眠る斎藤を叩き起こす。最初の1時間は良かったけど、途中から段々と疲れてきて、最後はこうして運転を変わりながら体をだまし騙しようやくたどり着いた。

「うおぉ! すげぇキレイ!」

空を見上げた斎藤が思わずそう声を上げる。そこには空の大きさでさえ足りないくらいに無数の輝く星がひしめき合っていた。

すぐに写真に収めようとスマホを構えてみたけど、どうしてもスマホのレンズでは光量が足りずこの壮麗そうれいを捉えることができない。仕方がないからせめて両目に焼き付けようと凝視することにした。

「なぁ、楽しかったな。あの頃」

ふと隣からそう声が聞こえた。俺は空を見上げたまま「ああ、楽しかった」と答えた。

「でも俺は、今こうしてお前といるのも楽しいよ」

改まってそんなことを言われたもんだから、俺は驚いて斎藤の方を振り返った。彼はまだ星を見ている。何だか、俺にはその目が星空のさらにずっと先を見つめているように感じられた。

俺はまたゆっくりと真上に視線を戻した。

「俺もだ。今日、久しぶりに会えて本当によかった」

それからふと思い出して、斎藤に缶コーヒーを渡す。

「途中の自販機で売ってたから買っておいた。さすがに寒いもんな」

「おお、気が利くじゃん。さんきゅ」

しばらく熱々のコーヒーを飲みながら星を堪能する。そして、その残りがほとんどなくなった頃、俺はまた口を開いた。

「今の時間は3時37分だ」

「もうそんな時間か」

「今日の日の出は7時11分らしい」

「急げば間に合うな」

俺たちの地元にはちょっとした山がある。ほとんど観光用に整備されているから頂上付近まで車で行けるし、頂上に造られた展望台からは地元の街並みと朝日をばっちり拝むことができた。

斎藤は思いっきり背伸びをしたあと、ニヤリと笑って言った。

「じゃあ、行こうぜ」

つられて俺もニヤリと表情が崩れる。

「ああ」

俺たちはすぐに車に乗り込んで、また夜の道を切り開いていった。

【終わり】


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