目が覚めたらリアル人狼ゲームでやばい役になっていた。

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「ここに集まってもらった9人には、これから人狼ゲームを行ってもらう」

そのアナウンスが聞こえた時に確信した。間違いない。私は自分が書いた小説の中に入り込んでしまったのだ。

どうしてよりによって初めて挑戦したサイコスリラーものに飛ばされなければならないのか。文句はあるがそんなことを言っても仕方がない。

「このゲームでは、人間側に吊るされた場合も人狼側に食べられた場合も、対象となったプレイヤーは死亡する」

そう、陳腐だがこの設定がないと話が始まらない。

プレイヤーの役は人狼が2人、占い師が1人、騎士が1人、市民が5人。ゲームは昼と夜の2ターンを交互に繰り返すことで進行する。昼は参加者の中から投票で1人を吊るし上げ、夜は人狼が人間の中から1人を食べる。

ゲームは昼のターンから始まり、人狼を全滅させれば人間側の勝利。人間と人狼が同数になれば人狼側の勝利だ。

「但し、この中には8人の人間を拉致し、このゲームが始まる元凶となった人物、『犯人』が紛れ込んでいる。『犯人』が生きたままゲームが終了すると犯人以外のプレイヤーはすべて死亡する。それでは諸君の検討を祈る」

アナウンスが終わると、目の前に置かれたディスプレイが点灯する。左半分には自分の役が表示され、右には10:00の文字。そして、それは1秒ずつカウントダウンを始めた。

9人はそれぞれガラス張りの小さな個室の中に入れられ、正九角形の形で対面している。体は椅子に固定されていて動けない。椅子の前にはそれぞれディスプレイが設置されているが、いずれも自分のもの以外は内容が見えなかった。手元のボタンを押すとマイクがオンになって全員と会話することができる。そして、昼の投票や夜の殺害で選ばれてしまったプレイヤーは床から放出される毒ガスによって命を落とすという仕組みだ。

当然、私はゲームの結末を知っている。「犯人」は占い師だ。彼は偽りの占い結果を伝えることで、ちょうどこのゲームの死亡者が最も多くなるように行動する。

本来の物語では4度目の昼、人数が3人――それは占い師、人狼、市民だ――になったところで、ついにプレイヤーの1人がその事実に気付き、占い師を吊るすことでゲームが終了する。その結果、人狼側の勝利となり市民が死亡。人狼1人が生き残るという終わり方になっていた。

問題は目の前のディスプレイに占い師の文字が映っていることだ……。「犯人」は私。このままでは最後に正体を暴かれて吊るされてしまう。

――死ぬわけにはいかない。私は大方おおかたの状況が把握できるとすぐに決意した。本来のストーリーを塗り替えて、犯人が勝利する道を作ろう。幸いにも、人狼AB、騎士、市民AからE、誰がどの役かはしっかり覚えていた。

「…………」

誰もしゃべらない。いきなりゲームの開始を宣言されたところで、すぐにこの状況を飲み込めた者はいなかった。物語の中でもここは長い間、沈黙が続くことになっている。

私は自分が何をすべきかわかっていた。ちょうど3分が経ったころ、しっかりと指に力を込めてマイクのボタンを押す。

「私が、占い師は私です」

占い師が自ら名乗り出た場合、対抗して人狼側も片方が占い師をかたることが多いが、今の彼らにその余裕はない。物語でもそうして占い師としての絶対的地位にいた犯人が、自分の思うままにゲームを進めていくのだ。

「……他に占い師を名乗る人はいない、か」

しばらく経って騎士が口を開いた。

「占い師ってその人が人狼か人間かわかるのよね? もうわかったの?」

人狼Bがすぐに尋ねる。

「いや、占いは夜にしかできないから、まだ何もわからないわ」

「そう……」

彼女は少しホッとしたように見えた。

それから話はほとんど進まなかった。みんなこのゲームが本当に命を賭けたものなのかわからなくて、ただただ困惑しながら最初のターンが終わった。

事態が変わったのは、投票が終わって市民Cがみんなの前でガスに苦しみながら殺された時だ。その様子を見た他のプレイヤー達は泣いたり、叫んだり、怯えたりして、まさに阿鼻叫喚の光景だった。

私は何だか気分が悪くなった。これが私の書いた小説。いや、それより、これが犯人のしたかったことなのかと思うと我ながら虫唾むしずが走った。そして、その役を自分が引き継いでいるという事実にも。

夜になり、市民Aが殺された。暗闇の中で断末魔の叫びが聞こえて、昼のターンで照明がつくと彼の亡骸なきがらがプレイヤーの眼前に忽然こつぜんさらされた。

周りのプレイヤー達は黙り込むかどうしようどうしようと取り乱すだけで、議論は全く行われなかった。

審議の時間が終了する1分前、私はこれがただの物語であると自分に言い聞かせながら、プレイヤーの1人を指さして言った。

「占いの結果、人狼だったわ」

指された人狼Bは顔を真っ青にして反論する。

「そんな、違うわ! 私は市民よ」

もちろんそれに耳を貸す者はいなかった。占い師の言葉は絶対だ。時間が来て、彼女はあっさりと吊るされた。

その瞬間、私の中でポッとある感情が湧いた。それはすぐに消えたのだが、私はその正体がゲームを支配していることに対する優越感だとわかった時、自分の中にある恐ろしい一面を見せつけられた気がして鳥肌が立った。

その夜、騎士が殺された。これによって私は自分を守る盾を失ったのだが、さして大きな問題とは思わなかった。人狼には騎士が殺されたかどうかわからない。無駄撃ちになりかねない私への襲撃はこれからも行わないだろう。

昼が来た。私はもう1人の人狼を暴露することでこのゲームを終わらせるつもりだった。少しでも早くこのゲームから抜け出したかった。

「犯人」がわかっていないこの段階では、人狼の暴露がそのままゲームの終了には繋がらないかもしれない。でも、他のプレイヤーから見ると、「犯人」がすでに死んでいる可能性もあるし、何よりこの場でゲームを終了させないと夜にまた誰かが死ぬことになる。それなら、すでに「犯人」が死んでいることを願ってゲームを終わらせることも十分考えられるはずだ。

私は顔を上げた。9人いたプレイヤーも今は5人しか生きていない。こぶしを握り締めて、この物語に終止符を打つため口を開く。

「昨日の夜に占ったわ。そしたら――」

「待ってくれ」

市民Dが私の言葉をさえぎった。ドキリとした。何か嫌な予感がする。

「俺はあんたが『犯人』じゃないかと思っている」

瞬時に3人の視線がこちらへ注がれた。一気に心臓の鼓動が速くなる。彼は私が何も言わないのを確認すると淡々と自分の考えを述べ始めた。

「ずっと考えてた。もし俺が犯人ならどうするか。殺される可能性が低くてゲームの進行を操れる人物。それは占い師だ。もしかしたら人狼の片方が占い師を騙るかも知れないが、いきなりこの状況に放り込まれて、そこまで頭が回るやつはほとんどいないだろう」

血の気が一気に引いていく。違う。これは本来の物語とかけ離れてる。こんなに早く真実に辿たどり着かれるはずはなかった。

「そもそもこのゲームは誰がどの役かじゃなくて、犯人が誰かを最初に考えないといけなかった。だけどそうはならなかった。それは最初にあんたが自分が占い師であることを名乗り出たからだ。だからみんな、誰がどの役かということに考えを向けさせられてしまった」

全員がどこか冷たい目で私を見ているような気がした。目から涙がこぼれる。これまで死んでいったプレイヤー達の死に様がまざまざと脳裏に浮かんだ。

「最初に人が吊るされて死んだとき、みんな何かしらの反応を見せてたのに、あんた、ただじっと見つめてただろう。それは最初から何が起こるか知ってたからじゃ――」

「もうやめろ!」

私は心の底から驚いた。なぜなら、そう言ったのが人狼Aだったからだ。

「彼女、泣いてるだろう」

「そんな理由でやめろって言うのか?」

市民Dが小馬鹿にするような口調で反論した。

「俺からすると、そんなに理路整然と考えたりしゃべれたりするお前の方がずっと怪しいよ。それに、俺にはこの人がこんなふざけたゲームをくわだてるようには思えない」

「はぁ? お前、何を言ってるんだ!」

市民Eも口を開く。

「申し訳ないけど、あなたからは人をおとしいれようとする感じが出てるの。私も犯人は占い師じゃないと思う」

「何だ……何なんだお前ら……」

残り時間は10秒だった。このままだと吊るされるのは市民Dかもしれない。まだ、今なら私が犯人だと名乗ることができる。

――7、6、5。

一方で私はわかっていた。自分は絶対に名乗り出ない。市民Dは正しいことを言ったのに吊るされる。でも、だからと言って。

――3、2、1。

私が代わりに死ぬ気はない。

――0。

審議の時間が終わった。投票の結果、やはり市民Dが吊るされた。奇妙なことに人の信頼は合理性よりもただの印象で決まるものらしい。

きっと彼らはこのまま犯人が死んだことにしてゲームを終わらせるだろう。その結果、私に裏切られて死んでいく。それもしょうがない。私が生き延びなくてはならないのだ。

私は涙を流しながら、改めて決意を固めた。

【終わり】


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