中学の時に書いた10年後の自分宛ての手紙が明らかに俺の字じゃない。

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中学校から手紙が届いた。それは俺が15歳の時に授業で書かされた「10年後の自分」へ宛てたものだった。学校で保管されていたものが10年の時を経てついに郵送されたらしい。

もちろん手紙を書いたことなんてすっかり忘れていたから、受け取った時は学校もなかなか粋なことをするものだと感心させられた。

とは言え、俺はやる気のない学生だったからきっと中身も大したことは書かれてないのだろう。

手紙のふうを切って中に入っていた2つ折りの紙を取り出す。いざ開いてみると、そこには俺の想像とまったく違うものが書かれていた。

2020年10月25日に、正門の横にある花壇に植えられた、左から二つ目の木の枝を調べてください。

驚いた。それは文章の内容が奇妙奇天烈きてれつだったこともそうだが、それよりも書かれている字が俺の字とは似ても似つかないものだったからだ。どうやら女子の字に見えるが、さっぱり状況がつかめない。

念のためもう一度、封筒を確認してみたがそこにはちゃんと俺の字で俺の名前が書かれていた。中身が入れ替わったのか? いや、普通はその場で封までするだろう。

しばらく考えたが、とりあえず俺は手紙の内容に従ってみることにした。学校の花壇の木の枝に何かヒントがあるのかもしれない。

幸いなことに手紙に指定の2020年10月25日はちょうど明日で、しかも明日は休日だった。

翌日、俺は自転車にまたがると中学校を目指してペダルをこいだ。

くだんの花壇にたどり着く。卒業してから10年近くが経っても、当時からほとんど見た目が変わっていなかったのには何だか安心させられた。

すぐに左から二つ目の木の枝を見てみると、本当に丸めた紙がテープで貼り付けられていたからドキッとさせられた。10年もの間、ここにくくり付けられていたというのか。いや、それはあり得ない。雨風に打たれてとっくにがれ落ちているはずだ。

紙もテープも状態がよく、最近使われたばかりのようだった。とにかく俺は紙を広げて中身を確認する。

緑ヶ丘公園のベンチの脚を調べてください。

またしても指示だった。

俺は何だか寒気を感じた。誰かが自分を誘導している。……何のために? 最後にはどこか人目のつかないところに行かされて、背後からザックリやられてしまうのではないか。

すぐに周囲を見渡す。もしも誰かが俺を襲おうというのなら、その人物はきっと今もどこかで俺の行動を監視しているはずだ。

あたりに怪しい人影はなかった。

俺はどうしようかと悩んだが、結局、この宝探しゲームを続行することにした。

最初の手紙も今見ているこの紙もどちらも同じ筆跡だったが、奇妙なことに俺はこの字に見覚えがあった。見覚えと言っても何となくあったような気がするといった程度だから、もちろん誰の字なのかは思い出せない。

それでも、文章を書いたのが中学時代のクラスの誰かなら、ひとまずうらみを買うようなことはしていないはずだ。きっと大丈夫。たぶん……。

緑ヶ丘公園はここから歩いて10分ほどのところにある丘の上に造られた公園だ。俺のいたクラスは男女ともに仲がよくて、テスト期間中に部活が休みになった時などはみんなでよくそこに集まった。近くの駄菓子屋で買ったお菓子を片手に、やれ誰と誰が付き合っただのやれ試験がやばいだのと些細ささいな話でどっと盛り上がっていた。

もしかしたら、これはあの中にいた誰かの仕業しわざなのかもしれない。

自転車だったこともあって公園にはすぐに着いた。ここにはいくつかベンチが設置されているが、当時の俺たちが使っていたのは中に入ってしばらく進んだ先の大きな砂場の前にある赤いベンチだ。

「あった」

自分の予想が的中したことに嬉しくなって、ついそう声をらした。早速、紙を開いてみるとそこにはやっぱり次の指示が書かれていた。

高砂神社の御神木ごしんぼくの隣にあるベンチのひじ掛けを調べてください。

そこで俺はピンときた。ああ、これはきっとあいつの仕業しわざだ。

神社に辿たどりつくと、やっぱりその人物は御神木のそばに立っていた。俺が来たのに気が付くと笑顔で手を振ってくる。

「久しぶり!」

「やっぱり由紀だったか」

「ふふ、よくわかったわね」

彼女は楽しそうな笑顔のまま答えた。

「校門はよく2人で遅刻して掃除させられてた場所だ。公園は放課後にみんなで過ごした場所で、ここは由紀が俺に告白してくれた場所」

由紀はこくりとうなずくと、ポケットの中から手紙を取りだした。

「10年前の私も手の込んだことをしたわよね。わざわざ先生からこの手紙が届く日にちを聞いて、やる気のない翔太から紙をひったくって代わりに書いて、10年後の自分には次の指示が書かれた紙をたくして」

「じゃあ2つ目と3つ目の紙は手紙が届いてから由紀が仕込んだのか」

「うん、実は昨日やったの」

「通りで。どうして昔の由紀はわざわざこんなことを」

彼女は途端に顔を赤らめて、恥ずかしそうに訥々とつとつと口を開く。

「その、この頃から翔太のことが好きだったのよ。……最悪、10年後だってこの手紙を理由に翔太に会いに行ってやるって思ってて」

俺はつい声に出して笑ってしまった。

「そんなに笑わなくてもいいでしょ! 私だって必死だったんだから」

「ごめんごめん。でもここまでやっても結局、今じゃ意味なかったんだなって思うとちょっとおかしくて」

「うるさいわね。もともと空回りするたちなのよ」

「ははは。そうそう、それより智也ともやから聞いたよ。結婚したんだってね。おめでとう」

「うん、ありがとう。翔太も彼女と上手くいってるんでしょ?」

「ああ、まだ誰にも言ってないけど、来年結婚しようって話してる」

「うそっ! おめでとう!」

「ありがと。なあ、せっかくだしこれから昼ご飯でも食べ行かないか?」

「いいわね。私もたくさん話したいことあるの。行きましょ!」

それから俺は木漏こもれ日の差す鳥居をくぐって、楽しそうに先を行く由紀の背中を見つめながらゆっくりと階段を下りて行った。

私は階段の方に向かいながらさっきの話を思い返していた。彼はこの神社を私が告白した場所だと言った。それは厳密には違うのだ。

確かに私はのちに彼に告白をして、いっとき彼と付き合うことになるのだが、それは高校に入ってからの話。手紙を書いた時にはまだ告白なんてしていなかった。

この神社は、私が学校の外で初めて翔太を見かけた場所だ。私はこの神社に住みつく猫が好きでたまに足を運んでいたが、どうやら彼も同じ理由でたびたびここに来ていたようだった。

でも、当時の私はどうしても勇気が出なくて彼に話し掛けることができなかった。だから、あえて手紙の終着点をここにして過去の不甲斐ふがいなさを清算しようとしたのだ。

翔太は見落としていたが、御神木の隣にあるベンチのひじ掛けには最後のメッセージが置かれる予定だった。その内容は「進んで左にある階段を下りてください」。そこにはしげみの中に草の生えてないスペースがあって、そこが私と彼がよく時間差で猫とたわむれていた場所だった。当時から私は告白するならそこしかないと決め込んでいたのだ。

だけど、10年が経った今、そのベンチは老朽化ろうきゅうかのために取り除かれていて最後のメッセージを貼り付けることができなかった。その事実に気付いた時、私はホッと胸をなでおろした。

どうせもうこのゲームに終わりはないのだ。私自身、別に何かを望んでいるわけじゃない。計画を実行したのは、ただちょっとした好奇心と、10年前の自分の想いを成仏させてあげたいという気持ちがあったに過ぎない。

私は青天の空を見上げて大きく息を吸い込むと、翔太を置いて段飛ばしで階段を下りていった。

【終わり】


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