部内で三角関係になったのが何とも癖のある友人たちだった。

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俺が初めて大輝と会ったのは1年半前だった。

高校生になって、本が好きだから文芸部に入ろうと意気込んだはいいものの、同じクラスのやつが誰も興味を持たなかったから仕方なく不安と緊張を一人で背負って部室のドアの叩いた。

そうして中に案内された時、自分の他にいた唯一の一年生が大輝で、俺たちは隣同士に座らされた。まだ放課後になったばかりだから他の入部希望者が来るまで待つように言われて、することもなかった俺たちはどちらからともなく相手に話しかけた。

読む本のジャンルが似ていたこともあって、俺たちはすぐに打ち解けた。この作者が好き、この作品が好きということで大いに盛り上がって、その話に先輩たちも混ざってきたからみんなで和気藹々あいあいとした雰囲気になった。

ところがこの大輝という人物、一筋縄ではいかなかった。俺が先輩たちの目を気にして自分の発言に注意しながらしゃべる一方で、彼は次第に作者や作品の批判までおっぱじめたのだ。この作品はいいがあの作品はよくわからなかった、このラストは好きだったがあの展開は不可解だ、自分の主張を滔々とうとうとそして堂々と述べたのには頭を抱えた。

そうしてすっかり場の空気が冷めたころ、ドアを開けて中に入ってきたのが明里だった。彼女の第一印象は強気なクラス委員長。のちに彼女は本当にクラス委員長になるのだが、それはともかくこれがまた厄介な人物だった。

その日に来た新入部員が俺たち3人だけだったこともあり、部活動紹介が終わってからしばらく3人で好きな小説について話したのだが、そこで彼女はいきなり大輝とケンカし始めたのだ。

ここはこういう気持ちを描写してるんじゃないこのわからず屋! 違う、ここは無駄だからむしろ消した方がこうなってわかりやすいんだよこの朴念仁ぼくねんじん! と最後の方は半分悪口を交えながらお互いに論陣を張り合っていた。

俺はこの2人と上手く関わっていけるのか本当に不安だったことを今でも覚えている。

結局(当時それがわかった時は戦慄せんりつしたが)、その年の入部者は俺たち3人だけだった。人数が少ないこともあって、俺たちは部活の外でも一緒に行動することが多くなった。

最初は部活が終わった後にみんなで本を買いに行くところから始まって、次第に休日でも顔を合わせるようになり、文芸イベントに参加したり、知り合いを介して他校の文芸部を訪れたり、中間や期末テストが近づくと一緒に図書館で勉強したりもした。

その中で俺たちの中に変化が起こった。変化と言っても決して表面には出なかったけど、要は俺が明里に対して好意を抱いたのだ。そして、確信はないけれどきっと大輝も明里が好きで、明里は残念ながら大輝に気があるようだった。

そういう状況だったから、もちろん俺は明里に告白する気はなかった。大輝と明里が付き合うならそれがいいと思っていた。

問題は今から1カ月前、両親の仕事の関係で大輝が転校すると判明したことだ。

俺は驚いたのと同時にどうにもやるせない気持ちになった。勝手に白旗を振っておいて厚かましい話だが、俺が明里を諦めて2人が付き合えばいいのだと自分に言い聞かせるに至った想いは、覚悟は、どこにしまい込めばいいのか。

もちろんそのことで大輝に八つ当たりをするほど分別がないわけではなかった。それに俺は彼のことを本当に心を許せる友人だと思っていたから、大輝がいなくなってしまうのはとても寂しかったし、その分、俺たちはそれまで以上に仲良く過ごすようになっていた。

ところが今から5分前、引っ越しの前日であるこの日に大きく状況が変わった。大輝にとって最後の部活動が終わったあと、彼は明里だけを先にかえして俺に話しかけてきたのだ。

「明日はみんな来てくれるから、きっとお前と2人きりで話せるのはこれが最後だ。だから俺の気持ちを正直に伝えたい。まず、章太郎と一緒にいて本当に楽しかった。俺は自分の意見を言わずにはいられないたちだからそのせいで色々と面倒をかけたけど、それでも俺を受け入れて、俺から離れずにいてくれて嬉しかった。本当にありがとう」

俺は泣きそうになった。いや、きっと泣いていた。顔を背けて、涙がこぼれ落ちる前にさっと目をぬぐった。

「それから文芸部の2年を章太郎と明里だけにさせてしまってすまない。先輩たちも卒業して大変だろうけど、どうか2人で部を引っ張って、活気ある文芸部を存続させていって欲しい」

俺は大きく頷いた。

「わかった。大輝がいなくなるのは残念だけど、あとのことは任せてくれ。俺の方こそ大輝と一緒にいれて本当に楽しかった。いつか、必ずまた会いにいく。ただ……」

大輝は悲しみと嬉しさの入り混じった笑顔で「どうした」と尋ねる。

「明里のことはいいのか? 違ったらごめん。でも、好きなんじゃないか。どうせ何も伝えてないんだろ」

大輝は声に出して笑った。

「やっぱりバレてたか。もういいんだよ。今さら言ってもどうしようもないし、変に明里を困らせたくない」

それからニヤッと笑って言い返してきた。

「章太郎も明里のことが好きだろ?」

「……そうだよ」

「応援するよ、お前らのこと。あいつは性格はともかく美人だからな。章太郎も知っての通り意外にモテる。俺は章太郎ならいいが、明里が他の男と付き合うのは嫌だ。だから、もしその気があるなら俺のためとも思って気持ちを伝えて欲しい」

その言葉で俺の中の何かが弾けた気がした。バチンと火花を出して、鋭い刺激が全身を打った。

「わかった。俺は明里に告白する。ただ、俺も大輝と明里が付き合えばいいと思ってたんだ。だからその代わり、俺のためとも思って大輝こそ自分の気持ちとしっかり向き合って欲しい」

それから俺は大輝の返事も待たずに走り出した。

そして今、街灯のついた歩道を全力で駆けている。きっとまだ明里に追いつけるはずだ。

走って走って、ようやくそれらしい後ろ姿を捉えた。そろそろ体力の限界に来ていたから、これ以上、前に進まれたらたまらないと出来るだけ声を張り上げる。

「明里!」

幸いなことに一発で彼女はこちらに気付いてくれた。俺は肩で息をしながらようやく目の前までたどり着く。

「どうしたの急に?」

明里は何事かさっぱり見当がつかないと言った顔で驚いている。

「いきなり悪いけど、伝えたいことがある」

「う、うん」

「俺は明里のことが好きだ」

彼女はますます驚いた表情でただじっとこちらを見つめる。

「返事は別に言わなくてもいい。違うんだろ、明里の好きな人は」

「……ごめんなさい」

その言葉には胸が痛んだ。だけど、本題はここからだ。

「もしも大輝が好きなら、その気持ちを伝えて欲しい。ずっと2人はお似合いだと思ってた」

「…………」

明里は黙ったままだ。

「2人でいられるのはもう今しかないんだぞ」

「……でも、もう無駄じゃない。どうせ大輝は遠くに行っちゃうんだから」

俺は初めて明里が弱気になるところを見た。2人ともいつもは自分の意見をはっきり言うくせに、こういう時だけ自分を引っ込めるからじれったい。

大きなため息をついてから、ゆっくりと口を開く。

「俺の知ってる大輝は偏屈だから、こういう時は絶対に相手に告白したりしない。だけど、俺の知ってる明里はこういう時でも強気で気持ちを伝えるだろ。明里が好きだって言って、大輝が今さら無駄なことだって返して、また明里が無駄なんかじゃないこのわからず屋って反論するんじゃないか。あいつはなんだかんだ言っても最後は明里の言うことを受け入れる。だから、今だって明里はいつもの明里でいろよ!」

その言葉でようやく明里の表情が変わった。

「……ありがとう、章太郎」

彼女はスマホで電話を掛けながら、来た道を走って戻っていく。

俺は明里の姿が見えなくなるまでじっと見送った。これでいい。これでいいのだ。

――しかし。

明里が見えなくなってから、周りに人がいないことを一応確認して、空に向かって叫んだ。

「あー! ちくしょおおお!」

【終わり】


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