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告白までの3日間 前編

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走っていた。佐々木の書いた、クラスメイト宛てのメッセージを届けるためだ。

今ならまだ間に合うかもしれない。昇降口を去って階段を段飛ばしに駆け上る。西棟の屋上まではあと少し。

この3日間、本当に色々なことがあった。こんな俺が、最後の最後までこうしてみんなと関わらなければならないなんて、嬉しいやら悲しいやらもうわからない。だけど、これは上手くいって欲しい。

そもそもの始まりは、3日前の放課後、宿題をやり忘れたため居残りで終わらせる羽目になったところまでさかのぼる。カリカリとシャープペンシルを走らせて宿題と格闘しているのは俺を含めて全部で4人。教室にはその他にも何人か残っていたが、俺が宿題を終わらせるころには居残り組を除いて女子が2人おしゃべりをしているだけだった。

「……やっと終わった」

ふぅーっと息を吐きながら背伸びする。周りを見るとまだ2人が宿題に取り組んでいた。どうやら俺が2番目に宿題を終わらせたようだ。

「お、さとしやっと終わったん?」

先に宿題を終わらせていた佐藤が明るくたずねてくる。

「まあな。お前はやたら終わるの早かったな」

「ま、ぶっちゃけ適当に終わらせたけんな」

佐藤はそう言っておどけた。彼はお調子者なのだ。現に今もさっさと宿題を終わらせたかと思ったら、もう教室に残っていた女子2人とのおしゃべりに加わっている。軽率というべきか軽快と捉えるべきか。彼女たちと話がしたくていい加減に宿題を終わらせたのに違いないのだ。

「それよりさ」

と彼が手招きする。女子たちとの会話に俺を混ぜようとしているのか。佐藤の口元は三日月のように引き上がり、その瞳はキラリと輝きを放ちながらまっすぐにこちらを見ている。どうやらただ混ぜたいだけではなく、すでに何らかの目的があるらしい。

気が進まない。だけど、ここで断るのも感じが悪いだろう。

「何なん?」

そう言いながら3人の元に近寄る。

「聡って彼女おらんよな?」

「おらんけど」

隣にいた女子2人が「ふふ」と嬉しそうにニヤけて互いに顔を見合わせる。この2人とはこれまでほとんど会話をしたことがなかったから、その反応は不気味だった。

「それじゃあ決まりやな!」

「……何が?」

3人の内輪的なノリに少しうんざりとさせられる。

「ま、あとの2人がそろってから説明するけん」

そう言って、佐藤はまだ宿題に取り組んでいた2人を俺の肩越しにちらりとのぞいた。

「居残り組ですんのかよ、これ」

「あら、私たちは居残りさせられてたわけじゃないわ」

片方の女子がすぐに反論する。松岡だ。

「一緒にされるのは嫌か?」

「私はこれでも優等生よ」

彼女は顔を上げて、やや挑発的に微笑ほほえんできた。松岡が本当に優等生であることはこれまでのテストの成績で知っていたが、人に対してこうも気軽にコミュニケーションを図ってくるとは知らなかった。

「それじゃあ、居残り組と放課後おしゃべり組につつしんで訂正させていただくよ」

「謹んだ割にはトゲがあるじゃない」

「終わったぁ」

すぐにあとの2人も宿題を終わらせて合流してきた。

「さっきから楽しそうに話しとるけん、全然宿題に集中できんかったやん!」と佐々木。

同じタイミングで宿題を終わらせた古賀も笑いながら便乗する。

「ほんとそれな。で、何の話してたん?」

これで全員が揃った。佐藤は腕を組み、なぜだか少し偉そうに話を始める。

「実はな、さっき松岡と下田と話しててさ、そういやここにいるみんな、彼氏彼女おらんなってなったわけよ」

「へー、そうなんだ」

「やけん、これを機にみんなで告白を決行しようと思う!」

「えぇぇー!!」

真っ先に驚きの声を上げたのは佐々木だった。彼女はうろたえ、松岡と下田に事の説明を求めたが2人とも実に見事な知らんぷりを決め込んだ。他にツッコんでくれそうな人がいなかったから、仕方なく俺が口を開く。

「なんで宿題の居残りが『機』になるんだよ。そもそも、みんなは告白したい相手おるん?」

俺の質問に、佐藤を除いた4人は顔を赤らめてうつむき、佐藤はこちらを向いて「当然やろ」とこれまたなぜか胸を張った。

「……まじかよ」

その反応があまりにもあからさまだったから、こちらの方が面を食らってしまう。

「聡にもおるやろ?」

「え、ああ、まあ……」

別に思い浮かぶ相手がいたわけではない。ただ、場の雰囲気に飲まれて曖昧あいまいな返事をしてしまったのだ。

「それじゃあ、明日から3日以内にここにいるみんな、告白を決行するってことでいいか?」

「ほ、ほんとにするん!?」

佐々木はまだ迷っているようだ。そうだ、このまま企画が倒れてしまえば良い、俺も加勢しよう。と口を開きかけたが、残念なことにあと一歩間に合わなかった。

「私ね、ずっと気持ち伝えたかった人がおるんよ」

下田が両手をぎゅっと握って、緊張のせいか少し上擦うわずった声でしゃべり出す。

「やけどずっと勇気が出なくて、これを逃したらもう言えなくなると思う。やけん、少なくとも、私は言うよ」

それまで俯いていた古賀も、下田の発言を受けて意を決したように顔を上げた。

「それなら俺も言う。ダメ元やけど、このまま何も言わないよりは良いけんな」

仲間意識というものか。2人とも妙に感情がたかぶっている。

「俺と松岡ももちろん告白する。佐々木と聡はどうする?」

……こんなんやられてどう断れっていうのだ。

結局、即席で作られた告白実行隊は6人みんな、明日から3日以内にそれぞれの好きな人へ思いを伝えることになった。

「これで私たち6人は連帯よ。何があっても恨みっこなし。お互いに協力するし応援する。よろしくね!」

翌朝、俺は学校に着くなりぼんやりと考え事にふけった。

俺には告白したい相手なんていない。過去に異性に対してかすかな恋心を抱いたことはあったが、誰かと付き合いたいと思ったことは一度たりともなかった。人と深く関わるという行為がそもそも苦手なのだ。

これまでいさかいの原因になりそうなことはたけ避けてきた。誰にも肩入れしないで、誰の悪口も言わず、誰のうわさもしなかった。他人のゴシップや色恋沙汰には決して自分から首を突っ込まないし、学校行事に下手にでしゃばるようなこともなかった。そうすると、誰かの反感を買うことはまずなくなる。俺にだって多少のユーモアや社交性はあったから、あとはそのまま人と接していたら友人の数は自然と増えていった。

すべてのグループに属しながら、どのグループにも染まりはしない。気が付けばそんな振る舞いをするようになっていた。俺には血潮のたぎるような熱や興奮がない代わりに、胸を締め付ける痛みや苦悩もない。毎日安心して学校へ向かい、常に地上から1センチほど浮いたところでみんなと関わる。みんなは自分に対して好意的に接してくれるから、その生活は平和で優しく温かいのだ。

そんな俺が、告白をして1人の人と特別の人間関係を築こうとするなんて、本来であればあり得ない行為だ。それならなぜ、告白実行隊への入隊を断固として拒否しなかったのか。いくら雰囲気に飲まれたとは言え、やろうと思えば、それらしい理由をつけて断ることはできたはずなのだ。

「ねぇ、聡! 今日の数学の宿題見せてくれん?」

顔を上げると目の前に真田が立っていた。彼女は、いつも俺に数学の助けを求めてくる。今更ながら、昨日に限って真田でさえ終わらせていた宿題をやり忘れてしまうとは不覚だった。

「またやってないのかよ」

彼女とこのやり取りをするのも、もう何度目になるだろう。

「私の数学が壊滅的だってこと聡も知っとるやろ?」

「昨日も授業で当てられて壮大な間違いしとったよな」

「それよ、最近は数字がゲシュタルト崩壊してきちゃって大変なんやけん」

「あほか」

笑いながら差し出した数学のノートを受け取ると、真田は「ありがとう!」と笑顔で礼を述べて自分の席へ戻っていった。

他人の鼻につくのは嫌だから、女子とはあまりべったりとしゃべらないようにしていた。それでも、真田とはよほど気が合うのだろう、いつからか細々と会話をするようになっていて、気が付けばそれなりに仲良くなっていた。実際に彼女と話をするのは男友達と話をするのと同じくらい楽しかった。

…………。

彼女が自分の席まで戻ったのをしっかりと確認してから、俺は心の中で自問した。

もしも彼女に告白したとしたら、それで付き合うことになったとしたら、俺は一体どうなるのだろう。

昼休みになると、俺は弁当を持って自分の席を立った。それまではいつも友達5、6人で一緒にご飯を食べていたが、今日からは佐藤と古賀の3人だけで食べるようになった。

「下田が今日告るらしいぜ」

ご飯を口に運んでいると、佐藤がいつものように顔をニヤつかせながら出し抜けに言った。

「まじで?」

古賀もすぐに反応する。

「まじまじ、松岡ももう3日目に告白するって決めたんだって」

「まじかぁ」

本来であればこういったたぐいの会話は歯牙にもかけず聞き流しているだけなのに、今はどうしたことか、焦燥感しょうそうかんに駆られている。昨日の放課後にみんなで盛り上がって「それじゃあ告白しよう」と意気込んだだけでは、ただ口で言っているだけのような気もして、告白をするということ自体も若干じゃっかん空言のように感じられたが、こうして行動を伴われてしまうと、一気にそれが現実として骨身にしみ込んでくる。

3日以内に誰かに告白をしなければならないのだ。本当に。

「よしっ!」

古賀は弁当を机の上に置くと、みずからを奮い立たせるように掛け声をかけた。

「俺、今日告白するけん」

当の女子が目の前にいるわけでもないのに、その態度や表情から、彼がすでに尋常じんじょうになく緊張しているのがわかった。自分の想いを相手に伝えるということには、圧倒的な恐怖と覚悟が伴うのだろう。俺にもそのくらいはかろうじて想像できたが、いかんせん告白したことがないから、それを実感することはできなかった。

「あ、そうなん? 今日は俺がしようと思ってたんやけど」

佐藤が拍子ひょうし抜けしたように言う。

「なら一緒にすればいいやん」

「いや、他の人とは被りたくないんよね。それなら俺は2日目にするけん」

理由はわからなかったが、それからの佐藤はとにかく2日目に告白することにこだわった。それならば、俺が告白する日は必然的に3日目ということになる(本日中に告白する相手を見つけて実行に移すのは到底不可能に思えた)。

「そう言えば、」

2人は誰に告白するん? と言おうとして、途中で口をつぐんだ。いつもの癖で、自分からこういう話題に首を突っ込むことを警戒したのだ。しかし、ここで踏みとどまってしまっては、何だか告白をしようと決めた意味がなくなってしまうような気がする。

「どうしたん?」

次の言葉を言う前に、佐藤が待ちきれず尋ねてきた。

「いや、2人は誰に告白するんかなって思って」

「あー、すまん、それは当日のお楽しみにさせてくれ」

佐藤は、いつも開けっ広げな彼にとっては珍しく、今回の告白に限ってはやたらと内容を秘密にしたがった。きっと何か特別の事情があるのだろう。

「古賀は?」

「あー、俺は……」

古賀は困ったように笑うと「実は、」と前置きをした上で、いかにも遠慮した口調で白状する。

「戸田さんに告白しようと思っとる」

「あぁ……」

俺と佐藤が同時に声を漏らした。

「うわっ、何だよそのドンマイ、みたいな感じ。だから言うの嫌だったんだよ」

「いや、だって……、なぁ」

戸田さんは学年の中でも特に人気が高い。俺でさえ、少なくともこのクラスの男子3人が彼女に告白して玉砕したのを知っている。学年全体となると、その数は二桁を越えるのではないか。これはあくまで個人的な意見だが、彼女はその容姿もさることながら、愛嬌あいきょうがあって人懐っこい。自然と相手に気があるような素振りを見せてしまう小悪魔的な特性に加えて、これまで数多く(と推定される)の告白を受けながら未だにその誰とも付き合っていないという事実が、男子学生らの特攻魂に火をつけているのだと思われる。

「てか、そう言う聡は誰に告るん?」

きゅうした古賀がついに同じ質問をこちらによこしてきた。

「それが、まだちゃんと決まっとらんくて……」

質問返しが来ることは予想がついていたから、俺は事前に考えておいて、もうこの場である程度、現状を伝えてしまうことに決めていた。

「好きな人が何人もいるとかじゃないやろうな」

「違うわ。やけど、色々考えてみたら告白したい人って誰なんかよくわからんくてさ」

「俺はてっきり聡は真田のことが好きなんやと思ってたけど」

あまり人前で仲良くしすぎないよう振る舞っていたつもりだったから、人から「聡は好意を持って真田と接している」と認識されていたということは、内心かなり衝撃的だった。とにかく俺は、表面上は特に気にしていないように振る舞いながら、もはや用済みとなったこの話題を打ち切ることにした。

「うーん、まあもっかい考えてみるわ。少なくとも今さらこの告白実行隊から退役する気はないけん安心し」

古賀が「告白実行隊って」と失笑する。佐藤もニヤリと笑うといつものおどけでちょっかいを出してきた。

「ま、誰に告ろうと自由やけど、もう付き合っとる女子だけはやめとけよ」

彼にとってはたわい無い軽口だったに違いないが、そのセリフは雷のように俺の全身を打った。

「それは、確かにやばいな……」

これまで誰と誰が付き合ったとか別れたとか、そういう話からすっかり遠のいていたから、そもそも誰にまだ彼氏がいないのか皆目かいもく見当もつかない。

「すまん、とりあえず誰と誰が付き合っているのか、2人が知ってる分をかたぱしから教えてくれ!」

佐藤と古賀は笑いながらその頼みに応じてくれた。そして俺は、彼らから当校に存在するカップルを教えてもらうたびに「まじで!?」だったり「嘘やろ!?」だったりと驚嘆の声を連発し、昼休みが終わるころにはどっと疲れて、妙なショックを引きずりながら次の授業に臨む羽目になった。

「それじゃあ行ってくるわ」

「おう、応援しとるけん」

放課後になってすぐ、下田と古賀が教室を出て行った。残りの4人でそれを見送る。結果は、またこの教室に戻ってきて直接報告するか、スマホで連絡することになっていた。

俺たちはみんな緊張した面持ちで教室に残った。人の告白でこんなに緊張するなんて、とても不思議な感覚だ。そう言えば、今日みたいに学校の出来事でどっと疲れたり、ショックを受けたり、緊張したりするのはいつぶりだろう。

15分ほどして、最初に来たのは下田からの短いメッセージだった。

――告白上手くいったよ!!

――今日はこのまま帰るけん、明日ちゃんと報告するね

この短文に俺たちは歓声を上げた。歓声を上げて、ひとしきり盛り上がったあと少しして、古賀が微妙な、苦笑のようなはにかみ笑いのような表情で教室に戻ってきた。

「やっぱ、ダメやった」

「そっか……」

これは自分でも驚いたのだが、古賀の結果を聞いて一番に反応したのは俺だった。

「まあ、結果は残念やったけど、告白できて良かったよ」

ちょっと間を置いて、古賀がもたれかかっていた机から体を起こすと、さっきよりも少し明るい口調でみんなに提案した。

「なあ、これからカラオケでも行かん?」

カラオケからの帰り道は、佐々木と一緒になった。今日初めて知ったのだが、俺たちの家は案外近かったのだ。

「なんか、今日は色んなことがあったな」

一日を振り返って、しみじみと記憶を反芻はんすうしてから、口を突いて出てきた言葉がそれだった。そのあまりにも稚拙ちせつな表現に自分でも少し恥ずかしくなったが、今日起こった心情のうねりを上手く形容する言葉が思い浮かばなかったのだ。

真紀まきも古賀くんも、ほんとにちゃんと告白しちゃったんやもんね」

真紀とは下田のことだ。

「2人だけやなくても、みんな、人を好きになって告白したり付き合ったりとか、ちゃんとそういうことしてるんやなぁって思って……。なあ、佐々木は山本と3組の矢野が付き合ってるって知っとった?」

昼休みに教えてもらったカップルの中で、最も意外だったものを取り上げた。

「そんなの1ヶ月前から知っとるよ」

やっとこさフルアップデートして手に入れた情報は、他の人にとってはとっくに旬の過ぎているものだったようで、彼女からは「あはは」と声に出して笑われてしまった。

さすがに恥ずかしくて何も言い返せない。俺は決まりの悪い思いで自転車をこいでいたが、すぐに彼女は笑いをしずめて、少し経ってから唐突に提案してきた。

「ねぇ、ちょっとそこの公園で話そうよ」

空は薄暗くなっていた。公園の中に1つだけ立っている電灯にはすでに明りがともっていて、ぼんやりと辺りを照らしている。俺たちは入口に自転車を止めて中に入ると、できるだけきれいなベンチを見つけてそこに座った。公園の中には他に誰もいないから、たまに木々の葉の擦れる音がするだけで、とても物静かだった。

「実は私、まだ告白するかどうか悩んでるんよ」

「え?」

俺は最初、自分の心の中を読まれたのかと思ってヒヤリとした。

「昼休みに真紀の話を聞いたり、今日の2人が告白しにいくところ見たりして、なんか、ちょっと考えさせられちゃった」

「本当に相手のことが好きなのかってこと?」

「うん。もちろん、その人のことをいいなって思っとるのは確かなんよ。やけど、ただ周りのノリにつられてって言うか、恋に恋してるところがあるような気がして、こんなんでいいんかなぁって」

いざ飛び込んでみたはいいが、自分の気持ちとの乖離かいりに悩まされる。それは、背景は違えど、誰に告白するかを決め切れていない俺の事情にも通じるところがあった。

「実は俺も、誰に告白するか決まってないんよ」

「あ、やっぱり?」

「え?」

またしてもヒヤリとさせられてしまう。人が腹の底で何を考えているのかなんてさっぱりわからない。だからこそ、これまではそんなことに気をむ必要のない一歩引いた対人関係を享受きょうじゅしてきたのだ。

「なんとなくやったんやけどね、聡くんには告白したい人がいるようには見えなかったから」

「だから俺に切り出したのか。告白するかどうか悩んでるって」

「うん、聡くんはどう考えてるのか知りたくて」

彼女が問題の解決を求めて俺に相談しているのでないことは明らかだった。それよりも、俺を自分の「仲間」だと見込んで、とにかく気持ちを共有することや意見を交換することを重視して話しかけているのだ。それも、自分から弱みをさらして相手の本意を探るという鮮やかな手法を用いて。

たぶん、俺にはそういう感覚が乏しいのだろう。俺はいつも問題の解決を優先させてしまう。解決のために必要だと思われる情報だけを集めて、あとは自分一人で判断するのだ。昼休みの時も、肝心なところは「もっかい考えてみるわ」で切り上げて、必要だと思われる「当校に存在するカップル」の情報だけは優先して教えてもらった。

静かに深呼吸をする。今は全部正直に話そうと思った。

「俺はまだ、本気で誰かと付き合いたいと思ってるわけじゃない。もしも付き合えたとしても、そこからどうしたいのかもどうしていいのかもわからん」

佐々木は素直に尋ねてくる。

「それなら、どうして断らんかったと?」

「あの場でこんなこと言ったらしらけるやろ」

「確かに」

そう言って彼女はくすくすと笑った。

「でも、それだけやなくて、実際に告白するってなったら何かこれまでの考え方が変わる気がして、とにかくやってみるかってなったんよ」

これを積極的に肯定して良いのか不安だっただけで、実は最初から、断らなかった本当の理由には心当たりがあった。それは、これまでのやり方を変えたいと思い始めていたから、だ。

いつまでふわふわした対人関係を続けていくのか。これから大人になって社会人になってもずっとこのままなのか。いつかの授業で「みんなの友人である者は誰の友人でもない」という英語のことわざを習った。まさにその通りだと思う。みんなのことを見ているようで実のところ誰のことも見ようとしていない、それなりに楽しいけどどこか味気ない、そんな友好的な第三者を演じている自分をたまにふと意識して、もしもこれが永遠に続くことになったらと、とても不安になったことがあった。

それは心の奥底にどろが積まれていくような感じで、ここしばらくの間、静かに威圧してきていたから、昨日のことがあって、それを断るのがあまりに惜しいと感じたのだ。

「……告白をして付き合うことで、誰かを特別に思って、自分も誰かの特別になる。そういう深い人間関係に、憧れみたいなのがあったんかもな」

「なるほどねー」

佐々木は両腕を組んで「うーん」と2、3秒考える素振そぶりを見せると、えいと立ち上がり、こちらを振り向いて言った。

「私、聡くんと同じ日に告白する」

「告白することにしたん?」

「正直まだわからんけど、すること前提にしないと何も行動できんけん。聡くんの『とにかくやってみるか』っていうの、良いなって思った!」

実情は絶対的に俺の方が後退しているのに、威勢いせいだけが下手に綺麗きれいに聞こえて彼女を鼓舞こぶしてしまうなんて皮肉なものだ。とは言え、ここでこうして心の中でいやしい軽口を叩いているだけでは俺はただのつまらない男である。

こちらもえいと立ち上がった。

「俺は3日目に告白する。それまで、一緒にがんばろ」

佐々木は「うん!」と大きくうなずいた。

そう言えば、学生生活の中で女子と、しかも1対1で、こんなにじっくりと話をしたのは初めてだ。それだけじゃない。佐藤たちの告白相手や学校のカップルについて自分から尋ねたり、人の告白の結果に落胆したりと、今日は数多くの「初めて」が起こった。そのどれもが内容の濃いもので、まるでこの1日が、昨日までの1ヶ月くらいに感じられる。佐々木たちの過ごしている毎日は、いつもこんなにも躍動的なのだろうか。

そんなことを頭の片隅で考えながら、俺は佐々木と一緒に静かな夜の公園をあとにした。

【後編に続く】

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