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僕が留学に行っていた時の話 前編

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「Maybe, I shouldn't tell you this now, but I... I have feelings for you.(今さらこんなこと言うべきじゃないのかもしれないけど……、君が好きだ)」

パソコンとUSBメモリのデータを整理していたら、数年前に保存した写真がたくさん出てきた。大学時代に、学校のプログラムで半年間の交換留学へ行っていた時のものだ。

ちょうど今は休日の午前中で時間はたっぷりとある。せっかくだし、これらの写真を順番に見ながら昔の思い出に少し浸ってみたいと思う。

僕が留学したのはオーストラリアのシドニーだが、いま眺めているこれらの写真はすべてニュージーランドで撮ったものだ。留学期間が終わりに差し掛かったころ、僕は現地で知り合った友人たちと一緒にニュージーランドへ旅行することにしたのである。

―――――

「We are thinking about going to New Zealand. Do you wanna come with us?(私たち、ニュージーランドに行こうと思ってるんだけど一緒に来ない?)」

そう誘ってくれたのはマリアだった。マリアはメキシコ人の女性で年齢は僕の1つ上だ。なぜ、オーストラリアに来てメキシコ人の友人ができたのかと言うと、僕の住んでいた留学先の大学の寮(と言っても、建物は完全にマンションだった)の住人が、ほとんどみんな各国からやって来た留学生たちだったからである。実際に、僕がオーストラリアで知り合った友人の多くは、オーストラリア人ではなく、僕と同じように交換留学生としてやって来た全く別の国の人たちだった。今回行くことになったニュージーランド旅行にも、実のところオーストラリア人は1人もいない。

「Yeah, that sounds really fun! Is there anyone besides us who is going to join?(いいね! 僕たちの他に一緒に来る人はいるの?)」

ここで言う「僕たち」は、僕とマリアのことだけではない。この場にはその他にも、アメリカから来たオリバーと言う男性とサラというイタリア人女性がいる。僕たち4人はよく一緒に寮で、ご飯を持ち寄ったりお気に入りの映画を見たりしていた。みんなバラバラの国から来ているから、食事や映画のレパートリーには事欠かない。

今回も、サラおすすめのイタリア映画を寮の1階に設置されている共用の大画面テレビで見るべく、こうして4人で集まっていたところだったのだ。

「One of my friends said she wants to join as well, and she will bring one of her friends. So, total of 6 people!(私の友達が1人、一緒に行きたいって言ってて、彼女ももう1人友達を連れてくるみたいだから、全部で6人ね!)」

日本では有り得ない話だが、こちらだと何をするにも「友達だけで」という雰囲気はなく誰でもウェルカムなのだ。参加する側も他のみんながすでに知り合いかどうかなんてお構いなしにやって来るから、知り合いだけかと思っていざ参加してみたら知らない人が何人もいた、なんてことがたびたび起こる。

「Alright.(りょーかい)」

「Anyway, let's meet up again tomorrow and think about what to do together.(とりあえず、明日もう一度集まって、みんなで何をするか考えましょ)」

次の日、指定された時間にふたたび寮の1階へ行くと、いつもの3人の他に、見知らぬ2人がソファーに座っていた。とりあえず、僕は2人に挨拶をする。

「Hi, I'm Yu, from Japan.(はじめまして、名前は優。日本から来たんだ)」

優とはもちろん僕の名前だ。英語のYouと同じ発音だからすぐに覚えてもらえるのは良いが、そのせいでよくからかわれもする。

「Yu? like "YOU" in English? I'm Shirley, from the U.S. Nice to meet you!(ゆう? 英語のYouみたいなかんじ? 私はシャーリー。アメリカから来たの。よろしくね!)」

「I'm Laura. I'm from France. Nice to meet you.(私はローラ、フランスからよ。よろしくね)」

シャーリーは小柄で活発な女の子というかんじで、ローラは同じく背は低いがブロンドのロングヘアーのせいか、雰囲気が大人びて見えた。

簡単な挨拶を済ませると早速僕たちは旅行の計画を立て始めた。と言っても、すでに知り合いのニュージーランド人からおすすめのスポットや詳しい旅行のイロハを教えてもらっていたらしく、実際はその内容の簡単な確認と各人の役割分担を決めるだけだった。

僕たちの計画は、まず島の北側に位置するオークランドまで飛行機で行き、そこからキャンピングカーを借りて南へ向けて進行。1週間かけてクライストチャーチへ行き、そこからまたシドニーまで飛行機で戻るというものだった。

シャーリーとローラとは、最初は少し不安もあったけど、何度か打ち合わせをしているうちにすっかり仲良くなっていた。

旅行1日目、オークランド空港へ着く。シドニーと違って、オークランドの冬はかなり寒い。しかも、南下するにつれて寒さはさらに厳しさを増すのだ。僕たちはみんな、服を着込んでかなりの重装備でこの地へ降り立った。

空港のすぐ近くにレンタカー屋さんがあり、そこで簡単な手続きをしてキャンピングカーを借りた。

「I'm getting excited!(なんだかわくわくしてきたわ!)」

シャーリーが楽しそうに言う。

「Yeah, but I wonder who is gonna drive the car. I don't have a licence...(そうね、でも誰が運転しましょうか。私は免許持ってないし……)」

マリアが悩んでいるとローラがニヤリと笑いながら僕とオリバーを見てきた。

「You don't have to worry. Driving a car is a gentlemen's job.(心配しないで。車の運転は紳士の仕事よ)」

「Ah..., sorry, but I don't have a licence either.(あー、ごめん、まだ免許持ってないんだ)」とオリバー。

僕も免許自体は持っていたものの、留学に来る直前にとったから完全にペーパードライバーだった。それでいきなり大型車を運転するのは正直怖い。

「I do have my licence, but... I'm sure you don't wanna let me drive unless you want to die.(一応免許は持ってるけど、死にたくなければ運転させない方がいいと思うな……)」

僕たちの態度を見てローラは「はぁー」と大きくため息をつく。

「I guess there is no gentlemen here. Alright, I can drive.(どうやらここには紳士はいないみたいね。まあいいわ、私が運転する)」

ローラはかなりの皮肉屋だ。結局、運転はローラ、シャーリー、サラの3人で交代しながら担当することとなった。

その日は、オークランドから2、3時間ほど車を走らせたところにある町で夕ご飯を食べると、近くの駐車場に車を停めた。計画にだいぶ余裕があったから、旅行中の移動は基本的にすべて夕食前に終わらせて、食後は車の中でみんなでトランプなどのゲームをして時間をつぶすことになっていた。

ゲームもひとしきり盛り上がったあと、順番に備え付けの簡易シャワーを浴びた。最後にシャワーを浴びた僕がシャワールームから出ると、他のみんなはすでに寝る準備をしていて、あとは電気を消すだけとなっていた。

「…………」

問題は、寝る場所が男女でごちゃごちゃになっていたことだ。まあ、みんなが気にしないのならいいけど。

寝るスペースは2つあって、1つは後部座席部分、そしてもう1つは運転席の上に作られた2階部分だ。ただ、そもそもお金をケチって4人乗りのキャンピングカーを借りていたからスペースが狭い。それに毛布も4つしかないから、それを6人でシェアしながら寝ないといけないのだ。

後部座席部分にはすでにオリバー、マリア、シャーリーの3人が寝ていたから、僕には2階の左端しかスペースが残されていなかった。仕方なく梯子はしごを上って左端のスペースに寝そべると、すぐに隣から話かけられる。

「Don't even think about doing anything naughty.(ぜっったいに変なことしないでよね)」

隣にいたのはローラだった。よりによってややこしい人の隣になったものだ。

「Say that to Oliver and Maria.(オリバーとマリアに言ってくれ)」

実はオリバーとマリアは数カ月前から付き合っていたのだ。もちろん、彼らの性格からしてこのキャンピングカーの中で良からぬことが起こるとは思えないが。

それにしても、あと2週間もすれば留学期間が終わって、僕も含めてみんなそれぞれの国へ帰ることになる。オリバーはアメリカでマリアはメキシコだ。一体、2人はどうするつもりなのだろう。

「Anyway, if you want to use our blankets, be a good boy.(とにかく、もし毛布を使いたいなら大人しくしてなさい)」

いつの間に毛布は彼らのものになってしまったのか。僕は仕方なく、適当に返事をして毛布の中に入った。

「As you say.(仰せのままに)」

翌朝、ローラはかなり不満そうだった。

「I couldn't sleep well because of you!(あなたのせいであまり眠れなかったじゃない)」

「You can't complain that! Sarah took one whole blanket while sleeping. We had to share the other one with two people!(しょうがないだろ! サラが寝てる間に寝ぼけて毛布を丸々1枚取っちゃったんだから。残り1枚を2人で使ったらああなるって!)」

「You could have just given away the blanket!(あなたが毛布を諦めれば良かったのよ!)」

「No way!(んなバカな!)」

僕たちのやり取りを隣でじっと見ていたサラが苦笑しながら言った。

「I'm sorry guys. I'll be careful tonight.(ごめんねー。今夜は気を付けるから)」

僕たちは口をそろえて彼女に返事をする。

「Yeah, you should!(そうしてくれ!)(そうしてちょうだい!)」

朝食を取ると、僕たちはホビット村へ向かった。ホビット村とは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」や「ホビット」に出てくる小人の住む村を再現したもので、実際にそこで映画の撮影も行われたのだ。

チケットを買って敷地内へ入ると、そこには今にもホビットたちが飛び出てくるのではないかと思われるほど、ただのセットとは思えない生活感あふれる村の光景が広がっていた。野菜畑や巻き割り場、小さな丘の中にはめ込むようにして造られている家の煙突からは煙まで出ている。どこまでが本物でどこからが作り物なのかさえわからなくなるような、精巧な演出が施されていた。

「Have you watched the movies?(映画見たことある?)」

隣を歩いていたシャーリーが明るく尋ねてくる。僕は少し眉を下げて困ったように笑った。

「You mean The Lord of the Rings and The Hobbit? I hadn't, so I tried to watch them all before coming to New Zealand, but I ended up finishing only the first episode of The Lord of the Rings series.(ロード・オブ・ザ・リングとホビットのこと? それまで見たことなかったからニュージーランドに来る前に全部見ようと思ったんだけど、結局、ロード・オブ・ザ・リングの第1部だけしか見れなかったよ)」

「That's a shame.(残念ねぇ)」

「Have you watched them all?(シャーリーは全部見たことあるの?)」

「Of course, I have. I even watched them all over again for this trip. That makes visitting here even more fun, doesn't it?(もちろんよ。それにこの旅行の為にわざわざ全部見直したわ。そうした方がここに来るのがもっと楽しくなるでしょ?)」

そう言われてただ頷くことしかできない僕を見て、サラが口を挟む。

「I guess you are too lazy.(怠け者なのねぇー)」

「Oh, I never expected to hear that from you, Sarah. So, did you watch all the movies again before coming here?(まさか、サラからそんなこと言われるとは思わなかったな。それじゃあここに来る前に映画は全部見直したのか?)」

サラは腕を組んで少し顔を上げると、偉そうに言った。

「Of course, not! But I watched them before. I still remember the stories.(もちろんしてないわ! でも前に見たことあるから話は覚えてるの)」

「...Is that so.(……左様ですか)」

ホビット村をたっぷりと堪能したあとは、ふたたび車を走らせて次の目的地へと向かった。

「Something is wrong.(おかしいわね)」

日も落ち始めてあたりがうっすらと暗くなったころ、車を運転していたローラがそう言った。何となくそんな予感はしていた。僕たちはひたすら山道を走っていたのだが、車が進むにつれてどんどん道が険しくなっていったのだ。

「We are going just as the navigation shows.(カーナビ通りに進んでるんだけど)」

そのまま道なき道をしばらく進んでいたが、ついには先を倒木で塞がれてしまった。僕たちは仕方なく道を引き返すことにした。

ローラが恨めしそうに小言を言う。

「You stupid navigation...(このバカナビめ……)」

――ガタン

引き返す道の途中で嫌な音がした。どうやら後輪がくぼみにハマったようで、ローラがいくらアクセルを踏めど、車は一寸たりとも前には進まない。僕たちは互いに顔を見合わせて、「はぁ」と大きなため息をついた。

ローラだけを運転席に残し、残りの5人が車から出る。後輪を見ると、やはりくぼみにハマっていた。くぼみ自体は浅いのだが、土がぬかるんでいてタイヤが空回りしている状態だ。

「One, Two, Three.(いち、に、さん)」

掛け声に合わせて僕たちは一斉に後ろから車を押す。それと同時にローラもアクセルを踏む。しかし、車はなかなかくぼみを乗り越えてくれない。

「One more time!(もう一度!)」

再びみんなで一生懸命、車を押した。

「いけっ!」

「Come on!!」

「Vamos!」

「Per favore...!!」

結局、3度目の掛け声でようやく車を押し出すことができた。みんなで歓声を上げて、ハイタッチをしながら喜ぶ。なんだかちょっとした冒険をやってのけたかのような高揚感だ。夜じゃなかったらこの場で記念写真を撮っていたに違いない。

そんなことがあったから、目的地に着いたのは予定より1時間以上も遅れた。僕たちはみんな疲れていたし、その日はゲームもせずにさっさと寝ることにした。

「Don't asuume I'll share a blanket with you tonight even if Sarah takes one of them again.(もしもまたサラが毛布取っちゃったとしても、今夜はあなたと一緒に使わせてあげるなんて思わないでよね)」

「I'll just have to squeeze myself into your blanket then.(そのときは、ローラの毛布に無理やり体をねじ込むから大丈夫だ)」

ローラは「まあ」とあきれる。

「You are anything but a gentleman.(紳士からは程遠いわね)」

「And you are anything but a lady.(ローラこそ淑女しゅくじょとはいかないな)」

そして、やはりその日も僕たちは1枚の毛布を2人で使う羽目になった。

「Wow, this is pretty!(まあ、すてき!)」

翌朝、シャーリーの声で目が覚める。車の中を見渡すと、僕の他に寝ているのはサラだけだった。どうやらみんなは外にいるようだ。僕も寝ぼけまなこで外に出る。

「Is something going on?(どうかしたのか?)」

その声に反応してオリバーが手招きをしながら返事をする。

「Hi, good morning. Come take a look at this!(おはよう。ちょっとこっち来て見てみなよ)」

みんなは車の後ろに立って何やら楽しそうに話をしていた。何事かと思いながら、みんなのところへ行くと、なるほどこれには思わず笑みがこぼれた。

「Haha, this is pretty indeed!(はは、これはほんとにすごい!)」

車のバックドアには、みんなの手形がくっきりとついていたのだ。これまでの移動で車が汚れていたから、昨日僕たちが手をついて押したところの土ぼこりだけが消えて、手形を浮かび上がらせていた。

昨日のことを思い出して、僕たちは互いに顔を見合わせて笑った。サラが目を覚ましたところで、今度こそ僕たちはみんなでそれぞれの手形の前に座って記念写真を撮った(もちろん撮るのは通りすがりの人に頼んで、ローラも車の横に立って一緒に映っている)。

写真を撮ったあとは、またしばらく車を走らせなくてはならない。

「Alright! It's my turn. I like driving a car.(よし、私の番ね! 運転は好きなのよー)」

サラが待ってましたとばかりに運転席に座る。なんだか不安だ。

「Hey, Sarah. Please just don't kill us.(なあ、サラ。とにかく僕たちを生かして目的地まで届けてくれ)」

それを聞いたサラが頬をふくらませる。

「You're rude. I'm good at driving. Just sit back and wait until I get you to the destination.(失礼ねぇー。運転は得意なのよ。とにかく目的地に着くまで座って待ってなさい)」

「うわあああああ!」

やっぱりもっと念を押しておけば良かった。車が発進してすぐにそう思い知らされた。

「Hey, aren't you driving a bit too fast!?(ちょ、ちょっと飛ばしすぎじゃないか!?)」

「Don't be ridiculous. It's still under the speed limit!(何言ってるのよ。まだ制限速度内よ!)」

チラリと窓の外を見ると100の数字が書かれた速度制限標識が目に入る。確かに道路はバカみたいに広いし僕たち以外には車の往来も全くないけど、だからって――。

「……速度制限100キロかよ」

「What!? Did you say something?(え? 何か言ったー?)」

車がカーブに差し掛かる。

「Ahhhhhh.(うあああああ)」

後部座席は電車のように、車体の側面に沿って縦向きに席が並んでいる。だから、僕と対面して後部座席に座っていたマリアが、曲がった勢いでこちらに倒れてきた。

「Watch out!(あぶない!)」

なんとか受け止めて、隣の席に座らせる。

「Thank you!(ありがと!)」

「You're welcome.(どういたしまして)」

ホッとしたのも束の間、今度は逆のカーブに入った。

「えええええ!?」

マリアと僕が今度は反対側に飛ばされる。

「Gotcha.(よし、捕まえた)」

オリバーがマリアを受け止める。

「Ah, it hurts!(いった!)」

……そして、僕はローラに受け止められた。

「Are you alright, Maria?.(マリア、大丈夫かい?)」

「Why do I have to recieve you!(どうして私があなたを受け止めるのよ!)」

オリバーとローラの態度は見事に対照的だ。

「I'm sorry. This time, it's my fault.(ごめん、今回は僕が悪かった)」

「What do you mean by this time! And how long are you gonna hang onto me!?(今回はってどういうことよ! 大体いつまで私にくっついてるつもり!?)」

ついに車は目的地へ着いた。色々あったが、なんとか全員生きている。

この場所は景観保護区に指定されている地熱地帯で、風変りな温泉が湧いていた。あたりは温泉の湯けむりで視界が悪く、硫黄の匂いに包まれていて何だか息苦しい。もちろんこれらの温泉には浸かることもできない。それでも、温度の影響で七色に光る温泉や、毒々しく濁った緑色の温泉など、まるで地獄の一角でも見ているかのような異様な光景は、ある意味で見ごたえたっぷりなのだ。その中でも、空高くまで噴き上がる間欠泉は特に見物である。

「It's cold.(寒いわね)」

席に座って間欠泉が噴き上がるのを待っていると、隣でローラが背を丸くして体を震わせた。

「Didn't you bring your scarf?(マフラー持ってきてないのか?)」

「I didn't think it would be so cold. So, I left it.(そんなに寒くなると思わなかったから置いてきたのよ)」

僕は巻いていたマフラーを外す。

「You can use mine.(僕の使っていいよ)」

「What!?(え?)」

ローラは驚いたようで、目を丸くしてこちらを見つめている。

「You saved me earlier. This is a return for it.(さっき助けてくれたから、そのお返し)」

「No, that was not a big deal.(あんなの大したことじゃないわよ)」

その反応は意外だった。僕は、彼女のことだからてっきりさっさとマフラーをひったくるのかと思っていたのだ。

「Just take it. It's not so cold for me anyway.(いいから使ってよ。僕はそんなに寒くないから)」

それを聞いたローラは僕からそっとマフラーを受け取ると、こちらを向いて笑顔になった。

「Thank you.(ありがと)」

その笑顔があまりに新鮮だったから、僕は思わずひるんでしまった。彼女はこういう顔もするのか。

地熱地帯をあとにした僕たちは次の目的地へ向かって進み、途中で車を停めて夕食を食べた。夕食を食べ終わるとみんなで車に戻って、恒例のゲームの時間となった。

「Let's play some games.(それじゃ、ゲームしましょ!)」

シャーリーが楽しそうに言う。

「Do you have any idea what game we will play?(どんなゲームするか案はあんの?)」

「Of course, I do!(もちろんよ!)」

それは「私は誰でしょう」ゲームの逆バージョンのようなものだった。「私は誰でしょう」ゲームでは周りの人が自分に質問をして、自分が誰(物でもОK)であるかを当てていくが、このゲームでは逆に、自分が周りの人に質問をして自分が誰であるかを当てなければいけないのだ。

まずは、それぞれが小さい紙に物か人の名前を記入する。それを裏向きにシャッフルして各人に配る。各人はそれを自分の額の位置に掲げて表向きにする。つまり、自分からは自分の持っている紙に何が書かれているかわからないのである。そこで、順番に自分の書かれているものについて1回ずつ質問をしていって、より早くそれが何かを言い当てた者が勝ちとなる。

僕が自分の目を疑ったのは、みんなが自分たちの紙を額の位置まで上げて表向きにしたときだった。

「What the...(まじか……)」

なんとオリバーが掲げた紙に、僕の名前が書かれていたのだ。オリバー以外のみんなが笑い出す。当然、彼は何が起こっているのかわからず首を傾げている。

「Who wrote that!?(誰が書いた!?)」

「You can ask that after this game is over. You don't know what could be a hint to the answer.(それはゲームが終わった後にしましょ。何がヒントになっちゃうかわからないからね)」

僕は大人しくシャーリーの言うとおりにした。

「Am I a person?(私は人ですか?)」

「Yes!(人です!)」

「Am I something you use daily.(私はみんなが普段使うものですか?)」

「No!(違います!)」

一人ずつ順番に質問をしていく。マリアの順番になったとき僕たちは少し困惑した。

「Ah...what's that?(あれはなんだ?)」

マリアの額に掲げられた紙には「towl」と書かれている。

「I don't know what that is.(私その単語知らなーい)」

「Me either.(僕も)」

「I think someone spelled it wrong.(たぶんスペルミスだと思うわ)」とシャーリーが笑いながら言った。

「Alright, now I think I know what that is.(なるほどね、それなら何かわかったと思うよ)」

きっと本来のスペルは「towel(タオル)」だ。

無事にゲームが終わったあと、僕たちは誰が何を書いたのかを確認した。ちなみに、僕の額に書かれていたのは「Cinderella(シンデレラ)」だった。

「And who wrote this "towl" thing?(それで、誰がこのスペルミスを書いたの?)」

ローラがニヤリと笑って少し意地悪に訊く。

「Ah, I did that.(あー、それ僕だよ)」

手を上げたのはまさかのオリバーだった。

「Are you really from the U.S.?(オリバーってほんとにアメリカ出身だよな?)」

シャーリーも続けてツッコミを入れる。

「This is why everyone thinks Americans are dim!!(こんなんだから、みんなにアメリカ人はバカだって思われちゃうんじゃない!!)」

「I thought this was the spell for towel. Which letter is wrong?(あれ、タオルのスペルってこれだと思ったんだけどな。どこが間違ってる?)」

「you missed "e" out.(eが抜けてるのよ)」

タオルの他にも、僕はもう一つ確認しなければいけないことがあることを思い出した。

「Oh, and who wrote my name on the paper?(それで、誰が僕の名前を紙に書いたんだ?)」

「I wonder who did.(さて、誰でしょう)」

ローラがいつものようにニヤリとする。マフラーを渡したときのあの笑顔とは正反対の表情だ。

「Obviously you did.(絶対ローラだろ)」

彼女はただ「Teehehe.(ふふふ)」といたずらっぽく笑っただけだった。

ひと段落ついたところで、シャーリーがゲームに終止符を打った。

「Alright then, I'll go to bed now! We are gonna do Bungy jumping tomorrow!(よし、それじゃあ私はそろそろ寝るわ。明日はバンジージャンプをするんだから!)」

サラとローラも「Yeah!」と手を上げる。

こうして僕たちのニュージーランド旅行3日目が終わった。

【後編に続く】

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