ある休日、バスに乗ろうとバス停に向かったら、たまたまクラスの気になる子が同じバス停にいた。一気に胸が高鳴る。声をかけようと思ったけど、少し距離が離れていたし他の人もいたから、悩んだ挙句にやめることにした。
やがて自分が乗るバスがやってきた。なんとその子も同じバスに乗った。あとから乗り込むと、つり革を掴んで立つ彼女の姿があった。さりげなくその隣に陣取る。彼女はこちらに気付いていないようだ。一方の俺はドキドキで息をするのも苦しいくらいだった。また話しかけようか悩んだけど、悩んだせいで少し時間が経ってしまったから、今さら話しかけるのもおかしいよなと思ってやめることにした。隣に並んだ瞬間に声をかけておけばよかったのにと後悔する。
バスが目的地につく。さっそく降りようとすると、彼女も同じバス停でバスを降りた。ここまで偶然が重なるなんて。沈みかけていた心が弾みを取り戻す。
彼女は俺の数メートル前を歩いている。すぐその先では赤信号が歩行者を塞き止めてくれていた。あそこだ。あそこで彼女が立ち止まった時に声をかけるのだ。そう思って、歩く速度を少し上げる。
しかし、彼女は信号の手前で左折してしまった。追いかけようか悩んだけど、それじゃあまるでストーカーみたいだし、偶然ならまだしも自分からわざわざ彼女のところまで行って話しかけるのは格好が悪い。
俺は声をかけるのを諦めることにした。
横断歩道で信号が青に変わるのを待ちながら思った。ああ、やっぱりバスの中で声をかけておけばよかった。俺は先ほどの不甲斐なさを反省して、もしも次に似たような偶然が起こった時は即座に行動に移すことを誓った。
それからの学生生活でそのような偶然は二度と起こらなかった。
【終わり】