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第9話:Voice Actor.(part 2)

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第9話:Voice Actor.(part 2)

声研の期間限定メンバーになってから早くも1ヶ月が経った。この1ヶ月の間は全ての時間を練習に費やしていたから、ちゃんとしたレコーディングは手付かずのままだ。純漫研の方も、ネームこそほとんど出来上がっていたが、まだ原画制作の作業にまでは入っていない状況らしい。という訳で、作業の進捗についてはそれほど変化はない。だけど、それ以外のところでは微妙な変化が起きていた。

「Good morning, Haru!(おはよう、陽!)」

朝、俺が登校して自分の席の着くなり、シャーロットが話しかけてくる。

「Good morning. So, which part do you want to ask today.(おはよう。それで、今日はどこをきたいんだ?)」

「Don't be mean! It's not like I come to you only when I want something.(意地悪言わないでよ! 何か頼みがある時にだけ陽のところに行くわけじゃないんだから)」

「Then you just want to talk with me.(それじゃあただ話したいのか)」

「Ah, the thing is... I want to ask you something.(あー、実は……訊きたいことがあるの)」

「What a waste of time! Just tell me already.(聞いて損したわ! それでどこなんだよ)」

「Did you watch the episode 9 yesterday?(昨日、第9話見てくれた?)」

「Yeah I did.(うん、見たよ)」

「I didn't get what the main character said when she got angry at her friend.(主人公が友達に怒った時に言ったセリフがよくわからなくて)」

「Ah, that part. She said...(あぁ、あそこね。あの時、主人公は……)」

シャーロットは声研のみんなと仲良くなった結果、彼らから色々とおすすめのアニメを教えてもらうようになっていた。最初はただの興味本位で見ていたらしいが、次第にハマっていき、今ではそれなりに詳しくなっている。

それは別に良いのだが、困ったことに彼女は俺にも同じアニメを見るよう強要してきた。まだまだ作中に出てくる日本語がわからないらしく、それを教えてもらうために俺にも同じものを見て欲しい、という了見だ。

さて、困ったことと言うのは別にアニメを見るのが面倒という意味ではない。そうじゃなくて、むしろ、いざアニメを見てみるとこれが想像以上に面白く、ここ最近そのせいで睡眠不足になっていることだ。

1日のカリキュラムが終わって放課後になる。俺はシャーロットと一緒に視聴覚室へと向かった。

「あら、来たわね!」

中に入ると早速、三宅先輩が声をかけてきた。手にはいくつか紙の束を持っている。

「それってもしかして」

「そう、新しいネームが来たの! 2人の分のコピーはもうとってるわ。はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

俺とシャーロットはコピーを受け取ると、すぐにネームを読み始めた。俺はじっくりと読み、彼女はサラッとページに目を通していく。

「What!?(えっ!?)」

不意にシャーロットが声を上げた。

「What is "What" ?(何が「えっ」なんだ?)」

「I died...(私、死んだ……)」

「What!?(えっ!?)」

すぐに彼女と同じページをめくる。読んでみると、確かにそこでシャーロットの役が息絶えていた。……しかも味方である俺に殺されて。俺が負傷したシャーロットを殺して、彼女の持つ兵器を奪うという流れだった。

「You are the worst...(陽、最低……)」

シャーロットがさげすむような視線を送る。

「Say that to Taguchi Senpai! I also want to complain about my character.(俺が考えたんじゃねーだろ! こっちだって文句言いたいよ)」

俺たちのやり取りを見た三宅先輩が声に出して笑う。

「2人とも自分の役のことで文句言ってるんでしょ? まあ、こればっかりはしょうがないわね。さて、今日からはそろそろ本番に向けた練習を始めるわよ」

「実際にネームに沿ってアフレコの練習をするんですか?」

セリフの英訳だけは先行して準備していたから、ある程度は本番練習を進められる状態になっていた。

「そうね、やってみましょう!」

しかし、実際にネームに声を入れようとするとこれが本当に難しかった。と言うのも、これまではすでに完成してる映像を使って練習してたから、いわゆるお手本があったけど、今回のアフレコには当然ながらお手本が存在しない(しかも、絵はネームだから人物の表情などがしっかり描かれてるわけでもなかった)。つまり、自分でキャラクターの人物像や気持ちを考えて、それに合ったしゃべり方をしないといけないのだ。

やってる時はそれなりの仕上がりになったと思っても、いざあとで見返してみると何だか合っていない、ということが続いた。

「なんか、違うな……」

「私も上手くできないです~」

「自分もしっくりこないです」

俺だけじゃなく、どうやら江藤と松田も同じ問題を持っているようだった。

「If you surrender now, we will spare your lives.(今降伏するなら、命は取らないわ)」

「あらっ、シャーロットさんは上手ね!」

「ありがとうです!」

途方に暮れる俺たちに反して、シャーロットの表現力は格段に高かった。どんな仕掛けになっているのかさっぱりわからないが、彼女の声と合わせてネームを見ると、まるで本当に命が吹き込まれたみたいに臨場感が出るのだ。

「なんかコツでもあるんか?」

俺が尋ねると、彼女はしばらく頭をひねってから答えた。

「I'm trying to picture what my character is thinking and how she is feeling. Then, I put it out in the way she would.(私は自分の役が何を考えていて何を感じているのかをイメージしようとしてるわ。それで、本人がするだろうなってしゃべり方でそれを外に出すの)」

「Hmmm, it's one of easier-said-than-done things.(うーん、言うは易しってやつだなぁ)」

俺たち3人の困った表情を見て、後藤先輩が声をかける。

「どんな感じかな?」

「自分の役の気持ちになるのがこんなに難しいとは思わなかったです」

「そうよね、私も最初はそうだったから。それならさ、みんなで登場人物の気持ちを考えてみない?」

こうして、みんなでストーリーの読み合わせをすることになった。6人全員が円の形に座ると、三宅先輩を司会役として登場人物の気持ちを1つずつ確認していく。

「それじゃあまず、麻生君とシャーロットさんが日本に攻めてくるシーン。この2人はどんな気持ちで日本に来てると思う?」

何やら変な会話に聞こえるが、作中には登場人物の名前が1つも出てこないから、便宜上、役の担当者の名前を使うことになっている。

「日本を憎んでる……?」

俺が答えるとシャーロットが眉をひそめた。

「うーん、何か、違うと思う。もっと、自分の国のために戦う、とかが合う!」

「あー、確かに言われてみると。ってことは俺は最初から間違えてたんか……」

「解釈の話だから正解・不正解ってのはないんだけどね。でも、どっちが自然かって言われるとシャーロットさんの言う方かもって私も思うな」

後藤先輩が優しくフォローを入れてくれる。俺は声研が三宅先輩の下でちゃんと機能しているのは、実は彼女のおかげなんじゃないかと思っている。

「さてと、それじゃあ次。ここで江藤ちゃんが叫ぶシーン。これはどうかしら」

「え~と、これはぁ……」

それからさらに1ヶ月が経った。ネームは全て完成し、本番で使う原画もどんどん上がってきている。だから、今日はいよいよ本番のアフレコをとることになった。

「とりあえず、原画が出来上がってるところまで通しでやってみるわ」

三宅先輩の掛け声に、俺を含めて1年生のみんなは表情を硬くする。

「まっ、大丈夫よ。まだ時間はあるし、撮り直しも利くから気楽にいきましょ!」

松田が原画のデータ(データ化はアニ研がやってくれた)をパソコンに取り込んでテレビに映す。スタンドマイクは1本しかないから、静止画を変えるたびにそれぞれ役の人がマイクの前に出てきて声を入れることになっている。

「それじゃ、用意は良い? スタート!」

時は今から100年後。世界は慢性的な資源不足におちいり、至る所で争いが起こっていた。そんな中、ついに大国の1つが自国の保護を目的に周辺国との開戦を宣言する。戦火は次第に広がり、日本にも戦争の波が押し寄せてきた。日本は徹底して専守防衛の姿勢を取ったが、兵力にも資源にも乏しい日本は常に苦戦を強いられ、国力は衰退の一途をたどっていた。

地下に作られた日本軍本部でサイレンがけたたましく鳴り響く。

本部の一室で本を読んでいた三宅先輩は、サイレン音を聞くと急いでオペレーションルームへと向かった。

「装着準備完了しました」

部屋に入ると同時に、中にいた後藤先輩と江藤がそう声を上げる。2人とも特殊な防護スーツを身に着けていた。オペレーションルームの中央に座っている松田は、2人の発言にうなずくと次の行動を指示する。

「わかった。2人は先に装着位置についてくれ」

「了解」

「管理監、これは……」

2人と同じ防護スーツを身に着けながら三宅先輩が松田に質問する。

「恐らく敵の最新機だ。詳細は移動中に伝える」

すぐに三宅先輩も準備をして「装着位置」と呼ばれるところに立つ。他の2人はすでにそれぞれ別の装着位置に立っていた。

「壱号、装着開始します」

三宅先輩がそう言うと、後藤先輩と江藤もそれに続く。

「弐号、装着開始します」

「参号、装着開始します」

それと同時に3人の立っている床が上昇する。上の階にある整備室に着くと、周囲の至る所から2本指のロボットアームが出てきて、3人の体に特殊な兵器を装着していく。100年後の戦争では、小型化されたジェットエンジンやらレーザー砲やらを直接人体に装着して兵器とする、半人兵器が主流になっていた。

――装着完了。出撃準備に移ります。

頭上の天井が部分的に切り開いて、地上へと続く100メートルほどの垂直の道が現れる。道の先では水色の空が小さく円形に縁取られていた。

――出撃準備完了。……出撃!

床が猛スピードで上昇し、3人は一気に地上へと飛び出した。

「それで、今回の敵の情報は?」

三宅先輩の問いかけに松田が応答する。

「対象は2体。どちらも外見がこれまでのデータと一致しない。恐らく最新型の第4世代と思われる。性能は不明だが、先に送ったドローン部隊はすでに全滅している。関東エリア全域に張ってある高濃度エネルギーシールドも15分ほどで破られるだろう」

「たった15分で……。このまま戦っても勝ち目は低いように思われますが」

後藤先輩が思わず口を挟む。

「わかっている。3人には伝えていなかったが、実は敵の第4世代開発に対抗してこちらも秘密裏に新型の開発を進めていた。そして、つい先ほどようやく完成した」

「それなら……」

「しかし、最低限のメンテナンスを終えるのにあと30分かかる」

「つまり、今回の私たちのミッションは、新型のメンテナンスが終わるまで敵を足止めすることね!」

今度は江藤が口を挟んだ。さっきから口を挟むやつ多くないか?

「そうだ。それまで持ちこたえてくれ。こちらからもできる限りの援護はする。そして、新型の装着は君たち3人に行う」

「私たちですか!?」

「他の操縦者の調達が間に合わない。それに新型はどこでも装着ができるようになっているから大丈夫だ。メンテナンスが終わったら、オート運転で機体をそちらに飛ばす。機体が到着したらその場で新型に乗り換えてくれ」

「で、でも、新型の操縦トレーニングを受けていません!」

三宅先輩がやや取り乱したように言う。声の演技は声研の中で彼女が一番上手だ。

「基本は今使ってる第3世代と同じだ。他の細かいところは、すまないがその場で慣れてくれ」

「そんなぁ~」と江藤が不満を込めた声を上げる。

「無理は承知だが他に選択肢がない。すまないが頼んだぞ。これから敵が使用すると思われる予測経路図を送る。経路図の中に迎撃ポイントをマークしているから、そこで敵を迎え撃ってくれ」

「了解」

「HCES(Heavily Concentrated Energy Shield), neutralized. Alpha, Beta, advancing.(敵の高濃度エネルギーシールドを破壊。アルファ、ベータ、前進します)」

ここでようやく俺の出番がやって来た。それにしても、たった2人で敵の中枢に突っ込まされるなんて、俺たちに一体何があったんだろう。

「If we win this battle, Japan will no longer have any choice but surrender.(私たちがこの戦いに勝てば、日本はもう降伏するしかなくなる)」

シャーロットが確認するようにつぶやく。

「Yes. Therefore, we must win.(そうだ。だから、俺たちは勝たなければならない)」

「迎撃ポイントへ到着。迎撃態勢に入ります」

「わかった。敵の迎撃ポイントまでの到着予想時間は今から4分28秒後。よって、残り10秒になったところで一斉射撃を行う。敵の位置はもうレーダー上に表示されているはずだ。こちらからも街の各所に設置しているレーザー砲を操作して射撃にてる。もしかしたら、少なからずダメージを与えられるかもしれない」

敵の位置を示すレーダーも敵の到着までの残り時間も、眼球に装着したコンタクトレンズ型の精密機械を通して視界に表示される。

「了解」

3人が同時に応答した。

――射撃開始まで残り3分。

「ねぇ、そう言えば2人はどうして兵士になったの?」

三宅先輩が2人に尋ねる。

「最初は、人の役に立ちたいとか、そういう理由だったと思います」

後藤先輩が先に答えた。

「今はもう違うの?」

「正直、わかりません。今はただ、やらないとやられるから、としか」

「そっか……」

――残り2分。

「私は他にしたいことが何もなかったからかなぁ」

今度は江藤が気の抜けた声で言った。

「……他にしたいことがないからって普通兵士になる?」

「でも、刺激はあるよ? 毎日生きてるって実感するし。あっ、もちろん戦争は早く終わって欲しいけどね」

「う、うーん……」

――残り1分。

「そういうあなたはどうなんですか?」

「私? 私は……希望が見たかったからかな」

「希望?」

「今ってただこの国が衰退していくばかりで、何も明るいことがないじゃない。みんな日本がいずれどこかに征服されると思ってる。実際、私もそう思ってた。でも、だから、兵士になって戦いに勝てば、希望が見られると思ったのよ」

2人はどう反応すれば良いかわからないという様子で、ただじっと三宅先輩の方を見た。3人はしばらく見つめ合った後、同時にふっと噴き出す。

「ま、そうかも知れないですね」

「言われてみればね!」

――5、4。

「それじゃあ、行くわよ!」

――3、2、1。

「はい!」

街の至る所から一斉に光線が射出される。3人の目の前の風景が無数の白線によってしま模様に塗り替えられた。3人の放った光線も同様にまっすぐレーダー上の敵に向かって飛んでいく。それらは一瞬で彼方へ消えると、轟音ごうおんを立てて爆発した。

誰も何も言わない。静かに敵の動静を探っている。

すると、爆心の方から今度はこちらに向かって無数の光線が放たれた。瞬く間に街に設置されていたレーザー砲の大部分が消し飛ばされる。

「Don't tell me you honestly thought you could destroy the fourth generation of ours with that firepower.(その程度の火力で俺たち第4世代を倒せると思っていたのか?)」

俺とシャーロットが風を切って3人の方へ近づいていく。

「やっぱりそう簡単にはいかないわね」

3人は引き続き光線を撃ち込むが、敵の周囲に張られているシールドに阻まれて本体に着弾しない。たまらず散り散りに移動して敵との距離を保つ。

「こっちの攻撃が効かないわ。何か手はないの?」

すぐに松田が応答する。

「とにかく撃ち続けて敵のエネルギー残量を減らすしかない。いずれにせよ敵を倒すことじゃなく、時間を稼ぐことだけに集中してくれ」

「……了解」

「You can run all you want, but you can never escape from me.(どれだけ逃げても、結果は同じことだ)」

俺の放った光線が三宅先輩のすぐ脇を通り過ぎる。光線の当たったビルとその周辺が一瞬にして吹き飛んだ。

「嘘でしょ……」

後藤先輩がシャーロットの背後から光線を放つ。しかし、やはり敵のシールドにさえぎられてしまう。

「If you surrender now, we will spare your lives.(今降伏するなら、命は取らないわ)」

シャーロットのセリフは自動翻訳されて後藤先輩に伝わる。

「申し訳ないけど、その選択肢はないのです」

「You know you are no match for us. If you keep up this fight, you'll end up dead.(勝ち目がないことはあなたたちもわかっているでしょう。戦い続けても死ぬだけよ)」

「やってみるまでわからないわよ!」

江藤が距離を保って、後藤先輩の援護射撃をする。

「You are prolonging the inevitable.(無駄なことを)」

「壱号はそのまま進んでK地点へ入ってくれ。到着し次第シールドを展開する。そこでしばらく時間が稼げるはずだ。弐号と参号はP地点に。そこならまだいくつか街のレーザー砲が生きてるから敵の邪魔ができる。上手く建物を使いながら移動してくれ」

「了解!」

「Damn, sneaky little rats.(小賢しいやつらだ)」

3人が散り散りに移動するのを見て、俺は一旦攻撃の手を止める。すぐにシャーロットがこちらへ飛んできた。

「Something is strange.(ねぇ、何かおかしいと思わない?)」

「Yeah, it seems they are trying to buy time, not take us down.(ああ、俺たちを倒すんじゃなくて、時間を稼ごうとしているみたいだ)」

「We should attack the Japanese headquarters, leaving them behind for now.(敵のことは放っておいて、今は日本軍本部への攻撃を優先しましょう)」

「I don't like to leave my business unfinished, but you're right.(やつらを仕留めないまま行くのは気に入らないが、しょうがない)」

俺とシャーロットは本部に向かって移動を開始する。

「まずい。敵が本部に向かってきている。直接ここを叩くつもりだ」

「えっ!?」

3人が同時に声を上げる。

「ちっ、あともう少しだって言うのに」

三宅先輩が急いで敵の後を追う。すぐに俺は彼女の動きを捉えた。

「Oh, there she is. Beta, slow down.(ふん、出て来たか。ベータ、速度を落とすぞ)」

「We can't waste any more time.(これ以上、時間を無駄にできないわ)」

「I know, but we can get them this time. Slow down and lure them out.(わかってる。だが、今なら敵を仕留められる。速度を落としてやつらを引き付けるんだ)」

「壱号、スピードを出し過ぎです。陣形が崩れています」

「わかってるけど、このままやつらを本部に行かせるわけにはいかないわ!」

三宅先輩はぐんぐんと俺たちに近づいていく。そして、ある程度まで距離が縮まった時、俺は瞬時に体をひるがえして、全速力で彼女の方へ向かった。

「There is no running away now!(もう逃げられないぞ!)」

「ちっ!」

慌てて三宅先輩も体の向きを変える。

「Too late!(遅い!)」

俺の放った光線が一直線に三宅先輩を追った。彼女も光線を撃って攻撃を相殺しようとしたが、2つの光線の間には威力に圧倒的な差がある。彼女の攻撃は弾き返され、そのまま彼女は被弾した。あたりが白煙に包まれる。

「壱号、大丈夫か!!」

松田が声を荒らげる。

「……こちら壱号。無事です。何とかシールドが間に合いました」

息を切らしながら三宅先輩が応答する。次第に煙が晴れて、彼女の地面に立っている姿が映った。

「……しかし、機体に損傷あり。それに今のシールドでかなりのエネルギーを消費したから、もう残りがほとんどありません」

敵がまだ生きているとわかると、俺はすぐに追撃を加える。

「壱号!!」

後藤先輩と江藤が三宅先輩の前に入り込んでシールドを展開する。光線がシールドに衝突し、再びあたりに白い煙が舞った。

「全機、状況を報告せよ!!」

しばらくしてノイズ交じりに後藤先輩が答える。

「3人とも生きています。しかし、機体はエネルギー切れです。申し訳ありません」

「It seems this is the end for you.(これで終わりのようだな)」

俺が再び光線を放つ準備をする。

「They have already been crippled. We don't have to kill them.(敵はすでに戦闘力を削がれてる。殺す必要はないわ)」

シャーロットがそれを制止した。

「I'm sorry, but they are pilots. Under the circumstances where we can't take them prisoner do we have to kill them.(悪いがやつらは操縦士だ。捕虜にできないこの状況では殺すしかない)」

「I know, but...(それでも……)」

「There is no questioning in this matter.(議論の余地はない)」

そして、俺は敵の3人に目をる。

「If you have your last words, you better be quick.(もし死ぬ前に言いたいことがあるなら早くしておけ)」

俺の持つレーザー砲に徐々じょじょに光が集まり、そして最後の光線が発射された。

「すみません管理監。ここまで、みたいです」

「いや、悪いが君たちにはもう少し進んでもらう」

光線が3人に着弾しようとする寸前、横から別の光線が飛び込んできた。

「What the...!?(なんだ……!?)」

さらに別の2つの光線が俺とシャーロットめがけて飛んでくる。慌てて上空へと回避すると、まるで入れ替わるように、光線を放ったと思われる3つの機体が俺たちのすぐ横を走り去った。機体は即座に三宅先輩たちの元へたどり着き、それと同時に、3人の周囲に巨大なシールドが展開される。

「E地点のシールドを展開した。今のうちに機体を乗り換えてくれ」

松田が落ち着いた声で言う。

「管理監、これは……」

突然のことに3人はまだ呆然としていた。

「もちろん我々の開発した新型だ。多少強引にメンテナンスを間に合わせておいた。第4世代とも異なる、日本独自の、新第1世代だ」

「新、第1世代……」

「さあ、もたもたしてる時間はない。すぐに装着してくれ」

「I can't believe they actually developed a new model...(まさか、本当に新型を開発していたなんて……)」

シャーロットが息をのむ。

「We'll just have to obliterate them all at once.(一気に吹き飛ばしてしまえば済む話だ)」

俺が砲口を敵に向けて発射の準備を始めると、すぐにシャーロットも砲身を構えて後に続く。

「I got it.(了解)」

対する3人も身に着けていた兵器を全て解除すると、すぐに新型の装着を開始した。装着は全て自動で行われるから、両手両足を広げて立っていれば、あとは機械の方が勝手にくっついてくれる仕組みだ。

「これ、装着間に合うかなぁ」

「無駄口は叩かないでちょうだい」

「しかし、敵のレーザー砲をご覧になってください。あれはかなりまずいですよ」

「わかってるわよ! 私だってドキドキしてるんだから黙ってて!」

「Energy, charged. Launch, ready. Three, Two, One, Fire.(エネルギー充填完了。発射準備よし。3、2、1、発射)」

俺とシャーロットのレーザー砲からこれまでの2倍ほどの光線量が放出された。光線はシールドに着弾し、その衝撃で先の風景が扇状に消し飛ぶ。

「Did we get them...?(やったのかしら……?)」

次の瞬間、白煙の中を突き破って3つの物体が空中に飛び出してきた。それらの周りにはしっかりとシールドが張られている。

「Damn, we didn't.(ダメだったみたいだな)」

三宅先輩が自信に満ちた笑みを浮かべる。

「これでようやく対等に戦えるわ。ここからが本番よ!」

「You think you leveled the playing field? Don't make me laugh. I shall show you the real power of the fourth generation.(これで俺たちと肩を並べたつもりか? 笑わせるな。第4世代の本当の力を見せてやる)」

俺とシャーロットが3人のところへ突っ込んでいく。

「距離を保ってレーザー砲による攻撃を続けるんだ」

「えっ!?」

松田の声に意気揚々と待ち構えていた三宅先輩たち3人は声を上げる。

「ちょっと待ってください。せっかく新型に乗り換えたのに、やることは今までと同じなのですか!?」

「そうだ。まだ操縦に慣れていない君たちでは接近戦は分が悪い。逆に、これまでの敵の射撃を分析してわかったが、光線の威力単体では恐らくこちらの方が高い。だから、できるだけレーザー砲による遠距離攻撃を続けてくれ」

「何だか腑に落ちないけど、」

「しょうがないわね!」

江藤と三宅先輩がしぶしぶといった口調で答えた。

しばらくの間、空中で射撃の応酬が繰り広げられる。

「くっ、このままじゃらちが明かないわ」

「敵を誘ってみましょうか」

後藤先輩が提案する。

「どういうこと?」

「私に続いてください」

そう言うと、彼女は一気に後退して敵と距離をとった。そして、レーザー砲のチャージを開始する。

「そういうことね」

三宅先輩と江藤もそれに続いて敵と距離をとり、同じようにチャージを始める。

「Arrogant. They think their cannons are stronger than ours.(なめてるな。やつら自分たちのレーザー砲の方が上だと思っている)」

「I know. I can't overlook this.(私もこれは見過ごせないわ)」

俺とシャーロットもレーザー砲のチャージを始めた。

「どうやら敵も乗ってくれたようですね」

「ええ、上手くいけばこれで決められるわ」

「Let's finish this once and for all.(これで終わりだ)」

「You'll regret for underestimating us!(私たちを見くびったこと、後悔しなさい!)」

両側から巨大な5つの光線が放たれ、中央で激しく衝突する。その衝撃で周囲のビルは押し倒され、地面はへこみ、空にかかっていた雲は四方に散った。

――――。

「I can't believe...their cannon...actually blocked our attack.(まさか……俺たちの攻撃が……本当に防がれるなんてな)」

立ち込める白煙の中で、俺は肩で息をしながらシャーロットに話し掛ける。

「......」

シャーロットは俺の声に応じない。ぼんやりとする視界の中でも、眼球に装着した特殊レンズが体温を手掛かりに彼女の位置を教えてくれる。俺はすぐに彼女の元へと向かった。

「Is something wrong? Why are you being quiet?(どうしたんだ。どうして黙ってる?)」

「...It seems my machine got damaged.(……どうやら、機械が損傷したみたい)」

「......」

「ねぇ、大丈夫?」

江藤が恐る恐る2人に話し掛ける。

「ええ、なんとか。それより、管理監の分析通りなら勝てたはずなのにどうして……」

「恐らくこれまで敵は全力で攻撃してなかったのでしょう。とは言え、こっちは3体をフルパワーで撃ったのに、それを2体の砲撃で防ぐなんて」

「接近戦でも遠距離でもダメならどうすればいいのよ!」

その時、3人の特殊レンズが敵の驚くべき行動を捉えた。彼女たちも敵と同様に、サーモグラフィーで相手の動きを認識したのみだったが、それでも、敵の片方がもう片方を何かで突き刺すのがわかったのだ。刺された方は崩れるようにして地面に倒れる。

「…………」

白煙が風に運ばれて雲散うんさんする。晴れた視界の先には、地面に横たわるシャーロットと、左手に何か光を放つ球体をつかんで静かに立つ俺の姿が映った。

「敵は、一体何を……」

ショックのあまり、詰まったような声で三宅先輩が呟く。

俺は手に持つ球体を胸に作られたソケットのような装置にはめ込む。すると、機体が激しいモーター音を上げた。

「気をつけろ。恐らくあれはエネルギー核だ。あの男、味方のものを奪って自分に埋め込んだんだ」

数秒の後にモーター音は鳴りやんで、俺は再びレーザー砲を手に取る。

「Prepare to die.(覚悟はいいか)」

「ふぅ、ここまでね」

三宅先輩がマイクを切って一息つく。レコーディング作業が終わったのだ。残りはまた新たに原画が上がってからるらしい。

みんなも「はぁ」と大きく息を吐いて、それぞれ近くの椅子に腰かけた。

「疲れたぁ」

「もう集中力が続かないです」

「私も一度にこんなに長く録ったのは久しぶりだったわ」

それぞれが話し出す中で、1人、シャーロットだけは口をへの字に結んでいた。

「Hey, are you ok?(おい、大丈夫か?)」

俺が声をかけると、じっと黙っていた彼女は突然顔を上げた。

「I can't die like this!(私、やっぱりこんな死に方じゃ嫌よ!)」

この時はまだ、今の発言がほんの冗談であることを祈っていた。

第9話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

せっかくなので、今回は陽たちが制作している作品の中で登場したセリフを選ぼうと思います。

まずは4ページ目に出てくる「Don't tell me you honestly thought you could destroy the fourth generation of ours with that firepower.(その程度の火力で俺たち第4世代を倒せると思っていたのか?)」から!

特に難しい文法や単語が使われているわけではないので、細かな解説は不要かと思います。ただ、表現方法として2点気に留めていただければ、というのがあるのでお伝えします。

1つ目は「Don't tell me ~」です。直訳すると「俺に~と言うな」ですが、ニュアンスとして「まさか~ってわけじゃないだろうな」という感じで使われることが多いです。

例)「How was your score?(点数どうだった?)」→「You'll be surprised.(驚くと思うぜ)」→「Don't tell me you got a perfect mark.(まさか満点だったんじゃないだろうな)」

もう1つは「you honestly thought」です。「honestly」は「正直に、誠実に」というのが主な意味ですが、ここでの使われ方は、日本語にするなら「本当に」という意味合いが強いです。単に「really」を使ってもいいですが、表現の幅を広げるために覚えておいても良いかもしれません!

例)「You honestly believed I would do something stupid like that!?(お前は本当に俺がそんなバカげたことをすると思っていたのか?)」

ちなみに「believe」は「信じる」と訳すとしっくりこないですが、単に「think」の強化版(?)と思っていただけると理解しやすいと思います。「~と強く思っている」という感じです。

次は「You are prolonging the inevitable.(無駄なことを)」です。ぶっちゃけてしまうと、これは英語版Fate Zeroでギルガメッシュの言っていたセリフをそのまま使ったのですが、Fate Zeroを知らない方はすみません、スルーしていただいて大丈夫です(笑) なお日本語版では「無駄なあがきを」と言っています。

「prolong」は「(時間などを)長くする、延長する」という意味です。「the inevitable」については、「the + 形容詞」で「形容詞なもの」という抽象的な名詞を表す用法になります。「the」と「inevitable(避けられない)」で「避けられないこと」です。

「prolong the inevitable」で「避けられないことを先延ばしにする」となり、作中では「無駄なことを」をいう訳をつけました。

最後に「We'll just have to obliterate them all at once.(一気に吹き飛ばしてしまえば済む話だ)」について話します。5ページで三宅先輩たちが新型に乗り換えようとしているときに、陽が言ったセリフです。

まず「at once」は「すぐに、直ちに」という意味で、学校では「right now」などと一緒に習うのではないでしょうか(ちなみに「right now」も同じ意味です)。ただ、「once」は元々「一度」という意味の副詞なので、「at once」には「一度に、同時に」という意味もあります。

「all at once」は「一度にまとめて全部、一斉に」といった意味です。

そして、「obliterate」、「跡形もなく消す、抹消する」と言った意味ですが、まあ日常生活ではまず使いません(笑) かっこいいから使ってみようと個人的に思って入れただけですので、覚えなくて大丈夫だと思います(笑)

「We'll just have to obliterate them all at once.(私たちはただ、まとめて全部消し飛ばさなくてはならないだけだ)」をより日本語っぽくして「一気に吹き飛ばしてしまえば済む話だ」という訳にしました。

完全な余談となりますが、私は今回のセリフを考えるにあたり、私がかつて見てきた英語版のアニメをかなり参考にしました。有名なアニメはかなり英語吹き替えがされているので、興味があれば、みなさんもぜひ一度ご覧になってみてください。

英語でアニメを見ると、めちゃくちゃ流暢な英語をしゃべってるくせに学校の英語の点数が悪かったり、「英語全然わからなーい」という発言を英語で言っていたりと奇妙なことになっているところもありますが、それも含めて面白いです。声優も日本に負けず劣らず、すごい方ばかりです!


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!