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第6話:The Letters.(part 1)

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第6話:The Letters.(part 1)

昼休み、俺と「彼女」は国語係の用事で職員室を訪れるついでに、ダニエル先生に昨日話し合って決めた内容を伝えることにした。

「English club for Students in need of Support.(手助けが欲しい生徒のための英語部)」

俺たちが説明を終えると、先生はさわやかな笑みを浮かべて、もう一度その言葉を繰り返した。

「In short, ESS!(略してESSよ!)」

彼女は前のめりになって言う。よくわからないが、そんなに楽しそうにしてくれるなら結構だ。

「Wow, honestly I was surprised. Not only did you decide to join the club, you even thought about what to do there!(わお、正直驚いたよ。入部を決めるだけじゃなくて、その活動内容まで考えてくれるなんて!)」

俺たちESS部の活動内容、それは英語に関する相談対応だ。英会話でも試験勉強でも何でも良い。とにかく英語に関して何かできることがあれば手伝います、というものだ。逆に言うと、相談が来ない限り特にすることはなく、こんな受け身の活動で認めてもらえるかどうかは疑問だけど、少なくとも「彼女」が他の人と知り合いになるのにはうってつけの内容だと思う。

「I have to consult with other teachers about this matter to get permission, but don't worry. You went to all the trouble of thinking about the activity. I won't just let it go to waste.(まずは許可をもらうために他の先生たちと話をしなくちゃな。でも、大丈夫。君たちがわざわざ考えてくれた活動内容だ。無駄にはしないよ)」

アメリカ人はいちいち言うことがかっこいいな、とたまに思うことがある。

「Thank you.(ありがとうございます)」

「Anyway, first things first! Before we resume the ESS club, there is one thing we need to do.(さて、まずは大事なことからだ。ESS部を再開する前に、しなければいけないことが1つある)」

先生はそう言って席を立つと、そこからまっすぐ進んだところの壁に取り付けられている鍵置き場から鍵を1つ取って、またこちらへ戻ってきた。「ESS部」と書かれたネームプレートと鍵本体とをつないでいるキーホルダーのフック部分を持って、それを俺たちの目の前に差し出す。

「Will you check the clubroom for me? I don't think there will be any problems because no one entered since the club was suspended. But, I have to make a report on it anyway.(部室のチェックをお願いできるかな。部が停止してから誰も部室には入ってないから、たぶん何も問題はないと思うんだけど、なんにせよ報告書を作らないといけなくてね)」

「Alright then! Haru and I shall fulfill the duty!(わかりました! 陽と私でその任務、果たしてみせましょう!)」

彼女がおどけて胸を張る。それを見た先生は笑いながらこちらに鍵を手渡してきた。

放課後になって2人で部室へ向かった。部室は校舎の外にひっそりと建っていたから、なるほど部員以外には誰も足を踏み入れそうにない。

「彼女」が持ってきた鍵をドアノブの差し込み口に入れて回す。ガチャリとじょうの外れる軽快な音がした。ドアを開けて中に入る。

内装は想像していたものとそれほど変わらなかった。部屋の中央に置かれているいくつかの長テーブルや、見た目8割ほど埋まった胸の高さほどもある本棚。それら備品の他には、壁に洋画のポスターが貼られていたり、窓際まどぎわに変な外国の置物が置かれていたりするくらいだ。

あたりを見回してみても、特に問題があるところは見受けられない。ただ1つ、気になるものがあった。

「What do you think this is?(これ、なんだと思う?)」

彼女がテーブルの上にポツンと置かれた白無地の封筒を手に取ってたずねてくる。中には何かが入っているみたいだ。封はされていなかったから、俺は封筒を受け取ると頭を開けて中身を取り出してみた。

「A letter?(手紙?)」

中には2つ折りの紙が入っていて、そこに文章が印字されていた。

1/5

We spent a lot of time together here. Now, I'll make a little stop and look back at our past. That was already 11 years ago. Everything started from the classroom. When I was spacing out at my desk looking down at the entrance yard, you suddenly spoke to me.(私たちは一緒にここでたくさんの時間を過ごした。今、少しだけ立ち止って、私たちの過去を振り返らせて欲しい。あれはもう11年前のことだ。すべては教室から始まった。私が机に座ってぼんやりと校舎の入り口を眺めていると、突然あなたがしゃべりかけてきた)

そして、文章の最後には"Find the next! 4/9/2018"の文字が書かれていた。

「次を見つけろ、か」

4/9/2018はほぼ間違いなく2018年4月9日のことだ。つまり、この手紙は今年の入学式の日に書かれたらしい。

「Does this mean there is another letter?(これって他にも手紙があるってこと?)」

「5 in total, I guess, if the number on top shows its order.(合計5通、もしも頭の数字が順番を示しているのなら)」

彼女は子供のような無邪気な笑顔を浮かべて、こちらに顔を近づけてくる。

「It's getting fun!(面白くなってきたわね!)」

そんな彼女の様子に、思わず俺の顔もほころぶ。

「Yeah, let's find the next.(ああ、次を探してみよう)」

ところが、いくら部室の中を探しても次の封筒は見つからなかった。俺の考えが正しければ、手紙はあと4通も残ってるんだから、少なくとも1通くらいは見つかっても良いものだ。

「Something is wrong.(おかしいわね)」

「Yeah. Though we have, at least, assured through our thorough search that there is no problem with this clubroom to report.(ああ、少なくとも、俺たちがくまなく探したおかげでこの部室に報告すべき問題はないってことはわかったけどな)」

「Haha indeed. Hey, you think the other letters are already gone?(あはは、確かにね。ねぇ、他の手紙はもう全部なくなっちゃったのかな?)」

「I don't know, but I doubt that. This letter was put on the table making it easy for us to find, as if someone wanted us to.(わからないけど、違うと思うな。この手紙はテーブルの上に置かれてて、すぐに見つかるようになってた。まるで、誰かが俺たちに見つけて欲しかったみたいに)」

「Hmmmm, you've got a point. But then, where are they?(うーん、それはそうだけど、そしたら手紙はどこにあるのよ)」

手紙の中に「次を見つけろ」と書かれている以上、少なくとも、探せば次が見つかるようになっていなければならない。この部室にはなかった。それなら、手紙の中に探すべき場所が暗示されているのか……?

「Let's try checking classrooms.(教室を調べてみるか)」

「Are you saying we are gonna ckeck all the classrooms in this school!?(この学校の教室を全部チェックするつもり!?)」

彼女は大袈裟おおげさに両手を広げて、そんなバカな、という顔をする。

「Only two or three.(2、3だけだよ)」

「I don't get it.(どういうこと?)」

「The writer was looking down the entrance yard from the person's desk. Judging from the structure of this school, the only classrooms where you can see it are those in the west wing.(手紙を書いた人は机から校舎の入り口を見てたんだろ? 学校の構造から考えて、入口が見えるのは西棟の教室だけだ)」

「I see! You are so smart!(なるほどね! 陽って頭いいのね!)」

面と向かってそんなことを言われるとつい照れてしまう。俺は彼女に顔を見られないよう、すぐに反対側の出口の方を振り向いた。

「Anyway, let's go.(とにかく、行ってみるぞ)」

一度職員室へ戻り、先生に何も問題がなかったことを伝えて鍵を返すと、俺たちはそのまま西棟へ向かった。

「Haru! I got it!(陽! あったよ!)」

2枚目の手紙は1年10組の教卓の裏にテープで留められていた。やっぱり、俺の考えは間違っていなかったみたいだ。つまり、手紙の中の出来事は、今から11年前の1年10組で起こったことらしい。

2/5

My appearance wasn't the same as others. Because of that, no one talked to me since I was transferred to this school. However, you were different. you spoke to me without hesitation. That was my first time I had ever talked with a student from another country.(私は他の人とは見た目が違う。だから、この学校に転校してきてから誰も私に声を掛けようとしなかった。だけどあなたは違った。あなたは、ためらうことなく私に話しかけてくれた。そして、それは私が初めて他の国の人と話した瞬間だった)

You asked me if I'm interested in the ESS club. You said you needed more members to make it an official school club. It was out of the blue, and I was really nervous. I just said yes without knowing what the ESS club was about. But, that turned out to be the best decision in my life.(あなたは私に、ESS部に興味がないかと尋ねた。学校公認の部活にするために、もっと部員が必要だったらしい。突然のことだったからすっかり緊張してしまって、私はESSが何をする部活なのかさえ知らずに、はいと答えてしまった。だけど、それはのちに人生最高の選択になった)

Though I was really surprised when I knew that the club was using one compartment in the music room as a temporary clubroom.(まさか、ESS部が音楽室にある小部屋の1つを仮の部室として使っているなんて夢にも思わなかったけど……)

「A student from another country!?(他の国の生徒!?)」

驚きのあまり、頓狂とんきょうな声が出る。それから俺は、柄にもなく興奮気味にまくし立てた。

「The writer was a foreign student! 11 years ago, there used to be a foreign student like you in this school!(手紙の筆者は外国の生徒だったんだ! 11年前、この学校にはシャーロットと同じように外国の生徒がいたんだ!)」

日本の高校にやってきた外国からの生徒。そして、周りに馴染なじめずにいるその生徒に話しかける日本人の学生。当時は一定数の部員が必要だったのか、彼らもまたESS部を設立しようとしたのだ。性別こそわからないが、この手紙に出てくる「私」と「あなた」の状況は、今の彼女と俺の状況に酷似している。これを知って興奮せずにいる方が難しい。

ところが、彼女は俺の発言を聞くとしゅんと顔をくもらせた。

「Hey, I don't like the sound of "foreign student".(その「外国の生徒」って言い方、好きじゃないわ)」

「Wha...(え?)」

突然のことに言葉を失う。彼女が俺に苦言をていするのなんて初めてだったから、内心とてもうろたえた。すぐに精一杯考えを巡らせたけど、彼女がどうしてそう言ったのかはわからなかった。

「It's like I'm completely differenciated from Japanese students... like, I never get to be treated like others.(なんだか、私が完全に日本人の生徒たちから区別されてるみたいで。……どうやっても他のみんなとは同じように扱ってもらえないみたいじゃない)」

体に電流の流れるような感覚がした。俺の何気ない言葉が、彼女にはそう聞こえてしまっていたなんて。いや、もしかしたら、無意識に俺はまだ彼女のことを「外国の人」として扱っているのかもしれない。他の人とは違うという認識があったから、彼女に対して無神経に「君は外国の生徒だ」とほのめかしてしまうことに違和感を感じなかったのか。……そうじゃないと思いたいけど。

「I'm sorry. I didn't mean it.(ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ)」

「Yeah, I know. But still, it was sad.(うん、わかってる。だけど、寂しかったな)」

「I'll be careful. I'll never say that again.(気を付けるよ。もう2度と言わない)」

まだ少し気にしているように見えたけど、彼女はこちらを向いてニコリと笑ってくれた。

それから、俺たちは音楽室へ向かった。放課後は吹奏楽部が使っているかもしれないと心配したけど、幸運にもその予想は外れた。小部屋の中をあちこち探し回って、なんとか次の手紙を見つける。

3/5

I joined the ESS club and did many things together with the club members. One day, we sang an English song. Another day, we performed a little play in English. It was a bit embarrasing to do those things, but they were full of fun.(私はESS部に入って、部員たちと一緒にたくさんのことをした。ある時は英語の歌を歌ったり、またある時は英語でちょっとした劇をやったりした。それは少し恥ずかしかったけど、とても楽しかった)

Those club members became my best friends. My school life had totally changed. I was nothing before. No one talked to me, and I talked to no one. It was like I didn't even exist. But then, I found a place that meant more than anything to me. I enjoyed spending time with them so much. You changed it. You made my life as colorful as ever.(部のみんなは私のかけがえのない友達になった。そして、私の学生生活ががらりと変わった。私はそれまで無だった。誰も私に話しかけないし、私は誰にも話しかけない。まるで存在していないみたいだった。だけどそれから、私には何よりも大切な場所ができた。みんなと過ごすのは本当に楽しかった。あなたのおかげで。あなたが私の人生にこれまでにないくらい彩りを与えてくれたから)

A lot of time passed before I realized it. We moved up to the next grade. My class number that year was the same as the previous one.(気付けばたくさんの時間が過ぎていた。そして、私たちは進級した。私のクラスは、去年と同じ組だった)

「This is pretty.(素敵ね)」

彼女が本文を読んでそう言った。俺も黙って頷く。

「Let's go find the next.(次のを見つけに行こう)」

1年の時と同じ組だから、手紙の筆者が翌年に割り振られたのは2年10組だ。上級生の教室に入るのはあまり気が進まないけど、ここまで来て諦めるのはもったいなさすぎる。俺自身、これから2人がどうなっていくのかとても興味があった。

ところが、2年10組の教室をどれだけ探しても次の手紙は見つからなかった。教壇の裏、黒板の裏、掃除道具を入れるロッカー、果ては学生机の裏(さすがに引き出しの中まで確認するのはやめた)まで1つ1つ調べたが、いずれも徒労に終わった。

「I don't think the letter is here.(ここに手紙はなさそうね)」

「I don't see why.(おかしいな)」

俺の考え方が間違っているのか。いや、これまではちゃんと手紙が見つかっていたんだから根本は間違ってないはずだ。きっと、どこか一部分が間違ってる。でも、それがどこなのかがわからない。俺はこういうとき、ものすごくもやもやしてしまう。

「Gee, if it's not here, where the heck is it!?(あぁ、ここじゃなきゃ一体どこにあるんだ!?)」

「Someone might have found and thrown it away.(誰かが見つけて、捨てちゃったのかも)」

「Yeah, it can be.(そうかもな)」

でも、これまでの手紙はそう簡単には見つからないところに隠されていた。本当に誰かが見つけて捨ててしまったのだろうか。

「I think we should call it a day today. we can get back home before it gets dark now.(今日はもう終わりにしましょ。今なら暗くなる前に家に帰れるし)」

彼女は案外あっさりとそう言った。もやもやを残したまま帰るのは不本意だけど、手紙が見つからない以上、学校にいてもしょうがない。

「Yeah, you are right.(そうだな)」

俺たちは教室を出ると、くつき替えるために下駄箱へ向かった。1階まで下りたところで、窓からあるものが目に入る。

「...Wait, I think, at least, we can figure out who the letter writer is.(待てよ。もしかしたら、少なくとも手紙を書いた人が誰なのかわかるかも)」

「What?(え?)」

「Graduation album. I don't think it's likely that this school had more than one international student at the same time.(卒業アルバムだ。この学校に同時期に2人以上他の国からの生徒がいたとは思えない)」

「Now I got it! If we look at all the pictures, we can see who the student is.(わかった! 写真を見れば、どれがその生徒かわかるってことね)」

「Right, let's go check it.(うん、調べてみよう)」

俺たちは意気揚々と速度を上げて歩き出した。まっすぐ窓の外に見える図書室に向かって。

出入口付近のカウンターに座っていた図書委員に卒業アルバムの場所をきく。本棚の前に立つと、そこには各年のものが年代順にずらりと並んでいた。

「It seems our school has a long history.(この学校って歴史が長いのね)」

11年前に1年10組にいたんだから、手紙の2人が卒業したのは今から8年前だ。早速2009年度の卒業アルバムを引っ張りだした。

机まで持っていくのもじれったくて、俺と彼女はその場に立ったまま、1ページずつアルバムをめくっていく。

「They were all here at school 8 years ago. It's kinda strange when I think that way.(ここにいるみんな、8年前はこの学校にいたって思うと不思議な気分になるわ)」

「It's all part of time passing, I guess.(時が過ぎるってそういうことなんだろうな)」

アルバムを見終わるのにそれほど時間はかからなかった。最後のページまで行くと、もう一度最初のページに戻って1枚ずつ丁寧に写真を眺めていく。数分後、再び最後のページまでたどり着いて、俺たちはついに肩を落とした。

「I don't see anyone who looks like the one.(それらしい人はいないわね)」

「Maybe, that is all fictional.(もしかしたら、あれはただの作り話なのかもしれないな)」

「It's too bad if that's the case it is.(もしそうなら残念だわ)」

「Yeah. ...Let's go home anyway.(俺もだよ。……とにかく、今日は帰ろう)」

俺たちはそのまま学校を出ると校門の前で解散した。

「手紙、私にも見せてよ!」

翌朝学校に来ると、いきなり陽菜がそう話しかけてきた。おそらく昨日のうちに「彼女」が陽菜に連絡したんだろう。

「はい、どうぞ」

カバンの中から3通の手紙を取り出して手渡す。ところが、陽菜は中身を一瞥いちべつするとすぐにそれを俺に返してきた。

「はい、訳して」

「…………」

手紙の内容をいちいち訳して、わざわざ手紙を見つけた経緯まで丁寧に補足して、そして、しばらく頭をひねった陽菜から返ってきた言葉は「えへへ、全然わからん!」だった。

「お前が女じゃなかったらぶっ飛ばしてるぞ」

「ごめんって、ちゃんと考えてみるけん!」

そんなやり取りをしていると、横から「はるー」と俺の名前を呼ぶ声がした。呼ばれた方を振り向くと、「彼女」がこちらに向かって手招きをしている。その周りにはクラスの生徒が何人か集まっていた。嫌な予感がする。俺はもう一度、手紙を陽菜に差し出した。

「たぶんこのことだ。お前はもう内容わかっとるやろ。俺の代わりに行って説明してくれ」

「ご指名が入ったのは陽やん。頑張ってき!」

わかってはいたけど、俺の頼みはあっさりと断られた。陽菜に背中を押されながら、仕方なく「彼女」の元へ向かう。

「...What's going on.(……どうした)」

「I talked about the letters and everyone here is now interested. Will you please explain about them?(手紙の話をしたらみんな気になったんだって。お願い、手紙のこと説明してくれない?)」

そう言ってウィンクをする。たぶん、実際にウィンクをする姿が絵になるのは彼女くらいだろう。俺は小さくため息をつくと、手に持っていた手紙を彼女の机の上に置いた。

「I knew you were gonna say that.(そうだと思ったよ)」

一通りの説明を終えると、その場にいたみんなもそれぞれ頭をひねり始める。

「うーん」

「それまではちゃんと手紙見つかってたんやろ?」

「うん、3つ目まではちゃんと手紙に書かれた場所に隠されとった」

「探しれってのは?」

「昨日さんざん探したけん、それはないと思う」

「実は手紙の中に別の場所が指定されてるとか?」

「そもそも麻生の訳、本当に合っとるんか?」

「なにっ!?」

となりで陽菜が声に出して笑う。今までそれほど話したこともない男子にいきなり絡まれて、とりあえず反応したはいいが、このあと何て続けばいいのかわからない。

「あ、ごめん。つい」

さすがに馴れ馴れしいと思ったのか、彼はすぐに態度を改めた。別に俺はそういうつもりで言ったんじゃない。気分を損ねたわけじゃないんだ。

「いや、別に気にしたわけじゃないけん」

「陽のことはそんな気にせんでいいとよ? こう見えて案外、人から絡まれると嬉しそうにするんやけん」

「お前は黙ってろ」

すかさず陽菜にツッコミを入れる。とは言え、俺がクラスの生徒に一応受け入れてもらえているのは、こうして陽菜が俺のフォローをしてくれるからなのかもしれない。

指摘を受けた俺は、自分の訳が本当に合っているのか不安になって「彼女」に確認してみた。

「You think I understood the English sentences in the last letter wrongly? I mean, is that the reason why we couldn't find the next one?(シャーロットは、俺が手紙の英文を間違って理解したと思うか? つまり、だから手紙が見つからなかったのか)」

「I don't think so. I also thought the next one would be in 2-10.(それはないと思うわ。私も次の手紙は2年10組にあると思ってたから)」

「Is that so.(そうか)」

結局、誰もそれらしい答えを出せないまま、授業の時間になってしまった。

4限目の授業が終わって昼休みになる。いつもの2人とご飯を食べていると、彼らは今朝のことについて尋ねてきた。またか、とため息をつく。手紙の説明をするのもこれで本日3度目だ。もはや、すらすらと説明できてしまうのが妙に悲しい。

「それって、今とクラスの場所が違うからじゃね?」

「え?」

説明を終えると、すぐに1人がそう言った。これまで考えてもみなかった可能性を指摘されて、つい素の反応が出る。

「で、でも、教室の配置なんてそうそう変わるもんじゃないやろ」

「去年からこの学校の定員増えたやん」

「そうなん!?」

きいてみると、1年と2年はクラスが10組まであるが、3年は9組までしかないそうだ。クラスの数が増えたのに伴って、教室の配置も変わったと言うのはあり得る気がする。そもそも、増える前の定員がずっと同じだったなら、11年前には1年10組は存在していなかったのかもしれない。俺は思わずひざを打った。

「それじゃあ、今の1年10組の教室は当時は別のクラスだったってことか!」

「たぶんな」

「でも、11年前の教室の配置なんてどうやったらわかるん?」

もう1人の男子がもっともな質問をする。

しばらく3人で考え込んだ。すると、「あっ」と何かに気付いたようで、先ほど新たな可能性を指摘した彼が、またしても素晴らしい提案をしてくれた。

「一昨年までは、俺の知る限りずっと同じ定員やったはずやけん、11年前にあそこにあった教室は2年前となら同じかも」

「おお、確かに。定員が変わらんなら、そのまま翌年も同じクラスの教室として使われそうやな」

「つーか、お前なんでそんなこと知ってんだ?」

もう1人が彼に尋ねる。

「お前らも自分が受験する高校の情報くらいちょっとは調べたやろ」

「いや、それほど……」と俺たちは口をそろえて返した。

なんにせよ、2年前の教室の配置なら何とかわかるかもしれない。それは今の3年生が1年生だったころの教室の配置なんだから。

俺はご飯を食べ終わると、早速「彼女」の元へ向かった。

「We may find the next letter soon.(次の手紙、見つかるかもしれない)」

それを聞いた彼女は嬉しそうに笑う。

「That's great! You figured something out didn't you?(すごい! 何かわかったんだ!)」

「Yeah, my friend pointed out that the classroom which is 2-10 now might have been a different class back then.(ああ。今の2年10組の教室は、当時は違うクラスだったかもって友達が気づいたんだ)」

英語になると、日本語と比べて俺のボキャブラリーは大幅に下がるし、表現方法もかなり狭まる。それに英語という言語の性質というか、他になんて言えば良いのかわからないけど、とにかくそれらのせいで、英語をしゃべっている時の俺は回りくどい言い方をせずに直接的に物を言うようになる。

きっと、だからだと思う。俺は今、自分から自然とあいつのことを友達って呼んだんだ。

「I see. So, how are we gonna know what class it used to be?(なるほどね。それじゃあ、どうやってそこが前にどのクラスだったかを知るの?)」

「I think we can ask Hina.(きっと、陽菜に頼めばわかるよ)」

俺たちは陽菜に頼んで、知り合いの先輩に今の1年10組が2年前は何だったのかを聞いてもらうことにした。

第6話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

まずは1ページ目でダニエル先生が言った「Not only did you decide to join the club, you even thought about what to do there!(入部を決めるだけじゃなくて、その活動内容まで考えてくれるなんて!)」という表現について話します。

どうして「you decided」ではなく「did you decide」と疑問形のような語順になっているのか気になったかもしれませんが、これは英語の倒置法です。倒置は色んな場面で用いられますが、使わなくても良さそうなところで使われている時には、基本的に、それを強調したかったり、感情を込めていたりするからだと考えて問題ないと思います。

今回の場合も、先生は「入部を決めるだけじゃなくて、活動内容まで考えてくれるなんて!」と驚いているので自然と口調も語気を強めたものになります。その結果、「Not only did you decide to join the club」と倒置を使っているのです。

また、ここで使っている表現についても少し触れたいと思います。

「you even thought about what to do there」という英語に対して「その活動内容まで考えてくれるなんて」という訳をつけています。日本語の「活動内容」を直訳すると英語では「activity」となりますが、英文ではその単語は使われていません。

そもそも「you even thought about what to do there」を直訳すると「あなたはそこで何をすべきかについてまで考えた」になります。

「what to 動詞」で「何を動詞すべきか」という意味になります。「what」の代わりに「which(どれ)」や「where(どこ)」を使っても同じです。

例)「Don't tell me what to do.(俺に何をすべきか言うな→俺に指図するな)」

「I can't decide which to choose.(どっちを選べばいいか決めれない)」

「I don't know where to go.(どこに行けばいいのかわからない)」

「thought」は「think(考える)」の過去形になります(ちなみに過去分詞形も「thought」です)。よって「think about what to do」は「何をすべきか考える」という意味になります。

では、なぜ「activity」という単語を使わなかったのかについてですが、これは英語の言い回しとして、「activity」という単語を使うよりも「what to do」という表現を使った方がより自然に感じたからです(「activity」を使っても決して間違いではないと思います)。

これは私がアニメで聞いたものなので、かなり例文が偏っていますが「相手がどれほどの能力を持っているのかわからない」→「We don't know what the enemy is capable of(相手がどんなことができるのかわからない)」、「全力で来い」→「Show me what you've got(お前の持っているものを見せてみろ)」という感じで、いずれも「能力(ability, capability)」であったり「全力(the best)」という単語は使われていません(それらの単語が使われることもあるので、一概には言えませんが……。また、「全力」については英語にぴったり当てはまる単語がないので、場面によって英訳が変わってきます)。「能力」「全力」という日本語に引きずられて、それに対応する英単語を使用するよりも、もっと汎用的な表現を使用した方が英語としてナチュラルになることもあります。

正直なところ、今回の英文は私の感覚で決まったところが大きいので、ただの参考として頭の片隅にでも入れておいてもらえたら十分だと思います(笑) ただ、日本語を英語に訳そうとするときは、こういうところも考えてみると面白いかもしれません。

最後に、こうして考えてみると英語は少ない語彙数でも案外たくさんのことを表現できるように感じます。それこそ中学で習う英単語だけでもかなりのことを表現できるんではないでしょうか。

例)「それは全てあなた次第です(It's all up to you)」「今やらないと二度とチャンスはないぞ(It's now or never)」「この機械の使い方知ってる?(Do you know how to use this machine?)」

英語を勉強していると、人それぞれ「英語ってこういう言語なんだな」というのが感覚でわかってくると思います。日本語を元に英訳するのも良いと思いますが、時にはその感覚に従ってがっつり意訳してみるのも良いことだと思います!