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第5話:English Speaking Society.

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第5話:English Speaking Society.

「シャーロットさんってどのくらいバスケやっとったん!?」

「彼女」の机に集まっている生徒の中から、1人が質問する。

「...How long have you practiced basketball.」

その質問を俺が英語に訳し、彼女が答える。

「About 8 years. Baksetball is one of the most popular sports in the U.S. Everybody plays it since they are little.」

今度はそれを日本語に訳して、質問をした生徒へ伝える。

「……だいたい8年くらい。アメリカやとバスケは一番人気のスポーツで、みんな小さいころからやるんだって」

「ねぇ! シャーロットさんはバスケの他にも何か趣味あるん?」

「...Do you have any other hobbies than basketball?」

……はぁ。

先日行われたバスケの3on3以来、彼女はクラスの人気者になっていた。あの一件がすべてを変えたというよりは、元々みんな彼女に興味は持っていたわけだから、単に話しかけるきっかけを与えてくれたんだと思う。そして、俺自身も引っ張りだこだった。俺の場合は、こうしてクラス専属の通訳者として、みんなの質問とそれに対する彼女の答えをいちいち訳すために呼ばれることがほとんどだったけど。

「シャーロットさんもお前も一気に人気者になったよな」

昼休み、俺はいつもの男子2人と教室でご飯を食べていた。

「みんなの本命とそのためにこき使われてる俺を一緒にされてもな」

「やけど、お前に用があって話しかけてくるやつも結構おるやん」

彼女ほどではないけど、確かに「すごいな」だったり「英語教えてくれ」だったりと話しかけてくれる生徒はいた。こんなことを言うのは都合の良い話だが、それはそれで悪い気はしないのだ。

「まあ、俺の唯一の取り柄が役に立ってるのは良かったかもな」

「なにまんざらでもない顔してんだよ」

とすぐにもう一人がからかってくる。

「うるさい。ほっとけ」

「芸は身を助けるってやつやな」

「別に最初っから困窮こんきゅうはしてねぇよ!」

「Hey, Haru.(ねぇ、陽)」

視界の隅からひょこっと顔をのぞかせて彼女が話しかけてきた。いつの間にこっちへやってきたのか。一緒にご飯を食べていた2人は驚きで少しのけぞった。

「Ah, hey. What's up?(よ、よお)」

「Do you have time after school? There's something I want to talk about.(放課後、時間ある? ちょっと話したいことがあって)」

「Sure, no problem.(うん、大丈夫)」

「Great! Then, see you after school.(良かった! それじゃあ、また放課後に)」

そう言うと、笑顔で手を振りながら自分の席へと戻っていった。

「……いきなりなんなんだ?」

帰っていく「彼女」を見ながら、ぼそりとつぶやく。顔を前へ戻すと、2人が怪訝けげんな顔をして俺を見ていた。

「なんて言われたん?」

「放課後に話したいことがあるって」

それを聞いた彼らは、顔を見合わせると口をそろえて言った。

「それって、告白じゃね?」

放課後になると、すぐに彼女が俺の席へとやってきた。

俺は決して期待に胸をときめかせているわけではない。……いや、正直に言うと、昼休みに2人から指摘を受けたときは、一瞬ドキリとした。だけど、俺の記憶が正しければ、そもそもアメリカには告白の文化があまり浸透していない。だいたい告白をするにしても、あの彼女がわざわざ人を放課後に呼び出すなんて手間をかけるとは思えない。すぐにその結論に至ったから、それからは余計なことを考えないようにしていた。

「Will you come with me?(一緒に来てくれる?)」

俺は彼女のあとについて教室を出る。廊下を歩いて、そして階段を下りているとき、俺はついに我慢できなくなって尋ねた。

「Where are we going?(どこに向かってんだよ)」

彼女はふふっと小さく笑うと、いたずらっぽく返事をする。

「You will see.(すぐにわかるわよ)」

なんだよ一体。こっちは考えないようにしていたはずの「余計なこと」がどんどん頭の中に入り込んできて大変なんだ。どこからともなく聞こえてくる「もしも校舎裏だったらどうする?」とかのくだらないささやきを頭の外へ追い出すのに一生懸命だ。ああ、くそ。あの2人が変なことを言い出したせいで。

どこまで階段を下りていくのかとそわそわしていたが、結局、彼女は2階まで下りたときにふたたび廊下へと出て、そのまま、まっすぐに歩いていった。この先は……。

「...So, is this the place you wanted to take me to?(それで、ここが俺を連れてきたかった場所か?)」

「Exactly!(正解!)」

それは職員室だった。少なくとも、どうやらこれ以上、例のささやきと戦う必要はなさそうだ。…………。

「What the heck are you planning to do in the teachers room?(職員室で一体何をするつもりだ?)」

「We are going to meet a teacher. He has been taking great care of me since I entered this school. There seems to be something he wants to talk about.(これからある先生に会うの。その先生にはこの学校に来てから本当にお世話になってるんだけど、何か話したいことがあるみたいで)」

つまり、実際のところ話があるのは彼女ではなく、その先生の方なのか。

「And...why did you bring me here?(それで、どうして俺をここに連れてきた?)」

「Because I wanted to. Pretty simple.(連れてきたかったからよ。簡単じゃない)」

「How reasonable.(そいつは納得だ)」

彼女は笑いながら、職員室のドアをノックする。中に入るとそのままずんずんと進んでいって、3つ目の机の列を過ぎたところで直角に曲がった。大楠先生の机を通り過ぎて、さらにその奥へと向かっていく。

「Hi.(こんにちは)」

「Hey, I was thinking it's about time you come.(やあ、そろそろ来るころだと思ってたよ)」

それは初めて会う先生だった。外国人の男の先生だ。おそらく英語の授業で定期的に教えにやって来る非常勤の講師だろう。

「So, he is the one you were talking about the other day.(それじゃあ、彼がこの前話していた生徒か)」

「Yeah!(そうです!)」

何の話だろうかとぼんやり考えていると、先生がこちらを向いて手を差し出してきた。

「Nice to meet you. I'm Daniel. I teach English once in every two weeks. I'll be teaching your class next month.(初めまして、ダニエルです。隔週で英語を教えていて、君のクラスも来月教えるよ)」

こちらも握手に応えながら挨拶をする。

「Nice to meet you. I'm Haru. So..., what is this all about?(初めまして。陽です。それで……これは一体なんなんですか?)」

「わあ、ほんとに英語が上手なんだね」

先生がちょっと大げさに感心する素振りを見せながら、上手な日本語で返してきた。

「日本語しゃべれるんですか!?」

「まあね、福岡に来てそろそろ12年だよ」

「それなら最初からそう言ってください」

これじゃあ、わざわざ英語で話しかけたのがバカみたいじゃないか。

「はは、それは悪かった。でも君なら英語でも全然大丈夫だね」

英語のアクセントから察するに、おそらく彼女と同じアメリカ人だろう。年齢は30歳くらいか。爽やかで気さくなイケメン外国人講師。会って5分と経っていないがすでに分かる。……俺の苦手なタイプだ。

「Anyway, there is something I want to talk to you about.(さて、実は君たちに話したいことがあるんだ)」

俺は無意識に身構える。

「I know you two haven't joined any club activity yet. I wonder, are you interested in ESS club by any chance?(君たち2人がまだどの部活動にも入っていないのは知ってるよ。だから、もしよかったらESS部に興味はないかな?)」

「ESS? I haven't heard of it.(ESS? 何ですか、それ)」

「Haha, I guess you haven't. It doesn't even exist now.(はは、知らなくても当然か。今は存在すらしていないんだから)」

「Ah..., sorry, I don't get it.(えっと、すみません。どういうことですか?)」

「You want us to form and start ESS club together?(私たちにESS部を作って欲しいってことですか?)」

「彼女」も隣から質問を被せる。

「Activate ESS club, to be precise. It has been suspended for 2 years because of lack of the club members.(厳密には再開させて欲しいんだ。部員不足でもう2年間も活動が停止している状態だからね)」

「How many members do you need to make it active?(部員は何人必要なんですか?)」

「Ah, I don't really know. One is enough, maybe.(あー、それがよくわからないんだ。多分、1人でもいいんじゃないかな)」

「..., which means there is no member right now.(……つまり、今は部員ゼロってことですね)」

「Exactly!(その通り!)」

明るく言うことか?

「What would you say, Haru?(陽はどうする?)」

「彼女」は大きな目をきらきらさせて、まっすぐに見つめてくる。どうやら興味があるようだ。

「Well, what is "ESS" in the first place? Does it stand for something?(えっと、そもそもESSってなんですか? 何かの略ですか?)」

「Yeah, take a guess!(そうだよ。さて、なんの略でしょう!)」

先生がニヤリと笑う。俺はこのアメリカ人ノリが若干めんどうになっていたこともあって、とりあえず適当に思い浮かんだものを口にした。

「Extremely Special...(めちゃくちゃ特別な……)」

「What a stupid answer.(おバカな答えね)」

すかさず彼女にツッコミをいれられてしまった。別に適当に言っただけだからどうでも良いはずなのに、いざバカにされるとムキになってしまう。

「Well then, tell me what "ESS" stands for.(それじゃあ、ESSが何の略か言ってみろよ)」

「Ah..., Especially Special...(ええっと、特別に特別な……)」

「And who did you say was stupid, Ms. genious?(天才的だな)」

先生が笑いながら2人の間に入る。

「Hahaha. It seems you two are really good friends. It reminds me of my old school days. Anyway, "ESS" stands for "English Speaking Society". You can do anything as long as it relates to English.(ははは、2人はほんとに仲が良いんだね。僕の学生時代を見てるみたいだ。ま、とにかく、ESSは"English Speaking Society"の略だよ。英語に関係さえしてれば何をしてもOKさ)」

「English Speaking Society.(英語研究会、か)」

自分の中でもう一度確認するように、俺は小さくその言葉を復唱した。

「If you are interested, please think about it. You are more than welcome.(もし興味があったら、ぜひ考えてみて欲しい。こっちは大歓迎だよ)」

「Yeah, I will.(はい、そうします)」

2人で教室に戻ると、そこにはもう誰もいなくて、ただ俺たちのカバンがそれぞれの机の上に置かれているだけだった。

「Are you interested?(シャーロットは興味あるのか?)」

「ESS club? Hmmmm, are you interested?(ESS部のこと? うーん、陽は興味ある?)」

見事に質問を返されてしまった。

「It's not like I'm interested, but I don't mind joining the club. If it's only us, we can do whatever we want to there.(別に興味があるわけじゃないけど、ESS部に入るのが嫌なわけでもないよ。俺たちだけなら中で好きなことできるしな)」

部活動を再開させると聞いたときは少し面倒だと思ったけど、よくよく話を聞いてみると、部室はまだ残っているし顧問の先生もダニエル先生の方で探してくれるそうだ(ダニエル先生は非常勤講師のため、部活の顧問にはなれないらしい)。

「Then, let's join together!(それなら、一緒に入りましょ!)」

そう言ってはしゃぐ彼女を見て、俺は思わず笑いが込み上げてしまう。彼女は眉をひそめて、不満そうにしゃべった。

「What's so funny.(何がおかしいのよ)」

「It's just, you didn't join the basketball club, and now you are saying you want to join a club you don't even know well.(いや、ただ、バスケ部には入らなかったくせに、今はよく知りもしない部に入ろうって言ってるからさ)」

そう言えば、結局、彼女がバスケ部に入らなかった理由って何なんだろう。

当の彼女は「Shut up!(うるさい!)」と言って両手で俺の体を押してくる。

「We just have to think about what to do then!(それなら何をするのか考えればいいだけじゃない!)」

学校を出るときには、すでに日が落ちかけてあたりは薄暗くなっていた。まだ事実上は存在すらしていない部活動の活動内容を決めるために、あれから2時間も教室で話し合ったのだ。

校門で「彼女」を見送ると、突然後ろから声をかけられた。

「あれ、陽やん!」

振り返ると、陽菜が女バスの友達と一緒に校門から出てくるところだった。

「あ、この人が例の陽くん?」

「そうそう、この人が例の彼よー」

俺の目の前で陽菜の友達がそんな会話をし始める。その中には先日の3on3で会った咲もいた。

「おい、俺はどんな例になってるんだ?」

「まあまあ、そんなことよりこんな遅くまで何しよったと?」

俺の質問を「まあまあ」で流してくるとはさすが幼少期からの付き合いだ。なんともに落ちないけど、こういうのは言ったもん勝ちだから、今はもう大人しく質問に答えるしかない。

「実はシャーロットとESS部に入ろうってことになってさ」

そう言ったとたん、女バスグループから「うわー、やられた」だったり「さすが例のあの人」だったり、しまいには「泥棒猫やん」というヤジまで飛んできた。

「別に俺は何もしてねーからな!」と反論したら、彼女たちからは「はいはい」と流されてしまった。「まあまあ」で俺の質問を流す陽菜に、「はいはい」で俺の意見を流すその友達。俺はこの部活に入ることがなくて本当に良かったと思った。

陽菜と2人で帰りながら、先ほどの話の続きをする。

「まさか陽が部活動に入ることになるなんてねー」

「まあな」

陽菜はまた嬉しそうな表情をする。ここ数日、「彼女」や俺自身の話をするとき、なぜか陽菜はこれまで以上に嬉しそうにふるまっていた。

「ねぇ、なんか陽って変わったよね」

「うーん、そうか?」

こういうことは自分じゃよくわからない。確かに、高校に入ってからは普段の俺だったら絶対にしないようなことをいくつもやってきた。でもそれは、俺の本質が変わったというよりも、新しい状況に置かれて、単に今まで出なかった俺の側面が出るようになっただけなんじゃないか。

「うん、変わった! なんか明るくなったって言うか、色が増えたって言うか、とにかく前よりたくさん表情を見せるようになったと思う!」

「まあ、少なくともここ最近は、お前らのおかげで色んなことが起こっとるけんな」

「ふふ、お前らのおかげ、ねぇ」

「なんだよ」

「それは皮肉で言ったのか、それとも本当に私たちのおかげって思ってるのか、どっちなんかなぁって思って」

「皮肉に決まっとるやろ」

「それじゃあさ、1つだけいていい?」

「なんだよ」

「高校に入学したばかりの時と今を比べてさ、どっちの方が楽しい?」

……。陽菜にはすべてお見通しなのか。

まったく、悔しいな。

「……今だよ」

ちょうど俺の予想していた通り、陽菜はなお嬉しそうに、にっこりと笑った。

第5話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

今回は、第5話で多く使用した皮肉表現について解説します。

まずは「Because I wanted to. Pretty simple.(連れてきたかったからよ。簡単じゃない)」と言うシャーロットに対する陽の「How reasonable.(そいつは納得だ)」という返しについてです。

「How reasonable」は直訳すると「なんて道理に合っているんだ」や「なんて筋が通っているんだ」となります。「How + 形容詞」で「なんて形容詞なんだ!」という強調表現です(同様の強調表現として、第1話で「What + 名詞」を解説しました)。「How beautiful you are.(君はなんて美しいんだ)」なんていうのはナンパにも使えるかもしれません。結果は保証しませんが。

「Because I wanted to.(連れてきたかったからよ)」という、めちゃくちゃな返答に対して「なんて道理に合っているんだ」とあえて反対のことを強調して言うことで、それが皮肉だとわかりやすくなっています。皮肉を言うときにあえて強調の単語や表現をくっつけるのは日本語も英語も同じみたいです。

ちなみにですが、「Because I wanted to.」の「to」には本来「bring you(あなたを連れてくる)」が続きます(陽が「And...why did you bring me here?(それで、どうして俺をここに連れてきた?)」と尋ねているため)。ただ、すでに分かり切っていることなので「to」以降が省略されているわけです。

続いて、「And who did you say was stupid, Ms. genious?(天才的だな)」というセリフ。これは一度会話の流れを踏まえた方がわかりやすいと思います。

ESSが何の略なのかという話になり、「Extremely Special...(めちゃくちゃ特別な……)」→「What a stupid answer.(バカな答えね)」→「Well then, tell me what "ESS" stands for.(それじゃあ、ESSが何の略か言ってみろよ)」→「Ah..., Especially Special...(ええっと、特別に特別な……)」→「And who did you say was stupid, Ms. genious?(天才的だな)」と進みます。

自分のことをバカにしておきながら、結局、自分と大差ない回答をしたシャーロットに対して「And who did you say was stupid, Ms. genious?(それで誰がバカだって言った、天才さん?)」と返しているのです。当然、日本語ではこんな言い方しませんから、対訳では「天才的だな」としています。

「Ms.」「Mr.」に形容詞をつけることで「ザ・形容詞な人」と言ったニュアンスの意味になります。例えば「Mr. Right」という表現は「理想の男性」を意味します。女性たちが「I haven't met Mr.Right yet.(まだ理想の男性に出会っていないの)」といった感じで使うそうです。

ちなみに、第2話での会話になるのですが、陽菜に対してシャーロットが英語で話しかけるのを見た陽が、「...She has just made it clear 15 seconds ago that she doesn't speak English at all, and now you are talking to her in English?(……たった15秒前に英語しゃべれないってはっきり言ったのに、もう英語でしゃべりかけんのか?)」と言っています。

嫌味に聞こえるかもしれませんが、これも英語ではわりと聞くタイプの皮肉表現です。時間を使った表現は、他にも例えば「At one moment you are studying, and the next(moment)you are sleeping.(あるとき勉強してると思ったら、次の瞬間にはもう寝てるのか)」というものがあります。

最後に、もしも皮肉を言いたいのなら、「Look who's talking.」という表現がかなり使えると思います。直訳すると「誰がしゃべってるのか見ろよ」ですが、これで「誰が言ってんだよ(お前もそうだろ)」という意味になります。

例えば、あまり成績の良くない友人から「You have to study harder or you'll fail the exam.(もっとちゃんと勉強しないと試験に落ちるぞ)」などと言われたときは、ぜひ「Look who's talking!(お前もだろ!)」と言ってみてください。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!