Menu

第3話:For Whose Sake?

  1. トップページ >
  2. Do you speak English? >
  3. 第3話:For Whose Sake?

1ページにまとめて読む/複数ページに分割して読む


第3話:For Whose Sake?

――ウィィィン、ウィィィン

スマホのバイブレーション音で目が覚める。俺は小さな音でも目が覚めてしまうタイプだ。

……せっかくの休日なのに。

そう心の中でぼやきながら、手探りでスマホを掴み、まだ少しぼやける視界で画面を確認する。

……陽菜か。

あまり良い予感はしなかったが、陽菜からこうして連絡が来るのは珍しい。とりあえず、画面をタップして着信に応じる。

「もしもし」

「あっ、やっと出た! おはよー、もしかして寝起き?」

「ああ、快眠やったよ。邪魔されるまでは」

「快眠ってもう9時やん。これ以上寝てたら惰眠だみんになっちゃうよ? ちょうど良かったんやない?」

「……。それで何の用なん?」

「今日の昼過ぎ、良かったら薬院に来てくれん?」

「…………」

なぜだ、と聞くのは野暮だろうか。

「どうせ今日暇やろ?」

ほんとに暇なのが悔しい。

「……わかった」

待ち合わせの時間と場所だけ聞いて電話を切ると、俺はしぶしぶベッドから起き上がって、朝食を食べにリビングへ向かった。

昼過ぎ、指定されたカフェに着いて入口の扉を開ける。すぐに店員が挨拶してきたから、こちらもとりあえず会釈で返す。この店は1階がカウンター席で、テーブル席は2階にあるらしい。俺は階段を上がり、陽菜がいるであろうテーブル席へと向かう。幸いにもこの店はそれほど広くなかったため、階段を上り切るとすぐに彼女を見つけることができた。

「ハロー」

「Hello!」

なんとなくそんな気がしていたけど、手を上げて合図をする陽菜の隣には「彼女」が座っていた。

「...somehow, I knew this was going to happen.(……こういうことだと思った)」

「え? なんて?」

首をかしげる陽菜とその隣でくすくすと笑う彼女。

部屋のあちこちに設置されている照明には優しい光がともっていて、店内を流れる落ち着いた曲調の洋楽ととても合っている。焦げ茶色の本棚や正面の壁に掛けられている若い外国人の肖像画がやたら印象的で、それらがこの空間にレトロな雰囲気をかもし出していた。高校生にはちょっとおしゃれすぎるんじゃないか。

俺は少しためらいつつも席について2人と対面する。すぐに店員が注文を取りに来た。カフェなんてめったに来ないから何を頼めばいいのかわからない。苦しまぎれにメニューの一番上にあったブレンドのコーヒーを頼んでおいた。

「へぇ、陽ってコーヒー飲めるんだぁ」

「そう言う2人は何飲んどるん?」

「2人とも紅茶」

だったら、俺も紅茶で良かった。実のところ、コーヒーはあまり好きじゃない。なんならオレンジジュースの方がずっと好きだ。これだから慣れないことをするのは嫌いなんだ。

「ハル、げんき?」

彼女がにこやかにたずねてくる。きっと英語の「How are you?」をそのまま訳して使ったんだろう。

「うん、元気元気。2人はなんの話をしてたの?」

彼女と陽菜は互いに向き合ってニヤッとする。その反応に、「あ、これめんどくさいことになるな」と俺の直感が告げる。

「ハルのこと話してた!」

まあ、そりゃあそうだろう。この2人が共通で話せる話題として、一番最初に浮かび上がるのはきっと俺のことだ。

「それは俺がいかに素晴らしい人間かって話?」

「え?」

彼女の反応に陽菜は声を上げて笑う。

「Were you talking about what a wonderful person I am...., don't make me say it twice. It's embarasssing.(俺がいかに素晴らしい人間かって話してたのか……、2回も言わせないでくれ。恥ずかしい)」

「Hehehe, oh yeah, we were talking about how wonderful you are.(ふふふ、そうよ、あなたがいかに素晴らしいかの話をしてたの)」

笑いながら抑揚よくようをつけてわざとらしくしゃべる。英語がわからない陽菜でさえ俺がバカにされたのがわかったんだろう。一緒にクスクスと笑われた。

「Alright then, I guess I should be getting home now.(そうか、それじゃあ俺はそろそろ家に帰るよ)」

席を立つそぶりをすると、彼女がすぐに俺を引き留める。

「No way! Don't be ridiculous!(ちょっと! バカなこと言わないでよ!)」

はぁ、と一息ついて陽菜に視線を移す。

「それで、今日はなんでここに集まったん?」

このタイミングで、先ほど俺が頼んだブレンドコーヒーを店員が運んできた。そして、まるで俺をじらすみたいに、丁寧にプレートの上のコーヒーとミルクと砂糖をテーブルの上に置いていく。最後に店員がお辞儀をして1階へ戻っていったところで、ようやくまた陽菜に視線を戻すことができた。

「実はね、今日はこれからどうやってみんなにシャーロットのことを知ってもらおうか考えようと思って呼んだんよ!」

満を持して陽菜の口から出てきた言葉は、やっぱり俺の想定した通りの内容だった。ただ1つ、感心させられたのは、陽菜が「彼女」のことをもう呼び捨てにしていたことだ。

「知ってもらう、ねぇ」

「彼女」もうんうん、と頷いている。

「If you want to get to know other students, why did you act so passive in the first place. I mean, everyone was trying to talk to you.(もし他の生徒と知り合いになりたいなら、そもそもどうしてあんなに消極的になってたんだよ。みんなあんなに君と話そうとしてたじゃないか)」

俺の疑問に彼女は顔を曇らせる。まずい、嫌な思いをさせてしまったか、と慌てて謝ろうとしたが、それよりも彼女の返事の方が先に返ってきた。

「Yeah, I know, but I didn't know what to do. I didn't understand what they were saying very well and I had never talked with Japanese people before. Honestly, I was a little bit scared.(そうだけど、どうすればいいのかわからなかったのよ。みんなの言うこともあまり理解できないし、それにそれまで日本人と会話したこともなかったから。正直、少し怖かったの)」

「Ah, I see. Sorry if I made you feel uncomfortable. Does that mean you feel alright talking with other students now?(そ、そっか。もし嫌な思いをしたならごめん。それは、今はもう他の生徒と話すのは大丈夫ってこと?)」

「...Not really, If I'm alone, I wouldn't be able to make even a single friend. I could be frineds with Hina all thanks to you, and now she is saying she will help me get to know other students. That's why I can be so possitive talking with them.(……いや、そうじゃないの。もしも私だけだったら、誰一人友達を作ることはできないわ。陽菜と友達になれたのは全部あなたのおかげで、そして今は彼女が、私が他の生徒と知り合うのを手伝ってくれるって言ってるの。だから、他の生徒と話すことにも前向きになれてるの)」

「Now I see it.(そういうことか)」

今度は陽菜の方を振り向く。

「陽菜は知り合いを増やすにはどうすればいいと思ってるん?」

すでに俺たちの会話を聞き取るのを諦めてスマホをいじっていた陽菜が、「え?」と頓狂とんきょうな声を出す。

「お前な……」

「あ、ごめん、わからなさすぎてつい……。やっぱり誰も彼もって言うよりはシャーロットと合いそうな人を少しずつ紹介していった方がいいと思うなぁ」

「俺もそう思う。少なからず言語の壁がある以上、できれば同じ趣味とか共通の話題を持った人と知り合った方がいいやろうな。シャーロットさんは何か趣味とかあるの?」

陽菜がわかるように日本語で、「彼女」がわかるようにゆっくりと、質問をする。

「うーん、趣味……。あっ、basketballをやってたよ」

バスケットボールの発音良すぎだろ、と心の中でツッコミを入れるのと同時に、案の定、陽菜がパッと顔を輝かせて前のめりにしゃべりかける。

「バスケやると!? それなら一緒にしよーよ! 私、バスケ部入るんよ!」

やはり聞き取れなかったようで、仕方なく今の発言を通訳をする。

「うーん、でも日本語がわからない……」

「不安ならさ、昼休みに一度、私の友達と一緒にちょっとだけバスケしてみん? 何人かもうバスケ部に入るって決めた友達がおるんよ。それで、うまくいきそうやったら部活に入ればいいけん!」

今度は彼女が理解できるように、陽菜はゆっくりとしゃべっていた。

「うん、それならやる! ありがとう!」

「良かった! そしたら詳しいことが決まったら連絡するね!」

これなら俺がいなくても別に良かったじゃないか、と頭の片隅で思いながら、話がうまくまとまったことに安心していると、急に陽菜が「あっ」と何かに気付いてこちらを見てきた。苦笑いをしている。表情から察するに、それはおよそ良いことじゃない。

「……なんだよ」

「いや、その一緒にバスケをする友達ね、全部でまだ3人しかおらんっちゃん」

「…………」

陽菜と「彼女」を合わせて都合5人。この数字は中途半端だ。

「陽が入ってくれれば3on3ができるんやけど!」

「そんなピエロには絶対ならん」

女子5人に男子1人が混じってバスケをするなんて恥さらしもいいところだ。大体、それだと俺がみんなの前で通訳要員にさせられる可能性だってある。

「ま、まあ、これからバスケ部に入る子も増えてくるし大丈夫やと思うけど、もしもの時は考えてみてね」

陽菜が「あははは……」と力なく笑ってごまかす。いくら考えてみても結論が変わらないことはわかっている。とは言え、まだ俺が参加しなくて済む可能性もあるのだから、今の時点でわざわざかたくなに断ることもないだろう。俺は陽菜の言葉を黙殺しておくことにした。

「ま、とりあえず今日はこんな感じでいいやろ」

これからすることは決まったし、思ったより苦かったけど、何とかコーヒーも全部飲み干した。結局2時間ほど話して俺たちは店を出ることにした。

俺が伝票を確認しようとすると、「彼女」がそれをスッとテーブルの上から取り上げる。

「今日は私が払う!」

彼女が笑顔で言った。

そう言ってくれるのは嬉しいが、女子に払わせるのはなんだか気が進まない。

「いいよ、自分の分は自分で払う」

陽菜も俺の言葉に続く。

「そうよ、気にせんで!」

「ううん、払わせて! その代わり、」

彼女がこちらを向く。

「Call me Charlotte. You added "San" at the end earlier. Just drop it!(シャーロットって呼んで。さっき「さん」って付けてたよね。「さん」付けはなし!)」

意外にも、彼女は本当に不満そうだった。アメリカ人が、男女構わず、さん付けなんてしないで下の名前で呼び合うことは知ってるけど、彼女にとって、それはそんなに変なことなのだろうか。

「You cared such a little thing.(そんな小さなことを気にしてたのか)」

「If you don't say yes, I'll make you pay double!(もし「うん」って言わないなら、2倍払ってもらうわよ!)」

その理不尽さに思わず笑ってしまう。もちろんこっちとしても、別にさん付けすることにこだわってるわけじゃない。

「You leave me no other choice. Alright, will do.(それ選択肢ないじゃんか。わかった、そうするよ)」

「And......」

なんだ、まだ何かあるのか? 結局2倍払わせられるんじゃないだろうな。

ところが、俺の予想に反して、彼女はいきなり両手で俺の右手を優しく握ると嬉しそうに言った。

「Thank you so much for everything you did for me! I couldn't be more grateful. You are so nice. Even though you think you are boring, I'm actually having so much fun with you.(今まで本当にありがとう! 感謝してもし切れないわ。あなたは本当に優しくて、自分ではつまらない人間って思ってるけど、私はあなたといてとっても楽しいわ)」

その言葉に、俺はどう反応していいのかわからなかった。素直に照れることも、ありがとうと喜ぶこともできない。当然だ。俺がこんなことをしているのは全部自分のためなんだから。

結局、少し遅れて俺ができたことは、無理やり笑顔を作って「You're welcome.」とありきたりな返事をしてごまかすことだけだった。

週が明けて、ふたたび学校が始まる。

先週と比べて変わったことは、陽菜が積極的に「彼女」に話しかけるようになったことだ。そのためか、今朝は「彼女」が俺のところまでわざわざ話しかけに来る、ということもなかった。

「なあ、麻生って許斐さんの従姉妹なんやろ?」

昼休み。ここ数日で一緒に昼ご飯を食べるようになった2人の男子のうち、片方が俺に尋ねてくる。

「うん、そうやけど」

「なんでいきなりシャーロットさんと仲良くなったん?」

そう言われて、彼が見ている方向を振り向くと、陽菜が「彼女」と2人で教室を出ていくのが見えた。きっと一緒に学食でも食べるんだろう。言われるまでまったく気付かなかった。それに比べて、俺は事情を知りながら、何もせずただ素知らぬ顔でここに座っている。なんだか罪悪感を感じた。

しかも、それだけじゃない。俺はこれから彼の質問に対して嘘をつこうとしている……。

「いや、俺も詳しくはわからん」

「そっか。この前、シャーロットさんがお前に話しかけてたのも、それに関係してんのかと思ったけど」

「あ、ああ。まあ……」

自分がとんでもなく小さな人間に思えてくる。この気持ちはなんだ。こんなはずじゃなかったのに。

余計なやぶをつつくことになるとわかっていたけど、なんだか無性に気になって、俺はおそるおそる尋ねてみた。

「……やっぱりみんな、シャーロットさんのこと気になるん?」

「まあ、なんつーか、みんな気になっとるけど話せないって感じよな。そのせいで、シャーロットさんが1人になってるのはわかっとるけど。やけん、純粋に許斐さんと仲良くなったんなら良かったって思っとるんやない?」

まるで人の気持ちを代弁しているかのような口ぶりだけど、それは間違いなく彼自身が思っていることだ。

「……お前って思ったよりいいやつなんやな」

「うっせーよ」

そんなことがあって、俺はやっぱりこのまま彼女の謝意を受けるのは違うと思った。俺が陽菜のことを紹介したり、「彼女」の友達が増えるよう協力したりするのは、それが少なからず自分の為になるからだ。それが彼女の希望にもかなうんだから、その行為自体が悪いとは思わない。だけど、そんなお為ごかしが感謝されるのはずるい。

人間性で言うのなら、陽菜や、さっきの彼の方が、俺なんかよりよっぽど感謝されるべきだ。だから、放課後にちゃんと彼女に話そう。話して…………。

5限目の授業は時間割を変更して、クラスの係決めにてられた。大楠先生が黒板に1つずつ係を書いていく。そのすぐ横に、やっぱり振り仮名をふって。

「それではこの中から、みなさんのやりたい係を1つ選んでください。被ったらじゃんけんですよー」

へりくつを言うとやりたい係なんてないが、みんな必ず何かしらの係をすることになっている。そうなると、人気なのは家庭科や音楽・美術といった仕事の少ない係だ。

個人的には、クラス委員にさえならなければあとはどうでも良かった。面倒ではあるけど、どの係もそれほど重労働が課せられるわけじゃない。家庭科や音楽・美術の係も、わざわざじゃんけんを勝ち抜いてまでなろうとは思わなかった。

結局俺は、他に誰も手を挙げないことを確認してから、自ら手を挙げ、国語係を拝命することにした。

自分の係が決まったのだから、本来ならばあとの係決めは俺にとってまったく関係ないことだ。いや、その事実は最後まで変わらないのだけど、係決めが進むにつれて、なんだか嫌な予感がおりのように頭に残って積もっていく。そして、これを感じているのはおそらく俺だけじゃない。

先生が係の希望を一通り訊き終わる。つまり、じゃんけんに負けて係になれなかった生徒はいるものの、全員がいずれかの係に立候補はしたはずだ。

…………。

そう、少なくとも1人、立候補しなかった生徒がいる。そして、それに気付いたのは、当然、立候補しなかったのが「彼女」だったからだ。

「これで1周終わりましたね。他にまだ手を挙げてない生徒はいませんかー?」

「…………」

数人の生徒が彼女の方を見る。やっぱり、どうしても目立ってしまうのか。彼女も仕方なく、ひかえめに右手を挙げた。

「まだ埋まってない係がいくつかあるけど、シャーロットさんはどれがいいですか?」

「えーっと……」

しばらくの沈黙ののちに、彼女は申し訳なさそうに尋ねる。

「……かかり、ってなんですか?」

あちゃ、と心の中でつぶやく。これは難儀だ。

俺の知る限り日本語の「係」に相当する英単語は存在しない。日本語で上手く説明できればいいけど。

先生は色々と言い方を変えて説明をこころみた。だけど、案の定、彼女はピンと来ていないみたいだ。国語の先生をもってしても、みんなが当たり前のものとして共有していることを、前提知識を持たない外国の人に説明するというのは難しいらしい(そもそも、彼女が先生の日本語をすべて理解できているのかもわからないが)。

俺は困った様子の「彼女」を見ながら、ふたたび胸の中で葛藤かっとうが渦巻くのを感じていた。

「うーん、私、英語は全然できないのよね。誰かしゃべれたりしません……よねー?」

放課後になったら彼女に話そうと思っていた。俺はそんなに良い人じゃない、それよりも陽菜や、他のクラスメイトに彼女のことを心配してくれてる人がいるんだから、感謝をするなら彼らにしてくれ、と。だけど、そんなことを言われて彼女はどうすれば良いんだ。それじゃあただ、逃げてるだけじゃないか。自分の気持ちにケリをつけたいのなら、するべきは責任を取ることだろ。そして、それはつまり……。

――ガタッ

席を立つ音が周囲の視線を引き寄せた。

色んな思いが頭の中を駆け巡る。それと一緒に、これまでのことがフラッシュバックのようによみがえってきた。こんなところで疑似ぎじ走馬燈そうまとう体験をするなんて。

ここ最近、一緒に昼ごはんを食べてくれていた2人も、俺がこんなことをしたら、明日から少なからずよそよそしい態度になってしまうのだろうか。いや、2人だけじゃない。クラスメイト全員が俺のことをちょっと変わったやつだと見るようになるかもしれない。別に友達をたくさん作りたいなんて最初から思っていなかった。だけど、輪から外れたことをするつもりはもっとなかったのに……。

――でもね、それでもっと色々知りたいなって思った。もっと色んなことを話してみたい。やけん、ここで周りを気にして一歩引いちゃう方が私は後悔すると思う!

その言葉を聞いたとき、がらにもなく感動したんだよな。それに、陽菜だけは何があっても同じように俺のことを受け入れてくれると思った。だから、なのかはわからないけど、たとえみんなの輪から外れてしまったとしても、今は、もういいかって思えるんだ。

「彼女」の方を向いて、小さく息を吸い込む。よくわからなかったけど、視界の片隅で陽菜が微笑ほほえんだような気がした。

「"Kakari" is kind of class duty. You have to do something according to the Kakari you are in charge of. Say, "Kokugo Gakari" is Kakari for Japanese class. You gather everyone's homework and help the teacher give handouts to the students.(係はクラスの仕事みたいなものだ。自分が担当になっている係によって、何かしないといけない。例えば、国語係は国語の授業のための係で、みんなの宿題を集めたり、先生がプリントを渡すのを手伝ったりする)」

教室に俺の声が響く。それ以外の音は何もない。自分でも一瞬、時が止まったんじゃないかと、バカげたことを思ってしまったほどだ。

「Everyone has to pick up one Kakari. There are not so many left now but I reccomend you take Eigo Kakari. Then, you......wait, why am I standing!?(みんな必ず1つの係を選ばないといけないから、もうあまり選択肢は残ってないけど、英語係がいいと思うよ。そしたら……いや、待て、なんで俺立ってんだ!?)」

そうだよ、そもそも俺が立つ必要なんてないじゃないか。当の「彼女」でさえ座ってるんだ。先生と俺の2人だけしか立っていないこの状況じゃ、はたから見れば問題を抱えているのは彼女じゃなくて俺の方だ。

「Now, I don't even know when to sit......(もう、座るタイミングもわからん……)」

「Kufuf......Ahahaha.(くふふ……アハハハハ)」

彼女もこらえきれなくなって笑い出す。これで、クラスに聞こえる音が俺と彼女の声になった。

「Thank you. I know you didn't want to speak English here.(ありがとう。本当はみんなの前で英語は使いたくなかったんでしょ?)」

「Don't thank me. I'm just doing what I should do for myself.(ありがとうなんて言う必要はないよ。俺はすべきことを自分のためにやってるだけだから)」

「Ahaha, but I still thank you.(アハハ、それでも感謝するわ)」

そう言う彼女の表情がとても嬉しそうだったから、俺はまた、このせいでみんなと距離ができたとしてもまあいいかと思ってしまう。俺の頭も心も、いつの間にこんなに抜けてしまったのか。

「Anyway, which Kakari do you choose?(とにかく、どの係をやりたい?)」

彼女はすぐに満面の笑みを浮かべて答えた。

「Whichever you are in charge of!(あなたと同じならどれでも!)」

第3話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

第3話では最後に「係」という言葉を説明するシーンがありました。日本人では誰もが知っているであろう言葉・概念ですが、外国の人だと事情が異なります。

私が調べた限りでは「係」にぴったり適合する英単語は見つかりませんでした(というか日本の学校にある「国語係」「数学係」といったシステムがアメリカの学校に存在するんですかね?)。

関連する英語で「class rep(repはrepresentativeの略)」→「クラス委員」、「I'm on class duty today」→「私が今日の日直です」という単語・表現はあります。ですが、その仕事内容も日本のものとは違うのかもしれません。文化や教育システムが違うので当然と言えば当然なのですが。

それではこのようなとき、どうやって「係」を相手に伝えるかですが、これはもうかみ砕いて説明するしかありません。英語で「係」を説明するときに役に立ちそうな表現が「in charge of~(~を担当している、任されている)」や「be responsible for~(~の責任がある)」です。

例)「He's responsible for gathering everyone's homework(みんなの宿題を集めるのは彼の責任だ)」

ただ、ちょっと仰々ぎょうぎょうしかったり、堅いかんじがあるので、単純に「He has to gather everyone's homework(彼がみんなの宿題を集めなければならない)」とかでもいいと思います。

例)「それは彼の係です」→「That's what he has to do(それは彼がしなければいけないことです)」

言語も文化も育った環境も違う相手に対して何かを説明するときには、母国語に引っ張られずに、上記のように同じような意味になる表現を使って意訳してしまうのが一番だと思います。「それは彼の係です」→「That's what he has to do」は厳密には同じ訳とは言えませんが、相手に伝わる情報としては同じものになるはずです(この文脈での「係」は結局のところ「やらなければならないこと」を指すので)。

以上を踏まえると、英訳がある程度簡単に思えてくるのではないでしょうか。仕事など、ちゃんとした場では事情が異なるのかもしれませんが、大抵のことは、いかに元の日本語が難しかったり英語に同様の単語・表現がなかったりしたとしても、同じ情報を持つ意訳に変えることで対処できると思います。

文脈にもよりますが、「なんでやねん! もうええわ!」→「No way! That's enough!(ありえない! もう十分だ!)」、「覆水盆に返らず」→「You can't take back what you already did(すでにやったことは取り消せない)」、「古池や、蛙飛び込む水の音」→「The sound of a frog jumping into the old pond(蛙が古い池に飛び込む音)」というように意訳することで相手に同様の情報を伝えることができます(最後については、情緒もへったくれもなくなってしまいますが……)。

ちなみにですが、実は「覆水盆に返らず」にはそれに対応する英語の表現があります。「It is no use crying over spiltmilk(こぼれたミルクを嘆いても何にもならない)」と言います。もしも覚えていればこちらを使えばよいでしょう。

続いて、最後のセリフである「Whichever you are in charge of.(あなたと同じならどれでもいいわ)」の解説を簡単にしようと思います。

「whichever」=「no matter which」で意味は「どれを~しようとも」となります。

例)「Whichever you choose, I respect it(どれを選ぼうと、君の選択を尊重するよ)」

また、「どれだとしても~」という意味もあります。

例)「I respect whichever choice you make(どれであっても君がする選択を尊重するよ)」

今回は麻生陽から「Which kakari do you choose?」と訊かれているので「Whichever(kakari)you are in charge of(, I'll choose it).」と分かりきっている部分を省略して返しています。日本語でもわざわざ「あなたが担当する係ならなんであれ、それを選ぶわ」ではなく、単に「あなたが担当する係ならなんでも」というふうに略して答えますよね。

細かい文法の説明は飛ばしているので、かなり雑な解説になってしまったかもしれませんが、そこらへんは追々書いていこうと思っています。引き続き、よろしくお願いします!


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!