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第2話:She Has Come.

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第2話:She Has Come.

翌朝、重たいまぶたをこすりながら、いつものように遅刻ギリギリに登校する。

教室のドアを開けて、「おはよ」の声をかけてくれる数人の生徒に挨拶をして、自分の席に座った。

ちらりと、2列はさんで向こうの席に座っている「彼女」を見る。彼女もこちらに気づいて、ニコッと笑顔を返してきた。

―――――

「Do you,... do you speak English?」

「Yeah, I do.」

それを聞いた彼女は、パッと明るくなって嬉しそうにしゃべる。

「That's great! I finally found someone I can talk with in English!(良かった! やっと英語で話せる人を見つけた!)

Why didn't you tell me earlier? then, we could have been frineds......(どうしてもっと早く教えてくれなかったの? そしたら友達になれたのに……)」

そこまで言って、何かに気付いたみたいに今度はハッとして、急に不安そうな顔をした。

「...or...you didn't wanna be frineds with me?(……それとも私と友達になりたくなかったの?)」

彼女は慌てて付け加える。

「I'm sorry if that's how it is. I just wanted to say "thank you" anyway.(もしそうならごめんなさい。なんにせよ、私はただお礼が言いたかっただけだから)」

「No, it's not like that.(いや、そうじゃないよ)」

俺はここでどう返事すれば良いのか迷って、少し考えてから、ゆっくりと説明を始めた。

「I just didn't want to stand out. I think I'm the only student in this school who speaks English, and I don't like it when other students think I am different.(ただ目立ちたくなかっただけなんだ。きっと、俺がこの学校で英語をしゃべる唯一の生徒で、他の人に俺はみんなと違うんだって思われるのが嫌だから)

This may be a japanese sense that you don't understand, but that is why I didn't talk to you in front of everyone. That's all.(もしかしたら君には理解できない日本的な感覚かもしれないけど、だから俺はみんなの前で君と話さなかったんだ。それだけだよ)」

彼女は黙って、じっとこちらを見つめる。

俺は上手く説明できただろうか。彼女の気持ちを傷つけてはいないだろうか。いずれにせよ、英語がしゃべれるにも関わらず、今まで何もしてこなかったのは事実だ。そのせいで、きっと彼女はここ1週間ほど寂しい思いをしていた。

困っている人がいたら手助けをしたい。たとえ、それが自己満足から行うものだとしても、結果として相手が助かるならそれは良いことだと思う。ただ、俺には「自分が人を助けるんだ」という気概きがいは毛の先ほどもない。だから、他の誰かが同じように助けるのであればその人に任せる。何より、俺は自分の気持ちを犠牲にしてまで他人を助けようとはしない。

決して無理はせず、できる範囲で各々が手助けをする。それが最も総余剰の増えるやり方なんじゃないか。

「As I said, I don't want to do anything that makes me stand out in the classroom. I'm sorry. But, whenever there is no one around, you can talk to me just like you did today. Besides, if there is anything I can do to help you, I'm also willing to do it. Just let me know.(さっき言ったように、俺はクラスで目立つようなことはしたくないんだ。ごめん。だけど、誰もいないときなら、今日みたいにいつでも話しかけてよ。それに、もしも俺に何かできることがあれば何でもする。そのときは教えてくれ)」

この発言が彼女にどう受け取られるのか。俺は少し緊張していた。

日本人が相手ならこの感覚を理解することはそれほど難しくないと思う。だけど……。

「I guess......(うーん……)」

彼女は少し気難しい顔をして言い返す。

「Things are really different here.(ここは色々と勝手が違うのね)」

「Yeah, maybe, different from your country.(たぶん、君の国とはな)」

「Anyway, let me get this straight. You don't dislike me or anything, do you?(とにかく、確認するとあなたは私のことが嫌いなわけじゃないのね?)」

「No, I don't.(うん、違うよ)」

「Then, do you mind being friends with me?(それなら、私と友達になるのは嫌?)」

俺は思わず言葉に詰まってしまった。

そう来るのか?

間違いなくここまでの俺の対応は友好的じゃなかった。それに、俺は何かあれば手助けをするとしっかり伝えたのだ。それなら、彼女が俺と友達になろうとする理由はもうないんじゃ……。

もちろん彼女と友達になりたくないわけじゃない。ただ、このに及んで彼女がそう言ってきてくれることに驚いたのだ。

「No, not at all.(いや、まったく嫌じゃないよ)」

そこで口を閉じても良かったのだが、俺はつい余計なことを言ってしまう。きっと、自分の理解できないことが起こって居心地が悪かったんだ。

「But, just so you know, I'm not the type people will have fun with hanging around. I'm basically boring.(ただ、念のため言うけど、俺と一緒につるんでも楽しくないと思うぞ。俺は基本的につまらない人間だ)」

それを聞いた彼女は「アハハハハ」と声を上げて笑う。言うまでもなく、俺の居心地はさらに悪くなった。もう彼女の返事を聞く前に帰ってしまおうか。

「I would never meet anybody who says such a thing if I didn't come to Japan.(もし日本に来なかったら、そんなこと言う人にも出会わなかっただろうなー)」

気付けば、彼女のしていた気難しい表情はいつの間にか俺の方に移っていた。

彼女はいまだに少し笑いを含みながら、

「I don't think it is you that judge if you are boring or not, but people around you do. As long as I have fun with you, no matter what you say, I'll hang around with you.(あなたがつまらない人間かどうかはあなたが決めることじゃないわ。周りの人が決めることよ。私があなたといて楽しければ、あなたがなんと言おうと私はあなたと仲良しでいるわ)」

そう言って、ウィンクをかましてくる。これがアメリカ人のフレンドリーさなのか? 教室で見てきたこれまでの彼女が嘘のようだ。

こうなったら俺から言うことはもう何もない。ただぶっきらぼうに返事をする。

「Alright. If you say so.(まあ、そう言うなら)」

「Well then, see you tomorrow!(それじゃあ、また明日ね!)」

「See you.(ああ、またな)」

―――――

どうせもうすぐ先生が来るだろうけど、俺は机の中にしまっている小説を取り出して読み始めた。ちょうど今がいいところなのだ。

「はる、おはよ!」

急に名前を呼ばれて思わず顔を上げる。このちょっと不自然な発音でしゃべる人間を俺は1人しか知らない。

持ち上げた視界に入ってきたのは、やはり「彼女」だった。

「あ、うん……。おはよ」

「昨日はありがとう」

いやいや、いきなりどうしたんだ。もう何か起こったのか?

周りの生徒たちが突然席を立った彼女に、そしてその彼女が初めて自分から話しかける相手である俺に、驚きと興味の詰まった熱い視線を注いでくる。俺はこういうのが嫌いなのだ。

「どうかしたん?」

俺はとにかく用件を聞き出すことにした。

「えっと、すみません。もう1回言ってくれますか?」

ああ、くそ……。

思わず頭を抱えたくなった。きっと方言や略した表現は彼女にはわからないんだろう。ところで、なぜそこだけ敬語なのだ。

「……何か俺にききたいことがあるの?」

「いいえ。でも、何もすることがなかったから来たよ」

何も用がないのに俺のところに来られたら、それこそみんなの注目の的じゃないか。

「俺、目立つのは嫌だって言ったよな? 君のことが嫌いとかそういうわけじゃないけど、ただ、純粋に人から見られるのが嫌なんだよ」

「うん、知ってるよ。だから日本語しゃべってる」

彼女は首をかしげる。本当に分かっていないのか。だが、彼女にそれを分からせるのはいささか残酷に過ぎる。

俺は言葉に詰まってしまった。

そのとき、ガラッと教室のドアが開いて先生が中に入ってきた。

みんなが自分の席に戻る。彼女も「またね!」と言って彼女の席へと戻っていく。

俺は、ずっと両手に開いたまま持っていた小説を、結局ほとんど読み進めることのないまま机の中にしまった。

彼女は、英語さえ使わなければ俺が目立つことはないと思っている。彼女自身が目立つ存在だということに気付いてないのか。そうでなければ、多少は気付いていてもそれが大したことだとは思っていないようだ。昨日のことを振り返ってみると、彼女はそもそもの前提として「目立つのが嫌だ」であったり「みんなと違うと思われるのが嫌だ」であったりの感覚を理解してないみたいだから、それもしょうがないことなのかもしれない。

じゃあ、俺はどうすればいい。俺は自分の立場を明確にしたつもりだった。明確にした上で、できることがあれば手助けをすると伝えたつもりだ。だけど彼女は、俺の意図を俺と同じようには受け取らなかった。別に彼女が悪いわけじゃない。どちらかと言えば、それは情報を発信する側の責任だ。

それに彼女と友達になることについてイエスと答えたことは事実だ。ここで、たとえ日本語であっても周りに人がいる時は俺にしゃべりかけるな、というのは彼女にとって不意打ちになってしまう。何より、そんなことを伝えるのは俺の本意ではない。

俺には「自分が人を助けるんだ」という気概きがいは毛の先ほどもない。俺でなくても誰かが彼女の友達として仲良くやってくれるなら、俺はその人に任せたい。それなら……。

こちらも本意ではないが、天秤てんびんにかければどちらに傾くかは明白だった。

あいつに相談するしかないか。

「ねえねえ、さっきのどうやったと?」

その「あいつ」は幸運にも自分から俺の元へとやってきてくれた。

「さっきのって」

もちろん検討はついてたが、あえて聞き返す。

「ほら、シャーロットさんに話しかけられてたやん。あの陽が。私、びっくりしちゃった」

「この陽で悪かったな。そのことで少し話したいことがあるんやけど、今日の放課後時間あるか?」

「うーん、放課後かぁ。部活の見学行きたかったんやけどなぁ。昼休みじゃいかんと?」

「すまん、できれば放課後がいい。見学が終わってからでいいけん、教室で少し話せんかな」

「うん、それならいいよ! 陽から誘ってくるなんて、なんか面白いことありそうやし!」

「それじゃ、あとは放課後のお楽しみやね」と続けてニヤッと笑うと、彼女はさっさと自分の席へ戻っていってしまった。なんだか小バカにされた気がしてに落ちない。

とは言え、その様子を見ながら俺は改めて思う。こんなことで頼るのはやっぱり不本意だけど、陽菜なら何とかやってくれそうな気がする。

「...How long is it gonna take her?(……あとどんくらいかかるんだ?)」

俺たち2人を除いて誰もいなくなった教室の片隅で、俺はついに不満をらす。

「How could I possibly know that.(私にわかるわけないでしょ)」

笑いながら、眉を上げて少し挑発的に返してくる。放課後に陽菜が来ることを伝えたら、「彼女」はこころよくそれまで待つことを受け入れてくれた。それどころか、待つのをずっと楽しそうにしているのだ。彼女にとって、新しい友達ができるかもしれないというのはやっぱり嬉しいことなんだろう。

ただ、肝心の陽菜が一向に教室に戻ってこない。すでに放課後になって2時間が経っていた。今朝けさ読めなかった小説はとっくに読み終わっていたし、2人で話す話題も尽きかけていた。まさか約束を忘れて帰った、なんてことはないだろうな。

「...I'm just talking to myself.(……ただの独り言だ)」

「Alright then. Go ahead and keep talking.(あらそう、それならどうぞ続けて)」

そう言ってまたクスクスと笑う。この小バカにされている気分、朝も味わった気がするぞ。

「うあっ」

突然ガラッと教室のドアが開いて、中に入ってきた陽菜の発した第一声がそれだった。

「やっとか、思ったより遅かったな」

こんなことなら事前に何時ごろになりそうかちゃんと聞いておけば良かった、と後悔するのも3度目に差し掛かっていたところだ。

「いやいや、それよりシャーロットさんもいるなんて聞いてなかったよ」

陽菜は驚きながら、教室のドアを閉めて俺たちの方へ向かってくる。

「言ってなかったけんな」

「言ってくれてたらもうちょっと急いできたのに」

「お前な……」

「それより!」

俺の目の前まで近づいてきて、ジロッと顔をのぞき込んでくる。

「これはどういうことなん?」

俺は「はぁ」とため息をつくと、陽菜から顔をそらして「彼女」の方を向く。

「You may already know, but this is Hina, my cousin. She is the one I wanted to introduce you to. I think you can get along with her well.(もう知ってるかも知れないけど、この人が陽菜、俺の従姉妹。君に紹介したかった人だ。仲良くなれると思うよ)」

「え? え?」

陽菜は完全に困惑していた。

「Oh, she is your cousin!? That's a surprise! I think we had a little chat on the first day. I'm sorry, I couldn't talk well that time.(うそっ、従姉妹なの!? びっくり! 私たち、初日に少し話したと思うわ。あのときはちゃんと話せなくてごめんなさい)」

「始業式のときはあまりちゃんと話せなくてごめんって」

「え? あ、いやいや……」

陽菜は俺と「彼女」を交互に見つめて口をあんぐりさせていたが、しばらくして急に俺の腕にしがみついてきた。

「うそーっ! 陽って英語しゃべれたの!? なんで!? どうやって!?」

……絶対こうなると思った。その様子をとなりで見ていた「彼女」はクスクスと小さく笑う。

「色々あったんだよ。それよりもお前に頼みがあるんだ。シャーロットさんと仲良くなる気はないか?」

「えっ、シャーロットさんと?」

「彼女」が俺以外の友達を作って楽しく過ごせるようになれば、俺が彼女を助ける必要も彼女が俺と仲良くする必要もなくなる。もしも俺と彼女の仲が続いたとしても、みんなも彼女と仲良くなっていれば、それが目立つこともない。いずれにせよ、彼女に他の友達ができることは俺にとって都合がいいのだ。そして、彼女も他の友達ができることを望んでいる。

もちろん強要する気はないけど、陽菜なら言語の壁さえなんとかすればきっと「彼女」と仲良くなれる。たとえそれが自分の為であっても、こうして試しに「彼女」のことを陽菜に紹介してみるのは悪いことじゃないはずだ。

「……あのさ」

陽菜は彼女の方を向いてゆっくりと話しかける。

「失礼なこときいて申し訳ないんやけど、日本語ってどのくらいわかるん? 始業式のときもさ、もしかしたら私たちの言ってることがわからなかったのかなって思って」

「彼女」は少し申し訳なさそうに答える。

「まだあまりわからない。早くしゃべったり、難しい言葉を使うと聞き取れないよ」

「そっかー、でも私、英語はてんでダメなんよなあ」

「てんでだめ?」

「あー、まったくできないってこと! できないことをわざわざ説明するのってなんか切ないなぁ」

そう言って、陽菜は笑う。つられて俺もふっと笑った。ただ、彼女だけはイマイチ理解できなかったみたいで、眉を少し下げて作り笑いをしていた。

「She had to rephrase the words just to explain that she doesn't speak English at all, which is a negative thing. So, she said it was a bit pathetic.(陽菜はただ英語がまったくできないことを説明するために言葉を言い換えないといけなかっただろ。それがちょっと切なかったってさ)」

「Hahaha, I see. I'm sorry I don't understand Japanese well.(ハハハ、なるほどね。日本語がちゃんと理解できなくてごめんなさい)」

陽菜の方を向いて彼女はそう謝る。

「...She has just made it clear 15 seconds ago that she doesn't speak English at all, and now you are talking to her in English?(……たった15秒前に英語しゃべれないってはっきり言ったのに、もう英語でしゃべりかけんのか?)」

「Ahaha, you're right, how silly of me. By the way, couldn't you be nicer than that?(アハハ、ほんとね、ばかみたい。ところで、もうちょっと優しい言い方してもいいんじゃない?)」

ふっと笑いがこぼれる。「I'll try.(努力はするよ)」と答えると彼女もアハハと笑って「Definitely you should.(そうしてちょうだい)」と返した。

「うん、これならいけるかもね!」

2人の様子を見ていた陽菜が出し抜けに言った。

「ん? いけるってなにが?」

「シャーロットさんと仲良くなること!」

「おお、それは良かった」

特に陽菜にそう確信させる何かが起こったようには思えなかったが、本人がそう言うのならいいだろう。これで俺は晴れてお役御免ごめん

「うん、陽の翻訳があればみんなと仲良くなれると思う!」

「は?」

俺は自分の耳を疑った。

「やけんさ、今の陽とシャーロットさんのやり取りを見てて思ったんよ! 陽が間に入って英語と日本語を翻訳していったらみんなと仲良くなれるんやないかって!」

「嫌だよ! そもそも俺がクラスで普通に話せる人って少ないし、いきなりでしゃばってもキモイやろ! つーか、さっきから間違ってるけどそれは翻訳じゃなくて通訳だ!」

「やけん、これを機会に陽自身も友達を増やせばいいやん。一石二鳥ってやつ? 翻訳でも通訳でもどっちでもいいけんとにかくやってみようよ!」

「Ah... sorry, I'm not sure if I'm keeping up with you right, but is she saying you can be a translator for me?(あの……ごめん、ちゃんと理解してるか自信ないけど、陽菜は陽が私のために通訳してくれるって言ってるの?)」

今度は「彼女」が俺に話しかけてくる。あぁ、日本語と英語を交互に使い分けるのって結構難しいんだぞ。

「Yeah, you are right.(うん、そうだよ)」

すると、彼女は陽菜の方を向いて、少したどたどしく日本語でしゃべった。

「ありがとう。でも、ハルはそれは嫌だと思う。他の人がいるとき、英語しゃべるの嫌だと言ってた」

「え? みんなの前で英語しゃべるの嫌と? なんで? かっこ良かったのに。わりと初めてそう思ったよ?」

「いちいち一言多いな。純粋に浮くのが嫌だからだよ。俺、目立つタイプでもないし」

「うーん」

「ハルが嫌ならしたくない」

彼女はあくまで俺の肩を持つつもりのようだ。なんだかちょっと罪悪感を感じるが、嫌々人を助けても禍根かこんが残るだけだ。なにより、俺の学生生活がかっている。

「とにかく、まずは陽菜が仲良くなれないかと思ってるんよ。できれば日本語で会話が続くようになればいいけど、俺らしかいないときなら俺がいつでも通訳するけんさ」

「ま、そうやね。まずは私がシャーロットさんのことを知ってみないと何もわからんし!」

「彼女」の方をクルッと向いて、いつもの陽菜スマイルを振りきながら明るく言う。

「それじゃ、これからよろしくね!」

「うん、よろしく!」

「彼女」も嬉しそうな笑顔だった。

校門まで3人一緒に帰ったが、すぐに「彼女」が分かれて俺と陽菜の2人になった。さすがに外はもう真っ暗で、大通りから1本外れた小道を自転車で並走していると、たまにライトをつけた自動車がすれ違いざまに俺たちを照らしてきた。

「それじゃあ、結局陽は英語がしゃべれたからシャーロットさんと仲良くなったん?」

「うん、そんなかんじ。やっぱり英語で会話できる人を探しよったらしい」

「でもさ、陽ってシャーロットさんと仲良くなりたいって思っとると?」

胸がチクッとする。

「なりたくないように見えるか?」

「うーん、なりたくないとは言わんけど、なんか自分から関わっていこうとはしとらんみたいやったけん」

「…………」

こんなことを言ったら、陽菜は俺を軽蔑けいべつするかもしれない。それでも俺は、陽菜なら一体なんて答えるのか知りたかった。

「俺は差別をするつもりもなにもない。やけど、事実として彼女は他の生徒とは違うやろ」

陽菜は少し嫌な顔をした。それを見て、しゃべり出したことを後悔したけど、今さらここでそれをなかったことにはできない。

「それで、彼女と一緒にいると自分も周りとは違うと見なされる。もちろん彼女に悪いところはないし、クラスの人だって『ああ、そうなんだ』くらいの認識をする程度なのはわかっとるよ。それでもあの”浮く”感覚は味わいたくない。

……いや、はっきり言って、俺はそういうふうになるのが心底嫌だ。別に周りから良く見られたいとは思わんけど、それでも普通でいたいとは思うんだ。論理的にはおかしいのかもしれん。それでも、理由はともかく、感覚としてそう思ってしまうんよ」

「…………」

「俺が今日陽菜のことを紹介したのは、はっきり言って自分のためやけど、それでも、もしかしたら陽菜なら俺と違ってシャーロットさんとちゃんと向き合えるんじゃないかっていう考えもあった。やけん気になるんよ。陽菜がどんなふうに考えてるのか」

「…………」

陽菜は黙ったままだ。

10メートルほど先の交差点をいくつかの車が横断していくのが見える。この交差点には信号が設置されていない。俺はブレーキをかけて自転車の速度を落としていく。陽菜が口を開いたのはその時だった。

「まずさ、もしも陽がそのことで罪悪感を感じてるならその必要はないと思うよ。陽の言うこともわかるし、陽は陽なりに折り合いをつけながらできることをしようとしてるんだよね? その中で私を頼ってくれたんなら嬉しいよ!」

それを聞いた俺はすっかりうろたえた。失望されることはあってもこうして俺のことを気づかってくれるとは夢にも思わなかったのだ。陽菜の度量の大きさと自分との人格の違いに、ただ、嘆息たんそくしてしまう。

「それで、シャーロットさんとのことやけど、もちろん私も周りの目をまったく気にしないわけやないし、陽の言う”浮く”ってのもやっぱり事実なんやと思う。それでも、私はそれを理由に誰かと壁を立てるのは嫌やけん、私が仲良くなりたいって思った人なら仲良くする」

「……もしもそれで、周りの人の態度が変わってしまっても、後悔しないのか?」

「シャーロットさんってさ、思ったよりも明るい人よね。今日の陽との会話を見て思ったんよ。内容は全然わからんかったけど」

陽菜が「あはは……」と小さく苦笑いを浮かべる。

「でもね、それでもっと色々知りたいなって思った。もっと色んなことを話してみたい。やけん、ここで周りを気にして一歩引いちゃう方が私は後悔すると思う!」

良かった。やっぱり、陽菜を頼ったことは間違いじゃなかった。

このときは、自分のためじゃなくて、純粋に2人のためにそう思った。

「今日はわざわざありがとな」

陽菜との別れ道で一度自転車を止め、俺は改めてお礼を言った。

「いやいや、こちらこそありがと! きっとこれから通訳要員としてたくさん頼ることになると思うけどよろしくね!」

「よろしくする気があるなら通訳要員って呼び方はやめろ」

「あはは、でも英語しゃべってるときの陽はほんとにかっこよかったよ。見直しちゃった!」

「そりゃどーも」

「素直やないなー。ま、それじゃあまたね!」

陽菜と別れて1人、交差点の信号が変わるのを待つ。

しばらくすると信号は青に変わり、俺はいつもより少しだけ足に力を込めて自転車をこぎ出した。

第2話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

冒頭の回想シーンで使われた「Why didn't you tell me earlier? then, we could have been frineds......」という表現。訳には「どうしてもっと早く教えてくれなかったの? そしたら友達になれたのに……」と付けています。

「Why didn't you tell me earlier?」の訳が「どうしてもっと早く教えてくれなかったの」となることについては解説不要だと思います。

ただ、逆にこれを日本語から英語にするとき、日本語の「教えて」につられて「teach」を使ってしまうことがあるのではないでしょうか。

日本語で言う「教えて」は多くの場合「tell」であることがあります。

「道を教えてくれない?」→「Can you tell me the way?」

(ちなみに地図を見ながら示してほしい場合は「Can you show me the way?」になります。)

「あなたの好きな色を教えてください」→「Please tell me your favorite color.」

などなど。

「teach」を使うのはより学問的なことに対して、という感覚があります。

「数学を教えてくれない?」→「Can you teach me mathmatics?」

続いて「then, we could have been frineds......」の解説に移ります。

これは仮定法過去完了の用法です。高校英語の壁として立ちはだかる難解用法の1つだと思います。。。

まず、仮定法過去とは「○○だったら××だろうに」という現実には起こらなかったことを表現する用法です。

例えば、「If I had time, I would go to the party.」というと「時間があったらパーティーに行くのに(実際は時間がないので行かない)」という意味になります。

「had」や「would」と過去形の単語が使われますが、示すのはあくまでも現在のことです。日本語でも「時間があったら行ったのに」と現在のことに対して過去形を使いますが、それと同じです。

そして、仮定法過去完了とは過去のことについて同様に表現します。

日本語だとちょっと難しいですが、「時間があったらパーティーに行ってたのに」となるでしょうか(「時間があったら行ったのに」のままでも良いような気もしますが……)。英語だと「If I had had time, I would have gone to the party.」となります(英語は現在のことか過去のことかで明確に文法が変わります!)。

念のためですが「had had」というのは決してタイプミスではなく、現在完了を示す「have」の過去形に、動詞の「have」の現在完了形がつながっています。はい、とてもややこしいです。。。

そして、仮定法と言えば「if」を使わなければいけないような気がしますが、必ずしもそういうわけではありません。

今回のも同様に「Then, we could have been friends」で「そしたら友達になれてたのに」という実際には起こらなかった過去の仮定について、「if」を使わずに述べています。日本語でもわざわざ「もしも……」なんて言わずに「どうして早く教えてくれなかったの? そしたらパーティーに行けてたのに!」というように使いますよね。

仮定法については、また取り上げる機会があると思うので、中途半端ですが今回はこのくらいで終わりにします。


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!