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第15話:Speech Contest.(part 2)

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第15話:Speech Contest.(part 2)

――They are just some examples of what happened to me in the past 6 months. Again, I experienced so many changes.(――これらはこの6ヶ月の間に起こった出来事のうち、ほんのいくつかに過ぎません。私は本当に多くの変化を経験しました)

When I looked back, I noticed one thing. That is they all came down to English. Because of English, I could talk to the transfer student. I got to know my cousin better. I even formed a new club and made many new friends.(こうして振り返った時、私はあることに気が付きました。それは、全ての出来事が英語から始まっているということです。英語のおかげで私は転校生と話すことができました。従姉妹のことをもっとよく知ることができました。そして、自分で新しい部活を作って、多くの人と友達になることも)

I'm not saying my English changed everything, but I'm certain it was the key factor.(英語が全てを変えてくれた、と言うわけではありません。しかし、それが要因だったことは確かです)

夕暮れ時の部室ぶしつの中。窓際に立ってスピーチを続ける俺。椅子に座ってじっとそれを聞く陽菜とシャーロット。それほど広くないからか、閉め切った部室の中だと俺の静かな声でも妙によく通るから居心地が悪くなる。

Before I entered high school, I always thought about how little I could do for other people.(高校に入学する前、私はいつも自分が人のためにできることなんてほとんどないと思っていました)

There are just so many people. Anyone can take my place. Even when I saw someone in trouble, another always went help them out, no matter if I was willing or not.(周りには常にたくさんの人がいます。私の代わりになる人なんてどこにでもいるんです。実際に誰かが困っているのを見かけた時も、私にその気があるかどうかに関わらず、必ず別の人が出て行ってその人を助けていました)

The thing is I didn't do anything back then. I was just watching instead.(そうして私は何もせず、ただ見ていました)

I was keeping a distance from others, but more than that, I was keeping a distance from myself. I didn't put trust.(私は人に対して距離を取っていました。しかし、それよりも自分自身に対して距離を置いていたのです。自分を信用していませんでした)

"There are much more that I can't do than I can", "Whether I do or not, it doesn't make any difference." I used these excuses when things came up in front of me. I didn't face them. I didn't bother thinking about it.(「自分にはできることよりできないことの方がずっとたくさんある」「自分がしてもしなくても何も変わらない」、そんな言い訳ばかりしていました。そうやって向き合おうともしませんでした)

However, I met her. I never felt that there was a thing I could do as much as I did that time. My English is not perfect, but still I did help her using English.(しかし、私は彼女と出会いました。あの時ほど自分にもできることがあると感じたことはありません。完璧ではないですが、それでも私は英語を使って彼女の手助けをすることができたのです)

After becoming friends with her, which was the very first change, I started to do things to help other people. That being said, I have to admit I started because I was forced to.(彼女と友達になるという最初の変化があって、私は人の手助けをするようになりました。と言っても、始めは無理やりさせられていただけだったのですが)

It's not anything I can call virtue, but I actually tried to be helpful. Then, that brought about a change in me. A change that I never expected.(このように自慢できるものではありませんが、それでも私は実際に誰かの役に立とうとしました。すると、それは私が今まで考えたこともなかったような、ある変化をもたらしてくれました)

By doing things for others and seeing their smiles, I secretly thought that even someone like me could make other people happy. It's not much, but I could give something.(人のために動いてその人の笑顔を見ることで、私は密かに思うようになったのです。自分のような人間でも人を喜ばせることができる、たくさんではないけれど、確かに与えることができるんだと)

Now, I know there is something I can do. I realized that what I should do was not find a reason for not doing things, but find a reason for doing things.(私は今、自分にもできることはあると思っています。大事なことは、しない理由を見つけるんじゃなくて、する理由を見つけようとすることだったのだと気が付きました)

I'm trying to do so. I am a bit more proud of myself. And then, this is the biggest change, I'm having so much fun with my school life.(だから、そうしようとしています。以前よりも少しだけ自分に自信が持てるようになりました。それから、これが一番大きな変化なのですが、私は今とても楽しい学生生活を送っています)

I'm grateful for these changes that English brought me. I will go on. English might be the only thing, but as long as there is something I can do for other people, I'll do it. Then, I believe it will bring me new wonderful changes.(私は英語がもたらしてくれた、この半年間の変化に感謝しています。だから、これからも進んでいきます。英語だけかもしれません。それでも、人のためにできることがある限り私はそれをしていきたいです。そして、それはきっとさらに素晴らしい新たな変化を起こしてくれるのでしょう)

俺のスピーチが終わると、シャーロットと陽菜はパチパチと手を叩いた。

「……どうだった?」

「英語は流石やなーって思ったよ」

「うん! 英語はじょおずだった!」

「……じゃあなんで2人ともニヤけてんの?」

「いや、ふふっ、だって、噛みすぎでしょ」

陽菜の言葉を皮切りに2人はついに声に出して笑い始めた。

俺と陽菜はそれぞれ1週間ほど前に録音したデータを主催者側に送っていた。恥ずかしさもあって(恥ずかしがっていたのは俺だけだったが)スピーチはお互い別々に録ることにしたから陽菜のスピーチの内容は今でも知らない。それから数日後に主催者側から連絡が来て、俺は無事に事前審査を通過した。それから本番までの間はこうして2人の前でスピーチの練習をすることになっている。

一応言うと、やはり俺は出場を辞退しようと思った。いや、厳密には、審査を通過したらちゃんと最後までやり遂げようという気持ちがなかったわけではない。そもそも自分で応募したんだし、なんだかんだ言っても賞金は欲しい。だけど、試しに初めて2人の前でスピーチをしてみると、緊張から声が裏返ったり頭が真っ白になって次の言葉が出てこなくなったりして、しまいにはそうして醜態をさらし続けていること自体に嫌気が差してスピーチの途中で地蔵のように押し黙ってしまったのだ(今考えるとこれはただの恥の上塗りだった)。これにはぽっきり心を折られた。今思い出しただけでも胸が苦しくなる。

「やっぱり俺は辞退する!」

「いや、陽ならできる! 私は信じてる!」

「We believe in you.(私たちはあなたを信じてるわ)」

「無理なものは無理だ!」

「Haru!」

シャーロットが席から立ち上がり、どっしりと俺の前に仁王におう立ちする。何事かと身構えていると、いきなり両の手でそれぞれ俺の肩をがっしりとつかんできたから内心びっくりさせられた。彼女はやけに真面目な面持ちで、何かを訴えるように大きな瞳をまっすぐこちらに向けている。

「We've been through a lot, and our bonds became stronger. I know that. However, we can't see them. They are intangible. Then, how can we make sure of that? Yes, we need some real actions. Our bonds are conceptualized not by feelings but by experiences!(たくさんのことを一緒に経験して私たちの絆は強くなった。わかってる。だけど、それは目に見えない。実体がないものだから。それじゃあ、どうやってそれを確かめればいいと思う? そう、リアルな活動が必要なのよ。私たちの絆は感情じゃなくて体験によって概念付けられるのよ!)」

「...You just want to go to onsen.(……ただ温泉に行きたいだけだろ)」

「Pleeeeeeeease!!! I really wanna go!(おねがーーーーーい!!! どうしても行きたいの!)」

「...Our bonds may be conceptualized by desires.(……もしかしたら俺たちの絆は欲によって概念付けられるのかもな)」

「まあどうしてもっていうならここで辞退してもいいと思うけど」

俺とシャーロットの斜め前で今度は陽菜がどっかり椅子に座りながら口を開く。

「かっこ悪いよね」

「……お前は違うアプローチで説得にかかるのか」

「私、今回はまだ陽のかっこ悪いところしか見とらんけん」

「……それは否定できん」

「正直ひどかったよ? あの最初のスピーチ。あのままでいいと? 最後までやり遂げないで後悔せん?」

「わかった。わかったからそのアプローチはやめてくれ。胸に刺さるから」

一度心は折られたが、大体いつもこんな感じで俺は何とかスピーチの練習を続けられている。

「そう言えば俺は陽菜のスピーチ聞いてないな」

やられてばかりだと面白くないから俺は小さく抵抗した。

「陽がちゃんとコンテストで発表できたら聞かせるけん」

陽菜がニヤリと笑って答える。余裕がありそうだ。きっと俺と違っていきなりやってもそれなりにちゃんとスピーチできるんだろう。俺は「はぁ」と大きくため息をつく。

「俺のスピーチ、どこがダメだと思う?」

2人は同時に「恥ずかしがってるところ」「You are being shy.(恥ずかしがってる)」と答える。改善点は悲しいくらいに明快だ。またしてもため息がれる。

「自分でもわからんけど、スピーチすると途端に気まずくなるんよ……」

そもそも人前で英語を話すこと自体、俺にとってあまり心地の良いものではない。だけど、今はもう教室でシャーロットと英語をしゃべることも多いし、それほど恥ずかしがる理由はないはずなんだ。

「Maybe, it's not just you are being shy.(もしかしたら、ただ恥ずかしがってるってだけじゃないのかも)」

シャーロットは腕組みをすると首を曲げて物を考える仕草をする。

「What do you mean?(どういうこと?)」

「It's more like you are saying things you don't want to say.(それよりも、自分の言いたくないことを言ってるって感じかなぁ)」

「...Things I don't want to say.(……自分の言いたくないこと)」

そんなことがあるのだろうか。スピーチの原稿は他でもない自分が作ったんだ。それなのに当の本人がその内容をしゃべりたくないなんて。

それから3日が経ったけど、俺のスピーチは一向に改善されなかった。こうなるともはや慣れの問題ではなさそうだ。むしろスピーチでつまづく方に癖がついて、何度やっても同じところで間違えるという最悪な慣れ方をしてしまった……。本番まであと5日しかない。これはいよいよまずい。

「そもそもさ、それおかしくね?」

赤司が箸でたまご焼きを持ち上げながら答える。昼休みになって、2人にスピーチの進捗しんちょくを訊かれたから俺は正直に現状を伝えたのだ。

「何が?」

三明は口にたっぷりと米を詰めながらしゃべったから、なかなか聞き取りづらかった。

「だって審査通るってことは、最初にスピーチを録音した時はちゃんとしゃべれたんやろ?」

俺は痛いところを突かれたような気分になって不意に眉をひそめた。赤司はテストの成績も良い方だが、もともと頭が切れるのかもしれない。

「うん。やけん、人前で話すと急に萎縮いしゅくするって言うか、とにかく上手くしゃべれなくなるんよ」

「恥ずかしがってるんじゃね?」と三明。

「やけど、何度も練習してるから慣れとか恥ずかしいとかじゃないと思う」

俺が答えると赤司が口を開いた。

「それじゃあスピーチの内容自体に問題があるとか?」

「わからん……。けど、前にも似たようなこと言われたな。言いたくないことを言ってるみたいだって」

それから2人は「うーん」と頭をひねってくれたけど、なかなか答えは見つからない様子だった。それでも俺はもしかしたら彼らから何か良いアドバイスを得られるのではないかと内心期待していたが、ようやく開いた三明の口から出てきた言葉はスピーチコンテストとは全く関係のないことだった。

「まあとりあえず、今日部活帰りにカラオケ行こうぜ!」

「どうしてとりあえずカラオケになるんだよ」

俺があきれながら反応すると、三明はニヤリと笑う。

「これがあるからだ」

そう言って財布から一枚のチケットを取り出して俺たちに見せつけた。それは、前回のカラオケで彼が手に入れた1時間分の無料チケットだった。

「みんな、聴いてくれてありがとなー!」

三明は自分の曲が終わると、まるで大勢の観客を前にライブでも行ったかのような振る舞いをする。あいつはカラオケに行くと、多少のバリエーションはあれど大体1回はこういったおふざけを入れてくる。そして歌はなかなか上手いから生意気だ。いや、実を言うと少しうらやましい。

「次でラストやな」

赤司の声でスマホを確認すると、時間はちょうど退室の5分前だった。

「おい、次は赤司やろ? 早く曲入れりーよ」

三明が怪訝けげんそうな顔をしてたずねると、赤司は何か企むような笑みをこちらに向けてきた。

「次はもう決まっとる。麻生のスピーチだ」

「はい?」

俺は素直に訳が分からなかった。となりで三明が「それは名案や!」とまた腹の立つ乗り方をする。

「いいやろ、せっかくやけん。一度聞いてみたかったんよ」

もちろん何度も断ったけど、結局は2人に押されてスピーチをする羽目になった。幸か不幸か内容はすでに暗記していたから原稿がなくてもスピーチ自体には問題ない。俺は渋々しぶしぶスピーチを始めた。話すこと4分と少し。最後の締めというところで2人は退室時間になったからと早々に帰りだす。手に持つマイクを投げつけてやろうかと思った。

支払いを済ませて店から出ると、外はもう真っ暗で風が少し肌寒かった。

「スピーチの感想を聞けると思った俺がバカだった」

3人で自転車を取りに近くの駐輪場まで向かう途中、俺はそれがちゃんと嫌味に聞こえるようわざと声を落として言った。

「やけど、スピーチ普通に上手かったやん」

三明があくびをしながらつまらなそうに言う。そうなのだ。自分でも思ったが、2人の前で話した時は特につまづくこともなくスムーズにしゃべれていた。

「どこか変なところなかった?」

「なかった。内容はわからんけどちゃんとスピーチっぽかったぜ」

やっぱり三明にも躓いたようには聞こえなかったみたいだ。こうなると逆にどうしてこれまで上手くスピーチできなかったのかわからなくなってくる。

「……やばい、何で上手くできたのかがわからん。審査員が全員お前らやったらいいのに」

「まあ審査員が俺らやったら麻生には投票せんけどな」

「何でだよ!」

駐輪場に着いて自転車を取り出していると、今度は赤司が話しかけてくる。

「それで、あのスピーチってなんて言いよったん?」

「え、言いたくない」

「言わないならシャーロットさんに訊くけど」

「おい……。その、英語のおかげで色んな変化が起きて良かった、これからも、自分にできることをしていきたい、的なかんじ」

「ああ、確かにお前は英語がきっかけで色々変わったもんな」

「うん。スピーチのテーマが変化やったけん、俺ならそれかなって思って」

「なるほどな~」

三明が自転車に足をかけながら空返事をする。

「そんなあからさまに興味なさそうにしなくてもいいやろ。逆に三明や赤司には変化って思うこと何かなかったん?」

「ないな」

2人が即答する。

「…………」

それからも前を行く2人の背中を眺めながら、俺はぼんやりと考え事をしていた。実は先ほどのやり取りで1つ気付いたことがあった。陽菜やシャーロットの前でスピーチをするのがダメで、赤司や三明の前で話すのは大丈夫。それは厳密には正しくないのだ。赤司からスピーチの内容を訊かれた時、俺は陽菜たちの前でスピーチをするのと同じように胸にずしりとした気まずさを覚えた。つまり、俺はきっと人にスピーチの内容を知られるのが嫌なんだ。赤司や三明の前でスラスラと話せたのは英語なら2人に内容がバレないとわかっていたからだ。

結局はシャーロットや赤司の言う通り、スピーチの内容自体に問題があったみたいだ。

「……そういや」

俺はふとあることに思い至った。やや距離はあったが、前を行く2人にも今の声は聞こえたらしく自転車に乗りながら一瞬チラリとこちらに顔を向けた。

「確かに変化はなかったかもな」

2人は何も言わない。俺は続けて口を開く。

「俺も変化って思うことは何もなかった。三明と赤司とは。きっかけは忘れたけど、俺らは気付いたら話すようになってたよな」

「あー、言われてみればそうやな」

三明は首をやや上に向けながら答える。

「俺たちは麻生のスピーチには当てまらんな。麻生が英語しゃべるって知る前から仲良かったし、知ってからも別に変わったことないけん」

その返事を聞いて、俺は自分の考えに少し自信がついた。それと同時にじんわりと温かいものが心の底から湧いてくるような感覚がして、俺は思わず声高にしゃべる。

「そうだよ、そうだよな!」

赤司が「そ、そうだな」と困惑気味に答える。三明も俺の意図をつかんでいないようで何も反応しない。それでも、俺には今のが新たな扉を見つけるような、それまでの視点をくるりと変える大きな発見に思えた。俺はきっと、この半年で起こった変化と英語とを結びつけて、それより大事なことを見落としていたんだ。

英語をしゃべれるからとか、何かしてあげれるからとかじゃなくて、俺が三明や赤司や陽菜やシャーロットやこれまで出会ったみんなと仲良くなれたのは、単純に相手も俺と仲良くなりたいって思ってくれたからだ。そういう意味で、俺と赤司たちに変化はないし、他のみんなとだって根本的なところは同じなんだ。

俺のスピーチは自分が主体だった。俺が英語をしゃべれて、だから相手に何かしてあげられて、そこでつながりができて仲良くなって、それがまた次のことへと繋がっていく。でも、その過程は決して一方的なものじゃなくて、そこには相手が俺を受け入れてくれて、仲良くなりたいと思ってくれて、仲良くなることで俺も新しく気付かされることがあって、そういうふうにいつも双方的なものだった。

俺は相手に伝えるべき感謝を後回しにして、とにかく自分のことを話したいと思っていた。それが無意識のところで違和感になっていて、シャーロットたちの前で話すときに決まりが悪いと言う形で表れた。自分の話したいことと相手に伝えるべきことが一致していなかったんだ。

「なあ」

俺が口を開くと、赤司はあきれ顔で「さっきからどうしたんだよ」と返す。

「俺、スピーチ書き直すわ」

「書き直すって、もうデータ向こうに送っとるんやろ? それアリなん?」

三明が小さく笑いながら言う。

「わからん。最悪、失格やな」

今度は声に出して三明が笑った。

「やけど書き直したい。それで、もう時間少ししかないけど、またお前らにスピーチ聞いて欲しい」

「さっきはあんなに嫌がってたのに?」

赤司もニヤつきながらたずねる。

「うっさい、中途半端なの聞かせたままにするのが嫌なんだよ。今日話して気付いたことがあったけん、もっかい書き直して今度はちゃんと聞いて欲しい」

2人はまたチラリとこちらを見た。表情はよく見えなかったから気のせいかも知れないけど、俺は声色から2人が笑ってくれているんじゃないかと密かに期待した。

「おっけ! いつでも聞くけんできたら教えてくれ」

「俺もいつでも聞いちゃあぜ! ま、英語はさっぱりわからんけんそこは期待すんなよ!」

スピーチコンテスト当日。ついに自分の名前が呼ばれた。

俺はゆっくりと舞台の中央まで歩を進める。会場は大学の一講堂で、中は1メートルほどの高さがあるステージと、奥に向かって段々と位置が高くなっていく観客席とに分かれている。舞台の中央には演台があって、そこに立って顔を上げると100人くらいの観客が揃ってこちらに視線を向けているのが見えた。学生が多いようだが老若男女それぞれいる。探してみたけどシャーロットと陽菜の姿はまだ見つからない。観客席はうす暗くて奥の方がはっきり見えないくせに壇上は上からの照明でやたら明るくて、そのコントラストが観客の注目を一層大袈裟おおげさに感じさせる。俺は緊張で心臓が押しつぶされてしまいそうになる。

顔を下げると演台の上に置かれた卓上用のマイクスタンドがちょうどいい角度に曲げられていて俺を見つめ返してきた。演台の上にはマイクの他にスピーチの原稿も用意されているから、最悪スピーチの内容が頭から吹っ飛んでもそれを見れば何とかなる。だけど、自分の前に発表した人の中で原稿を見た人は誰もいなかった。

すぅーと出来るだけ深く息を吸って、ふぅーと出来るだけ長く息を吐く。まだまだ緊張は取れないけど、少しだけ気持ちが楽になった。大丈夫、頭は真っ白になっていない。出だしの言葉はちゃんと言える。

People say nothing stays the same. I agree with it. I entered high school six months ago and went through many changes. (人はよく、変わらないものなんて存在しない、と言います。私もそう思います。私は半年前に高校に進学したのですが、そこからすでにたくさんの変化を経験しました)

So many that 5 minutes aren't nearly enough to cover them all. So here, I would like to pick out some main events and speak about what I learned from them.(それらすべてのことについて発表するとなると、数が多すぎてとても5分では終わりません。だから、ここではその中のいくつかを選んで、そこで私が気付いたことを話したいと思います)

In my class, we have one transfer student. She is from America. She didn't understand Japanese well. One day, I helped her when she had trouble understanding what's going on around her because of cultural differences and lack of communication.(私のクラスにある転校生がいました。彼女はアメリカから来ていて、あまり日本語が得意ではありません。ある日、彼女が文化の違いやコミュニケーション不足から周りで何が起きているのか理解できずに困っている時、私は彼女の手助けをしました。)

Other students don't speak English. I was the only one who could help her there. That was why I did it. That's all. In spite of it, she thanked me so much and said she wanted to be a friend of mine.(他に英語をしゃべる生徒がいないため、あの場で彼女の役に立てるのは自分だけでした。だからやったというだけの話です。それでも、彼女はとても感謝してくれて、私と友達になりたいと言ってくれました)

Since then, I worked so that she got to know other students and make more friends. Honestly, I was reluctant.(それから、私は彼女がより多くの生徒と知り合って友達になれるようにしました。正直に言うと、それは渋々しぶしぶやっていたことです)

I first asked my cousin for help who is in the same class. She is cheerful, kind, and popular. I thought they could be good friends.(私はまず、同じクラスにいる私の従姉妹に協力を求めました。彼女は元気で優しく、みんなから人気があります。私は彼女となら転校生も仲良くなれるのではないかと思ったのです)

She thought about what the transfer student should do to make more friends and what she could do for that. I was there trying to think about what I could do too though I was also thinking about what I couldn't.(彼女は転校生により多くの友達ができるにはどうすれば良いかを、そしてそのために彼女に何ができるかを考えてくれました。私も一応、彼女と一緒に自分にできることを見つけようとしました。ただ、私の場合は自分にできないことも同時に考えてしまっていたのですが)

I'm sure my attitude wasn't good back then, but there was, at least, one good thing. That is, the event gave me more chances to talk with my cousin. We started to talk almost everyday and got to know each other better.(このように私の心構えは決して良いものではありませんでしたが、少なくとも1つ良いことがありました。それは、その出来事が従姉妹と話す機会を増やしてくれたということです。私たちはほとんど毎日のように話すようになり、お互いのことをもっとよく知ることができました)

Things around me kept on changing. The three of us becoming close to one another brought me new opportunities to know other people. For example, my cousin's friends and one English teacher who's been taking care of the transfer student.(それからも私の状況は変わっていきました。2人と仲良くなったことで、私はさらにその周りの人たちと知り合いになったのです。例えば、従姉妹の友達やその転校生がずっとお世話になっている英語の先生です)

We were thinking that joining the basketball club was good for her to make new friends because she used to play it, but it seemed they had her think about what she really wanted to do. She decided something else. Now, I'm really grateful she did.(その時、彼女にバスケの経験があったため、私たちはバスケ部に入ることが新たな友達を作るのに良いと考えていました。しかし、彼らと出会ったおかげで彼女は自分が本当にしたいことを見つけることができたようでした。彼女はあることを決めます。そして、私は今、彼女がそう決めてくれたことにとても感謝しています)

As a result, she decided to form a new club with me, the ESS club, where we help students with English. I got to know even more students through the activities.(最終的に彼女は私と一緒にESS部という新たな部活を立ち上げることにしました。ESS部では他の生徒の英語に関する問題を解決します。その活動を通して、私はさらに多くの生徒たちと知り合うようになりました)

It went on like this. One connection led to another. Teacher, student, classmate, male, female, upperclassman... Thanks to those events, I became friends with people whom, otherwise, I would never have had a word with.(この半年間の出来事はこのようにして続いていきました。1つのつながりが新たなつながりをもたらしてくれたのです。先生、生徒、クラスメート、男子、女子、先輩……。おかげで私はそうでなければ言葉を交わすこともなかったであろう人たちと友達になることができました)

前半部分は5日前とあまり変わっていない。俺が新たに書き直した内容は次から始まる。3日前に一通りの修正が終わったけど、それからも練習する中でいくつか微修正を入れていったから、最終的な原稿で練習をしたのはほんの3、4回だけだ。明らかに数が足りない。日頃の練習不足は大事な場面で不安という形になって緊張を増幅させる。それはさらに人を焦らせて、いつもはしないようなミスを誘発する。

それを頭でわかってる分、何だか調子が出ない。常に失敗するイメージが脳裏をかすめてくる。やっぱり元の原稿のままで発表したほうがよかったのかもしれない。だけど、俺はもう勝つためにここに立っている訳じゃない。代わりにただ、このスピーチコンテストをちゃんと最後までやり遂げたい。コンテストに参加したからこそ気付けた自分の気持ち。俺がみんなに伝えたいことをこの場で伝えるんだ。

小さく息を吸ってリズムを整える。その瞬間、俺は観客席の右下のほうで2人の姿を視界に捉えた。驚きと安心が入り混じって、不意に顔がほころぶ。

――奇妙なタイミングだ。

I looked back at what happened in this six months, and I first felt proud of myself. "I can help people using English, and when I do, they smile. My English makes them happy. I am giving.", I thought.(この6ヶ月の間に起こった出来事を振り返ってみて、私は最初、自分を誇らしく思いました。英語で人を手助けできる、そして自分がそうする時、彼らは笑ってくれる、自分の英語で人が喜んでくれる、自分にも人に与えるものがある、そう思ったのです)

However, I recently realized that was not ture. I'm not the only one who helps. They also help me.(しかし、最近になってそれは違うのだと気付きました。私だけが手を差し出しているのではありません。彼らも同様に私に手を差し伸べてくれるのです)

When I didn't know what to do about relations with my friends and the club activities, they listened to me and gave me advise whether it's directly or indirectly. It always made me notice new things, and I could solve problems because of them.(私が友人関係や部活動のことでどうすればいいのかわからず困っている時、彼らは私の話を聞いてアドバイスをくれました。それは直接的なものもあれば間接的なものもありましたが、いつも私に新たなことを気付かせてくれて、私はそのおかげで問題を解決していくことができました)

Besides, helping each other is not the only thing our relationship means. We are friends. We talk over nothing and it never ends. We laugh together and it makes things even more fun. We hang out and time flys faster than ever. We work on something and knowing I have to finish it, I hope it lasts forever. Most importantly, I want to spend time with them and I get the feeling that they also think the same way.(それに、お互いを手助けすることだけが私たちの関係ではありません。そうではなく、友達なんです。何でもないことで延々えんえんと話して、一緒に笑うともっと楽しくなって、遊ぶとあっという間に時間が経って、何かに取り組むと早く終わらせようとしながらも、同時にそれがずっと続けばいいのにと思います。何よりも、私は彼らと一緒にいたいと思い、また、彼らも同じように思ってくれていると感じるのです)

3日前の夜、スピーチの一通りの修正を終えた俺はシャーロットにメッセージを送った。その文面は「Do you think we could have become friends even if I hadn't spoken English?(もし俺が英語をしゃべらなくても、俺たちは友達になれてたと思う?)」というもので、彼女の返事はすぐに返ってきた。

――Why not?(当然よ!)

それがあまりに根拠のない返事だったから思わず1人で笑ってしまったけど、俺は彼女がそう言ってくれたことがとても嬉しかった。

One becomes friends with the other because they both want to be friends. That is the happiest type of miracle. It may sound cheesy, yet I believe so.(どちらもお互いに相手と友達になりたいと思うから友達になる。それは最も幸せな奇跡だと思います。安っぽく聞こえたかもしれませんが、私はそうだと信じています)

Now, there is one thing that I want to say to them. Since it's too embarrasing for me to say that face to face, I'll take advantage of this opportunity and do it here instead. ----Thank you. I'm having as much fun at school as I ever have. It's all thanks to you.(さて、私は今、彼らに1つ伝えたいことがあります。面と向かってそれを言うのは恥ずかしいので、代わりにこの場を借りて言わせてください。――ありがとう。私はこれまでにないくらい学校を楽しんでいます。そして、それは全てあなたたちのおかげです)

I used to think it was my English that led me to what I'd been through. This whole thing started from English. I know things would have been very different if I hadn't understood or spoken it.(前までは私が色んなことを経験できたのは、すべて英語をしゃべれるおかげだと思っていました。これらの出来事は元を辿たどれば英語から始まっています。もしも私が英語を理解したりしゃべれたりしなかったら、きっと状況は大きく変わっていました)

However, I hope I would still get to know them and become friends one way or another. I believe it is not English, but this hope in my heart that changed everything. This feeling is what underlies communication and what it means to be friend. Language itself is just a tool, and can't surpass it.(しかし私は、例えしゃべれなかったとしても、どうにか彼らと知り合い、友達になっていて欲しいと願います。私に変化をもたらしてくれたものの正体は、きっと英語ではなくそう願う心だと思います。この気持ちがコミュニケーションの本質にあるもので、また友達というものが意味するところなんです。言語はただの手段で、それを越えることは絶対にありません)

My relations, my thoughts, my school life, They all changed. It didn't always bring good things. Sometimes, it was really hard to deal with. Nevertheless, I can't help wondering what wonderful changes are in store for me. Nothing stays the same, but I'm fine with it as long as I have this feeling that stays the same.(私の人間関係、考え方、学校生活、すべてが変わりました。それはいつも良い変化だったわけではありません。時にはとても大変なものもありました。それでも私は、これから先どんな素晴らしい変化が待っているのか考えずにはいられないのです。変わらないものなんて存在しない。だけど、変わらないこの気持ちがある限り私はそれでもいいと思います)

ようやくスピーチが終わった。目の前の観客が拍手をくれる。俺は大きくゆっくりと息を吐いた。てっきりスピーチが終われば達成感やら喜びやらがいてくるものだと思っていたけど、不思議とそれはあっさりしていて、ただ疲れたという感覚が残るだけだった。視線をやや下げて2人を見ると、シャーロットも陽菜も周りの暗がりに負けない笑顔で拍手を送ってくれていて、達成感と喜びはその時になってようやくゆっくりと込み上げてきた。

「これから何しよっか?」

週明け月曜日の放課後。陽菜が部室ぶしつの中で俺とシャーロットに話しかける。いつもと同じ光景。外からは野球部のランニングの掛け声が聞こえてきて、俺たち3人はテーブルを囲うようにいつの間にか決まった定位置に座っている。最近変わったことと言えば、ここにいる全員が今では冬服を着ていることくらいだ。

「何もすることないな」

「そうね」

俺は小説を、シャーロットは日本語の教科書を読みながらそれぞれ気の抜けた返事をする。

「陽が賞金取ってれば今ごろは温泉に浸かってたのにぃー」

陽菜がため息交じりに小言を言う。

「まだ言うか。なんにせよ平日じゃいけねーよ」

結局、俺は1位どころか2位、3位に入賞することもできなかった。

「私は、陽が一番だと思った!」

今度はシャーロットが前のめりに言う。この日、他に話すことがなくなると陽菜はとりあえずスピーチコンテストの話を持ち出し、シャーロットはいずれも同じ言葉で俺をなぐさめていた。もはや2人ともただ悪ふざけをしているようにしか思えない。

「はいはい、わかったから」

「でも私も陽のスピーチは良かったと思ったんやけどなぁ」

「練習不足もあったしこんなもんだって。そもそも事前に提出したスピーチと違うことしゃべったしな。……そういや」

俺はふとあることを思い出して陽菜に顔を向ける。

「ん? どうしたと?」

「陽菜のスピーチまだ聞いてないな」

彼女はニコリと笑って明るく返事をする。

「もう全部忘れちゃった!」

「おい、ずるいぞ! 俺だけスピーチ発表させといて!」

「でも本当に忘れたんやけん仕方ないやん」

陽菜はわざとらしく弾みをつけてしゃべるから、なおさらそれが憎たらしくなる。

「もう一度、覚え直してもらう」

「湯布院つれてってくれるならいいよ!」

「見返り大き過ぎないか?」

「あ、そう言えば、実はシャーロットもスピーチ作ってたよね?」

陽菜の言葉にシャーロットは泡を食う。

「なんで、知ってるの!?」

その慌てようが面白くて、俺はちょっかいを出したくなった。

「へぇー、それはちゃんと発表してもらわないとな」

「......Why are you grining at me!?(なんでニヤニヤしてるのよ!)」

「I didn't know you were also writing a speech. Besides, it's not every day that I get to see you embarrassed. I'm curious.(スピーチを作ってたなんて知らなかったし、シャーロットが恥ずかしがるなんてそうないからな。気になるんだよ)」

「I'm not embarrassed. It's just... I didn't intend to let you know. So, I wrote whatever I wanted to.(恥ずかしがってるわけじゃないけど……。ただ、元々、2人に教えるつもりじゃなかったから、好きなことを書きまくってて)」

「You are making me more curious.(そんなこと言われたら余計気になるわ)」

その時、部室のドアがノックされて、外から大楠先生とダニエル先生が入ってきた。

「2人ともスピーチコンテストお疲れ様!」

大楠先生が俺と陽菜に向かって朗らかに言う。

「まあ私は予選落ちでしたけどねー」

「結果なんてそんなに大事じゃないわ。私は陽菜さんのスピーチも良かったと思いましたから!」

先生の発言に俺と陽菜は目を丸くする。

「あれ、先生は僕たちのスピーチを知ってるんですか?」

「スピーチは予選のものも合わせて全部ホームページにアップされてるのよ。知らなかったの?」

「ええっ!?」

陽菜のしまった、という顔を見て俺はここぞとばかりにしたり顔をしてみせた。

「スピーチと言えばシャーロットさんも取り組んでたね。君たち2人のことをたくさん書いてたよ」

ダニエル先生の言葉にシャーロットはうなり声を上げる。

「I told you it's a secret!!!(秘密だって言いましたよね!!)」

「Oh, did you!?(あれ、そうだっけ!?)」

「I no longer trust you!!(もう先生のことは信じません!!)」

「I'm sorry, I didn't mean to make you angry...(すまない、怒らせるつもりじゃなかったんだ……)」

ダニエル先生とシャーロットが、そして大楠先生と陽菜がそれぞれ笑ったり口をとがらせたりしながら話している。俺はゆっくりとポケットからスマホを取りだして目の前の光景にカメラを向ける。

――カシャ。

シャッター音と同時に4人の会話はぴたりとんでみんなが一斉にこちらに顔を向けた。自分でやっておきながら冷静になると急に恥ずかしさが込み上げてきて、俺の顔はどっと熱くなった。

「あ、いや、なんか面白いなと思って……」

口ごもりながら説明すると、陽菜はにこりと笑って口を開く。

「みんなで撮ろうよ!」

そうしてみんなで数枚の写真を撮ってグループチャットに写真をアップロードしていると、シャーロットが何かを見つけて上機嫌に言った。

「Aha, I have to put up this one too.(あはっ、これも送らないと)」

それから数秒ののちに彼女の上げた画像がアルバムに追加された。それはスピーチコンテストの話を持ち込んだ日、俺が2人を待っていつの間にか部室ぶしつのテーブルの上で眠りこけてしまった時の、うつ伏せでよだれを垂らしながら寝ている写真だった。

【終わり】

第15話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

かなり時間がかかってしまいましたが、ようやく本作に一段落つけることができました。最後話はスピーチが中心なので少し読みづらかったかなーと心配していますが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。それでは第1部最後の解説をしていきます!

今回見るのは「After becoming friends with her, which was the very first change, I started to do things to help other people. That being said, I have to admit I started because I was forced to.」です。陽の元々のスピーチの中で使われていた表現ですが、長いので1文ずつに区切って見ていきます。

「After becoming friends with her, which was the very first change, I started to do things to help other people.」は日本語で「彼女と友達になるという最初の変化があって、私は人の手助けをするようになりました。」と訳しています。

「after」は普通「after S V」で使うことが多いと思いますが、主語を略して「after ~ing」という前置詞の形で使うこともできます。その場合、「~ing」の主語は、続く文の主語(今回の場合は「I」)と同じになります。日本語でも「買い物に行った後、彼女はご飯を食べた」のように「買い物に行った」の主語が略されている場合、それは続く「ご飯を食べた」の主語である「彼女」と同じになりますよね。

次に「, which was the very first change」は高校で習う関係代名詞の構文です。関係代名詞と聞くと何だか難しそうですが、要はあることを詳しく説明したいときに使う構文です。例えば、日本語で「あそこで男と話している学生」(学生をより詳しく説明しています)と言うのを英語では関係代名詞の「who」を使って「a student who is talking with a man」と表現します。日本語では詳しく説明する内容を前に持ってくる(「学生」の前に説明が来る)ところ、英語では後(「a student」の後に説明が来る)に置くのです。

関係代名詞は人を詳しく説明する場合には「who」、物や出来事を説明する場合には「which」と使い分けます。

それでは今回の「, which was the very first change」が何を説明しているのかと言うと「becoming friends with her(彼女と友達になること)」の全体を説明しています。日本語に直すと「彼女と友達になること、それはまさに最初の変化だったのですが」という感じです。ちなみにここで使われる「very」は「とても」ではなく「まさに」という意味です。

「I started to do things to help other people.」は特に難しいところはないと思います。「start to do」で「~し始める」。それに「things to help other people(他の人を助けるためのこと)」がついて、「人の手助けをするようになる」と訳しています。ぶっちゃけここは単に「I started to help other people.」でも良かったと思っています(笑)

2文目の「That being said, I have to admit I started because I was forced to」について、まず「That being said」は「そうは言っても、というわけで」と訳されます。

これは元々「with that being said」の略で、この「with」は高校で習う付帯状況の用法になります。詳しい説明はともかく、意味は「~しながら、~したままで」です。「that」は前の発言の内容を指します。だから「that is said」で「それを言われている」、「with that being said」で「そう言われてはいるが、そういう訳で」となります。

また「with」は前置詞のため、続く言葉は名詞の形でなければなりません。「that being said」は「S ~ing」の形になっており、「Sが~すること」という意味になります。「Swimming is good for your health.(泳ぐことは健康に良い)」のように、動詞を「~ing」の形にすることで「~すること」と名詞のように使う用法がありますが、「S ~ing」はそれに主語がついたものです。

例)「Making money doesn't always make me happy.(お金を稼ぐことがいつも私を幸せにするとは限らない)」→「You making money doesn't make me happy at all.(あなたがお金を稼いでも私はちっとも幸せにはなりません)」

今回はさらに「~ing」のところが受け身になっています。よって「that being said」は「それが言われること」という意味になります。

続く「I have to admit I started because I was forced to.」は直訳すると「私は強制させられたから始めたということを認めなければならない」になります。「admit」は「認める」、「force」は「無理に~する」という意味の動詞です(ちなみに、「force」には「力、軍隊」といった名詞の意味もあり、スターウォーズに出てくる「フォース」はこの「force」から来ていると思われます)。

この文には2カ所省略されているところがあります。1つ目は「I started(私は始める)」でその目的語がありません。これは前の文(「After becoming friends with her, which was the very first change, I started to do things to help other people.」)との関係で文が冗長にならないよう省略しています。省略せずに書くと「I started to do things to help other people.」ですが、すぐ前に使った文をわざわざ繰り返すのは無駄です。「I started」とだけ書けば十分意味が伝わるのでそれにとどめています。

2つ目が「I was forced to.」です。これも元々は「I was forced to start.」ですが、同様に前の文の繰り返しになるため省略しています。他にも「want」「tell」などは特に「to」とだけ書いて続く文を省略することが多いです。

例)「I will do what I want to.(私は私のしたいことをします)」→「do」が省略、「He studies only when I tell him to.(彼は私が勉強しろと言った時にだけ勉強します→私が言わないと勉強しません)」→「study」が省略。

最後に省略が上手く使われている例文を1つ紹介します! ネットで見かけたものなのでもしかしたらすでに知っているかもしれませんが、捻りがあってとても面白いです。

「I don't always have time to study. But when I do, I don't.(私はいつも勉強する時間があるわけではないんです。けれど、あったとしても勉強をしません)」


【第2部:近日公開】

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!


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