第13話:One Day In Summer.(まとめ版)

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第13話:One Day In Summer.

陽菜のESS部入部からさらに数日が経ったある日。

「……どっちだ?」

「さあ、どっちやろーね」

昼下がりの部室ぶしつ。テーブル越しに座る陽菜の手には2枚のカード。対する俺の手には1枚だけ。そのとなりではシャーロットがニヤニヤしながら事の成り行きを見守っている。

「……こっちか?」

「そういう変な心理戦を仕掛けるから負けるんよ?」

「うるさい! ならばこっちだ!」

俺は陽菜の手から勢いよく左のカードを引き抜いた。一呼吸置いてからくるりとそれを裏返すと、いかにも意地の悪い笑みを浮かべた道化師がこちらを見つめ返してくる。

「ちくしょぉぉぉ」

「ちょっと、やめて……。もう、お腹痛い……」

テーブルをたたいたりお腹を抱えたりしながら苦しそうに笑う陽菜とシャーロット。

「こっちだって好きでやってんじゃねーよ。ほら、次は陽菜の番だ」

俺がカードを差し出すと、陽菜は笑いをこらえるため深呼吸をした。

「ふぅ。よしっ! じゃあこっちで」

「げっ!」

迷いなく引き抜かれたのはダイヤの7。その結果、俺の手元には先ほどやってきた忌々いまいましい道化師だけが残される。

「あはは、これで私の勝ち! また陽がビリやね」

「くそ、なぜだ」

終業式から次の学期が始まるまでの間は夏休みに入るから、課外授業がいくつかあるだけで昼には学校が終わる(夏休みと言いながら授業が行われていることには納得できないが)。だから、俺たち3人は部室で昼ご飯を食べた後、こうしてトランプをして時間を潰しているのだ。大富豪、ブラックジャック、ババ抜きとやって、現在見事に俺の3連敗となっている。

「I'm amazed. You never seize a chance however close it is.(感心するわ。それがどんなにあと少しでも絶対にチャンスをものにしないんだもの)」

「Shut up!(ほっとけ!)」

シャーロットが笑うと、陽菜も意地の悪い笑みを浮かべながら今のやり取りについてこちらに尋ねてくる。

「なんてなんて?」

「……感心するぐらいチャンスをのがすってさ」

またしても陽菜が声を上げて笑う。自分でも薄々思っていたけど、俺はこういう勝負事にやたら弱い。

「というわけで、私はオレンジね」

「私は、アップル!」

陽菜とシャーロットが嬉しそうに声を弾ませる。

「……わかった」

ビリは残りの2人に何かをおごるのがルールになっている。今回は食堂の売店に売っている棒アイスを賭けて勝負していた。

「その代わり、もうひと勝負だ」

「え、まだすると? あきらめも肝心だよ?」

「You should learn how to give up.(陽は諦め方も学ぶべきだよ)」

「うるさいな! わざわざ2か国語で似たようなこと言いやがって! 次は負けん」

「うーん、それじゃあ次の罰ゲームはなんにしよっか?」

陽菜の質問にシャーロットがしばらく考え込む。

「あっ、えっと……、陽が人生で一番恥ずかしかったこと、を言うのはどう?」

「あ、それいいね! それか陽が人生で一番情けないと思ったことを言う、でもいいよ!」

「とりあえず俺が負けるの前提で話すのやめようか」

俺の発言を鮮やかに無視しながら、陽菜が乱雑に置かれたカードの山を両手で1つにまとめる。

「よしっ! それじゃ、とりあえずもう1回ババ抜きね!」

――5分後。

「……俺が人生で一番恥ずかしかったのは、小学生のころ授業中に素で先生のことをお母さんって呼んだことだ」

「あはっ、まあ気持ちはわかるけどね!」

「おかげでしばらく俺のあだ名がお母さんになったよ」

――15分後。

「……俺が誰にも言ったことのない秘密は、実は中学のころ英語学習の一環で英語で日記をつけてたことだ」

「見せて!!」

「見たい!!」

「絶対見せん!!」

――25分後。

「……俺がここ最近やらかした失敗は、デパートのトイレで間違えて女子トイレに入ってしまったことだ」

「うわぁー、最低」

「がっかりだよ、陽」

「トイレのマークがなぜか男子も女子も青色だったんだよ! 急いでて色しか見てなかったから、最初に目に入った方を勝手に男子トイレと思い込んだだけだ! ……いや、すぐ出たからな!!」

――30分後。

「はぁ、はぁ……。ほら見ろ、勝ったぞ! シャーロットがビリだ」

「あれから3連敗しといて何言っとるんよ」

「なんか、もう、陽がかわいそうだったから……」

そう言ってシャーロットが悲しそうに目を伏せる。

「おい、俺は勝ちを譲られたのか!?」

「陽、それは聞かない方がいいよ」

「陽菜、その何かを察したような表情やめてくれ」

「それで、罰ゲーム、なんだっけ?」

シャーロットが記憶を手繰たぐろうと腕を組んで頭をひねる。しかし、先に思い出したのは陽菜の方だった。

「えーっと、そうそう。最近自分が気になってることを言う、やったはず!」

「つーか、今考えるとそれ別に罰ゲームじゃないよな。普通の会話で話すことやん」

「だってもう面白いお題が見つからんかったんやもん。陽がここまで負け続けるのが悪いんよ! それにどうせ陽は勝負に勝てればあとはどうでも良かったんやろ?」

「く、痛いところを突いてくるな。いつの間にか手段と目的が入れ替わってしまった」

微妙な敗北感を感じさせられている俺のとなりでシャーロットがぼそりとつぶやく。

「最近、気になってる、こと……」

彼女はしばらく頭を左右に揺らすと、少し決まりの悪そうな顔でチラリとこちらを見てきた。

「これ、言っていいかな?」

「ん? どうしたんだよ」

しかしシャーロットはまだ迷っているようで、ただ意味もなく両手を結んだりほどいたりしてもじもじしている。陽菜の方を見てみたが、彼女も特に見当があるわけではないらしく首を横に振るだけだった。

「What's the matter? Spit it out already.(どうかしたのか? さっさと言えよ)」

「I...I want to know how to turn someone down properly when he confesses his love to me...(その……、人から告白された時のちゃんとした断り方を知りたいの……)」

「What!?(えっ!?)」

俺の声に陽菜がびくりする。

「ああ、すまん。シャーロットがいきなり告白の断り方を知りたいなんて言うから」

「あぁー」

陽菜は妙に納得したような表情だ。

「なんだよ」

「いやね、ほら、最近シャーロットの日本語が上手になったやん?」

「うん」

となりでシャーロットが両頬りょうほほに手を当てながら嬉しそうににっこりと笑う。

「それでね、日本語が前よりしゃべれるようになって、男子からの人気がまた急上昇してるんよ」

「ああ、言われてみれば思い当たるふしがある」

少し前にクラスのある男子生徒から、俺とシャーロットが付き合っているのかとかれた。もちろん付き合っていないと答えたが、それからここしばらく、シャーロットは放課後に部室ぶしつにやって来るのがたびたび遅れていた。

「逆に今まで気付かんかったん?」

「何となく気付いてたけど、シャーロットもそのこと何も言ってなかったからな」

「それで日本では、どうやって断るのが、合ってる? デートとかはできないけど、友達ではいたいと思うよ」

シャーロットが俺と陽菜とに交互に視線を移しながら改めてたずねる。しかし、こういったたぐいのことになると俺はさっぱり役に立たない。

「すまんけど、俺にはわからん。こういうのって人それぞれやと思うし」

俺に続いて陽菜も口を開く。

「うーん、難しいよねぇ。下手に優しくしようとすると逆に相手を傷つけちゃうこともあるもんね」

何だか今の返答が引っかかって、俺は横目でジロリと彼女の顔を見た。

「なによ?」

「いや、なんだか知ったようなことを言うんやなぁと思って」

「失礼な。これでも何度か断った経験あるんやけんね!」

「えっ、お前が!?」

「ねえ、シャーロットお願い! ちょっとだけ陽のこと抑えててもらっていい?」

「待て、純粋に驚いただけだ! すまん!」

陽菜は腕を組んで不満そうに口をとがらせる。一方の俺は家族同然に思っていた陽菜が、実はちゃんとそういう経験もしているのだと知って、少なからずショックを受けていた。

「お前、まさか誰かと付き合ったことも、いや、今でも彼氏がいるとか……?」

「さあ、どうやろうね」

今度はニヤリと笑ってふんぞり返る陽菜の姿に、俺はショックよりも純粋に憎らしさの方がき上がってきた。

「ちょっと! 私の質問から、遠くなってる!」

見かねたシャーロットがテーブルに両手をついて立ち上がり、俺たちの会話に割って入った。俺と陽菜はすでに互いを威嚇いかくし合っていたが、ここはシャーロットのために一時停戦ということで幕を引かせた。

「それじゃあ、もう一度。陽菜、ごめん。日本語で上手く言えないから、英語を使うね」

「うんうん、いいよ! どうせ陽が全部訳してくれるけん!」

「お前俺をなんだと……」

「Alright then, Haru. I'll ask you first.(よし、それじゃあ陽。まずはあなたに訊くわ)」

シャーロットは椅子ごと体をこちらに向けてえりを正す。

「I'm not sure if I can give you a usuful answer, but I'll try.(役に立つことが言えるかわかんないけど、頑張ってみるよ)」

「Thank you. Haru?(ありがとう。ねぇ、陽?)」

彼女はまっすぐに俺の瞳を見ながら、すうっと息を吸った。

「How do you want to get rejected by me?(陽はどうやって私からフラれたい?)」

「Couldn't you come up with a better question to ask!?(もっとマシな訊き方は思い浮かばなかったのか!?)」

「I'm trying to make it as simple as possible.(できるだけシンプルにしようとしたんだけど)」

「I refuse to get rejected before I even confess my feelings.(告白する前にフラれるのは拒否する)」

「Oh, are you gonna confess your feelings to me then?(あら、それじゃあ私に気持ちを伝える気なの?)」

「That's not what..., you know, we are getting far from the subject.(そういう意味じゃ……、ってほら、本題から離れていってるぞ)」

「It's alright. I don't mind.(大丈夫よ。気にしないから)」

「You are saying the opposite thing of earlier!!(さっきと言ってること逆なんだけど!!)」

こんなやり取りを続けていたらいつまで経っても話が進まない。俺は一呼吸して調子を整えてから、とりあえずもとの質問に答えることにした。

「Anyway, if I were to get rejected by Charlotte for whatever reason it might be, which is definitely not happening in reality---(とにかく、万が一、俺が何かしらの理由でシャーロットからフラれたとすると、まあ、それは現実には起こっていないんだが――)」

「Just get to the point!(いいから要点を言って!)」

「...I think I want you to be honest with me. If you don't like me, I want you to say that instead of trying to hide it. That way, I can give up on you.(……俺は正直に言って欲しいと思う。好きになれないなら、隠されるよりもそう言って欲しい。そうすればちゃんと諦めきれるから)」

2秒ほどの間が経って、シャーロットは少しトーンの落ちた声で「I see.(そっか)」と言った。

「It's difficult isn't it? You might not want to tell me the truth because you are afraid of breaking our friendship.(難しいだろ? もしかしたらシャーロットは俺との友情が壊れるのが嫌で、本当のことは伝えたくないかもしれない)」

「Yeah, that's true.(そうね、それは確かにそう)」

するとシャーロットは声には出さず、続けて口だけを動かして俺に何かを伝えた。もちろん、それがものすごくシンプルなものでもない限り、俺には口の動きだけで相手の英語を読み取ることなんてできないから、彼女が何を言ったのかさっぱりわからなかった。

「What did you say?(何て言ったんだ?)」

しかし、彼女はただニコリと笑って首を横に振る。そして、まるで俺の追究を拒むようにそのまますぐ陽菜に同じような質問を投げかけた。

「うーん。私だったら、やっぱりこっちの気持ちも素直に伝えるかな。もしも好きって気持ちにはなれないならそれを伝えた上で、それでも友達の関係は続けたいと思ったら、友達の関係は続けたいって言う」

「それで、友達に戻れる?」

シャーロットが細い声でたずねる。

「戻れないかも。やけど、それはしょうがないと思う。男女なんだからそういうことは起こっちゃうよ。私からしたら、これまでと同じように友達のままでいたかったって思いはあるかもしれないけど、自分のことを好きになってくれたのにそれを責めるなんてできないもん」

俺は陽菜の言葉に感心させられてしばらくの間、声を失った。そして、どうやらそれはシャーロットも同じだったようで、彼女も言葉は発さずにひたすらうんうんと繰り返し頭を上下に動かしていた。

「さすが経験者やな。陽菜が相手なら俺はフラれても構わないと思ったぞ」

「なにそれ、気味悪いよ?」

「すまん。俺も自分で言っててそう思った」

俺たちがくだらないやり取りをしている一方で、シャーロットは握ったこぶしをあごに当てると考える人のポーズでしゃべり始めた。

「So, both of you think honesty is the best policy.(それじゃあ2人とも、正直が最良の策って思うのね)」

「Yeah, but as I said, I think it really depends on who you say that to. It doesn't work on some people, and it does on others.(そうだな。でも、さっきも言ったように誰に対して言うかでかなり変わってくると思う。人によって上手くいかないことも、上手くいくこともあるんだろうな)」

突然、陽菜がテーブルから身を乗り出して質問する。

「ちなみに! シャーロットは今のところ何人に告白されたん?」

「あ~、それは……」

シャーロットは恥ずかしそうに顔を背けると、静かに右手の人差し指と中指だけを立てて俺たちに見せた。その数字は、これまでの会話の流れからすると少し物足りないように感じられる。

「なんだ2人か。正直もっといるのかと――」

その時、大きく開かれた左手が彼女の右手と同じ高さまで上げられた。

「7人かよっ!!」

「うわぁ、すごい! モテモテやん!」

「I think some of them were just curious.(何人かはただの興味本位だと思うけどね)」

「それで、シャーロットは全部断ってるのか?」

普段の俺なら流しているはずなのに、今は何だか気になってつい尋ねてしまった。すると、シャーロットは今の発言の意図を分析しようとするかのようにじーっとこちらを見つめてくる。

「な、なんだよ」

「陽は、私が誰かと付き合うと、寂しくなる?」

「えっ」

突然のことにドキリとさせられながらも、俺は即座に、そして直感的に答えを出していた。シャーロットが誰かと付き合ったらどうなるのか。俺と彼女がこんなふうに四六時中、一緒にいることはもうできなくなる。極論、シャーロットがESS部からいなくなることだってあり得るだろう(その場合は、ESS部自体を廃部させるかもしれない)。クラスの中でも、少なくともこれまで通り、とはいかなくなる。……そんなの寂しいに決まっている。

だけど、それをここで言うべきなのだろうか。口を開こうとすると、すぐに俺の頭がブレーキをかけた。

変にシャーロットの足枷あしかせになるようなことは言いたくない。この質問の意図は何なんだ? 本気でいているのか、それとも特に深い意味はないのか。まったく、俺はこういうのがとても苦手だ。そもそも、こんなものはいくら考えても答えがわからないのだ。

ちょっと考えて、俺は結局、シャーロットのことを配慮しつつも彼女の邪魔にはならない無難な答えに行き着いた。

「俺は、シャーロットが楽しいならそれが一番良いと思ってるけど」

今の発言がどう届いたのか。彼女は片方の眉だけを上げ、怪訝けげんそうな表情をこちらに向けてくる。その奥で、陽菜が「はぁ」とため息をつくのがわかった。

「...That's not what I wanted to hear.(……それが聞きたかったんじゃないんだけどな)」

「えっ?」

――トン、トン。

ちょうどその時、部室のドアがノックされた。中に入ってきたのは大楠先生だ。

「良かったぁ。今日はみんな部室ぶしつに来てたのね」

先生は俺たちの顔を見るなり安心したようにそう言った。手にはビニール袋をぶら下げている。

「どうかしたんですか?」

「ううん。特に用事があるわけじゃないんだけど、外が暑いからこうして差し入れを……ってあれ?」

俺たちは「しまった」という表情でお互いの顔を見つめ合う。俺はどうか事がバレずに済んでくれと祈ったけど、大楠先生は容赦なくまっすぐに壁につけられているエアコンのコントロールパネルの方へと歩いて行く。

「ちょっと、設定温度は28度って言ったでしょ! 勝手に下げちゃダメです!!」

やっぱりバレた。

「すみません。暑くてつい……」

陽菜が申し訳なさそうに頭を下げる。

「もう! アイス買ってきてあげたから、温度は戻すわよ!」

「えっ! アイスあるんですか!?」

先ほどの申し訳なさはどこかへ吹っ飛んでしまったのか、陽菜が輝く笑顔で大楠先生に尋ねる。

「……許斐さんのそういうところは長所だけど短所でもありますからね。このビニール袋の中に入ってるから、みんなで好きなの取っていいですよー」

「ありがとうございますー!」

袋の中にあったのは、そこそこ上等なカップアイスだった。先生も加わり、みんなでアイスを食べながら一息つく。さっき俺が棒アイスをおごったのにもかかわらず、陽菜とシャーロットの食べる速度はまったくおとろえない。

「みんなは学校が終わってからどこかへ遊びに行ったりしないの?」

大楠先生がこちらを見ながらたずねてきた。

「そうですね、今のところ特には」

俺の答えを聞くと、先生は手に持っていたアイスのスプーンをそっとカップの上に置いた。

「せっかくの夏休みなんだからみんなでどこか行ったらいいのに。今やらないと、学年が上がるたびにどんどん忙しくなるのよ?」

「今って夏休み、なんですか?」

シャーロットが不思議そうな表情で質問する。

「ええっとー、まあ、一応授業はあるけど、ほらっ、今って夏季課外中だから」

「夏休み、ですか」

俺がわざと「休み」の部分にアクセントをつけて言うと大楠先生は少しねたような顔になった。

「細かいことはいいの。とにかく私が言いたいのは、できるうちに色々やってみなよってことです!」

「確かにプールとか遊園地とかみんなで行きたいなぁ」

陽菜が言うとシャーロットもそれに続いた。

「私も行きたい! まだ行ってない場所、たくさんあるよ!」

「そうやな。クラスの友達とか誘ってみんなでそういうことするのもいいよな」

「あれ? ESS部だけで行かないの?」

シャーロットから質問されて、俺は顔が熱くなるのを感じる。

「いや、もちろんESS部だけでもいいんやけど……」

「やけど?」

陽菜もこちらの事情がわかっていないようだ。

「その、ちょっと恥ずかしいやん」

「もしかして男子1人で私たちと一緒に遊ぶのが?」

「……」

次の瞬間、その場にいたみんな(俺以外)が声を上げて笑った。

「何? 照れとるん?」

「う、うるさいな! そりゃあ男1人で女子2人と出かけるんやけんちょっとは恥ずかしいって」

「若いっていいなぁー」

「大楠先生までそんなこと言わないでください!」

「それじゃあ、そんな照屋さんの陽に1つ提案します」

陽菜がなぜだか嬉しそうに言う。小癪こしゃくだ。間違いなく俺をおちょくっている。

「なんだよ」

「私、帰りにちょっと買いたい物があるんよ。それ3人で一緒に行こうよ! 予行練習ってことで!」

陽菜の口調には腹が立つが、みんなで出かけること自体が嫌なわけではない。大体、これはただ同じ部のみんなで遊びに行こうというだけの話だ。恥ずかしさだって、慣れてしまえば別に何でもないのだろう。

「……わかった。せっかくやけん1度くらい試してやる」

「ふふふ」

「笑うな!」

それからまたしばらくして、大楠先生は食べ終わったアイスのゴミを袋に入れると、それを持って部室から出ていった。まだやらないといけない仕事が残っているのだそうだ。

「大人って大変やねぇ」

「ほんとねぇ」

陽菜とシャーロットが口々につぶやくのをぼんやりと聞きながら俺は両手を突き上げて背伸びをする。ここに集まってからなんだかんだでもうすぐ3時間だ。

「それじゃあ、そろそろ私たちも行く?」

陽菜が俺たちに向かって提案する。早く買い物に行きたいのだろう。しかし、シャーロットは眉を下げながら申し訳なさそうに両手を合わせて謝った。

「ごめん。やっぱり私は、もう少しここ残る」

「Is something wrong?(どうかしたのか?)」

「I've got homework to do.(やらないといけない宿題があって)」

そう言って、バッグの中から日本語学習用のテキストを取り出すと表紙をこちらに見せる。

「そっかぁー。学生も大変やねぇ」

陽菜が少し残念そうに、先ほどの自身の発言に被せたジョークを言った。

結局、陽菜の買い物には俺だけがついていくことになり、2人でそれぞれの学生バッグを肩に掛けるとシャーロットにさよならを言って部室をあとにした。

「それにしても、さっきの返事はダメやん!」

校門を抜けるなり陽菜のダメ出しが始まった。しかし、俺は何のことかさっぱりわからずキョトンとしてしまう。

「何の話だ?」

「ほら、陽はシャーロットが誰かと付き合ったら寂しい? って質問に対する返事! シャーロットが楽しいならそれが一番良いと思うってやつ!」

陽菜は依然として手で自分の自転車を押しながら歩いている。てっきり校門を抜けたらすぐに乗るものだと思っていたが、どうやら彼女はこうして話しながらゆっくりと目的地まで向かうつもりらしい。

「あぁ、あれダメやったんか? 変に寂しいとか言うのもシャーロットに気をつかわせるだけやと思ったんやけど」

俺の返事を聞くなり、陽菜は大きなため息をついた。

「陽のことやけんそんなことだろうと思ったよ。でもね、あのセリフって確かに間違ってはないけど、自分には関係ないから好きにしたらいいよっても聞こえるんよ! シャーロットは絶対に陽ともっと仲良くになりたいって思っとる。じゃないとあんな質問はせん。だから、あそこは素直に寂しいって言わないと!」

俺は何だか自分の浅さを見せつけられた気がした。シャーロットのためを思って選んだ言葉が、逆にシャーロットを遠ざけてしまっていたとしたら……。そう考えるとショックだ。

「そうか。シャーロットにもそう聞こえちゃったんかな。こういうの、上手くできないんだよな」

「ま、もしそうだとしても私があとでちゃんとフォローしとくから安心し!」

陽菜が握ったこぶしに親指を立てて、ニッと笑いかけてくる。

「……悪いな。助かる」

「あ、そうだ! それともう1つ。シャーロットの口パク、あれ何て言いよったん? 陽はシャーロットからどうフラれたいかって話してた時の」

「ああ、あれか。実は俺もわからんかった」

「えぇ、そうなん? 陽があれだけは訳してくれんかったけん、もしかしたら秘密なんかなぁって思ってたけど」

「残念やったな」

「陽は何て言ってたか気にならんと?」

「気になるけど、まあいいかなって」

「ん? なんかちょっと嬉しそうやね。ほんとは何て言ったかわかっとるんやないと!?」

陽菜がいぶかし気にジロッと俺を見上げてくる。

「嘘やないって。あれはマジでわからんかった」

「うーん、そうかぁ」

それ以上、陽菜が追究してくることはなかった。

「にしても暑いなぁ」

「ほんとやねー」

俺はまだまだ明るい夏の空を見上げる。そして、陽菜にさとられないようこっそりと先ほどのシャーロットとのやり取りを回想した。

――I think I want you to be honest with me. If you don't like me, I want you to say that instead of trying to hide it. That way, I can give up on you.(俺は正直に言って欲しいと思う。好きになれないなら、隠されるよりもそう言って欲しい。そうすればちゃんと諦めきれるから)

――I see.(そっか)

――It's difficult isn't it? You might not want to tell me the truth because you are afraid of breaking our friendship.(難しいだろ? もしかしたらシャーロットは俺との友情が壊れるのが嫌で、本当のことは伝えたくないかもしれない)

――Yeah, that's true....(そうね、それは確かにそう……)

あの時、シャーロットが俺に何て言ったのかわからないのは本当だ。だけど、実を言うと最初の1単語だけはわかった。そして、それが「But」だったから、俺はひそかに彼女がきっと何かしら良いことを言ってくれたんじゃないかと思っているのだ。

2人が部室ぶしつを出て行ってから、ぼんやりと窓の外を見上げた。そこからは校庭で野球部がバッティング練習に打ち込んでいるのが小さく見える。私は、自分でも理由はわからないけど、何となくそんな気分になって窓の外に向かってそっとさっきのセリフを口にしてみた。

「――Yeah, that's true. But, if you really mean it, I don't think I would ever reject you.(そうね、それは確かにそう。でも、もしも陽が本気で言うなら、私は絶対に断らないと思うな)」

第13話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

まずは、冒頭部分に出てくる本エピソード最初の英文「I'm amazed. You never seize a chance however close it is.(感心するわ。それがどんなにあと少しでも絶対にチャンスをものにしないんだもの)」です。陽がトランプで負け続けるのを見たシャーロットが言っていました。

これを単語から見ていくと次のようになります。「amaze」→「感心させる、びっくりさせる」、「seize」→「つかむ、捕らえる」、「close」→「近い」、「however」→「どんなに~でも」

「amaze」はingをつけて形容詞の形にした「amazing(アメイジング)」が日本語でもたまに使われると思います。「(驚くくらい)すごい」という意味です。「close」については、恐らく「クローズ(閉じる)」の方を思い浮かべると思いますが、こちらは同じスペルで全く別の意味を持つ形容詞です。ちなみに読みは「クロース」になります。紛らわしいですが気を付けてください!

文法を見ていくと、まずは「I'm amazed.」で受け身の形になっているのが気になるかもしれません。受け身なのだから「~される」という訳になるのでは!? と思う方もいるでしょうが、これは「amaze」という単語が元々「~させる」という意味を持っているので、受け身にすることで「私が~されることをされる」→「私が~する」という意味になるちょっと変わった単語なのです。

このような単語は「amaze」の他にも「surprise(驚かせる)」「move(感動させる)」「please(喜ばせる)」などがあります。感情系の動詞は「~させる」という意味を持っていることが多いです!

例)「Wow, I'm surprised!(うわっ、びっくりしたぁ!)」

「however」については、恐らく学校では「しかしながら」の意味を最初に習うと思います。しかし、この単語には「どんなに~でも」という意味があり、この用法で使用する場合は「however + 形容詞/副詞」の形で使われます。「whatever(何であっても)」や「wherever(どこであっても)」と同じように「ever」がついて強調されている表現です。

例)「I have to solve this problem however difficult it is.(それがどんなに難しかろうと私はこの問題を解決しなければならない)」「However rich you are, there are things that you can't get.(あなたがどんなにお金持ちでも、手に入れることができないものがあります)」

ちなみに「however + 形容詞/副詞」は「no matter how + 形容詞/副詞」と言い換えることができます。例えば「I have to solve this problem however difficult it is.」であれば「I have to solve this problem no matter how difficult it is.」で同じ意味になります。

次に「I refuse to get rejected before I even confess my feelings.(告白する前にフラれるのは拒否する)」の解説をします。前半部分のシャーロットからどうフラれたいかと質問される流れで、陽の口にしたセリフがこれでした。

そもそも「告白する」「フラれる」と言った日本語は英語にどう訳されるのでしょうか。前者は、そのまま訳すと「confess(告白する、白状する)」が該当するでしょう。しかし、この単語は日本語で言うような「恋愛感情を相手に伝える」というよりも「隠していることを打ち明ける」と言った意味合いが強いです。だから、「罪を告白する」などで使われる「告白」が「confess」に当たると考えたほうが近いと思います!

一応、恋愛感情を伝えるという意味で「confess」を使うこともできます。ただし、その場合は「I confess my feelings.(私の気持ちを告白する)」のように目的語にそれが恋愛感情のことだとわかる単語をつけないといけません。単に「I want to confess him.」などと言っても、相手は「え? 何を打ち明けるの?」となってしまうでしょう(もちろん話の流れでそれが恋愛だとわかることはありますが)。

ただ「告白する」ということを相手に伝えたい場合、一番シンプルなのは「I want to tell him that I love him.(私は彼に、彼のことが好きだと伝えたい)」の形です。これで日本語で言う「私は彼に告白したい」と同じ意味になります。

では、実際に相手に告白する時にはなんて言うのか。すみませんが、これについては字数の関係上、次の機会に書こうと思います(実は「I love you.」はかなり深い愛を意味するので場面によってはしっくりこないことがあるんです)。

後者の「フラれる」ですが、これを英語にすると「turn down(断る)」「reject(拒否する、拒絶する)」が当てはまります。「She turned me down/She rejected me.」というと「ああ、フラれたんだな」ということが相手に伝わります。

ちなみに「She dumped me.」も同様に「彼女は私をフった」という意味になりますが、こちらは「付き合っている人が相手をフった」という意味なので、付き合う前にフラれてしまう場合はこの表現は使えません。「dump」は「投げ捨てる、ドサッと捨てる」というのが元々の意味です。

あまり使う必要のない方が幸せな気もしますが、覚えておくと英会話の幅が広がると思います!


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!