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第12話:Her Decision.(part 2)

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第12話:Her Decision.(part 2)

「調理器具はここに入ってますー」

「What is "Chorikigu"?(「ちょうりきぐ」って何?)」

「Kichen utensils.(キッチンユーテンシルのこと)」

「Ah, thanks!(あぁ、ありがと!)」

まだ昼と変わらないくらい太陽が照っている夕方、俺たちは料理部の2人とみんなで家庭科室にいた。彼女たちとの料理対決が決まったのが昨日で、それから今朝、対決をするのが明日の放課後になったと大楠先生から言われて、放課後になってこっちも向こうも急いで準備に取り掛かったのだ。みんなで細かいルールを考えたり、それぞれ作る料理を決めたりと最低限の準備が終わって、今は家庭科室の案内をしてもらっている。

「うーん、よし。これで大丈夫かな。ひとまず説明は全部終わりました」

佐藤先輩が優しくしゃべる。

「どこか気になったことはありますか?」

「特にないです」

「私も、大丈夫です!」

俺たちの返事を聞いて彼女が「それなら良かったです」と笑顔で答える。

シャーロットが改めてぐるりと家庭科室を見回した。

「私、ここで料理するの、初めてです」

「あれ、1年生は家庭科の授業ってないんでしたっけ?」

妻夫木先輩が近くにいた俺の方を向いて首を斜めにする。

「授業はもう何回かあったんですけど調理実習はまだなんです」

「ああ、そうなんですね。私たちはもう1年以上使ってるんで、わからないことあったら何でもいてくださいね!」

「ありがとうございます。2人はここで毎日料理してたんですか?」

「毎日じゃないです。大体、週に2回か3回、みんなの気が向いた時に作ってました。ここには毎日集まってたんですけどね」

料理をしないのに毎日集まるなんて変だなと思ったけど、すぐにESS部も似たような状況だと気が付いて1人で少し恥ずかしい思いがした。

「料理しない時は何してたんですか?」

「みんなでおしゃべりしてました。たまに真面目にレシピ考えたりしてましたけど、ほとんどは学校のこととか、遊びに行く計画とか立ててました」

そう言って、妻夫木先輩は「えへへ」と照れ笑いをする。

「みんな仲が良かったんですね」

「私と佐藤さんは昔からの友達だったんですけど、去年の3年生の先輩たちもとっても優しかったんです。2年生が誰もいなかったから料理部に勧誘された時からずっと可愛がってくれて」

「そうだったんですね。ESS部には先輩はいないですけど、もしもそんな先輩たちがいたら楽しいだろうなって思います」

「はい、とっても楽しかったです。それに色んな事がありました。使ってる途中で炊飯器から変な煙が出てきてみんなで慌てたり、電子レンジの中で食材を爆発させちゃってみんなで怒られたり、こう見えても結構どたばたやってたんですよ」

幸せそうにニコニコと笑って話す彼女を見ているうちに、胸が罪悪感に似た感情で満たされて重たくなっていく。どうしても惜しい気持ちになってしまうのだ。本当にこのまま料理部を終わらせていいのだろうか。きっと大楠先生もこんな気持ちなんだろう。

「なんだか、ちょっともったいない気がします。こんなことを言うのはただのおせっかいですけど……。その、料理部を廃部にすることは前から決めてたんですか?」

「ここ1ヶ月くらいで決めたんです。新入部員が誰も入ってこなくて、これからどうしようかって2人で話し合って、それでもう廃部にしようってなったんです」

「で、でも来年になったら新しい部員が入るかもしれないですし……」

「私たち、2人とも何となくわかってたんです。多分、このまま続けても先輩たちと一緒にいたあの時より楽しい時間は過ごせないんだろうなあって」

「……そうなんですね」

「ずっと先輩たちと一緒にいたいって思ってたんですけど、やっぱりどんなものにも時間は流れていつか変わっちゃいます。変わっちゃいました。それで、その後に何をしたいかって考えて、そろそろ真面目に勉強しなきゃなぁって思ったんです」

昨日、職員室で話した時からずっと気になっていた。佐藤先輩もそうだったけど、目の前の妻夫木先輩にも寂しそうなところや残念がるところがどこにもないのだ。

「先輩は勉強が好きなんですか?」

「ふふ、もちろん好きじゃないです。とっても苦手です。でも、ちゃんと頑張ったら、頑張らないよりはきっと最後にすっきりできると思うんで、それならやろうって思いました」

その返答を聞いて次第に頭の中で、ああ、そうか、と合点がいくようになった。先輩たちはそういう・・・・人間なんだ。俺が惜しい気持ちになる必要は本当になかったんだ。

「すごいですね」

俺の言葉を聞いた先輩が不思議そうな顔をする。

「何がですか?」

「ずっと前を向いてるなって思って。強いというか、なんて言ったらいいのかわからないですけど」

「ふふ、そうですか? うーん、ありがとうございます」

彼女が少し躊躇ためらうように返事をしたから、俺は今の発言が彼女を困らせてしまったのかと焦る。

「あ、すみません。変なこと言いましたよね」

「いやいや、そう言ってくれて嬉しいんですよ。ただ、本当のこと言っちゃうと今でも残念な気持ちがないわけじゃないんです。それは料理部がなくなるってよりも、先輩たちが卒業しちゃって、もうあのときの時間は戻ってこないんだなぁってことなんですけど」

「……そうですよね」

「だから、逆に麻生くんたちには今できることをできるだけ楽しんで欲しいなって思います。そのためにも私たちは本当に、大楠先生がESS部の顧問の先生になってくれたらいいなって思ってます」

そう言って妻夫木先輩はこれまでと同じように優しく笑ってくれた。俺はしっかりとうなずいて、彼女の目を見てこたえる。

「ありがとうございます」

「――他に何もなければ、今日はこれで解散にしようと思うんですけど、どうでしょう?」

出入り口の近くで、佐藤先輩がこちらにたずねてきた。そのとなりにシャーロットも立っている。

「あ、はい! 大丈夫です。明日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

最後に俺たちはみんなでお辞儀をし合って家庭科室を出た。

「Do you have time?(ちょっと時間ある?)」

先輩たちと別れて、校門に向かいながら俺はシャーロットに話しかける。

「Are you asking me out?(何? デート?)」

「W-What!? I just wanted to talk.(ええっ!? ちょっと話がしたいだけだよ)」

俺の反応を見たシャーロットは「はぁ」とため息をついて言う。

「Don't take it seriously. Yeah, of course we can talk.(そんなに真面目に答えないでよ。もちろんいいわよ)」

「...You were teasing me.(……からかっただろ)」

彼女はニヤリと笑う。

「What do you think?(さあね)」

そう言われてむずがゆい思いをさせられたまま、なぜか彼女の方が俺を先導して学校近くのファーストフード店へと向かっていった。何か言い返してやりたかったけど、何も言葉が出てこなかったから、俺は黙って大人しく彼女のあとをついていくしかなかった。

「Alright then, what do you wanna talk about?(よし、それじゃあ何のこと話したいの?)」

席に座り、注文したフライドポテトを右手に持ちながら彼女がたずねる。

「It's about Hina. Do you know why she quit the basketball club?(陽菜のことだ。何で部活やめたか知ってるか?)」

「I don't know. I didn't ask.(わからないわ。いてないから)」

「You have talked about it with her, haven't you?(もう陽菜とそのこと話したんじゃないのか?)」

「Yeah, two days ago.(話したわ。2日前に)」

「Two days ago!?(2日前!?)」

俺は驚いた。2日前は最初にダニエル先生がESS部廃部の話を持ち込んできた日だ。確かにあの時も陽菜の様子はおかしかったけど、シャーロットはもうその日のうちに陽菜と話をしていたのか。

「...I didn't do anything two days ago, and I haven't yet.(……俺は2日前、何もしなかった。そして、今でも何もしていない)」

心臓がしぼんでいくような感覚がした。どうして俺はもっと早く動いてあげられなかったのか。陽菜はいつも俺のことを気遣きづかってくれたのに。どうして今まで気が回らなかったのか……。

「You are trying to do something now. And you will, right?(今しようとしてるじゃない。そして、これからするんでしょ?)」

シャーロットがニッと笑ってこちらを見つめる。俺はテーブルの下で両手のこぶしをにぎった。

「Yeah, I will. So, what did she say!?(うん、する。それで、あいつは何て言ったんだ!?)」

「Nothing really. I didn't ask many questions. I just said "I respect your decision. I'm always here to help you". Then, she said "Thank you."(特に何も。あまり質問はしなかったの。ただ私が、”私は陽菜の選択を応援する。助けが必要なときはいつでもここにいる”って伝えて、そしたら陽菜も”ありがとう”って)」

「That's it?(それだけ?)」

「That's it.(それだけ)」

正直に言って俺は肩透かしをくらった気分になった。それこそ部活を辞めた理由とか、もっと色んなことを話したに違いないと思っていたのだ。

「I thought you talked more than that.(もっと色々話したのかと思ってた)」

「It's not long since I became friends with Hina, but I know she is the type of person who can make one's own decisions. Not only can she think about others, but she can also think about herself.(友達になってからそんなに長いわけじゃないけど、陽菜が自分のすることを自分で決められる人だってことは知ってるの。陽菜は人のことを考えられるだけじゃなくて、自分のこともちゃんと考えられるよ)」

「...Yeah, I think so too.(……うん、俺もそう思う)」

「I believe whatever choice she makes is right for her. I'll do anything if she asks me for help, but otherwise, I'll stand by her and watch.(どんな選択をしても、それは陽菜にとっては正しい選択なんだって信じてる。だから、陽菜が私に助けを求めない限りは、私はただそばにいて見守っていようって思ったの)」

シャーロットは真剣な表情でじっと俺の目を見つめている。俺はゆっくりと視線を下に落としてもう一度考えてみた。

「I...(俺は……)」

何か言おうとしたけど言葉が出てこない。だけど、胸の中には形のない何かが確かに引っかかっている。自分でも理由はわからない。それなのに、何だか、シャーロットのようにただ見守るだけじゃなくて、陽菜の問題を解決するために俺にできることがある気がするのだ。でも、陽菜は……、陽菜はどう思うんだろう。

言葉の続きが出てこない俺の様子を見て、シャーロットが静かに口を開いた。

「Different person has different answers and each of them is right in their ways. You can do whatever you think is good for her. Do it your way.(人によってそれぞれ異なった答えを出すと思う。そして、それぞれの形でそのどれもが正解なんだと思うの。だから、陽は陽が良いと思うことをしたらいい。陽のやり方で)」

「But, I don't know what is right.(だけど、俺には何が正解かわからない)」

「I don't know either. What I'm doing might be just bothering her. But still, Hina thanked me so much when I called her two days ago. I don't think she was happy because I did the right thing. There were more than that. I believe what matters is what you have inside your heart, and I believe it will reach her.(私にだって何が正解かなんてわからないよ。もしかしたら私がしていることも陽菜にとっては迷惑なのかもしれない。だけど、私が2日前に陽菜に電話した時、陽菜はとっても感謝してくれた。陽菜が喜んでくれたのは、私が正しいことをしたからじゃない。もっと、いろんな理由があったと思うの。だから、大切なのは心の中で自分が何を思ってるかってことで、そして、それは陽菜に伝わるって信じてる)」

彼女の言う通りだと思った。俺のやることが正解かどうかはわからない。でも、俺が良いと思うことをしたら、きっと陽菜はそれを喜んでくれるだろう。それなら俺は――。

「I think that's what makes you...(きっとそれが……)」

俺がそう言うと、シャーロットはニコッと笑って答えた。

「Friends!(友達だよ!)」

そのあともいくつか他愛のない話をして(そのほとんどはシャーロットがポテトを食べ終わるのを待つためだったけど)、俺たちはファーストフード店を出た。出入口のすぐそばにある自転車置き場からそれぞれの自転車を見つけて拾う。

「It's getting dark. I guess we stayed a bit too long.(暗くなってきてるな。ちょっと長居しすぎたか)」

「Yeah, we have a cooking competition tomorrow, but we haven't done any preparation.(そうね。明日は料理対決があるのになんにも準備してない)」

「Do you think we will stand a chance?(勝ち目あるかな)」

「Don't think about a chance. Que Sera, Sera.(勝ち目とか考えちゃだめよ。ケセラセラ、だよ)」

「Haha, you're right.(はは、そうだな)」

「See you tomorrow then!(それじゃ、また明日ね!)」

「See you.(うん。また明日)」

俺はシャーロットに背中を向けると、家に向かって自転車をこぎ出した。頭の中ではさっきの言葉が反響していた。きっと部活のことも陽菜のことも、自分のできることを精一杯やったら、最後はもう「なるようになる」しかないのだろう。

その日の夜、俺はシャーロットと陽菜に翌日の昼休みはESS部の部室ぶしつで一緒に昼ご飯を食べようというむねのメッセージを送った。これまで自分から2人に何かを提案することなんてなかったからそれはとても恥ずかしかった。送った後もしばらく、がらにもないことをして不審がられたらどうしようかと不安に駆り立てられたけど、幸いにも2人はすぐに了承の返事をしてくれた。

「なんか、こういう部室の使い方が好き。secret baseみたい」

「シークレットベース?」

「秘密基地ってこと」

「あぁ!」

翌日の昼休み、俺たち3人は約束通り部室で昼ご飯を食べていた。

「それにしても勝手にここ使っていいと? 廃部になるかもって部の部室なのに」

「一応まだかぎの管理してるのはダニエル先生やけんほとんど自由に使えるんよ。つーか、この前は陽菜だって勝手に部室入り込んどったやん」

「あれはたまたまダニエル先生に部室の場所きいたら鍵渡すから中で待ってなよって言われたの! そうじゃなきゃ勝手に入り込むなんてさすがに私もできんって! それより、今日の料理対決は大丈夫なん?」

陽菜の質問を受けて、シャーロットが俺に目で合図を送ってきた。俺はそれに応えて静かにうなずくと、もう一度、陽菜の方に顔を戻す。

「ちょうどそのことで伝えたいことあって部室ぶしつに呼んだんよ」

「え、そうやったん? どうしたと?」

「今日ね、陽菜もりょおり対決見に来てよ!」

シャーロットが「料理」の発音に少しつまづきながら言った。

「私も?」

「ついでに勝敗のジャッジもして欲しい。もともとダニエル先生と大楠先生がする予定だったんやけど、ダニエル先生が来れないかもってなってて。代わりに陽菜にお願いしたい」

「え、ジャッジも? でも私、ESS部には直接関係ないんだよ? やって大丈夫なん?」

「先生や料理部の先輩たちにはもう断ってる。それでもいいって言ってくれた。ESS部が廃部になるかどうか、陽菜にも俺たちと一緒に関わって欲しいんだ」

「もちろんジャッジは公平に! 陽菜がおいしいと、思ったチームに投票してね!」

「……2人ともありがと。うん、私でいいならやらせて!」

そう言って、陽菜はニコッと笑ってくれた。その反応を見て、俺もシャーロットも安心から自然と顔がほころぶ。

「頼んだ。俺たちのこと見守っててくれ」

「私たち、がんばるね!」

「みなさん準備はいいですかー? それじゃあ、これから料理対決を始めますね。時間は30分で作る料理は自由です。ダニエル先生は来れないそうなので、勝敗は私と許斐このみさんで決めます」

料理部とESS部に分かれて、それぞれ調理台の前に立つ。料理部の2人は何となく想像がついていたけど、となりに立つシャーロットのエプロン姿が予想以上に似合っていて何だかドキリとさせられる。

「I'm getting nervous.(緊張してきちゃった)」

「Same here. I practiced a little yesterday, but still not sure if I can cut ingredients well...(俺も。昨日ちょっと練習したけど、ちゃんと具材を切れるか不安だ……)」

「We can do it. We can do it...(できる、私たちはできる……)」

視線の先には楽しそうに笑い合っている先輩たちが見える。俺はこの時になってようやく焦り始めた。どうしてもっと早く、ちゃんと時間を確保して真剣に料理の練習をしておこうと思えなかったのか。そもそもこのタイミングで焦るくらいならいっそ最後まで焦らずに終わる方がよっぽど良い。の骨頂! そして、そんな俺の心情などお構いなしに大楠先生は対決の開始を宣言する。

「料理対決スタート!」

合図とともに30分にセットされたタイマーは刻々とカウントダウンを始めた。と同時に、早速シャーロットが俺の腕をつかんで当惑気味に尋ねてくる。

「Ah, what do we start with!?(えっと、何から始めるんだっけ!?)」

「Calm down. Start with taking a plastic wrap off of the ground meat, and mix all the ingredients in a bowl.(落ち着いて。とりあえずき肉のサランラップを取って、材料を全部ボウルの中で混ぜるんだ)」

「Yeah, you're right. I'll get right on it.(そ、そうね。すぐ取り掛かる)」

俺たちが今回作るのはハンバーグだ。初心者でも作りやすい、かつ普通に作ればまずおいしいと思ってもらえる料理。

「I'll take care of rice.(俺はご飯を作るよ)」

「Alright.(わかった、お願いね)」

ご飯は炊飯器じゃなくて、鍋で炊くことになっている。さすがに米を水にけておく時間も入れると30分じゃ終わらないから、両チームともそれだけ事前に準備しておいて、すぐにく作業に入れるようにしていた。

ご飯を作ると言ってもやることはぶっちゃけ火を調節するだけだから、それと同時にボウルに入れる牛乳やらパン粉やらの分量をはかったり、使い終わった食材を片付けたりしてシャーロットを手伝う。

「Milk, egg, breadcrumbs, salt, black pepper..., we have to fry onion!!(牛乳に卵にパン粉に塩にこしょうに……、あっ! 玉ねぎいためなきゃ!)」

「Gee, I totaly forgot about it!(しまった、忘れてた!)」

タイマーに目をると残り22分だった。36秒、35秒、34秒……。どんどん時間はなくなっていく。となりではまたシャーロットが不安そうにこちらを見つめていた。最初に出会った時と同じだ。彼女は普段は元気で明るいけど、実は気の弱いところがあって、そんな時に今みたいな綺麗ではかない表情を見せるのだ。

「Don't worry. There is still enough time. You can count on me!!(大丈夫。まだ時間は十分ある。俺に任せろ!!)」

そう言うと、俺は勢いよく包丁を取り出して玉ねぎを切り始めた。

…………。

「My eyes! My eyeeeees! I can't stop cryyyyyyying!(目が! 目がぁぁぁぁ! 涙が止まらないぃぃぃぃ!)」

「Are you alright!? I'll take over from here...... Nooooo! my eyes are burning! I can't see anythinggggg!(ちょっと大丈夫!? ここからは私がやるわ。…………いやあああ! 目が燃えてる! 何も見えないわぁぁぁぁ!)」

着実にゼロに近づいていく残り時間。かすむ視界の先に見える頭を抱えた陽菜の姿。向こうからかすかに匂ってくるおいしそうな香り。地獄絵図だ。

「あ、あのぅ。玉ねぎは切る前に温めるか冷やすかして、繊維せんいに沿ってきれいに切ればあまり目に染みずにすみますよ」

「切る前に言ってくれぇぇぇぇ!」

せっかくアドバイスをくれた佐藤先輩に、感謝するどころか敬語を使う余裕もないくらい俺は焦っていた。

「あ、そ、そうですよね……。ごめんなさい……」

「い、いや、違うんです。つい勢いで、すみません……」

その後、どうにかこうにか玉ねぎを処理し、何とかハンバーグを焼く準備ができるころには残り時間は10分に迫っていた。

「How is the rice?(ご飯はどう?)」

「I already turned off the heat. Another 5 or 6 minutes, and it's done.(もう火は止めたから、あと5、6分蒸らせば完成だ)」

「That's good to know. At least, we have one food to serve.(良かったわ。これで少なくとも1品は出せる)」

「Are we gonna go with just rice!?(ご飯だけで勝負すんのかよ!?)」

「It depends on how this goes!(それはこれがどうなるかにかかってるわ!)」

シャーロットが小判型のお肉をフライパンに放り込む。すぐにジューとおいしそうな音を立てて焼け始めた。

しばらく焼いてお肉をひっくり返し、またしばらくすると今度は火を弱めてふたをする。その間に俺はハンバーグにかけるソース(と言っても市販のケチャップとウスターソースを混ぜ合わせた簡単なものだ)、それにレタスとミニトマトときゅうりの簡易サラダを作っていた。ひとまず順調だ。あとは残り時間内にお肉がいい焼き加減になりさえすれば……。

「それにしても料理部の先輩たちすごいですね。てきぱきやってて! 後半なんてほとんどルーを煮込んでるだけでしたもんね」

ふと陽菜と大楠先生の会話が耳に入ってきた。実際は2人はずっと前から話していたみたいだったけど、それまで周囲に気を向ける余裕がなかったのだ。

「ふふ。こう見えて2人とも最初はほとんど料理できなかったのよ?」

「えっ! じゃあ始めたてはあれみたいに悲惨ひさんな感じだったんですか?」

悲惨で悪かったな。

「うーん、あそこまでではなかったかも。今みたいに制限時間とかなかったから」

大楠先生、聞こえてるんですけど。

「あー、ですよね。それにしても30分って長いと思ってたら、案外すっと過ぎちゃいましたね」

「ほんとね。みんなが作った料理を早く食べてみたいわ」

「Haru, one minute left!(陽、あと1分よ!)」

シャーロットの声に気が付いてタイマーの方を振り返る。残りは58秒だった。

俺はお皿と茶碗ちゃわんを取り出して調理台に並べ、鍋を開けて茶碗にご飯を入れる。それぞれ6つずつ用意するから(各チーム2人前ずつ料理を作って、それを全員で分けることになっていた)、想像以上に用意に時間がかかる。できたてを盛るつもりであえてギリギリまで待っていたが、時間を読み間違えたかも知れない。

27秒、26秒、25秒……。

「It's ready here! Can you put the dishes on the table!?(こっちは用意できたわ! お皿を並べてくれる!?)」

「I'm on it!!(今やってる!!)」

……ピーーー!!!

「はい、時間になりました!」

大楠先生が嬉しそうにタイマーを止める。

俺たちの調理台の上にはご飯とハンバーグのセットが一応6つ、ちゃんと並んでいた。

「......We made it.(…………間に合った)」

「Yeah, we did it! We actually did it!!(うん、やった! ほんとにやったよ!!)」

舞い上がるシャーロットを横目に対峙たいじする調理台を眺めると、そこにはおいしそうなカレーが同じく6つ並んでいた。

「They made curry rice.(相手はカレーか)」

「それじゃあ、早速みんなで食べましょう」

大楠先生の掛け声とともに俺たちはそれぞれ中央のテーブルに料理を運び、最後にみんなで椅子いすに座った。

「いただきます!」

まずは全員がカレーを食べる。

「おお、このカレーおいしいな」

「うん! なんか甘くてさっぱりしてるね!」

「実はこれ、リンゴジュースを入れてるんです」

「リンゴジュース!?」

「俺たちが同じことしたら大惨事だいさんじになるんやろうな。ってかまず30分でカレーは作れん」

「うん、そもそも30分でカレー作っちゃうのがすごい!」

「工夫すれば何とかできるものなんですよ」

「すごい! すごいです!」

「ふぅ、次はこっち食べてみるかぁ」

「……そんな不安そうな顔すんなよ。焼き加減は大丈夫なはずだ。多分」

「んっ! これおいしいですよ!」

「ほんと、おいしい! 驚き!」

「シャーロットが驚いてどうするんだよ」

と言いつつ、俺も気になって口に運んでみると確かにおいしかった。もちろん隠し味のような特別なことはなにもしていないから、意外なおいしさとかそういうのじゃないけど、普通のおいしいハンバーグに仕上がっていたのだ。

「ごちそうさまでした。どっちの料理もおいしかったです!」

俺がご飯を食べ終わってからちょっと経ったころ、大楠先生が満足げな表情でそう言った。他のみんなももう食べ終わっているようだ。

「それじゃあ、そろそろ結果を発表しましょうか」

「発表ってどうするんですか?」

陽菜が大楠先生にたずねる。

「せーの、でよりおいしかった方の部を言うってのはどう?」

「わかりました!」

ついに料理対決の結果が発表される。しかし、対決が始まった時とは打って変わって俺に緊張はなかった。

「せーのっ!」

「料理部!!」

先生と陽菜の声が同時に家庭科室の中に響き渡る。うん、絶対にそうだと思っていた。むしろ料理部が勝つという確信があったからこそ、結果発表の時に緊張することもなかったのだ……。

ESS部の料理も料理部の料理もどちらもおいしかったけど、根本のところで2つは違っていた。俺たちのハンバーグは普通のおいしいハンバーグだったけど、彼女たちのカレーには工夫があって、普通とは違う特別なおいしいカレーだった。

「やったー!!」

料理部の先輩たちが手を取り合って喜ぶ。俺たちみたいな素人と勝負して、彼女たちからすると相手にとって不足千万なんじゃないかと思ってたけど、こうして喜んでいる姿を見ると「ああ、やって良かった」と素直に感じた。

「それで、私も料理部に投票しちゃったけどさ、顧問の先生はどうするん?」

「な、どうしよっか……」

シャーロットもしょんぼりと肩を落とす。その様子を見た料理部の先輩たちは2人とも心配そうな顔になる。

「私たち勝負には勝ちましたけど、料理部がなくなることは変わりません。大楠先生、何とかならないですか……?」

「いや、それはやめましょう。俺たちは負けたんだから大楠先生に交渉する権利がないんです。それがまかり通ったらこの勝負をした意味がなくなっちゃいます」

「そんなことどうでもいいじゃないですか!」

佐藤先輩が遠慮がちに声を荒らげる。

「このままじゃESS部が廃部になっちゃうかもしれないんですよ? それは私たちだって嫌なんです!」

「大丈夫です。他の方法を探しますから」

「もう、変な所で真面目になんないでくださいよ」

妻夫木先輩も声を上げる。

「ふふ、麻生くんの言う通りよ」

大楠先生が小さく笑いながら言う。

「勝負は勝負。それにここで負けたのにそれでもお願いします、って言うのはかっこ悪いじゃない」

「大楠先生までそんなこと言わないでくださいよぉ」

佐藤先輩が目をうるませながら両手で先生の肩をゆする。

「でも、私から麻生くんたちにESS部の顧問にしてくれるよう交渉するのはアリよね?」

「えっ?」

俺が顔を上げて大楠先生と目を合わせると、先生はニコッと笑った。

「クラスの係決めの時、麻生くんはシャーロットさんを助けた。なのに私は何もできなかったでしょ? ずっと悔しかったの。だから、これからは2人のお手伝いをさせて欲しいな」

「で、でも、顧問の先生って大変なんですよね? 本当にいいんですか?」

俺が伏し目がちにたずねると大楠先生は少し語気を強めて言い返した。

「そういうことはまだ考えなくていいの。今は高校生なんだから、まずは自分たちのしたいことをしなくちゃ。私に変な気をつかっちゃダメです!」

俺は少し戸惑いながら返事をする。

「ほんとに、いいんですか?」

「ええ、もちろんよ!」

「This is awesome!(やったぁ!)」

突然、シャーロットが横から俺に抱きついてきた。それで、俺は嬉しいやら恥ずかしいならで中途半端な笑顔になりながら、陽菜や料理部の先輩たちとみんなで一緒になって喜んだ。

「何とか廃部もなくなったね」

学校からの帰り道、陽菜と2人で自転車を走らせる。

「そうやな。陽菜もありがとな」

「んー? 私は特に大したことしとらんよ」

「いや、陽菜がおらんかったら俺は廃部でも構わないって思ってた。陽菜が話し合いに参加してくれたおかげだ」

「なんか今日は優しいやん。ありがとね!」

「どういたしまして。なあ、それでちょっと話したいことがあるんやけど」

「ん? どうしたと?」

「お前が部活辞めたことで話がしたい」

「ああ、知っとったんやね」

「うん」

「わかった。あそこの公園でいい?」

俺たちはたまたま近くにあった公園に入ってベンチに腰を下ろした。

「陽菜が部活をやめたって聞いて、俺は何があったのか知りたいって思った」

「うん」

「部活をやめたこと自体はどうでもいいんだ。きっと陽菜のことだから、ちゃんと考えた上で決めたことやと思う。やけど、それからずっと元気がないから、もちろん嫌なら話す必要はないけど、もしも俺が聞いて、一緒に考えて、少しでも陽菜の為に何かできるなら、そうしたいと思った」

「うん」

「だから、もし良ければ何があったのかいても良いか?」

「いいよ」

彼女の返事は想像してたよりもずっとあっさりとしたものだった。

「ん? いいの?」

「え? 聞いてくれるんやろ?」

「あっ、いや、そんなあっさりオーケーされるとは思わんかった」

「あはは、何で? 私のこと心配してくれとるんやろ? もともと隠すようなことでもないし、私も陽になら相談したいなって思ったよ」

「……ありがと」

「それでね、私が部活をやめた理由。それは、自分にがっかりしちゃったからだよ」

「がっかりした?」

「うん。私ね、自分で言うのもなんだけど、バスケの才能はあるんやないかって思ってた」

「俺も陽菜には才能があると思ってる」

だからこそ、あんなにバスケの上手かった陽菜が部活をやめるなんて、きっと何か大きなことが起こったんだろうと思った。

「ありがと。でもね、1ヶ月くらい前の練習試合ですっごい相手とぶつかったの。ドリブルは速いしシュートはめちゃくちゃな体勢でも決めるしパスだってあり得ないところから通しちゃう。私、その人に手も足も出なかった。それだけじゃない。私はこの先、高校生活の2年間必死に練習しても、絶対にあの人には追い付けないって感じさせられた。それぐらいの差だったの。

別に始めからバスケの道に進もうなんて思ってなかった。うちの学校もそんなにバスケが強いわけやないし。だから自分でもどうしてこんなにショック受けてるのかわかんない。ただ、私は自分が思ってた以上にバスケに自信を持ってたみたい。

11歳で始めて、ずっとバスケが好きで一生懸命に練習してきた。どんどん上手くなって、試合でも活躍できるようになって、他の人と比べてもバスケだけは負ける気がしなかった。例え私より上手な人がいても、すぐにその人に追いついて、追い抜く未来が描けてた。そして、実際にそうなってたの。今考えたら私は小さな世界の中にいただけなんやと思う。それでも、バスケなら思い通りの自分になれるって自信がどこかにあった。バスケだけは、うん、これが私の強みなんだなって思えて、他に何もなくてもそのことだけは自分で自分を認めることができてたよ。

だけどこの前の試合で、突然自分はここまでだって思い知らされた。ずっとバスケをやってきたからわかるの。私は絶対にあそこには行けない。それでね、天才っているんだなって、自分は結局大したことなかったんだなって、……これまでの自分の5年間は何だったんだろうなって思った。最初からプロの選手目指してたわけでもないのに何だよ、って感じだよね。これまでずっと周りからチヤホヤされて勘違いしてただけなんよね。だけどもう、自分の終点が見えてバスケをするのが辛くなっちゃった」

「始めからバスケの道に進むつもりはなかったくせにとか、プロの選手を目指す気はなかったくせにとか、そんなのはどうでもいいやろ。自分がこれまで頑張ってきたものの限界を思い知らされた。それは頑張った人ほど辛いことやと思う。特に陽菜には才能があるから、普通の人には見えないものも見えてたはずだ。……俺は少しはその気持ちがわかると思う」

「ありがとう。でも、陽にはこの気持ちはわかんないよ」

声はおさえているけど、そこに不満の色が混じっているのがわかった。陽菜は両足を折ってベンチの上に乗せると小さく体操座りをする。

「陽はできてるじゃん。ネイティブの人みたいに英語しゃべってる。私みたいに途中で止まんないで最後までいって、自分にはこれがあるんだっていう確かなやつを持ってるよ」

「違う」

「違くないよ」

「俺が英語の勉強を始めたのは10歳の時だ。波はあったけど、毎日1、2時間勉強してた。中学の部活を引退してからは本気で英語をマスターしようと思って、受験そっちのけで毎日3時間くらい英語だけを勉強してた。それを高校に入学する直前まで続けて、俺は1つのことを知った」

「……英語をマスターできなかったの?」

「そもそも英語をマスターするなんてことは存在しないって知ったんだ」

「……」

「バスケをマスターするなんてことがないのと同じだよ。言語には単語も慣用句も星の数ほどある。突き詰めるとキリがないんだ。マスターするってのがネイティブの人と同じくらい英語を操れるようにするって意味だとしても、少なくとも俺には、それはほぼ永遠にできないことやと思った」

「なんでよ、シャーロットと普通に会話しとるやん」

「あれは日常会話だからできるだけだ。それにシャーロットは、たぶん性格なんやろうけど、ほとんどスラングを使わない。発音もはっきり言ってくれるから聞き取りやすいんよ」

「そう、なの……?」

「例えば、今でも映画は英語のままだとほとんど理解できん。日常会話だってある程度集中してないと聞き取れない。大勢の人が話してたり、ちょっとでもうるさい場所に行ったりすると、途端に相手のしゃべる英語の方がノイズに聞こえて、耳にシャッターがかかるみたいに英語が耳に入ってこなくなる。発音もどうしても日本語の癖が抜けない。どう見えてるか知らんけど、今でも俺の英語能力はネイティブと比べると足元にも及ばないんよ」

陽菜はどう反応したらいいのかわからない様子で、ただ両の眉尻を下げてこちらを見ていた。こうして自分の弱みを白状するのは気が進まないけど、俺は大きなため息を1度つく代わりに覚悟を決めることにした。

「今は学校で通訳係みたいなことしとるけど、前に本当にプロの通訳者とか翻訳家の道に進むことを考えてた時期があった。やけど今はもうわからん。もしなれたとしても、そこからまたゴールのない道をひたすら進む毎日が待ってる。俺は英語が好きだから英語の勉強を続けてたんじゃないんよ。目標と時間があったから頑張れてただけなんだ。結局、終わりがないことを知って、それに6年も勉強してきたのにまだこのレベルなのかっていう自分の立ち位置を知って、もう以前のような熱はなくなった。静かな挫折ざせつやった」

「ごめん、知らなかった」

そう言う陽菜の声は少し震えていた。

「言っとらんかったからな」

「陽はさ、つらくないの? ESS部を作って、自分が挫折した英語と付き合い続けて……」

「今は辛くないよ。1つはもうあきらめたから。歯がゆかったけどそのまま受け入れた。英語はあくまで趣味だって割り切って。それで2つ目は、いざシャーロットと仲良くなって英語を使って色々やってみると、それが本当に楽しかったんだ。自分の英語は決して自分の期待を越えられないけど、こんなに楽しいならまあいいかって思えた。そっちは陽菜のおかげもあるけん、本当に感謝しとるんよ?」

「陽……、私ね……」

陽菜が頭を両膝りょうひざの上にうずめて肩を震わせる。

「今が辛いのはわかる。やけん、吐き出したいことがあったらいつでも連絡して欲しい。俺なら少しはその気持ちを理解してあげられると思う。だから――」

「立って」

「え?」

「立って私の前に来て」

その脈絡のない発言に、俺は意図がつかめないままとりあえず彼女の言う通りに動いた。

「陽……」

陽菜も体育座りをやめてベンチから立ち上がると、そのまま俺に抱き着いて顔を胸に押し当ててきた。

「お、おい」

「痛いよ……。まだ痛い……。どうして私はここで終わっちゃうの? みんなが期待してくれた、自分が期待した自分になれないのが苦しいよ」

「うん」

陽菜が背中で俺の服を掴むのがわかった。

「もっとできると思ってたよ。結構頑張ってたんよ。なんでよぉぉ」

陽菜の顔があるところから少しずつ俺のワイシャツが濡れていく。

「うん。俺の時も同じことを思ってた。同じことを思ったよ」

「はるぅぅ」

そのまましばらく陽菜は泣き続けた。遠目に太陽のがほとんど落ちてるのが見えて、それと同時に自分たちが薄暗くなっているのに気付いて、陳腐ちんぷだけどそれが俺たちの名前と関連して何かを象徴しているように思えたから、余計に悲しくなった。

「ねえ、陽」

「ん、どうした?」

日が完全に沈んだころ、俺と陽菜はふたたびベンチの上に座っていた。

「私、これからどうしよう」

「もうバスケを続ける気はないんか?」

「少なくともしばらくは距離を置きたいなぁ。情けないけど」

「ふふ、俺もあの時はしばらく英語から離れたんやったな。実はシャーロットに出会うまでほとんど英語に触れてなかった」

「あはは、陽もそうやったんやね」

「それならさ」

「ん?」

「次にやりたいことが決まるまでESS部に入ってみないか?」

「いいと? せっかく2人きりの部なのに」

「何の話だよ!」

「あはは。……そうやね、陽がどうしてもって言っとるし入ってあげようかな!」

「ちゃっかりしとるな。てっきり最初からそのつもりかと思っとったけど」

「どういうこと?」

「最初にESS部の部室ぶしつで俺たちが来るのを待ってた時、入部したいって言うつもりやったんやないと?」

「あはは、鋭いなぁ。まあ入部までは言うつもりやなかったけど、確かにしばらくの間、一緒に部室に居させて欲しいってお願いするつもりやったよ。家に帰っても悲しくなるだけやけん」

「最初から言ってくれればよかったのに」

「廃部の危機に別の問題持ち込みたくないなぁって思ったんよ。結局2人とも私のことで心配させちゃったけど」

「逆の立場やったらお前はそんなこと気にせず何でも言って欲しいって思うやろ? 俺も同じやけん」

「そっか、同じか。……陽?」

「ん?」

「ありがとね」

「ああ」

太陽が消えて完全にあたりが暗くなっている中でも、陽菜は以前のような明るい笑顔を咲かせた。その笑顔を見ると、太陽の陽が落ちるのが何かを象徴しているなんてさっきの考えは、やっぱりくだらなかったなぁと少し恥ずかしい気持ちになった。

第12話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

まずは2ページ目でシャーロットが陽に対して言った「Different person has different answers and each of them is right in their ways. You can do whatever you think is good for her. Do it your way.(人によってそれぞれ異なった答えを出すと思う。そして、それぞれの形でそのどれもが正解なんだと思うの。だから、陽は陽が良いと思うことをしたらいい。陽のやり方で)」の解説をします。

とは言え、特に難しい単語や表現があるわけではないので、ここではサラリと訳を見ていくに留めようと思います。

「Different person has different answers and each of them is right in their ways.」は「違う人は違う答えを持つ。そして、それぞれの異なった答えはそれらのやり方(それら個別のやり方)の中で正しい」

「You can do whatever you think is good for her.」は「あなたはあなたが彼女にとって良いと思うことを何でもすることができる」です。「Do whatever is good for her.」で「(それが何であっても)彼女にとって良いことをする」という意味ですが、それに「~だとあなたが思う」という意味を付け加えたい場合は今回のように「whatever」のあとに「you think」をつけます。下記に他の使用例を書いておきます!

例)「Choose the correct answer」→「Choose the answer you think is correct.(あなたが合っていると思う選択肢を選びなさい)」

  「What is the most important thing in life?」→「What do you think is the most important thing in life?(あなたは何が人生で一番大切なことだと思いますか?)」

そして「Do it your way.」は「それをあなたのやり方でやりなさい」です。一応命令形なので命令口調で訳していますが、実際には単にフランクに言っているだけで、別にシャーロットは命令をしているわけではありません。ちょっとややこしいかもしれませんが、中学や高校で習ういわゆる命令形は、実際には命令する意図で言っているわけではないこともしばしばです。そこは会話の流れとか相手の口調とかで判断することになります。

次は4ページ目で料理対決中に陽が言った「You can count on me!!(俺に任せろ!!)」というセリフです。パッと見ただけではなぜこれが「任せろ」という訳になるのかわかりづらいと思います。

そもそも「count」は日本語でもよく使う「カウント」であり、「数を数える」という意味です。大きな数から小さな数に逆の順番で数えていく「カウントダウン」も、英語の「count down」をそのまま言っているわけです。

例)「I count the number of people in this room.(この部屋にいる人数を数える)」

そして、実は「count」には「頼る、当てにする」と言った意味もあります。「count on 人」という場合はまさにこちらの意味で使われ、「人に頼る」という意味です。よく映画のセリフで「I'm counting on you.(期待しているぞ/頼んだぞ)」という表現が使われているので、今度から注意して聞いてみると面白いかもしれません!

「You can count on me!!」は直訳すると「あなたは私に頼ることができる!!」であり、それを今回の状況に合わせて「任せろ!!」という訳にしました。

ちなみに、「任せろ」という意味の英語は、他にも「Leave it to me」という表現があります。「leave」は「出発する、去る」というのが主な意味ですが、こちらも同様に「頼む、委ねる」といった意味を持っています。「Leave it to 人(人に任せる)」は覚えておくと便利です。

例)「I'll leave the rest to you.(あとはあなたに任せるわ)」

最後に解説するのは同じく料理対決の終わりに陽が言った「I'm on it!!(今やってる!!)」です。こちらも単語を見ただけではどうしてこの意味になるのかわかりづらいところだと思います。

「I'm on it」というのは「I'm working on it.(私はそれに取り組んでいる)」の略です。「work」は日本語でワークと言うのと同じように「仕事」という名詞だったり「働く、取り組む」という動詞だったりします。

それで「I'm on it」というのも「それに取り組んでいる」という意味なのですが、略した表現なのでニュアンス的には「今やってる/もうやってる」という方が近いです。カジュアルとまでは言いませんが、やや崩した表現という気がします。ビジネスの場面でよく使われますが、同じ職場の上司ならまだしもクライアント相手に使う表現ではないかなぁというのが個人的な感覚です。

例)「Collect all the date that are relevant to this issue right now!(今すぐこの問題に関するすべてのデータを集めるんだ!)」「I'm on it!(もうやってる!)」

何か緊急事態におちいってバタバタしているときに誰かから「敵のデータを分析しろ!」とか命令されて、必死にパソコンを打ちながら「I'm on it!!」と言い返す。これが私の理想とするかっこいい場面です。恐らく一生訪れることのない場面でしょうが。

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