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第11話:Her Decision.(part 1)

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第11話:Her Decision.(part 1)

「Everything is back to normal.(全部、元に戻ったね)」

シャーロットが学校の廊下を歩きながらしみじみと言う。文化祭後の休み明け初日の放課後、俺と彼女は以前のように2人でESS部の部室ぶしつに向かっていた。

「Not everything.(全部じゃない)」

「Oh, did something happen?(あら、何かあったの?)」

我慢できなかったのか、シャーロットの口角は少しだけり上がっている。

「Don't play the fool. You know what happened! Everyone knows it was I who played that enemy at the school festival. Because of the last line, the guy of "Thank you" is my current nickname.(知ってるくせにとぼけんな! 文化祭であの敵役したのが俺だってバレて、今じゃ最後のセリフにちなんで「ありがとうの人」って呼ばれてんだぞ)」

「You know, anything is better than nothing!(ほら、何事もないよりはある方がいいじゃない! 呼び名も同じよ!)」

「Even though it's just embarrassing?(ただ恥ずかしいだけなんだけど)」

「Yep!(それでもよ!)」

そう言って彼女はじっと俺の顔をのぞき込む。

「Hey.(ねぇ)」

「What?(何?)」

「You look happier these days.(前より笑うようになったね)」

それまで気付かなかったが、どうやら俺は今も笑っていたらしい。指摘されると恥ずかしくなって、反射的に手で顔を隠す。

「I like the way you are now, more than when we first met.(初めて会った時より、今の陽の方が私は好きだよ)」

俺はその瞬間に頭が真っ白になってしまって、自分の不器用さが少しだけ嫌になった。バカにされるのはまだ楽だけど、こうしてめられるとどう反応すれば良いのかわからなくなるのだ。最初に浮かんだ言葉は「Flattery will get you nowhere.(おだてても何も出ないぞ)」だったけど、茶化ちゃかしたくなかったから、俺はそれが口から出るのを何とかこらえた。

「...Thank you.(……ありがと)」

シャーロットは廊下の窓の先に広がる夏空を背に、歯を見せて笑った。

職員室に入って鍵置き場を確認する。お目当ては部室の鍵だ。

「Uhhh, I can't find it.(あれ? 鍵がない)」

すぐにシャーロットがこちらを向いてそう言った。念のため俺も見てみたが、確かに「ESS部」のラベルの下に取り付けられたかぎには何も掛かっていない。

「Maybe, Daniel has it.(ダニエル先生が持ってるのかも)」

しかし、ダニエル先生は職員室の中にいなかった。いずれにせよ鍵がなくなっているということは、それが誰の仕業しわざであろうと部室ぶしつの鍵は開いている可能性が高い。俺たちはとにかく部室へ向かってみることにした。

部室の前に着いてドアノブを回すとやはり鍵はかかっていなかった。少し緊張しながらもおそるおそるドアを開ける。

「あっ、やっと来た」

そこにいたのは陽菜だった。

「なんでお前がここに……。つーか部活は?」

「いやー、それがね、ちょっと話したいことがあって」

そう言う彼女は笑ってこそいたけど、そこにいつもの快活さはなくて、まるで後ろめたいことでもあるかのようなぎこちない表情をしていたから妙に引っかかった。

「話したいことって――」

バンッ!

突然ドアが勢いよく開かれた。3人とも驚きで飛び上がる。

「You guys are here. I was looking for you.(ここにいたのか。探したよ)」

やって来たのはダニエル先生だった。やや息を切らしている。慌てているみたいだ。

「Is something wrong?(どうかしたんですか?)」

俺の質問に先生は顔を引きつらせて答える。

「Yeah, very wrong. The ESS club may be disbanded...(うん、まずいよ。ESS部が廃部になるかも……)」

「Whaaaat!?(えーっ!?)」

俺とシャーロットが同時に声を上げた。

「I kinda screwed up. You know, I tried to find someone to be this club's adviser, but the thing is I couldn't find anyone. Since we've already got permission to use this room, I thought I could just remain silent and nobady noticed it.(しくじったよ。僕が顧問の先生を見つけようとしてたのは知ってるだろ。でも結局、見つからなくてさ。もう部室ぶしつを使う許可は下りてたから、黙っていれば誰も気づかないでやり過ごせると思ったんだけど)」

「But they found it out.(でも、バレたんですね)」

「Yeah, I tried to dodge their questions but they didn't let me... Maybe I should have told a lie instead of just dodging.(そうなんだ。向こうの質問をはぐらかそうとしたんだけど無理だったよ。はぐらかす代わりに最初っから嘘ついとけば良かったかな)」

「I can't believe the line just came out from a teacher's mouth.(先生のセリフとは思えないですね)」

「Anyway, we have to find an adviser, or this club will be dead.(とにかく、私たちで顧問の先生を見つけないと廃部になっちゃうんですね)」

シャーロットが不安そうな表情を浮かべる。

「You are right.(そうなんだ)」

3人の間にどんよりと重たい空気が流れる。それを感じ取ったのか、陽菜が控え目にたずねてきた。

「どうか、したん?」

俺はこれまでの会話を手短にまとめる。

「実はESS部にはまだ顧問の先生がいないんよ。それで、このままだと廃部だって」

「えーっ!?」

陽菜が予想以上の反応をしたから、俺はびくりと驚かされた。

「それやばいやん! 早く顧問の先生見つけないと!」

「そ、そうなんよ。どうしようか」

「よりによってこのタイミングって……」

「このタイミング?」

しかし、陽菜に詳しいことをく前にダニエル先生が再びしゃべり始めた。

「I already asked every teacher who isn't an adviser of any club. The result is they all declined. But if you ask them, one of them may change their mind.(部活の顧問になってない先生にはもう全員お願いしてみたんだ。結果は全滅だった。だけど、君たちからお願いしたら1人くらいやる気になってくれるかもしれない)」

「Yeah, let's do it!(そうね、やってみましょ!)」

シャーロットは両手を胸の高さに上げてガッツポーズをする。

「Wait. I want to know one thing before doing that.(ちょっと待ってくれ。その前にきたいことがある)」

「What do you want to know?(何を訊きたいんだい?)」

「Why did they decline to be an adviser?(どうして先生たちは顧問になるのを断ったんですか?)」

「Ah, that's a good question.(ああ、良いとこに気付くね)」

めながらもダニエル先生は少し困った顔をする。

「Maybe, I should not tell you this, but being an adviser is a tough job. They have to watch their club members all the time. Most of the advisers here go to school even on weekends. Besides, it's barely paid. I have to say finding an adviser especially for a club that has just started and is unclear as to what to do is not going to be easy.(こういうことは言うべきじゃないのかも知れないけど、顧問の先生になるっていうのは大変なことなんだ。いつも部員を見守っていないといけないから、この学校の顧問の先生はほとんどが週末にも学校に来ている。だけど、お金はほんの少ししかもらえない。正直言って、最近できたばかりで何をするかもはっきりしていない部活の顧問になってくれる先生を見つけるのは、簡単なことではないよ)」

今までまったく意識していなかったところを突かれて、俺もシャーロットもすっかり黙り込んでしまった。そりゃあそうだ。先生たちにだって彼らの時間があるんだ。無理に頼んでしぶしぶ引き受けてもらっても、それで喜んだらいけない。

「I'm sorry to make you feel down. I'll let you know if I find a way.(気を落とさせるようなことを言ってごめん。僕の方ももし何か思いついたら知らせるよ)」

そう言って先生は部室から出ていった。シャーロットは何も言わず静かに椅子いすに腰を下ろす。残された俺はどうすれば良いのかわからず、苦しまぎれに、もうしばらく前から椅子に座って退屈そうにしていた陽菜に話しかけた。

「なあ、バスケ部の顧問の先生はやっぱ大変そうなんか?」

「は、はい!?」

いきなり質問されて、それまでぼんやりと明後日あさっての方を向いていた陽菜は飛び上がった。

「……やっぱいい」

「いや、聞いてた! ちゃんと聞いてたからそんな顔せんでよ! 顧問の先生やろ? うん、休みの日も練習見ないといけないし大変そう。ほら、部活中に何かあったら先生の責任になっちゃうし」

「そういうの知っちゃうと頼みづらいな」

ため息をついて、ついに俺も椅子に座った。ふと顔を上げると嬉しそうに笑っているシャーロットの顔が視界に入ってきたから少し困惑させられる。

「どうかしたのか?」

陽菜がいることを考えて俺は日本語でいた。

「今の陽と陽菜が何を言ったか、理解できた!」

「へぇ、すごいじゃん」

「でしょ!?」

彼女は前のめりになって目を輝かせる。

「ふぅ。私、そろそろ行くね」

陽菜が立ち上がって背伸びをする。

「行くって、何か用があったんやろ?」

「うん、だけど今は大変そうやけんまた今度にする!」

陽菜は椅子の横に置いていたカバンを肩に掛けると出口に向かって歩いていった。

「あとね。ESS部がなくなるのは嫌やけん、私も何か手伝いたい。いいかな?」

「もちろんいいけど」

「良かった。それじゃまたね!」

そう言って彼女は部屋を出ていく。その後ろ姿を見ながら、俺はどこかすっきりしない気持ちになっていた。

「Hey.(ねぇ)」

しばらくしてシャーロットが話しかけてきた。

「What?(なに?)」

「She looked down, didn't she?(陽菜、なんか元気なかったよね?)」

どうやら彼女も同じことを考えていたらしい。

次の日の放課後、俺が部室ぶしつに入ると、すぐにこれからどうするかについての話し合いが始まった。話し合いをすること自体は昨日の夜にシャーロットと話をして決まったことだった。

「コホン。それでは、第1回ESS部の作戦会議を始めます」

陽菜が仰々ぎょうぎょうしく開会の宣言をする。

「いや、なんでお前がここにいるんだ? しかもナチュラルに司会してやがる」

「We talked yesterday, and she said she would join. The chairperson was decided by process of elimination.(昨日2人で話したのよ。それで陽菜も参加するって。あと司会は消去法よ)」

「Process of elimination?(消去法?)」

「Choice 1: Charllote. Denied because of lack of Japanese ability. Choice 2: Haru. Denied because of lack of willingness.(選択肢その1:シャーロット。日本語能力の欠如により却下。選択肢その2:陽。やる気の欠如により却下)」

「Brilliant.(なるほど)」

人から言われると悔しいが、実際その通りなんだから受け入れるしかない。

「てか、バスケ部の練習はどうしたん?」

「あー、それはとりあえず大丈夫」

そうして見せた陽菜の笑顔は、無理やり取りつくろったものに見えた。

「……もしかしてケガして休んでるとか。大丈夫か?」

「いやいや、大丈夫やけん! それより今はESS部の方をなんとかしよっ!」

そして、俺が返事をする前にまたコホンとせきばらいをして、司会を再開した。

「それではシャーロットさんから意見をお願いします」

「わざとらしい司会やなぁ」

「うるさい!」

俺と陽菜のじゃれ合いを横目にシャーロットが彼女の意見を述べる。

「私は、ESS部をなくしたくない。こもん?(自信がなかったのか上昇調だった)の先生を見つけたい!」

それを受けて陽菜がこちらを見てくる。俺も自分の意見を述べることにした。

「ESS部が残るんだったらそれがいいけど、俺は最悪残らなくてもいいと思ってる」

その発言に2人は目を丸くする。

「先生に頼んでも負担になるだけだもんな。それにしばらくやってみてわかったけど、この部室が使えなくなってもそんなに困らないから」

「違うよ!」

陽菜とシャーロットが一緒になって異議を唱えたから、俺はびっくりして身を引いた。

「どうしたんだよ」

2人はお互いに顔を見合わせたが、すぐにシャーロットの方が両手を差し出して陽菜に発言を促した。

「ちゃんとしたスペースがないとこれからの活動が限られちゃうかもしれないし、何より部室ぶしつっていう居場所があるのとないのとじゃ全然違うと思う」

「そうか? スペースは必要になったら臨時で使えるところを探せばいいし、それに……」

俺は口をつぐんだ。これから言おうとしたことを口にするのが自分で恥ずかしくなったのだ。

「それに?」

シャーロットが首をかしげる。

「……それに、どこで活動するかより、誰と一緒に活動するかのほうが、その、大事だと思うから、人がいれば場所はそんなに重要じゃないって言うか」

「ぷっ、あはははは」

陽菜がお腹を抱えて笑い出した。俺はあまりの決まりの悪さに顔を下に向ける。

「つまり、シャーロットと一緒ならそれでいいんだ、ってことやろ?」

「そこまでは言ってねーよ! でも、まあ、これから場所や活動の形が変わるようなことがあっても、同じ人がいてくれるなら、楽しいんじゃないか……とは思う」

「陽、ありがと」

シャーロットが笑顔で言う。俺は耳の先がさらに熱くなったような気がした。

「でもね、私はここにいたい。今は、まだわからないけど、これからここで長くいると、ここがもっともっと好きになると思う。みんなで一緒にいる場所は、大事と思う!」

それを聞いて、声研のみんなと過ごした視聴覚室のことが頭に浮かんだ。3カ月が経ってあの場所を離れた時、何て言ったらいいのかわからないけど、確かに少し胸が締め付けられるような感じがした。

「……愛着か」

俺に続いて陽菜も口を開く。

「ほら、私と陽って昔からの付き合いやろ? でも昔の思い出が浮かんでくるのはこうして顔を合わせてる時じゃなくて、例えば神社とか公園とか、小さいころ一緒にいた場所にもう一度行った時だと思うんよ。少なくとも私はそうなの。やけん、この部室ぶしつも後から振り返った時にきっと大事なものになると思う。今なくしちゃうのは、ちょっと悲しい」

「でも、先生たちはどうする? 嫌がってるのを無理やり頼むようなことはしたくないし」

俺の質問にはシャーロットが答えた。

「活動の時間と、数は、減っても大丈夫」

「うーん、確かに交渉次第ってのはあるかもな」

「本当はやりたいけど毎日は負担が大きいって先生もいるかもしれんもんね。ねぇ、それでいってみん?」

陽菜がやや自信に満ちた表情で提案する。俺は陽菜とシャーロットの顔を順に見てゆっくりと答えた。

「そうだな、試してみるか」

「やった!」

シャーロットと陽菜が同時に声を上げる。2人は見合って嬉しそうに笑った。

「それでは第1回ESS部作戦会議の結果、私たちはもう1度先生たちにお願いしに行く、ということに決まりました!」

陽菜が最初にやったのと同じように背筋をピンと伸ばして仰々ぎょうぎょうしくのたまう。

「コホン。これにて本日の作戦会議を終了とします! 以上!」

「いい加減そのわざとらしいコホンやめろ。つーか、そもそも開会と閉会の宣言は必要なんか?」

「これやんないといよいよ司会がいる意味なくなっちゃうやん!」

「そこは気付いてたんか」

こうして、俺たちは早速職員室に行って、まだ顧問になっていない先生たちと話をしてみることにした。

「あ、ごめん。私はちょっと用があって……。今日はこれで帰るね」

陽菜だけはそう言って、先に帰ってしまったが。

「失礼します」

職員室に入って、まずはダニエル先生のところへ向かう。その途中、大楠先生と2人の女子生徒が何やら話しているのを横目に見た。

「You figured something out?(何か思いついたかい?)」

ダニエル先生が期待するような表情でたずねてくる。

「Not really. But, we decided to――.(特にはないです。でも、僕たちは――)」

「やっぱり、料理部はこれで廃部にしようと思います」

このセリフがいきなり耳に飛び込んできたから、続きをしゃべるのも忘れて反射的に声のする方を振り返ってしまった。その先には大楠先生と先ほどの女子生徒たちがいた。

「……本当にいいの?」

大楠先生は残念そうに確認する。

「はい。部員も私たちだけですし、2人ともそろそろちゃんと勉強しなくちゃ。私たちが勉強できないの、先生も知ってますよね?」

片方の生徒がそう答えて、少し恥ずかしそうに歯を見せて笑う。

「What are they talking about?(3人は何をしゃべってるの?)」

向こうに気を取られている俺の様子が気になったのか、シャーロットが耳元に話しかけてきた。

「It seems they are going to disband a club they belong to.(あの2人、自分たちの入ってる部活を解散させるみたいだ)」

「What!?(ええっ!?)」

彼女が驚きの声を上げるから、周りの人は(もちろん大楠先生と女子生徒2人も含めて)一斉いっせいにこちらに視線を向けた。

「You idiot...(このバカ……)」

「I couldn't just let it go...(だって……)」

困ったようにはにかみながら、シャーロットは2人に話しかける。

「ああ、えっと、すみません。驚いたから……」

彼女たちは事情がわからない様子で、不思議そうに大楠先生を見たから、先生は少し考えてから説明した。

「実は、あの2人はESS部の生徒で、今は顧問になってくれる先生を探してるの」

大楠先生もすでに事情を知っていたようだ。

「あぁ、そうなんですね。それなら大楠先生は今がチャンスですよ!」

座っている先生の両肩に手を置いてさっきの生徒がニコリと笑う。

「ちょっと、佐藤さん……」と困り顔の大楠先生。

自分たちで話しかけておきながら、俺もシャーロットもどう反応すべきかわからなくなってしまって、お互いに相手の顔を見て助けを求めた。でも、ただ見つめるだけで何も良い返事は出てこない。

「先生。私たち、本当にいいんですよ。今まで楽しかったし、これも2人で決めたことですもん」

もう1人の生徒が優しく言った。

「もちろん2人が決めたことに反対する気はないけれど……」

「それなら、最後にうちの部と勝負しないかい?」

突然ダニエル先生が提案しだした。余所よそ行きと思われる人当たりの良さとさわやかさをまといながら。俺は心の中で「何をまた勝手なことを!」と叫ぶ。

「勝負ですかー?」

それが予想もしないことだったからか、大楠先生の反応は素の少し幼いものだった。

「料理部なら料理対決かな。それで僕たちESS部が勝ったら大楠先生との交渉権を獲得する。どうだろう、面白そうじゃないかな」

「面白そうって、色々と勝負の前提が成り立ってない気が……」

俺のつぶやきに先生が反応する。

「でもこのまま何となく終わるよりも節目があった方がいいだろ?」

もちろん俺はその返答に納得しなかったが、意外にも対する女子生徒(佐藤さんと言うらしい)の方は両手を胸の前で結んで嬉しそうに答えた。

「面白そうですね。それって私たちが勝ったらどうなるんですか?」

「そうだなぁ、おいしいお菓子をプレゼントするよ」

「じゃあやります!」

もう1人の生徒もニコニコと笑っている。

「大楠先生もそれでいいですか?」

ダニエル先生が得意の微笑をきながらとどめを刺す。

「私はいいですけどぉー」

眉をひそめながらも大楠先生は一応、同意した。

「それじゃあ決まりだ。詳しいやり方は僕と大楠先生で話すから、みんなには明日連絡するよ」

「わかりました!」

俺とシャーロットの意向がかれないまま見事に話が決まったことには釈然としなかったが、一方でそれ以上話すこともなかったから、そのまま料理部の2人と一緒に職員室を出ることにした。彼女たちはやっぱり嬉しそうにニコニコしていた。

「あっ」

佐藤先輩はいきなり声を上げるとこちらに向き直った。そして「なんだか、巻き込んじゃってすみません」と頭を下げる。

「いやいや、むしろ最初に言い出したのはダニエル先生ですし。それより、ほんとにいいんですか、その、顧問の先生のこと」

ぎこちなく尋ねる俺に反して、彼女はまったく気にしていないのか平然と答える。

「それは気にしないでください。元々、私たちは最初の3年生の先輩たちが好きで料理部に入ったんです。もうみんな卒業しちゃって、他に部員もいないし、今がちょうどいいタイミングなんだと思います。これまで楽しかったし本当に満足してるんですよ」

もう1人の先輩も口を開いた。

「それよりESS部も料理作るんですね! 知りませんでした」

どうやら料理部の2人は下級生に対しても敬語を使うみたいだ(上履うわばきの色から彼女たちが2年生であるとわかった)。それにしてもこの勘違いは少し辛い。これから俺は彼女たちをがっかりさせる方向で誤解を解かなくてはならない……。

「あー、その、料理は作らないんです」

「あれ? えーと、じゃあどうして勝負しようって言ったんですか?」

「さあ、なんででしょう……」

答えにきゅうしてとなりにいたシャーロットに目をったが、彼女は冗談っぽく肩をすくめて見せただけだった。そんな俺たちの反応を見て、対する2人はまったく同じタイミングで首をかしげる。その仕草はなんだか小動物のように見えた。

「そう言えば2人の名前はなんて言うんですか?」

もう1人の先輩が尋ねてきた。

「私はシャーロットで、こっちは陽です!」

「シャーロットさんのことはたまに友達が話してました。確かアメリカから来てるんですよね? 私は妻夫木つまぶきです。よろしくお願いします」

「私は佐藤です。よろしくお願いしますー」

2人ともニコニコと笑顔でお辞儀じぎをする。俺は彼女たちから発せられるふんわりとした雰囲気を前にして、これなら料理対決でも砂糖と塩を間違えるとかして自爆してくれるんじゃないか、と失礼なことを考えていた。

部室ぶしつに戻って荷物を取り、シャーロットと2人で学校を出る。すると、校門のところで咲が他の生徒と話しているのが見えた。女バスも練習終わりのようだ。

「Do you cook?(陽は普段、料理する?)」

シャーロットの英語を聞いて、彼女がこちらを振り向く。口には出さなかったが、「あっ」と心の中で言ったのがすぐにわかった。

「ごめん、ちょっとだけいい?」

それまで話していた友達に断りを入れて、彼女がまっすぐこちらに向かってくる。

「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんやけど」

彼女の表情を見て、俺はそれが何のことだかわかった気がした。

「良かった。ちょうど俺も聞きたいことがあったんよ」

俺の返事に彼女も何かを察したらしくやや眉間みけんにしわを寄せた。

「陽菜のこと?」

「うん、何かあったんか? 最近ちょっと様子が変やけん」

「それじゃあまだ知らんと?」

「え?」

咲は一瞬、目をらしたが、再び視線をこちらに向けてしゃべった。

「陽菜、部活やめちゃったの」

第11話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

1つ目は本編1行目にある「Everything is back to normal.(全部、元に戻ったね)」について説明します。

「be back to normal」で「普段の状態に戻る」という意味になります。「back to 名詞」で「名詞に戻る」という表現です。(「normal」には形容詞だけでなく名詞の意味もあります。)

例)「I'm back to Japan.(日本に戻ってきた)」

よって物事が普段の状態に戻ることを「Everything is back to normal.」「Things are back to normal.」というかんじに表現できます。

他には、同様の意味で「return to normal」があります。ただし、「be back to normal」が「状態」を指すのに対し「return to normal」は「動作」を指しているので使い方が多少異なります。日本語でいうと「普段の状態に戻っている」と「普段の状態に戻る」の違いです。

例えば「Things return to normal.」だと「物事は普段の状態に戻る(ものだ)」という何だか格言めいた表現になります。すでに普段の状態に戻っているということを伝えたいなら「Things returned to normal.」や「Things have returned to normal.」と過去形や現在完了形にしなければいけません。

ちなみに、上のを参考にすると「以前の状態に戻る」は「Things are back to before.」と言えそうな気がしますが、その表現はしません。その場合は「Things are back to the way they were.」と言います。「the way they were」は「彼ら(ここでは物事)が(過去に)そうだったやり方・状態」という意味です。

「the way S V(SがVするやり方・状態)」の形は日常会話でも結構出てくるので覚えておくと便利だと思います!

例)「I don't like the way he speaks.(あの人の話し方が気に入らない)」「I like the way you are.(あなたのその感じが好きです)」

「元に戻る」の話では、その他にも「square one(出発点)」と言う表現が使えます。

例)「Gee, now we are back to square one!(ああ、これでふりだしに戻ってしまった!)」

次に「I couldn't just let it go...(だって……)」について話そうと思います。本編の4ページ目、シャーロットが料理部を解散させると知って思わず声を上げる場面で使われています。

「let it go」については第4話の解説でも簡単に取り上げましたが、今回はまた違う角度から説明させてください!

そもそも、日本語で言う「だって……」は英語に直訳するのが難しい表現です。意味で言うなら「Because(なぜなら)」が近いような気がしますが、「だって」が何かできないことに対する理由を述べるニュアンスがある一方で、「Because」にはそういったものはなく単に理由を述べる時に使われます。

そのため「Because」を使うなら「I could't do that because S V.(私はそれができなかった。なぜならSがVしたからだ)」と先にできなかったことを明示しておかないとなんだかおかしな使い方になってしまいます。

また、「Because」を「だって……」のように「理由は言わなくても何となく私の言いたいことはわかるでしょ?」という含みを持たせた表現に使うことはありません。基本的に「なぜなら私は~~」とちゃんと理由を述べることが期待されます。単に「Because...」と言っても「なぜなら、と理由を述べようとしたけど理由が出てこなかったんだな」という方に受け取られてしまうでしょう。

日本語と英語には厳密には単語が担う「概念・ニュアンス」に違いがあるため、場合によっては直訳しても「その表現は英語じゃしないよ」ということが起こってしまいます。このへんは筆者もまだわからないことだらけです\(^o^)/

それでは、この「だって……」をいかに英語らしく訳すかが問題となりますが、そのためにはこの「だって……」の意味をもう少し深堀りする必要があります。本来「だって……」には「だってしょうがないじゃない」「だって気になったんだもん」「だって無視できなかったから」などの意味が含まれていると考えられます。それを英訳していくのです!

本編を見てみると、シャーロットが驚きの声を上げて、陽から「You idiot...(このバカ……)」と言われた時の返事でこのセリフが使われています。今回はそれを「I couldn't just let it go...(ただそのまま放っておけなくて……)」で「だって……」の意味にてているわけです。

それでは「let it go」について、より詳しく見ていきます。まず「let」は「させる、許す」という意味で、主に「let + 人 + 動詞の原形」の形で使われます。「人に動詞の原形をさせる(人が動詞の原形をするのを許す)」という意味です!

「let it go」の「it」は、ここではその前に陽が言った「It seems they are going to disband a club they belong to.(あの2人、自分たちの入ってる部活を解散させるみたいだ)」という発言を指します。「let it go」でその発言を「行かせる、素通りさせる(go)」というニュアンスになります。

よって「I couldn't just let it go...」→「ただそのまま放っておけなくて……」→「だって……」という流れで「I couldn't just let it go...」と「だって……」をそれぞれ対訳としました。

今回もなかなか説明しづらいところがあって、読んでくれている方に上手く伝えられているか不安です。。。もしもわからないところやその他の部分で解説して欲しいものがあれば、いつでもトップページよりご連絡ください!


ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。今後も最新話ができ次第Twitterにてお知らせしていきますので、もしよければフォローしていただけると嬉しいです!