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第10話:Voice Actor.(part 3)

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第10話:Voice Actor.(part 3)

「……それで、ストーリーの書き直しをお願いしたいと」

田口先輩が苦笑する。

「もちろん時間的に厳しいのはわかってます。だけど、シャーロットさんの話を聞いたら、私たちもそっちの方が良いなってなって、とにかく相談しようと思ったんです」

三宅先輩がまっすぐに相手を見つめて話す。さすがにこの時ばかりは、彼に対する嫌悪感を出していなかった。

シャーロットの「こんな死に方じゃ嫌よ」発言を受けて、声研(+ESS部)メンバー全員で話し合いをした。もちろんこれは、みんなで彼女をなだめて上手く丸め込むために設けられたものだったが、彼女の代替案を聞いた途端に事情が大きく変わった。

――それ、いいじゃない!

これが三宅先輩の反応だった。他のみんなも彼女の案に納得しているようだ。丸め込むつもりが見事に丸め込まれた。

「はぁ」

田口先輩が手を顔に当ててため息をらす。しばらくの沈黙が流れた。

「部分的にとは言え、それじゃあネームからやり直しだ。しかも文化祭まであと2週間しかない」

「……やっぱり、ダメですか」

三宅先輩がうつむく。

「でも、僕も君たちの案が良いと思ってしまった」

田口先輩は手を顔から放すと、ゆっくりと前を向いた。

「部のみんなと相談してみるよ。ただ、やることになったとしても、原画が完成するのはギリギリになると思う。そのせいで君たちのレコーディングのスケジュールもタイトになるだろうけど、協力してくれよ」

「もちろんです! ありがとうございます!」

息を吹き返したみたいに三宅先輩は明るく笑って、そしてすぐにハッとしてまた不愛想な表情に戻った。

「思ったよりあっさりと了承してくれましたね」

視聴覚室に戻ると松田が気の抜けた声で言った。

「あいつの漫画に対する想いは確かよ。それだけは尊敬してるの」

三宅先輩が腕を組みながらぶっきらぼうに答える。

「先輩も素直じゃないね~」

江藤は本人に聞こえないようそっと俺につぶやく。それには俺も同感だった。

「とにかく、今日の活動はこれで終わりにしましょ! 片づけはそのままでいいわ。私があとでやっとくから」

「今日残るんですかぁ?」

「まあね。みんなは先に帰ってて」

三宅先輩の言葉に甘えて、俺たち5人はそのまま視聴覚室を出ることにした。

「ストーリー、どうなる、かな?」

校門に向かって歩きながら、シャーロットが不安そうな表情でたずねた。俺に向かって異議を唱えた時はあんなに威勢が良かったのに、実のところ、声研メンバーとの話し合い、田口先輩への相談、と段階を経るにしたがって彼女はどんどん弱気になっていた。田口先輩に相談しに行くときは、むしろ三宅先輩の方が乗り気だったくらいだ。

「心配しなくても大丈夫よ。みんなきっと納得してくれるわ。少なくとも、私はシャーロットさんの案はすごく良かったと思ってる」

後藤先輩が優しく答えた。余談だけど、こんな静かでおっとりした人が、マイクの前に立つとガラッと雰囲気が変わるんだから演技は面白いなと思う。もちろんみんな変わるんだけど、普段とのギャップは彼女が一番大きい。

「あっ!」

その時、俺はあることに気付いて間抜けな声を出した。

「どうしたん?」

「……財布がない。多分、視聴覚室に落としてきたんやと思う」

俺は1人、他のみんなに笑われながら、とぼとぼと歩いて来たばかりの道を戻っていった。

視聴覚室の扉を開けると、中では三宅先輩がテレビに映された原画を見直していた。

「あら、どうしたの?」

扉の開く音に気付いて、彼女はこちらを振り向いた。

「財布を落としたみたいで……あっ、あった」

財布は椅子の下に落ちていた。座っているときにポケットから滑り落ちてたみたいだ。

「良かったわね」

そう言うと、先輩はまたテレビの方に顔を戻した。

窓から黄色い西日が差し込んで、くっきりとした陰影を部屋の至る所に浮かび上がらせている。俺は、なんだかずっと彼女にいてみたいことがあったような気がした。

「先輩は、どうして声研を立ち上げようと思ったんですか?」

俺が質問したせいで、彼女はまたこちらに顔を向ける羽目になった。

「あら、私が立ち上げたって詩織から聞いたの?」

別に誰からも聞いてないけど、選択肢的にほぼ三宅先輩しかあり得ない。

「いえ、でも三宅先輩だろうなって思ってました」

それを聞いた先輩は「あはは」と笑った。

「確かに詩織か私かって言ったら私よね。立ち上げた理由は、ずっとやってみたかったからよ。小さい頃に見たアニメがとてもかっこよくて、ずっと憧れてたの。高校に入ってからは、同じくらい漫画も好きだったから漫研に入ったんだけど、やっぱり声がやりたくて思い切って声研を立ち上げたわ。ま、立ち上げるって言っても非公式の部だから、麻生くんたちみたいに大したことはしてないんだけどね」

そうしてニコッとはにかんで笑った。彼女が照れるところを初めて見たから、俺は少し驚いてしまった。

「麻生くんはどうしてESS部を立ち上げたの? あ、立ち上げたのはシャーロットさんの方かしら?」

「2人で立ち上げました。立ち上げた理由は」

ここでしばらく考えさせられた。そう言えば俺は、どうしてESS部を立ち上げたんだろう。

「……先生に頼まれたから、だと思います」

「はは、何よそれ。麻生くんは英語や海外のことが好きだったんじゃないの? びっくりするくらい英語しゃべれるんだし!」

「いや、そうでもないんです。部活を立ち上げたのは、先生やシャーロットのためにやろうと思って。それに英語を勉強してたのは、単に暇だったからだと思います」

「へぇー、変わってるわね」

はっきりそう言われてしまうと、返す言葉が見つからない。

「変わって、ますか?」

「私からしたらね。私は自分の好きじゃないことにそんなに頑張れないもの」

「先輩は、これからも声の活動を続けて、例えば、声優の仕事にきたいって思いますか?」

「うーん。それは、わからないわ」

彼女はごまかすような笑みを浮かべる。その時、彼女をピンと立てていたしんのようなものが彼女からポロッと抜け落ちてしまった感じがした。

「現実っていつも見えないくせにずっしり重たいのよね。正直怖いの。だから、少なくとも大学には行くわ。大学で声の活動をするかどうかも含めて、高校卒業までに考えようと思ってる」

それを聞いて親近感がいたような、それでも、熱がスッと冷めてしまうような、自分でもよくわからない気持ちがした。

「麻生くんは、将来は英語を使って何かしようと思ってないの?」

気を取り直すように彼女がいてきた。俺は少し考えて、思ったことをそのまま口にした。

「将来のことは何も考えてません。英語のことも。ただ、いつか僕にも先輩みたいに好きなものができると良いなって思います」

「私のお姉ちゃんみたいね」

「え?」

「お姉ちゃんもよく私のことをうらやましいって言うわ。何歳になっても、自分の好きなことを見つけられる人は少ないって」

「何となくわかります」

「麻生くんさ、文化祭終わってからも声研メンバーとして活動したら? 好きになるかも知れないわよ」

そう言って先輩は冗談っぽく笑う。つられて俺も小さく笑った。

「ここでみんなと活動するのは本当に楽しかったんです。考えてみます」

「ま、気が向いたらいつでも来たらいいわ。こっちは大歓迎よ」

「ありがとうございます」

あと2週間で声研との活動が終わってしまう。最初に活動が始まった時には、まだみんなとの距離感がつかめなくてそわそわしてて、レコーディングの練習もぐだぐだで、それに季節だってまだ少し肌寒く感じる日があった。あれから時間が経って、せっかく全部が良い方向に進み始めたと思ったら、もう終わりが訪れる。

「それじゃあ、そろそろ帰りますね。あと2週間、自分なりに一生懸命やってみます」

「うん、一緒に頑張りましょ。気を付けて帰ってね」

そうして、俺が静かに視聴覚室を出ていく頃には、太陽はさらに傾いていて、西日はもうほとんど部室の中に差し込んでいなかった。

その翌日から、俺たちの活動はこれまで以上にあわただしくなった。田口先輩が全体会議を開いてストーリーの変更を提案し、シャーロットの案がそのまま受け入れられることになったからだ。

それまではある程度まとまってからだったけど、ネームは1ページ完成するごとに、すぐにコピー機にかけられて声研とアニ研に配布されるようになった。それを元に俺たちは登場人物の気持ちを話し合って(ついでに俺は英訳もして)、声をってはやり直してを繰り返す。そうして1日が終わって次の日になると、今度はネームに修正が入って、もう一度ふりだしに戻る。そんなドタバタした日々が続いた。

1つ心配だったのが、こんな作業的にもスケジュール的にもきつい変更をして、声研が周りのメンバーから白い目で見られるんじゃないかということだったけど、そこは事前に田口先輩が上手くやってくれていた。先輩は、純漫研ではあくまで有志の人たちだけでネームのやり直し作業をすることにして(と言っても、全てのメンバーが手を上げてくれた)、アニ研との交渉では声研のことは一切言わずにあくまで田口先輩のお願いとして話してくれたのだ。そのおかげで、俺たちはこれまで同様、自分たちのレコーディングに集中することができている。

「まずいわね」

三宅先輩が気難しい顔をする。

「これってやっぱり……」

後藤先輩も不安そうだ。

「うん、このままじゃ原画が間に合わないわ」

文化祭まで残り3日となった日の放課後、声研は思い切った決断をすることにした。

「私たち、純漫研の手伝いに行ってくるわ」

先輩2人が声研の活動から抜けて、純漫研に加わることにしたのだ。

「ええっ!?」

俺たち1年が同時に声を上げる。

「これでも私たち2人は元々、純漫研にいたからね。大体のことならできるの」

「それじゃあ声研の活動はどうするんですかぁ!?」

江藤が慌てて尋ねる。

「悪いけど、しばらくは私たち抜きでやってもらうしかないわ」

「そんなぁ……」

「また必ず戻って来るから」

「できますよ、自分たちだけでも」

松田が静かに言った。みんなの視線が一斉に彼の方に向けられる。

「だから、先輩たちは安心して原画の手伝いに行ってください」

「松田くん!」

その言葉に一番感銘を受けたのは、どうやら江藤だったようだ。

「そうよ! 松田くんの言う通りよね! 私たちだけでもちゃんとやってみせます!!」

その変わりように先輩たちはふっと顔をほころばせる。

「2人ともありがと。麻生くんたちはどう? 私たちがいなくても大丈夫かな?」

後藤先輩の問いかけを受けて、俺はシャーロットの方を向く。

「We can pull this off on our own, can't we?(俺たちだけでもできるよな)」

「Oh, if you don't remember well, I've been good at voice acting from the beginning.(あら、忘れたの? 私は元々、声の演技が上手なのよ?)」

「Now, she's getting carried away...(そうやってすぐ調子に乗るんだよな……)」

彼女の大口にあきれながらも、俺は先輩たちの方に向き直った。

「もちろん大丈夫です。先輩たちが帰ってくるまでに出来るだけレコーディングを進めておきます」

「ありがとね」

先輩がニコリと笑った。

文化祭前日。1年生だけで進めたレコーディングも、試行錯誤しながら何とか原画が上がっているところまで進めることができた。あとは……。

「そろそろ、先輩たちの分も録らないと本番に間に合わない」

松田がついにしびれを切らして言った。あれから先輩たちは戻ってきていない。原画は完成までにあと数ページ残っているそうだ。

「しょうがないけど、先輩たちには戻ってきてもらうしかないよね」

俺たちは全員で漫研の部室ぶしつへと向かった。扉を開けるとみんなの姿が目に映る。誰も何も言わずにただひたすら机に向かって手を動かしていた。何重にも重なって聞こえてくるペンの音に、みんなの焦りとか緊迫感とかが表されている気がして、少したじろいでしまう。

「あら、どうしたの?」

三宅先輩と後藤先輩がこちらに気付いて近寄ってきた。

「どうしたのって、もう戻ってきてもらわないと本当に間に合わなくなりますよぉ」

「ああ、ごめんなさい。でも、あとちょっとなの」

「いや、2人はもう戻った方が良い」

向こうから田口先輩がやってきた。

「むしろ、今まで手伝わせてしまって申し訳なかった」

「でも、原画が終わらないと作品は……」

「それはアフレコが終わらなくても同じだよ。大丈夫、あとは僕たち純漫研でやれるさ。アニ研のみんなも本当にありがとう。声研とアニ研の原画作業はこれで終わりにしよう」

どうやらアニ研の先輩たちも同様に原画制作の手伝いをしていたようだ。

「……わかりました。それなら、いったん私たちは戻ります」

三宅先輩がそう言うと、彼は優しく微笑ほほえんだ。

そこからの2人はすごかった。ほとんど録り直しもなく、サクサクとまっていたレコーディングを片付けていったのだ。

「……すごい」

思わず息をのんだ。1年生たちだけで悪戦苦闘しながら進めていた時とは雲泥の差だ。

「ま、自分たちで原画を作ったからね。スッと役に入れるのよ」

こうして、なんとか原画の上がっているところまでアフレコを終わらせた時には、時間はもう夜の8時になろうとしていた。

「ふぅ、純漫研の方はどうなってるかしら」

「文化祭前日だからいつもより遅く残れてるけど、さすがにもうすぐ学校から締め出されちゃう……」

その時、視聴覚室の扉が勢いよく開いた。

「ごめん! 追加で完成した原画のコピーを持ってきた」

息を切らしながら中に入ってきたのは田口先輩だった。

「良かった! 終わったんですね!」

三宅先輩が飛び上がる。

「いや、実はまだなんだ。あと少しだけ残ってる。それで、相談も兼ねてここに来た」

「相談?」

「明日の朝、学校に早く来てレコーディングをお願いさせてもらいたいんだ。それまでに原画は完成させておく。本当にごめん」

先輩はみんなに向かって頭を下げた。

「ちょ、ちょっと、頭を上げてください!」

三宅先輩があわててそれを止める。俺は3年生の先輩が後輩に対してこんなに素直に謝るのを見て驚いていた。

「自分は大丈夫です。早く来るの」

すぐに松田が流れを断ち切るように言った。江藤も負けじと食い込むように続く。

「私だって大丈夫です!」

俺とシャーロットも、静かに三宅先輩に向かってうなずいた。後藤先輩は相変わらず優しそうに笑っている。

「みんな……」

彼女は一瞬、顔を下にらすと、ゆっくりと田口先輩の方に向き直っていつもの調子で答えた。

「私たちはこの通りですから、心配しないでください!」

それを聞いた彼はホッと胸をなでおろして、嬉しそうに笑った。

「ありがとう。ほんとに」

「でも、原画はどうしましょうか? そろそろ学校も出ないといけないのに……」

後藤先輩が恐る恐るたずねる。

「ああ、片付けもあるから学校じゃこれ以上作業は続けられない。だから、あとは僕が家で仕上げてくる」

「1人でやるつもりですか!?」

三宅先輩がまさか、という顔をする。

「僕がみんなに提案したことだ。ここから先は自分で決着をつけるよ」

「で、でも、それは元々……」

「大丈夫。ほんとにあと少しなんだ。それに、何があっても絶対に終わらせるから、信じて欲しい」

田口先輩はまっすぐに三宅先輩のことを見つめて言った。彼女はしばらく黙っていたが、やがて覚悟を決めたようにはっきりとした声で返した。

「わかりました。私たちはレコーディングのことだけに集中します。先輩のこと、信じてますから」

彼女の返事に、田口先輩は顔をほころばせる。

「てっきりあの件で三宅には嫌われたかと思ってたけど、まだしたっててくれるなんて嬉しいな」

「う、うるさいです。私たちも絶対に仕上げますから、先輩もちゃんと終わらせてくださいよ」

「ああ、約束する」

このように、目の前でとても美しいやり取りがなされたのだが、実はこのあとでかなり泥臭い作業が待っていた。というのも、新たに貰った追加分の原画に声を入れなければならなかったのだ。マイクは1本しかないから、家に帰るとみんなの声を録ることができなくなる。俺たちは下校を命じにやって来る先生たちを視聴覚室の外で必死に食い止めながら、順番にマイクに声を入れていく羽目になった。

翌朝、俺は6時前にベッドから起きた。朝は得意な方じゃないけど、この日だけはアラームをいくつもセットして備えておいたのだ(とは言え、こうして準備万端を整えている時に限って逆に1度目のアラームでちゃんと起きれてしまう)。家を出て、7時ちょうどに学校に着く。校門を通ろうとすると、門のそばでシャーロットが立っているのが見えた。

「Hi.(おはよう)」

彼女が笑顔で声をかけてくる。

「Hi. What are you doing here?(おはよう。ここで何してるんだ?)」

「I was waiting for you.(陽を待ってたのよ)」

「Waiting for me?(俺を?)」

「You know, it's not like you come to school very early everyday. So, honestly, I was a bit worried...(その、陽っていつもギリギリに学校来るじゃない? だから、それで、ちょっと心配になって……)」

シャーロットが申し訳なさそうに笑うのを見て、俺はため息をつく。

「I'm just a great time manager.(俺は時間管理を完璧にやってるだけだ)」

俺の返事に彼女は小さく笑う。

「Yeah, it seems I was worried over nothing. But, you can come to school early once in a while.(そうね、取り越し苦労だったわ。でも、たまには早く学校来たらいいのに)」

「There is nothing to do.(早く来てもすることないだろ)」

「We can talk.(一緒に話せるじゃない)」

俺はドキリとして身を引いてしまった。彼女はいつも通りの気さくな笑顔を見せている。

「...Yeah, I'll think about it.(……まあ、考えとくよ)」

「That would be great!(お願いね!)」

2人で視聴覚室に入ると、すでに他のみんなは中に集まっていた。

「あら、もしかして2人っていつも一緒に登校してるの?」

三宅先輩が眉を上げながら尋ねる。

「ただ校門で一緒になっただけです」

俺は嘘とも真実とも言えない灰色の答えをした。

「ああ、そうなの。それより、田口先輩ちゃんと仕上げてきてくれたわよ」

彼女がにんまりと笑ってパソコンにケーブルをす松田の方を見る。ちょうどその時、新たな原画がテレビに映し出された。

「これで正真正銘ラストよ! みんな、頑張っていきましょ!」

「はい!」

レコーディングを終え、できた音声データをアニ研へ送る。クラスの朝礼が始まる15分ほど前、ようやくアニ研の部長が視聴覚室にやって来た。動画が完成した合図だ。

「できた! 何とか間に合ったわ!!」

「やばい、私ちょっと感動してる」

「自分も、体が震えてます……」

しかし、余韻よいんひたる時間はなく、すぐに機材を片付けて視聴覚室を出なければならなかった。実は今日の文化祭の企画でここが使われるのだ。元は期間限定で使用許可をもらったものだから、もうこの場所で声研の活動をすることはないのかもしれない。片付けが全て終わった後、俺は最後に部屋を出て、そして、ゆっくりと静かに扉を閉めた。

俺たちはそのまま漫研の部室ぶしつへと向かった。田口先輩に挨拶をしようと思ったのだ。扉を開けて中に入ると、そこには机の上に突っ伏して寝ている先輩の姿があった。どうやらスマホをいじっている途中で眠ってしまったらしく、彼の右手にはスマホが置かれたままになっている。

「あはは、先輩のあんな間抜けな格好初めて見たわ」

少なくとも三宅先輩はご満悦のようだ。

「これなら挨拶は放課後でいいわね。行きましょ」

「でも唯ちゃん、起こさなくていいの?」

後藤先輩が遠慮気味に言う。

「ふん、この前のお返しよ。これでチャラにするわ」

「でも……」

彼女は心配そうにじっと田口先輩を見つめる。

「……ああもうっ! わかったわよ!」

三宅先輩はスタスタと田口先輩のそばに寄った。そして、彼の手にあるスマホを奪い取って、ついでに指を借りて指紋認証を解除すると、ポチポチといじってすぐにまた彼の右手に返した。

「アラームをセットしておいたわ。これで間に合うはずよ」

「……やっぱり素直じゃない」

またしても江藤がぼそりとつぶやいた。こちらも静かにうなずく。

「あ、そうだ。田口先輩には動画がちゃんと完成したこと伝えておいた方がいいと思います」

「それもそうね」

俺の意見を聞いて、三宅先輩は黒板にでかでかとメッセージを書き込んだ。

「これで良し、っと。それじゃあ行きましょ」

こうして俺たちは漫研の部室ぶしつをあとにした。ぐっすり眠りこけている田口先輩と「私たちもやり遂げましたから!」のメッセージを残して。

「麻生くーん! こっちよ」

三宅先輩がこちらに向かって手を振ってくる。昼過ぎの3時10分。俺はそれまで一緒に回っていたいつもの男子2人と別れて、再び漫研の部室ぶしつにいた。中はすでに生徒たちで半分ほど埋まっている。

「あと5分で上映ですね。……思ったより見に来る人が多くて驚きました」

「それは私も同じよ。あっ、シャーロットさんも来たわね」

彼女が部室の中に入ってきた途端、あたりの生徒たちが「おお!」と声を上げる。彼女に備わる話題性にはいつも感心させられる。

「それにしても、ここにいるみんな、これから俺の声を聞くんですよね……」

「まあまあ。こんなこと言ったら身もふたもないけど、どうせ誰がどの声をやってるかなんてわからないわよ」

「……俺の役は英語なんですよ? 一発じゃないですか」

「あはは、そうだったわね。ま、いいじゃない。私は良かったと思うわよ、麻生くんの声」

「そ、そうですか? ……ありがとうございます」

「それでは、これから漫画研究部が制作した動画の上映を行います!」

教室の一番前で江藤が観客に向かって言った。結局、上映が始まるまでに人の数はさらに増えて、中は生徒でほとんどいっぱいになっていた。

前方の明かりが消され、プロジェクターに映像が流れ始めた。

―――――

しばらくの間、空中で射撃の応酬が繰り広げられる。

「くっ、このままじゃらちが明かないわ」

「敵を誘ってみましょうか」

後藤先輩が提案する。

「どういうこと?」

「私に続いてください」

そう言うと、彼女は一気に後退して敵と距離をとった。そして、レーザー砲のチャージを開始する。

「そういうことね」

三宅先輩と江藤もそれに続いて敵と距離をとり、同じようにチャージを始める。

「Arrogant. They think their cannons are stronger than ours.(なめてるな。やつら自分たちのレーザー砲の方が上だと思っている)」

「I know. I can't overlook this.(私もこれは見過ごせないわ)」

俺とシャーロットもレーザー砲のチャージを始めた。

「どうやら敵も乗ってくれたようですね」

「ええ、上手くいけばこれで決められるわ」

「Let's finish this once and for all.(これで終わりだ)」

「You'll regret for underestimating us!(私たちを見くびったこと、後悔しなさい!)」

両側から巨大な5つの光線が放たれ、中央で激しく衝突する。その衝撃で周囲のビルは押し倒され、地面はへこみ、空にかかっていた雲は四方に散った。

「そんな、私たちの攻撃が相殺されてる……」

「いや、まだよ。まだ終わらない!」

三宅先輩が衝撃の余波に耐えながら俺に向かって飛んでくる。

「I can't move...(くっ、動けない……)」

俺は衝撃から身を守るのに手一杯で、こちらに向かってくる三宅先輩をただにらむことしかできない。

「Beta, she's coming! Take my energy nuclear before she kills me!(ベータ、やつは俺に向かってる! 今のうちに俺のエネルギー核を受け取れ!)」

「...I won't. You take mine.(……嫌よ。あなたが私のを取って)」

「What did you just say!?(どういう意味だ!?)」

三宅先輩が背中に装備していた特殊な機械刀を抜く。動力が伝わってその刃は黄金色に輝いた。

「くらえ!」

光線の衝突が収まってあたりが静かになる。戦いが始まってから、初めて訪れた静寂だった。

三宅先輩の突き刺した刃の先には、シャーロットが立っている。

「...I'm not...over yet.(……まだ、終わりじゃないわよ)」

シャーロットの放った光線が三宅先輩に直撃する。彼女はそのまま吹き飛ばされて近くのビルに激突した。

「壱号!!」

後藤先輩と江藤がすぐに三宅先輩のもとに向かう。

「Take this.(受け取って)」

シャーロットが震える手で自らのエネルギー核を俺に差し出す。

「You...why...?(そんな……なんで……)」

「You have to...live.(あなたは……生きて)」

俺がエネルギー核を受け取ったのを確認すると、彼女は弱々しく笑って地面に落下していった。俺はすぐに落ちていくシャーロットを空中で受け止めると、丁寧に地面の上に横たわらせた。

「壱号、大丈夫ですか!?」

2人はビルの瓦礫がれきの上に倒れている三宅先輩を見つけ出した。

「ええ、なんとか……。いくつか損傷したパーツもあるけどまだ大丈夫よ」

「あとは、あいつを倒すだけですね」

その時、地上から何か激しいモーター音のようなものが聞こえてきた。

「I'll never forgive you.(絶対に許さない)」

3人はビルの残骸ざんがいから飛び出して、再び俺と対面する。

「You'll pay for what you did with your lives! I'm gonna destroy everything and subjugate Japan today!!(お前たちのしたことは死でつぐなってもらうぞ! 全てを壊して、俺が今日、日本を支配する!!)」

言い終わるや否や、俺は一気に上空へ飛んで3人との間合いを詰める。

「なっ、速い……!!」

三宅先輩と同じく俺は背中から大剣を引き抜いた。特徴は似てるけど、大きさは彼女が持つ刀の2倍ほどもある。

「あれはシールドじゃ防ぎきれないぞ!」

松田が装置の向こう側で叫んだ。

俺の一振りが先輩たちを襲う。後藤先輩と江藤も慌てて刀を抜いて受け身を取ったけど、3人ともまとめて弾き飛ばされた。3人はすぐに空中で体勢を立て直す。

「これは、どうすれば」

「新第1世代には特殊機能が備わっている」

松田の声が3人に届く。

「特殊機能?」

「シンクロだ。各人が五感で得る情報や思考を常に共有することができる。とても強力だが情報処理の負荷が3倍になる分リスクも高い。使い過ぎると脳にダメージを与える」

「……なによそれ」

「今回の戦いではシンクロを使うつもりはなかったが、どうしてもというならそれに頼るしかない」

三宅先輩が見下ろす視線の先では、俺が大剣を構えて今にも彼女たちに向かって突っ込もうとしていた。

「わかりました! よくわからないけど、とにかくそれを起動してください! 2人ともそれでいいわね!?」

「はい!!」

俺は元いた場所から飛び出して、3人にめがけて大剣を振り下ろした。

――ガキン

振り下ろされた大剣は、大剣の刃に沿ってきれいに垂直に並んだ3つの刀によって見事に受け止められていた。

「なにこれ、すごい。みんなの見ているものや聞いているもの、考えてることとか、全部頭の中に流れ込んでくる……」

「あはは。何だか変な感覚だけど、これなら戦えそう!」

「私は嫌いです、この感じ。早く終わらせましょう」

「Don't get cocky! No matter what tricks they use, little birds like you can never defeat me!(いい気になるなよ! どんな小細工を使おうが、お前らのような雑魚に俺は倒せない!)」

俺はそのまま大剣を振り回すが全てかわされてしまう。3人の視覚情報が共有されている今、俺は三方向から監視されているのと同じだ。戦闘中に敵の死角を突いて攻撃するというのが不可能になっていた。

対して、三宅先輩たちの攻撃は一糸乱れぬ完璧な連携の下になされていた。1人の攻撃を防ぐとすかさず別の方向から新たな攻撃が加えられる。反撃に出ようとするも、1人を狙うと必ず別のところから邪魔が入り、そうでなければ3人で同時に受け止められてしまう。

「Rotten in hell!(クソが!)」

3人が俺に向かって同時に突っ込んでくる。俺は剣を大きく振り上げると、敵めがけて全力で振り下ろした。

「うおおおおおおお!!」

4人の叫び声が空に響く。

振り下ろされた大剣は突き出された3つの刀と衝突して、刃の中頃で真っ二つに割れた。3つの刃はそのまま俺を突き刺した。

「No way...(そんな……)」

刺された俺はゆっくりと高度を下げ、力なく地面の上に倒れた。

「Sorry, it seems I'm gonna see you there again. I hope you'll forgive me, and we talk a lot, like we used to...(すまないな、どうやら向こうでまた君と会うことになりそうだ。どうか、君がそのことを許してくれて、また前みたいに、たくさん話し合えるといいんだけど……)」

三宅先輩がゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

「...Alright, you are gonna finish me. Just do it.(……とどめを刺すんだな。好きにすればいい)」

彼女がそっと何かを俺のとなりに置いた。それは、シャーロットだった。

「もう戦いは終わったわ」

その言葉に、俺の目から涙があふれ出す。

「...Thank you(……ありがとう)」

俺はシャーロットを見つめ、微笑ほほえみながら絶命する。

みんなの上に太陽の温かい光が降り注いでいた。

―――――

放課後になって、俺とシャーロットは漫研の部室ぶしつに向かった。もちろん、最後の挨拶をするためだ。階段を上り切ったところで、部員のみんながぞろぞろとドアの前に集まっているのが見えた。

「何かあったんか?」

「しーっ! 中で三宅先輩と田口先輩が話し合ってるのよ」

江藤がニヤリと笑いながら教えてくれた。

「もしかしたら、このまま告白とかの流れになっちゃうかも~」

「まじか」

俺とシャーロットはドアに近づいて、そっと聞き耳を立てた。

「――そう言えば、アラームをセットしたのは三宅だろ?」

田口先輩の声だ。

「はい、お礼ならいいですよ」

「まったく、時間1分前にセットしておいてよく言うよ。おかげで朝礼に遅刻するところだった」

「これであの件のことはチャラにしておきます」

「はは、そうか。まあ、最後に三宅ともイーブンになれたのなら良かったよ」

「最後?」

彼女が驚いたようにき返す。

「ああ、もう受験だからね。しばらく漫画は描かない」

「……そうですか」

「三宅はこれからも声研の活動頑張れよ」

「あの、先輩」

「ん?」

「私、今日決めたことがあります。将来どうとかはわからないけど、高校と大学は真剣に声の活動に取り組みます。だから、受験が終わったら、先輩にもまた漫画を描いて欲しいんです。私、先輩の漫画が好きです。それで、またいつか今日みたいに……」

「僕も三宅の声が好きだ」

「うへっ!?」

三宅先輩の頓狂とんきょうな声が聞こえた。

「だから、また一緒に作品を作ろう」

「う、嬉しいですけど妙な褒め方しないでください!」

「ごめんごめん。ま、続きはまたあとで話そうか。もうみんな集まってるみたいだし」

「え、えっ!?」

やばいっ! 俺の周りにいたみんなも一斉に身を引いた。ドタドタという足音がして、すぐに扉が開かれる。そこには顔を真っ赤にして仁王におう立ちする三宅先輩がいた。

「……どこまで聞いてたの?」

よりによって彼女は俺をにらんできた。

「Haru, ask her if she's in love with Taguchi Senpai!(ねえ陽、先輩に田口先輩のことが好きかどうか訊いてよ!)」

「At a time like this!? I would get killed!(このタイミングで!? 殺されるわ!)」

「2人とも何をコソコソ話してるのよおお!!」

とにもかくにも、俺たちESS部の初めての活動はどうにか成功で終えることができたのだった。

第10話:ストーリーで使われた英語表現

※ストーリー中に使用された英語表現の解説をしていきます(ここでの解説はあくまでもご参考程度にお読みください)。本作品のストーリーとは無関係なので、興味がないという方や解説不要という方は飛ばしていただいて構いません!

ストーリーで使われた英語表現、と銘打っているのですが、今回はちょっと趣向を変えて別の話をします。

「Voice Actor.」編(8~10話)を書くに当たって、私は色々なアニメの英語訳を参考にしました。その中で見つけた、私が個人的に気に入っているアニメのセリフと、それが英語版でどのように訳されているのかをいくつか紹介しようと思います。

ほんとに私がただ記憶に残っているものを書き出していくだけなので、全く知らないアニメが出てきたり、シーンの背景がわからなかったりするかと思いますが、雰囲気だけでも感じてもらえれば幸いです!

【DEATH NOTE】

日本語「エル/キラ、必ずお前を探し出して始末する。僕が/私が、正義だ!」

英語「L/Kila, I will hunt you down wherever you are hiding, and I will eliminate you. I am/I am justice!(エル/キラ、どこに隠れていようと私はお前を探し出して、始末する。私が正義だ!)」

【コードギアス】

日本語「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。貴様たちは、死ね」

英語「I, Lelouch Vi Britannia, command you. Now, all of you, die.(私、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる。お前たちは全員、死ね)」

日本語「撃っていいのは、撃たれる覚悟のあるやつだけだ」

英語「The only ones who should kill are those who are prepared to be killed.(殺すべきなのは、殺される用意のあるやつだけだ)」

【Fate/Zero】

日本語「れ者が。天に仰ぎ見るべきこの俺を、同じ大地に立たせるか! その不敬は万死に値する。そこな雑種よ、もはや肉片一つも残さぬぞ!」

英語「Fool. I belong among the heavens, yet you would have me trod upon the ground!? Your impudence has guaranteed your death! Mongrel, when I am through with you, nothing will remain of your corpse!(愚か者め。俺は天に属するというのに、お前は俺に大地を踏ませるのか!? その不敬によってお前の死は確約された。雑種、お前との戦いが終わった時、その死体は何も残らないぞ!)」

【俺物語!!】

日本語「ウチで力になれるんだったら、それは嬉しいです。一之瀬さんのケーキ、とっても好きだから。でも、初めて会った時からずっと、ウチの心は猛男くんにしか動かない!」

英語「I really want nothing but the best for you, and I'm always here for you, because I love and respect all the things you create. But, only one man has captured my heart. And without a doubt, that man is Takeo Goda!(私は本当にあなたの幸運を祈ってるし、いつもそばにいます。あなたの作るものが大好きで、尊敬してるから。でも、私の心を捉えたのは1人だけです。そしてそれは、間違いなく、剛田猛男なんです!)」

【CLANNAD】

日本語「渚、ずっとそばにいてくれるって言ったよな。ずっと一緒だって。何度も、何度もそう、約束したよな? それが俺の夢だった。生きてたっていいことなんて何もない。クソ面白くもない人生だって、そう思ってたやつが、やっと見つけた夢なんだ。なあ、渚、渚……、渚!」

英語「You told me you'd always be by my side. You said we'd always be together. You promised me that, remember? Over and over again. We both promised. That was my only dream. Nothing good ever happened to me until I met you. I thought I had a crappy life. But, even someone useless like me finally found something to live for. Right, Nagisa? Right? Nagisa..., Nagisa!(いつも俺のそばにいるって言ったよな。俺たちはいつも一緒だって言ってくれた。君がそう約束してくれたの、覚えてるか? 何度も何度も、俺たちは2人で約束した。それが俺の唯一の夢だった。君に会うまで、いいことなんて何も起こらなかった。俺はクソみたいな人生を送ってるって思ってた。だけど、俺みたいな役立たずな人間でも、やっとそのために生きようと思えるものを見つけたんだ。そうだろ、渚。そうだろ? 渚……渚!)」

こうしてみるとかなり日本語に忠実に訳してくれていることがわかると思います。さすがに声は違うので、初めて見たら違和感があるかもしれませんが、もし良かったらご覧になってみてください!